「成績が良いから医学部」ってあり?現役医学生が語るリアル(1)

 難関の医学部に合格した後の生活を描いた漫画、『Dr.Eggs ドクターエッグス』(集英社)。漫画のタイトルどおり「お医者さんの卵」たちのストーリーだ。カルペ・ディエム代表 西岡壱誠が、慶應義塾大学の現役医学部生とこの漫画を読み、話を聞いた医学部の実情とは。

教育・受験 高校生
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 大学の医学部に入ってからの生活を描いた漫画、『Dr.Eggs』。漫画のタイトルどおり「お医者さんの卵」たちのストーリーを描いたものだ。

 本記事では、筆者(全国で教育支援事業を行っている東大生集団 カルペ・ディエム代表 西岡壱誠)が、実際に医学部に通う大学生たちとこの漫画を読み、話を聞いた医学部の実情を共有する。

 この漫画は、「医者になりたいから」という理由ではなく、「成績が良いから」という理由で医学部に進学した主人公の話だ。

 本作のプロローグでは、将来のことに悩んでいた主人公は、先生から「医学部を目指さないともったいないぞ」と言われたシーンが描かれている。

(c)三田紀房
(c)三田紀房
(c)三田紀房
(c)三田紀房
(c)三田紀房

「医者になりたい」と思って医学部に行く人はどれくらいの割合なのか

 さて、実際のところ、この主人公のように、どれくらいの割合の人が「成績が良いから」「学校の先生から勧められて」という理由で医学部に入っているのだろうか?

 今回取材に協力してくれた慶應義塾大学医学部のSKくんは、「体感ですが、大体半分くらいは『成績が良かったから』という理由で医学部を選んでいるのではないでしょうか」と教えてくれた。

 「もちろん、『医者になりたい』とは思っているとは思いますが、『なぜ医者になりたいと思ったの?』と聞くと、大抵の医学部生は『理系で成績が良く、自分の選択肢の中で一番良い道だと思ったから』と答えると思います。」

 つまりは、医者という進路を目指して勉強したというよりも、勉強していたら偶然、進路の選択肢の中に医者が入ってきて、それを結果として選んでいる人が多いというわけだ。この点は、漫画で描かれていることにかなり近いように感じる。実際に、著者の三田紀房先生がこの漫画を描くことになったきっかけは、医学部の教授になった小学校の同級生が飲み会の席でつぶやいた、「学校の成績が良いだけで受験する子が何人もいるんだよねぇ」のひと言だったという。そこで、18歳くらいのまだ高校生みたいな子が、何を勉強して、どんな経験を積んで医者になっていくのかを聞いてみると、「医学部ではそんなことを学ぶの?」という驚きと発見で、漫画に描きたくなったのだそうだ。

 ちなみにSKくんが慶應の医学部に入って一番驚いたのは、「両親のどちらか、または両方が医者という人が、思っていたより少なかった」こと。8~9割くらいの人は医者の子供だと想像していたが、半分程度だったそうだという。

 このように「両親が医者でもないし、医者になりたいという情熱をもっているわけでもないが、医学部に進学した人」はそれなりに多いということがわかった。

 これは、ある種当然のことなのかもしれない。医学部生たちによると、「医者になりたい」という情熱をもっていることよりも、「成績が良い」ことの方が、医学部の勉強には必要だという。一定の要領の良さをもっていないと、医学部に入ってからの勉強についていけないのだそうだ。国家試験に合格するために膨大な量の知識を頭に叩き込むのはもちろんのこと、無事に医者になれたとしても、医者である限り、常に最先端の医学を学び、知識をアップデートし続けなければいけないわけで、情熱だけではやっていけないということなのだろう。

「医者になりたい人」は医者に向いていない?

 本作では、そんな主人公が医者を志そうと決めるシーンが描かれている。

(c)三田紀房
(c)三田紀房
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(c)三田紀房
(c)三田紀房

 このような形で、「医学部に入ってから医者になることを決める」シーンが描かれていたわけだが、しかし、「医者になりたい」という強いモチベーションに突き動かされているわけではない人は、医者を目指しても良いものなのだろうか。医学部の勉強についていけなくなったり、途中で挫折してしまったりはしないのだろうか。

 これに対して、SKくんは「むしろ逆だ」と教えてくれた。「医者になりたい」という情熱をもっている人の方が、案外途中で挫折してしまうケースが少なくないのだそうだ。

 「医者って、やっぱりきつい仕事なんですよ。人の命を扱う仕事だし、精神的に病んでしまう人も多いです。研修医の時点で、『もうダメだ』となる人も多い。だからこそ、重く捉えすぎない人の方が良いんじゃないかなと。『人の命を救う!』という情熱があり過ぎてしまう人だと、残念ながらそうできなかったときに、潰れてしまうんです。」

 つまりは、「医者になりたい!」と熱く考えている人よりも、医学と一定の距離感を持ち、冷静に向き合える人の方が、医者に向いていると言えるのかもしれない。情熱があふれるような状態だと、現場に立った時に精神的な負担が大きいということなのだろう。

 そしてそれは、医者が診療科を選ぶ時にも重要になってくる視点なのだそうだ。

 「自分は子供が好きで、バイトも、学生の教育に関するものを選びました。『小児科とか良いんじゃないかな』と考えていたのですが、医者をやっている先輩からは、『小児科は、むしろ子供が好きじゃない人のほうが良いよ』と言われました。『子供が好きな人は、潰れちゃうよ』と。」

 患者とも一定の距離感を持って接することができる人の方が、その診療科で働く上ではプラスに作用することが多いということなのだろう。

 そう考えると、先ほどの漫画のワンシーンで先生が言っていたことも納得できる。

 自分は本当に医者に向いているのか。こんな自分が医者になっても良いのか。

 迷っていても良いし、悩んでいても良い。ただ、誠実に、粛々と命と向き合える人の方が、医学部進学は向いているのかもしれない。





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《西岡壱誠(カルペ・ディエム)》

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