【NEE2016】フューチャークラスルームで模擬授業を体験…小樽商科大・大津晶准教授

 NEE恒例のイベントスペースといえば「フューチャークラスルーム」だろう。会場に再現された教室で、来場者がICTや新しい教育スタイルを取り入れた模擬授業を体験できる。毎年設けられる特設コーナーであり、事前登録などなく気軽に参加できるのも人気だ。

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フューチャークラスルーム(撮影:中尾真二)
フューチャークラスルーム(撮影:中尾真二) 全 13 枚 拡大写真
 6月2日から東京・有明の東京ファッションタウンビル(TFT)で行われている「New Education Expo 2016(NEE2016)」恒例のイベントスペースといえば、未来の学習空間「Future Class Room(フューチャークラスルーム)」だろう。会場に再現された教室で、来場者がICTや新しい教育スタイルを取り入れた模擬授業を体験できる。事前予約は不要で、気軽に参加できるのも人気の秘密だ。

 「フューチャークラスルーム」は、NEEで毎年開設される特別ブース。6月2日は、タブレットを利用しながら学生に数理・情報リテラシーを身につけさせるためのアクティブラーニング法を、小樽商科大学商学部准教授学長特別補佐の大津晶氏が「“ハカる”ことでわかること」で実演した。来場者は実際の授業に参加し、現場実践者の指導や手法を間近で体感できる。

 数年前は電子黒板やデジタル教科書を駆使した授業が目立っていたが、ICT教育が浸透する中、昨今ではアクティブラーニングや双方向授業(双方向型授業)といった授業スタイルにフォーカスした模擬授業が増えている。

 当日の模擬授業に利用されたのは、一般的なタブレット端末と、「レスポン(respon)」という朝日ネットのeラーニング向けアンケート・クリッカーアプリのみ。使うICT機器はシンプルだが、大津准教授の授業は、スライドを使い、クイズ形式で生徒に考えさせ、その回答結果の表示と集計にレスポンを利用し、次の議論へとつなげるスタイルだ。

 たとえば、小樽市と札幌市の人口の数字を示しながら、それは何を表す数値であるかを予想させたり、小樽市の観光客の数字などもクイズ形式で問う。クイズの回答は、選択肢から答えを選択方式のほか、フリーワードを入力する自由記述方式で行う。どの端末が回答済みであるか、どの選択肢を何人(何%)が選んでいるかなどが即座に集計され、表やグラフで表示される。この結果を見ながら、個別の学生の意見を聞いたり、他の学生の意見を聞いたりし、授業が進められていった。

 大津准教授の授業目的は、数理・情報リテラシーを向上させることにある。先ほどの観光客の数字では、その経年変化の棒グラフを2種類見せながら、グラフに潜む意図を考えさせるものだった。広告やプレゼンのグラフでしばしば使われる手法だが、グラフの原点をゼロ起点にせず、途中の値から始めると、全体としては少しの変化でも、増減が激しいグラフに見せることができる。

 日本の貯蓄額についても、その動向が平均額で示されることがある。貯蓄額の平均は1,000万円を優に超えているが、これもよくある統計の見せ方のテクニックのひとつだ。正規分布に近いデータならば平均値が全体の動向の目安になりうるが、貯蓄額のような統計は、指数型分布である。この場合、平均値に大した意味はなく、動向を捉えるなら、モード(最頻値)を見るべきだ。そうすると、日本の貯蓄額のモードは、100万円以下となることがわかる。

 直感と理論が乖離しがちな例も紹介された。誕生日(生まれ年は無視)が一致する確率の例だ。一般に、人数が増えるほど一致する割合は高くなることは感覚的に理解できるが、たとえば20人いると、誰かの誕生日が同じ日になる確率は40%を超える。50人もいれば、同じ誕生日のペアが1組でも存在する確率はほぼ100%となる。

 以上のように、大津准教授のフューチャークラスルームは、生徒(参加者)を巻き込んで考えさせ、客観的であるはずの数字やグラフの意図が見抜けず、間違った認識を持ったり、数字に騙されたりしてしわないリテラシーを身につけるアクティブラーニングの事例を示した。タブレットやアンケートアプリといったシンプルなICTツールをうまく活用し、コミュニケーションや議論を活性化させるテクニックにも触れることができた。

 大津氏による授業のほかにも、フューチャークラスルームでは今後注目を浴びている教育手法やICT機器の活用実例が多数紹介されている。東京会場では今後、6月3日午後2時50分から和洋九段女子中学校・高等学校の国語科・社会科・数学科教諭陣による授業、6月4日には立教女学院小学校教頭の吉田太郎氏による授業が行われる予定。大津氏は6月17日の大阪会場に設置されるフューチャークラスルームにも登壇するため、参加を希望する場合は大阪マーチャンダイズ・マートに足を運んでみるとよいだろう。

《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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