理系女子の選択肢に広がり「多様なキャリア」につながる…三菱みらい財団が提案

 三菱みらい育成財団は2023年12月16日、女子高校生が理系女性の社会人と対話できるオンラインイベント「理系ブロッサム」を開催。ロールモデルとなる多様なキャリアをもつ理系女性との交流を通じて、女子高生たちは理系の可能性や魅力を感じ、自身の進路を考えるヒントを得る機会となった。

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 ジェンダー平等を実現し、誰もが活躍できる社会を作りあげることはSDGsにも掲げられた世界共通の目標となっている。諸外国に比べて日本はいまだ女性の社会進出が遅れており、近年はこの対策として、官民をあげて女性の活躍や女子生徒の理工系進路選択を推進する取組みが進められている。

 三菱みらい育成財団は2023年12月16日、女子高校生が理系女性の社会人と対話できるオンラインイベント「理系ブロッサム」を開催した。電機、機械、自動車、食品、化学といったメーカーをはじめ、一見すると文系就職が多そうなイメージの銀行や証券、保険、コンサル、商社など、多彩な業種の21社から33人の理系女性が参加し講師を務めた。また、33名の理系女子大学生・大学院生がファシリテーターとして参加した。

 講師とファシリテーターたちは事前にオンライン研修を実施。そこでの学びを踏まえ、当日は自身の経験やキャリア、考えを語り、女子高校生の質問に答え、おおいに交流を行った。女子高校生らはさまざまな道で活躍する理系女性のロールモデルに接することで理系の可能性や魅力を感じ、自身の進路を考えるヒントを得る機会となった。

女性の社会進出や理系選択が遅れている日本

 女性の活躍や社会進出を後押しする取組みが活発化している。国は女性活躍および男女共同参画社会の実現を図るべく、2020年12月に「第5次男女共同参画基本計画」を策定し、「すべての女性が輝く令和の社会」を実現するため、2030年代に指導的地位にある人々の性別に偏りがない社会になるよう、また、2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度になるよう、取組みを推進。その対象分野として「政治」「行政」「経済」「科学技術・学術」「地域」「防災」「国際」などを定め、各分野にて成果目標を設定し、取り組むべき事項を示している。

 この計画に沿って官民をあげて行われた取組みによって、女性の就業者数や上場企業における女性役員数が増加するなど道筋がつけられてきつつある。とはいえ、同計画の進捗は芳しい状態とはいえない。世界経済フォーラム(WEF)が2023年6月に発表した2023年版の「ジェンダー・ギャップ報告書」によると、日本のジェンダー・ギャップ指数は146か国中125位と過去最低を記録し、男女の格差解消が進んでおらず、世界から遅れをとっている。

「ジェンダー・ギャップ報告書2023」は世界経済フォーラムのWebサイトから確認することができる

 その表れのひとつが、「リケジョ(理系女子)」の少なさと言える。同計画においても対象分野として「科学技術・学術」があげられ、男女の研究者・技術者が共に働き続けやすい研究環境の整備や、女子生徒の理工系進路選択の促進などが進められているものの、計画説明資料によると、研究職・技術職に占める女性の割合は、イギリス38.6%、アメリカ33.7%などに対して日本は16.6%と低水準にとどまっている。

 また、大学における専攻分野においても、大学全体で45.6%を占める女性比率が理工系学部では理学系27.8%、工学系15.8%と低い水準になっており(文部科学省「令和4年度学校基本統計」)、女性研究者・技術者を将来的に増やすためにも、女性の理工系進路選択の促進が欠かせず、次代を担う女性の科学技術人材の育成が求められている

 日本のリケジョがなかなか増えない要因のひとつに「女性は理系に向いていない」といった無意識の思い込みがあるとされる。それを払拭するためにも、女子生徒本人が科学技術に興味をもつための機会を増やすことや、本人だけでなく保護者や教員等の理解促進を進めること、理工系の進路選択がどのようなキャリアにつながるかをロールモデルで示すなど、十分な情報や体験を提供することが重要とされている。

社会で輝く理系女性との交流でキャリア観を拡張

 こうした背景を踏まえ、三菱みらい育成財団が女子生徒による理工系分野の選択を促進するべく開催したのが、オンラインイベント「理系ブロッサム」だ。これは、女子高校生が、多様な分野で活躍する理系女性社会人とのオンライン講義と対話によって理系女子のキャリア観を拡張し、自らの可能性を開いていくことを目指したイベントで、「理系女子高校生の可能性をひらく」をテーマとして掲げており、今回で2回目となる。理系選択における多様な活躍の機会について情報を共有した。

