【シリコンバレー子育て事情-5】大騒ぎのHoliday Season
編集長のM女史から「イベントごとの企画で、まずはクリスマスを…」というお話を頂いたものの、アメリカにはクリスマス前の大イベントThanks Giving Day(感謝祭)がある。
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11月の第3木曜日に催される感謝祭は家族、友人、親戚一同を呼んで呼ばれてのドンチャン騒ぎである。中型犬ほどもあるターキー(七面鳥)に「我が家秘伝」の詰め物を施して大騒ぎしながらローストする。定番のクランベリーソース、グレイビー、コーンブレッド、その家々に代々伝わるレシピのマッシュポテトが並び、腕によりをかけて焼いた種々のパイやクッキーやデザートに加えて「ジェームズが生まれた年のワイン」などと因果関係もつかめぬまま振舞われる。大騒ぎである。
そして感謝祭の翌日の金曜日がBlack Friday(BF)。この日はデパートや家電量販店が朝の3時~4時ごろから開店し、1年でもっとも低価格の目玉商品の販売を開始する。事実上のクリスマス商戦開戦である。今年の目玉はiPad。昨今ではブラックフライデーの目玉商品をネットで買うこともできるが、寝袋持参で前夜から並ぶのが伝統行事となっている。今年も9日前から大手デパート前にテントを構えるオバさん軍団がテレビ局の取材に嬉々として応じていた。彼女たち曰く「並ぶことに意義がある。自分たちにとってBFの行列は生き甲斐」とのことであった。
◆感謝祭の始まりはインディアン
そもそも、1600年代にイギリスから宗教的迫害を受けてアメリカに流れ着いたピュリグラムが、1年目に冬が越せずに総崩れになりかけたのを見かねたインディアン(ネイティブ・アメリカン)が穀物の育て方や狩の方法、畜産などを伝授した。インディアンの好意のおかげで2年目にはピュリグラム達は収穫までたどり着き、活路を見出すことができた。余裕のできたピュリグラムがインディアンに謝意を表して夕食に招いたのが、感謝祭の始まりとされている。
しかし、たかだか200年かそこらの浅いアメリカ史の中、ネィティブ・アメリカン(インディアン)は白人に迫害され大量虐殺された。恩を仇で返されたばかりか、近代になりインディアンたちはピュリグラムの末裔である「アメリカ人」の手でリザーブに隔離されアル中だ。感謝祭の逸話については、インディアン迫害をカムフラージュするために作られた美談と酷評する声が高い。原告であるアメリカ人からこのように自らを省みて批判する声が上がるのは、高い評価に値する。多人種で構成される社会の利点の一つである「自浄効果」だ。
◆家庭的なイベント、クリスマス
ひたすら飲み喰いする感謝祭に対し、クリスマスはカードとプレゼントを配り終える12月20日ごろまでが大騒ぎのピークで、社交的で盛大なクリスマスパーティーもこの頃までに一段落する。キリスト教徒が圧倒的な数を誇るアメリカでは、イブからクリスマス当日、教会のミサに行った後は、家族だけでこぢんまりと過ごす。地味で家庭的なイベントである。
ユダヤ教徒はクリスマスと言わずに、この日をHanukaと呼ばれる宗教色の濃い大切な日と位置づけている。宗教を問わず、12月の声を聞くと同時に焼き物を中心とした日持ちのする家庭料理を仕込み始める。アメリカではこの期間をBaking Seasonと呼ぶ。感謝祭が終わると同時に、年に1度「ご機嫌伺い」に忙殺される。料理などゆっくりしている暇はない。付け合わせや菓子類は早めに仕上げて当日のメインはローストチキン(アメリカではローストチキンは特別なご馳走ではない)が定番である。
パーティーの三角帽子をかぶった千鳥足のオヤジやマイクロミニスカのお姉ちゃんサンタなどはアメリカには存在しない。ケーキ売り合戦もなし。お菓子はドイツの日持ちするダーク・フルーツケーキやシュトーレン、イタリアの日持ちする焼き菓子パネトーネ、ツリーのオーナメントにも出来るジンジャーブレッドクッキーなどを家庭で仕上げる。
シリコンバレーにはアジア系が多いこともあって、クリスマスは東海岸や中西部に比べると、さらに慎ましやかである。家々のライティングも中西部が場末のキャバクラのように飾り立てるのに対して、センス良く寒色系を取り入れてこざっぱりとまとめている。
しかし、センスを語らせたら東海岸のクリスマスに勝るものはない。荘厳かつ優美の粋を極めたヨーロピアンエレガンス。これは西海岸には偶像崇拝をしないプロテスタントやキリスト教系以外の宗教が多いのに対し、東はローマ正教を筆頭に数々のカトリック系の教会が君臨する事が大きな理由の1つである。東海岸のカトリック教会は本国に倣い豪華な像やステンドグラス、金銀財宝をちりばめた芸術的な調度品をもって贅を尽くす。そしてクリスマスシーズンにはその底力を「これでもかーっ!」とばかりに見せつける。もっとも、本場ヨーロッパ人は「猿まね」と言って鼻で笑っているが…。
《Grace(Hiroko) YAMAZAKI》
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