【中学受験2017】サピックス小学部に聞く、2017年首都圏の中学受験の動向

 受験日程などの変更のみならず、2020年の大学入試改革が中学入試に及ぼす影響など、注意点は数多くある。そこで、サピックス小学部(SAPIX小学部)教育情報センター本部長の広野雅明氏に話を聞いた。

教育・受験 小学生
サピックス小学部教育情報センター本部長・広野雅明氏
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 2017年の中学入試もラストスパートの時期となった。受験日程などの変更のみならず、2020年の大学入試改革が中学入試に及ぼす影響など、注意点は数多くある。そこで、2017年の首都圏中学受験の傾向から受験当日のアドバイスまでを、サピックス小学部(SAPIX小学部)教育情報センター本部長の広野雅明氏に聞いた。

◆男子は思考力重視の麻布・武蔵が人気、女子は共学志向が強まる

--2017年の首都圏における、受験者数、難関校(別コース設置校)の志願者数に変化はありますか。

 従来型の2科目ないし4科目の受験生は若干減少するかと思いますが、公立一貫校や「思考力・記述力型入試」「英語選択入試」などの新型入試の受験生が増えますので、全体としては、やや増加すると思われます。

 志願者が増加している難関校で注目すべきは、麻布、武蔵です。2020年の大学入試改革で記述式の設問が導入されるなど、思考力が重視される傾向が見えています。そうした背景から、これら2校の教育方針が改めて高く評価されています。大学受験とは直接関係ない、先生方の専門性を活かしたユニークな授業が子どもたちの知力・能力を高めてくれ、大学入学後にもそうした教育が生きてくるのではと期待が高まっています。

 また、以前は自由放任主義という点が保護者の不安要素でした。しかし最近では英語や数学を中心に細やかな指導が施され、遅れている生徒には補習が行われています。面倒見が良くなっていることで保護者の不安が払拭されたことも、人気上昇のおもな要因です。

 両校の教育方針の本筋は何も変わっていないのですが、世間が求めるもの、大学入試が求めるものが、麻布、武蔵のような学校に近づいてきたといえると思います。

 女子のトップ層では共学志向が強まっており、渋谷教育学園幕張(以下、渋幕)と渋谷(以下、渋渋)の人気が非常に高いです。ここ3~5年の大学進学実績は、東大2桁とめざましいですし、帰国生も多く、充実した語学教育により海外大学進学も視野に入れられるなど、年々期待が高まっています。

 桜蔭、女子学院、雙葉は微増もしくは横ばいです。また、熱心で手厚い指導に評価が高い豊島岡や、早慶などの大学附属、都立中高一貫校などを第一志望に選ぶ子もおり、女子トップ層の進学先が多様化してきています。

◆女子だけでなく、男子でも附属校志向が強まっている

 また、今年は全般的に、大学附属校、特にMARCHの附属校の人気が非常に高まっています。

 MARCHには多くの学部・学科があり、幅広い選択肢があるうえ、大学進学前に大学の先生がガイダンスに来てこと細かにアドバイスをしてくれたり、ときには授業をしてくれたりということもあり、じっくりと進路を選べる余裕があります。また、第2外国語を学ぶという別の意味での先取り学習や、部活に専念できたり、大学受験のタイミングを気にすることなく長期の留学に行くことができたりというメリットもあります。

 附属大学への進学資格を持ちながら国公立大学の受験や他大学を受験することが認められることもあって、上位の大学にチャレンジする場合でも安心です。大学入試改革が混沌としている中、不確定要素を回避するという意味で大学附属校へ意識が働いている、という背景があるようです。元来、女子のほうが附属志向が強いのですが、今年は男子も強いというのが特徴ですね。

◆2017年入試、注目すべき点

--受験生は1人あたり何校くらい受験するのでしょうか。また、2017年の入試で注意すべき点はありますでしょうか。

 1名あたりの出願数は約7校、受験数は約5校です。

 注目すべきは、横浜市立サイエンスフロンティア高校附属中学校の開校です。大学のように充実した研究室が整備されており、このような素晴らしい環境で理系教育を受けられることへの期待は大きく、横浜市内のみですが注目度の高い学校です。

 東邦大東邦の高校募集停止に伴う中学定員の増加にも注意が必要です。12月1日に第1志望入試(定員30名)が新設されました。理系に興味がある子どもにとっては魅力的な学校であるため、専願層が集まって難化の可能性もあります。

 市川では、第1回(1月20日)に英語選択入試を新設。試験教科は国算+英語A(英検2級程度の記述)+英語B(英作文)です。また、第2回(2月4日)の定員が男女各20名から40名へ変更されます。今は帰国子女以外でも、高い英語力をもっている子どもが増えているので、このような算国英という3科目入試が増えてくれば、受験勉強の仕方が変わってくる可能性もあるという意味で、今後の動向に注目しています。

 芝浦工大附属は豊洲に移転し、高校が共学化しました。国算理の3科目入試で、お子さんが理系志向であるものの現状の学力にまだ不足感がある場合に、入学後の成長を見込めるという点で人気があがっています。

◆公立中高一貫校のブランド力は年々高まっている

--公立中高一貫校の人気はいかがでしょうか。

 公立中高一貫校は、私学並みの教育内容で学費が無料という点が大きな魅力です。小石川は海外研修、理系教育の充実、少人数で手厚い指導のもとで学べるうえ、多方面でコンテストなどに出場するなど、生徒たちが主体的に学ぶ姿勢が評価されています。