 三菱みらい育成財団は、三菱グループが創業150周年事業の一環で2019年に、次世代人材の育成を目的に設立した財団で、不確実で正解がない「VUCA」時代を生き抜き、未来を切り拓く人づくりをテーマに、高校生を中心とする15~20歳の若者たちを対象とする教育プログラムにフォーカスして助成事業を行っている。これまでの助成先は延べ301機関、参加者総数は16万9,000名にのぼっている。「理系ブロッサム」はそうした助成事業の一環で実施されたものだ。

理系=理系就職ではない! 選択の幅は無限大

 イベントでは、主催者やメインファシリテーターの話の後、「企業講師1名・学生ファシリテーター1名・女子高校生数名」のグループに分かれて、30分のブレイクアウトセッションが3回実施された。企業講師による講話、女子高校生たちとの質疑応答・対話が行われ、女子高校生はセッションを通してそれぞれ3名の理系女性社会人の話を聞き、質問を行い、理系という選択とそこから広がる仕事の選択肢などについて理解を深めた。ブレイクアウトセッション後は、全員で感想や気づいたことなどを共有する時間も設けられた。

 一部のブレイクアウトセッションのようすを紹介する。

三菱総合研究所の藤井氏(情報系学部) 

 三菱総合研究所に勤務している藤井氏は自身の歩みを振り返り、高校1年生の冬に理系・文系選択があり、迷わず理系を選択したと説明。「女子高だったので“男子は理系・女子は文系”といった考え方もなく、単純に得意な科目があるほうで選んだ」という。高2の夏休みには大学のオープンキャンパスに行き、興味のある学部をチェックしたうえで、パソコンが好きだったことから、情報系学部へ進学。「大学受験では理系科目の難しさに、大学生活ではプログラミングの授業に一苦労した」ものの、時に周囲と協力しながら乗り切り、「今となっては良い思い出」だと語った。その後、コンサルティング系の企業に入り、現在はおもに公的機関を顧客としたITコンサルの業務に従事し「お客様の課題解決に向けて奔走している日々」と笑った。

 藤井氏は高校生に向けて、「文系・理系で迷ったら、ぜひ現在興味のあることを大切にして進路を検討してほしい」「理系=理系就職ではなく、文系就職も可能であり、選択の幅はたくさんある。近年は文系就職でも理系出身学生が重宝されている」「皆さんはまだ何者でもなく、何にでもなることができる存在。壁に当たったら自分なりにしっかり考えて、納得できるような選択をしてほしい」とエールを送った。

三菱UFJ銀行の瀬川氏(理学部)

 理系出身で文系就職をした三菱UFJ銀行の瀬川氏は、高校2年で理系を選択、大学は理学部物理学科に進学。高校で理系を選択した理由は学校が理系を推奨していたことに加え、理系は将来の選択肢が多いのではないかと思ったから。「その後のキャリアについては、当時はイメージしていなかった」と振り返る。

 大学では生物物理分野の実験系の研究室に所属し、レポートやテストを乗り越えつつ、部活ではラクロスに没頭。就職先に三菱UFJ銀行を選んだ理由は研究内容や理系知識を生かしたいというものではなく、「ラクロス部で主将として、組織をまとめて動かすといった経験を経て、それを生かしたいと思ったから」だったという。「入行後はやりたかった法人営業業務に携わり、2年間法人のお客さまに融資やソリューションの提案などを実施した。お客さまと話すときに思いがけず理系知識が役立つことが多かった。同期には理系の大学院を卒業した方もおり、皆、文系・理系にこだわらず就活をしていると感じる」(瀬川氏)。

 法人営業を2年ほど務めた後、自らのアドバンテージを生かすために「もっと理系に特化した部署に行きたい」と志願して、現在はリスク統括部に所属。株式や為替など日々変動する市場の変化によって生まれる市場リスクに対して、金融工学を用いてリスク管理を行う業務を行っており、「理系の知識が非常に活用されている分野。業務中にもたくさんの数式に触れ、理解できると気持ち良い」と語った。

勉強・研究・仕事とも好きで楽しむ理系女性たち

AGCの安部氏(理学部)

 一方、AGCの安部氏は、大学の理学部化学科から大学院に進学して分析化学研究室に所属し、現在はガラスや化学品、医薬品を製造する素材メーカーの材料融合研究所有機材料部にて研究開発の業務に携わっている。県立の普通科高校出身で、進路選択の際は、「英語に苦手意識がある一方で数学が好きだったのと、学校が理系に力を入れていたこと、父や叔父が理系の仕事をしていて馴染みがあった」ことなどから理系を志望。化学や研究に興味があったことから大学では理学部化学科に進んだという。

