思考力・メンタル強化で生き抜く力を磨く…ルネサンス高校のeスポーツコース

 2018年4月に、日本初のeスポーツコースを開設したルネサンス高校では、eスポーツ人気の高まりもあって生徒数が増加している。授業のようすや特徴、eスポーツの今後の展望などを聞いた。

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「思考力・メンタル強化で生き抜く力を磨く…ルネサンス高校のeスポーツコース」
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 「eスポーツ」とは、パソコンをはじめスマートフォンやタブレット、ゲーム機等を使用して行う「対戦型ゲーム」の一形式。このうち多くは、組織的な多人数ビデオゲームの対戦であり、特に個人またはチームのプロ選手同士で行うもので、現在、国内外でプロ選手が輩出され、徐々に日本での人気も高まりつつある。プロeスポーツ界は、従来のスポーツの世界同様、勝敗結果がキャリアに直結する厳しい世界。従来のスポーツと異なる点は、運動をメインとした体格や全身の筋力を必要とせず、ゲーム内での操作スキルを含めた思考力がより求められる点だ。

 2018年4月に、日本の高等学校として初めてeスポーツコースを開講したルネサンス大阪高等学校(通信制高校)、続けて2019年4月に開講したグループ校のルネサンス高等学校(東京・代々木)は、eスポーツ人気の高まりもあり生徒数が増加している。今回はルネサンス高等学校の松崎寛先生、西添和寿先生、プロゲーマーで同校講師「たぬかな」さん、生徒の「ごっとふぃすと」さん(3年生)の4名に、授業のようすやeスポーツコースの特徴、今後の展望などを聞いた。

ゲームを通じてゲーム以外のことも学べる環境



--eスポーツコースの目的や特徴を教えてください。

松崎先生:2年前の2018年4月に大阪で日本初のeスポーツコースをスタートしました。このコース開講の目的は「ゲームを通してゲーム以外のことも学ぼう」です。ゲームをする時間以外にも、英語やメンタル、コミュニケーションなどの授業でコースが構成されていることが大きな特徴です。説明会や相談にいらっしゃる親御さんの中には、ゲームばかりやっていて本当に良いのかと不安を感じている方も多いのですが、目的や趣旨をお話すると納得していただけるようです。

ルネサンス高等学校・松崎寛先生ルネサンス高等学校・松崎寛先生

西添先生:大阪でeスポーツコースを開講した際の入学者は3人程でしたが、今年度(2020年度)は100人を超えました。東京でも50人近い生徒が4月に入学しました。ルネサンス高校グループは通信制で、基本的にはスマホ・タブレット、パソコンによる自宅学習と年4日の登校(*1)ですが、eスポーツコースは週2日の通学があります。大阪は2020年度の4月から従来の「火・木」「水・金」の通学コースに加えて、「月・土」が増え、2019年に開講した東京(代々木)も「火・木」に加えて「水・金」が増えました。そして、東京と大阪に続いて2020年4月から名古屋栄キャンパス(ルネサンス豊田高等学校)でもeスポーツコースを新規開講いたします。
*1:学校や履修単位数によりこの限りではない。

--eスポーツコースでの松崎先生や西添先生の役割を教えてください。

松崎先生:私はコース全体の設計や企画・広報もやっています。私たち教員はゲームの専門家ではないので、そちらはプロゲーマーや配信者などのプロフェッショナルな方に入っていただいています。eスポーツコースは「ゲーム実践」「ゲーム教養」「eスポーツ教養」「メンタル強化」「PC一般」などの科目で構成(*2)されています。
*2:大阪・名古屋ではカリキュラムが異なる。

西添先生:私はPCのスキルや動画の編集などを教えています。入学した生徒には、ゲーミングPCとはどういうものかを知ってもらうために、PCを分解して、パーツはこうなっているということを実際に見せて説明をしています。もう少しスペックを上げたいときに、自分ではできない生徒が多いのですが、使っているものを理解することも大切ですし、仕組みを理解して自分でカスタマイズしたり、できることが増えるのも良いことだと思います。ほかにも、ゲームはプログラムによって動いているので、プログラミング授業も行っています。

松崎先生:「メンタル強化」の時間は、臨床心理士にプログラムを作ってもらっていたり、eスポーツの大学リーグで優秀な成績をおさめている、青山学院大学や慶應義塾大学、東京工科大学などから学生を招いた授業にも取り組んでいます。

ルネサンス高等学校・西添和寿先生ルネサンス高等学校・西添和寿先生

プロ・関連業界・大学進学と多様な進路



--eスポーツに関係することを網羅しているのですね。生徒たちの卒業後の進路はどのようなところになるのでしょうか。

松崎先生:このコースに来る生徒は、プロゲーマーやゲーム実況・MCなどの配信者を目指すだけでなく、ゲームデザイナーになりたい、eスポーツ関連業界で働きたい、あるいは大学進学を目指す生徒もいます。そのため、いろいろな人の話を幅広く聞ける状況を作り、プロゲーマー以外の道に進むときに相談できるようにしています。