 お住まいの地域によって受験できる学校は限定されますが、横浜市立サイエンスフロンティア、横浜市立南、千葉の東葛飾などの公立中高一貫校は、非常に素晴らしい環境で充実した教育を行っています。

 たとえば千葉の東葛飾では、高校からの入学者もいるので、先取り学習ではありませんが非常に手厚く質の高い授業が行われています。英語はオールイングリッシュで、他教科でもアクティブラーニング形式です。

 また小石川、武蔵高校附属中、相模原など、大学進学実績の良い学校にも人気が集まっています。

 これらの学校の受験に際して、適性検査と4教科入試の勉強が二律背反のような捉え方をされることがありますが、そんなことはありません。4教科の勉強のベースがあってこそ、適性検査で力が発揮できるのです。

 試験は論述形式なので、過去問に取り組む際には塾の教師に添削してもらうと良いでしょう。受験生の間でも志望順位は確実にあがっていますし、併願先として選ぶ人も増えています。公立中高一貫校のブランド力は年々高まっているといえるでしょう。

◆一般的な併願パターンは?

--男子・女子の人気校と一般的な併願パターンを教えてください。

 先ほど申し上げたように、第1志望の多様化に伴い、併願パターンも多様化しているのですが、代表的な併願パターンは以下のとおりです。

【男子】
・開成→聖光→筑波大附属駒場→聖光
・駒場東邦→聖光→浅野→芝
・麻布→栄光→浅野→芝
・慶應普通部→慶應湘南藤沢1次→慶應中等部→(慶應湘南藤沢2次)
・早稲田→本郷→早稲田→芝
・海城→巣鴨→海城→芝
・芝→高輪→浅野→芝

【女子】
・桜蔭→豊島岡→豊島岡→豊島岡
・女子学院→豊島岡→豊島岡→豊島岡
・女子学院→慶應湘南藤沢1次→慶應中等部→(慶應湘南藤沢2次)
・雙葉→白百合→慶應中等部→豊島岡
・鴎友学園→豊島岡→鴎友学園→豊島岡
・フェリス→慶應湘南藤沢1次→横浜共立→(慶應湘南藤沢2次)
・渋渋→渋渋→都立小石川→豊島岡
・吉祥女子→豊島岡→豊島岡→吉祥女子

◆入試直前、保護者と受験者へのアドバイス

--冬休みから入試当日までのアドバイスを、保護者と受験生にそれぞれお願いします。

 保護者の皆さんへのアドバイスとしては、まず最優先するべきはお子さんの体調管理です。マスクの着用、手洗いうがいの徹底は、注意してもしすぎることはありません。特に1月以降は、インフルエンザや胃腸炎などが学校で流行しているかしっかりと情報収集し、決して無理はさせないようにしてください。

 また、昨今では、インターネットや郵送による出願受付が増えています。窓口出願でなくても、出願のタイミングが受験会場や帰りの時間に影響する場合もあるので、保護者の体力的に無理のない範囲で早めの出願を意識するようにしましょう。

 面接がある学校では、お子さんの服装に気を遣われるかもしれませんが、その場合は早めに用意し、塾で同じ服装を着用するなどして慣らしておいたほうが良いと思います。

 直前期には保護者の方も不安が高まり、周囲の雑音が耳に入りやすくなりますが、惑わされないことが大切です。新しいことをやるよりも、今やっていることをもう一度やったほうが良いです。そして、お悩みのことがあれば、まずはお通いの塾の教師に率直に相談するのが一番です。

 また、今はどこの学校も、机上以外の学びも重視していますので、家族一緒にニュースを見たり、自然に触れたりといった時間もぜひ大事にしてください。

 次に受験生の皆さんへのアドバイスとしては、毎日必ずやることを明確にしておきましょう。4教科バランスよく、少しずつで良いので勉強のリズムを作りましょう。

 やらなければならないことに対して、残された時間というのは非常に限られてくるため、「優先順位」がとても重要です。決められない場合は塾の教師に相談し、明確にしておきましょう。特にこの時期、塾の復習よりも優先されるべきは、「志望校の過去問」です。自分の力でしっかり解き、やりっぱなしにせずに、必ず解説を自分で読んで間違い直しをしましょう。そこでわからなかったことは教師に質問しましょう。今の時期、一番力が付くのはこの勉強法です。

 できることとできないことの間にある「さんかく」を、「まる」にするという努力が大切です。つまりそれが間違い直しです。歯が立たない問題ではなく、自分で「これなら解けたのにもったいなかったな」と思える問題をしっかり直しておくこと。知識面では過不足がないように仕上げてください。

◆こういう子が良い結果を残す

--生徒に対して心がけている点や指導方針などありましたら、教えてください。

 こういう時期だからこそ、塾の授業を大事にしなさいとアドバイスしています。最後まで、教師の説明を集中してよく聞いている子のほうが、良い結果を残すことが多いです。塾の中でしか学べないことがあります。自分が解けた問題であってもいろんな解き方に触れたり、間違えた問題なら教師の解説をしっかりと聞くことで、最後まで学力は伸び続けます。

--ありがとうございました。

《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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