 就職では「研究内容についてのこだわりはあまりないが製品開発につながる研究職につきたい、関東にある女性が働きやすい職場が良い」などの希望につながる就職先として、今の会社を選んだと説明した安部氏。現在はガラスにコーティングをしてさまざまな機能を付与する研究・開発の仕事を行っている。

 そうしたキャリアを進めたうえで、安部氏は「私が思う、理系のお勧めポイント」として、①だいたいみんな自分の専攻が好き、②途中で文系に変える選択肢がある、③女子は希少価値が高く売り手市場、という3点をあげた。①は勉強も研究も仕事も好きでやっている人が多く、周りも自分も皆楽しく研究していること、②は高校で理系を選んでも大学受験や就職で文転する人が割と多く、迷ったら理系がお勧めということ、③は理系女子は少ないのでみな仲良く協力しあい、理系職場ではこれから女性の活躍が期待されていると説明した。

その他のブレイクアウトルームのようす

 三菱UFJ信託銀行勤務の女性は、理系の人材が重宝される能力として、論理的に考える力、試行錯誤・想像する力、会話能力などをあげた。たとえば同行においても顧客の資産をグローバルに運用するファンドマネージャーや、DX・AIなどを用いた新ビジネスを推進するシステムデジタル、企業年金に関するコンサルを行うアクチュアリーなどの業務で理系の学びが生かせる、といった話があった。

 また、三菱自動車の品質管理部に勤務している女性は、「高校時点での理系の就職イメージは研究開発だったが、実際にさまざまな企業に職場体験に行った際に、研究開発よりも関わった完成品が実際に使われているところが見える仕事が良い」と感じて今の会社を選んだと言い、高校のときのイメージとも大学での研究内容とも違う職種だが、仕事の進め方や考え方などで理系で学んできたことを生かせるとし、「その時々の自分が楽しいと感じる・納得できる進路を選んでいる、これからもやりたいことは変わっていくかもしれないし、社会人になってからも何度も選択する機会がある」と述べた。

ロールモデルの姿に高校生たちは… 

 各ブレイクアウトセッションでは高校生からの質問や相談も相次いだ。

 たとえば「生物が好きなのでその進路に進みたいけれど、親が反対している」との相談。企業講師からは「高校の同級生で生物系に進んだ友達がいるが、就職先は食品メーカーをはじめ幅広くたくさんあるし、銀行などへ文系就職をしている人も多い。今ご両親からいただいたきっかけを生かして、学部を調べたり、どんな就職先があるかを今からチェックしたりしておくと焦らないですむのでは」と親身な返答が。

 また、小さな子供を育てながら時短勤務をしている企業講師に対する「忙しい中でどうやって仕事や育児をこなしているのか」という質問には、「子供の送迎があるのでToDoリストを作って優先順位の高いものからこなしていくとともに、周りにも頼るようにしている」などと返答していた。「やりたいことが多くて決められない、またはやりたいことがないときはどうすれば」という質問では、「人間は横の幅を広げていくときと、縦に深掘りをしていくときの両方の曲面があると思うが、深掘りしていくべきときは自分がやりたい、ワクワクすることがあるときで、それが見つからないときはどんどんチャンスがつかめそうな方向へ、心が赴くままに進んでいけば良いのでは」というアドバイスがあった。

 セッション後には、参加した女子高校生・大学生による感想や気付いたことのシェアが行われた。「理系って選択肢がこんなに広いんだ! チャンスは意外とたくさんある」「自分が知らないところに就職する可能性があり、未来は無限大であることを痛感した」「自分の選択に後悔がないことがいちばん」「専攻によって将来が左右されるわけじゃない。狭いと思っていた進路が話をしてみると広くて安心できました」「いろんなタイプの方がいて視野が広がりました」「興味をもっている職種の人の話も実際に聞けて、ビジュアル化できた」「理系に進んでもその先の選択肢は幅広く、たとえ途中から進路変更しても学んだことはいろいろなところで将来の役に立つとわかった」など、理系の進路やキャリアに対して前向きにとらえる感想が多く出ていたように思う。

未来の可能性に触れ、好きなことを選ぶ勇気を得た女子高校生たち

 理系を選択した女性が実際に、社会でどんな活躍をしているのか。進路選択では何を考えて決めてきたのか。女子高校生たちは講師ひとりひとりのキャリアストーリーに触れ、近い将来を思い描き、理系という進路の先にある幅広い可能性に触れることができたようだ。

 理系進学は難しそう、研究職しか就職先がない、進路変更ができないのでは…といった思い込みを払しょくできた女子高校生たちは皆スッキリとした表情でキラキラしており、ここで得られた「好きだと思うことを選び取る勇気」を胸に、前に進んでいくのだろう。そんな理系女子達が切り拓く未来に、社会からも大きな期待が寄せられている。

三菱みらい育成財団について

《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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