 PCメーカーやプログラミング関連、eスポーツのイベント会社などから求人票をいただいたり、これからeスポーツ関連の事業を始めたいという企業から、即戦力となる人材を求めているという相談もいただいています。

人気プロゲーマー「たぬかな」さんがルネサンス高等学校の講師に着任



--プロゲーマーのたぬかなさんは、格闘ゲーム「鉄拳」を主戦場とする日本のプロゲーマーの草分け的存在ですが、どのようにしてプロゲーマ―へとなっていったのでしょうか。

たぬかなさん:地元、徳島のゲームセンターで高校生のころから「鉄拳」をプレイしていました。ゲームセンターにはいろいろな人がいるので、そこで出会った大人の方との交流で見聞も広げながら、数多くの対戦経験を経て実力を高めていきました。

 高校では建築を学んでいて、卒業後は設計士の仕事をしていました。普通に働きながらゲームの活動も続けていた23歳のときに、大阪を活動拠点とするプロeスポーツチーム、サイクロプスのプロゲーマーになりました。

 「鉄拳ワールドツアー(以下TWT)」では、おもにアジア圏での大会に出場しています。「TWT」は、プロゴルフのように1年通して大会が開催されるツアーで、各大会の順位に応じてポイントが付与され、上位がファイナルに出場できる仕組みとなっているのですが、私の最高成績は、TWT東アジア大会(オンラインイベント)準優勝です。また米国の「コンボブレイカー」という大会で、女性として大会初の3位となり米国Yahoo!ニュースにインタビューが掲載され、SNSのフォロワーが一気に急増して、この大会での活躍がレッドブルとのスポンサー契約につながりました。

プロゲーマーでルネサンス高等学校講師「たぬかな」さんプロゲーマーでルネサンス高等学校講師「たぬかな」さん

 2019年の12月には、鉄拳最強女王決定戦“STARGAMERS COMMUNITY FESTIVAL GIRLS ONLY BATTLE” で優勝しました。

--ルネサンス高等学校では、どのような活動をするのでしょうか。

たぬかなさん:ルネサンス高等学校では、4月から講師として「ゲーム実践」について教えることになりました。プロゲーマーも4年目になりましたので、ゲーム戦略や技など以外にも、海外での大会経験をはじめ、今だから伝えられることがたくさんあると思います。

 特に「英語」は本当に大事です。英語ができないために大会にエントリーができなくて不戦敗になった経験もあります。私は失言も多くて(笑)、スポンサーさんに迷惑をかけてしまったこともあったのですが、自分の失敗談なども踏まえてプロとしての心構え、メンタルを鍛えることの大切さも伝えたいです。

進学校から転校「ごっとふぃすと」さん(3年生)



--ごっとふぃすとさんの入学のきっかけを教えてください。

ごっとふぃすとさん:昨年(2019年)の秋に転校してきたばかりなのですが、もともとは山口県下関市の進学校に通っていました。リーグ・オブ・レジェンド(League of Legend、以下LoL)というゲームをやっている友だちと5人で「ステージ0」という高校生の大会に出場して好成績だったことをきっかけに「自分はこの道で行きたい」と考えて転校しました。今はひとり暮らしをしているのですが、動画授業を視聴してレポートを提出したり、自分のペースで集中して勉強をして、2年生の学習は入学後集中して終わらせて、あとはゲーム実践に時間を費やせるよう工夫しました。

松崎先生:ルネサンス高等学校では、1年分の課題を入学の段階で生徒に渡して、それを毎月のペースでやるか、凝縮してやるかは、生徒次第です。通信制なので個別最適化しやすい環境です。登校時間や休憩時間もないので、時間を効率的に使えるのが通信制の良いところです。

--親御さんは理解してくれましたか。

ごっとふぃすとさん:ゲームには否定的なイメージが強くて、1日何時間に限るというルールがあり…という感じでした。「ステージ0」で優勝はしていませんが活躍できて評価されたことから、親も自分の良いところを見てくれるようになり、この学校に来ることができました。

たぬかなさん:順位よりも内容が良ければ評価してもらえるのもeスポーツの良さですね。

-- eスポーツのゲームはどのようなものがあるのでしょうか。

西添先生:eスポーツのゲームは、「ストリートファイターV」「鉄拳」などの格闘ゲームや「LoL」などのMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)、シューティングゲームなどのカテゴリーがあります。スマートフォンのゲームは課金して強くなるタイプのゲームが多く、どちらかというとeスポーツには不向きです。LoLや鉄拳などは、課金してもコスチュームなど見た目が変わるだけで平等性が保たれているので、eスポーツとして世界的に普及しています。

 ごっとふぃすとさんがプレイするLoLは、5人対5人で戦って相手の本拠地を攻め落とすゲームで、チーム戦です。ひとりひとりの役割が違って、戦略を考えながらプレイするため、思考力が求められます。

ごっとふぃすとさん:チーム戦ですから、いろいろなプレイヤーがいて難しい面はありますね。僕は戦略も考えますが、どちらかというと司令塔の役割を担っていました。

--転校されてから大会などに出場しましたか。

ごっとふぃすとさん:2019年の12月に「第2回全国高校eスポーツ選手権」のLoLのカテゴリーに出場してベスト8でした。この大会は106ものチームが参加したのですが、転校したばかりの私がリーダー役をやらせていただき、結果につなかがったのでとても嬉しかったです。親も喜んでくれました。

西添先生:ごっとふぃすとさんが転校を決意した大会「ステージ0」では、ルネサンス大阪高等学校がLoLでベスト4に入り、フォートナイトでは3位でした。この大会も高校生によるeスポーツの全国大会で、テレビ東京グループが主催しコカ・コーラがスポンサーです。こうしたイベントを通じて、親御さんたちのeスポーツへの理解につながると嬉しいです。

得意を生かした経験から得る自信



--eスポーツの注目度が高まっていますが、現役の高校生としてどう感じていますか。

ごっとふぃすとさん:高校生は勉強して大学に行って社会人になる…というルートがまだまだ一般的だと思いますが、eスポーツの大会規模が大きくなることによって変わってくると思います。どんどん人気が高まっていることはとても嬉しいですし、希望になります。

ルネサンス高等学校3年生の「ごっとふぃすと」さんルネサンス高等学校3年生の「ごっとふぃすと」さん

西添先生:日本のeスポーツはこれからです。アジアでは韓国がナンバー1ですが、中国が盛り上がってきていて、韓国、中国、そのあとを追いかけるのが日本という状況です。韓国にはeスポーツ専用のアリーナもあります。

たぬかなさん:韓国の空港にはプロゲーマーの広告が大きく貼ってあるんですよね。韓流スターと同じ規模の扱いなんです。ドリンクのCMにも「鉄拳」のプロゲーマーが出演しています。日本も追いつきたいですね。

松崎先生:日本でも盛り上がりが出てきて、お問合せも増えています。入学者には中学で不登校だった生徒もいます。

西添先生:2019年7月にフランスのパリで開催した日本文化を発信する「ジャパンエキスポ」でeスポーツをはじめて展示することになり、本校がお声掛けいただきました。そのときに連れて行った生徒たちは不登校経験者でした。1,000人ほどの観客の前で海外の人と対戦をしました。言葉も通じない中でしたが、ゲームを通してコミュニケーションは可能でした。

松崎先生:その後、ジャパンエキスポに参加した生徒たちに、東京ゲームショーやeスポーツフェスタというイベントを手伝ってもらったところ、フランスに行ったメンバーはもう手慣れたもので、チラシ配りや来場者への対応もスムーズにやってくれました。自分の学校の説明を、ある企業の方にしたところ、その説明が素晴らしかったようで、その企業の役員の方を呼んできて「この子すごいです!」と紹介してくれたこともありました。ゲームを通じたさまざまな経験から、生徒は自信をもつことができたと思います。

--ごっとふぃすとさんの将来の夢を教えてください。

ごっどふぃすとさん:将来の夢はやはりプロゲーマーです。皆がなれるものじゃないですが、ほかのスポーツと違ってプレイ時間でレベルが高くなることもあると思います。特にプロになるためにはゲーム以外にもメンタルトレーニングや、思考力も必要だと考えていますので、日々努力していきます。

ダイバーシティや地方創生にも期待



--eスポーツの世界はこれからどのように進化していくと考えていますか。

西添先生:eスポーツは人種・性別・年齢・障がいの有無に関係なくできます。みんなが集まって大会を開いて参加したり、世界大会に出たり。地方でも大会を開いていくことが、これからどんどん増えていくと思います。

松崎先生:私たちがeスポーツコースを通じて思うのは、ゲームは教材であり、一種のツールという考え方です。そのツールを使って、老人の痴呆防止や障がいのある方がプレイできるなど、将来はもっと世代やハンディキャップを超えて、みんなが使えるツールになれば良いと思います。

たぬかなさん:私は地方創生とゲームを結び付けて考えています。地方では仕事がなくて都市部へ出ていく若者が多いです。でも徳島はWi-Fiの普及率は全国で一位、しかも回線も速くてオンラインゲームにとって環境が良いのです。自然の中でのびのびとゲームをするプロゲーマーの仕事があって、スポーツチームのように、その地元に根付いて、皆が応援できるチームができれば良いなと思います。しっかりしたeスポーツプレイヤー育成カリキュラムからプロが輩出されれば、各地でチームができやすくなると思います。eスポーツが、年配の方から若い世代まで受け入れられる文化になるような未来を思い描いています。

--ありがとうございました。

 今、子どもたちの進路の選択肢は多様なものになっている。保護者はこれで良いのかと、時には不安になることもあるだろう。だが、一線で活躍するプロに触れる機会と、生徒の個性を伸ばす指導者と出会うことができれば、どんな進路であっても多くの気付きを得られるのではないだろうか。デジタルネイティブ世代の子どもたちにとっての「ゲーム」とは、生きる力を育むツールにもなり得るのだ。現代社会で活躍する人材育成を支える存在として、今後もますますルネサンス高校グループに期待したい。

ルネサンス高等学校

《佐久間武》

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