私学3校の実践紹介も「小学校英語教育とICT活用」…サインウェーブセミナー開催報告

 サインウェーブは2021年9月15日、オンラインセミナー「小学校英語教育とICT活用を考える」を開いた。3校の私立小学校が実践内容を伝え、講演を通して早期英語教育やフォニックスの重要性、小学校英語学習のICT活用について理解を深めた。セミナーの模様を振り返る。

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ICT端末を活用して英語学習に取り組む児童
ICT端末を活用して英語学習に取り組む児童 全 10 枚 拡大写真
 サインウェーブは2021年9月15日、オンラインセミナー「小学校英語教育とICT活用を考える」を開いた。3校の私立小学校が実践内容を伝え、講演を通して早期英語教育やフォニックスの重要性、小学校英語学習のICT活用について理解を深めた。セミナーの模様を振り返る。

 最初に学習院女子大学教授でサインウェーブ顧問の萓忠義氏が「早期英語教育の重要性」と題して講演。「生物学的考察:臨界期仮説」「日本経済の行方と英語」「アジアの近隣諸国の英語力」という3つの視点から、幼少期における英語教育の必要性について解説した。

早期英語教育の利点「子供はネイティブレベルになれる」



 「生物学的考察:臨界期仮説」では、子供と大人の語学習得の違いについて「子供は5~6歳までには日常使用する言語の基本的な部分は習得できてネイティブレベルになる」「大人は何年かかってもネイティブレベルにはなれない傾向が強い」と説明。言語に接することなく育った子供の事例等とともに、一定の年齢を過ぎると言語習得が困難になるという「臨界期仮説」を示しながら、早期英語教育の利点を伝えた

語学習得における子供と大人の違い
語学習得における子供と大人の違い

 「日本経済の行方と英語」に関しては、日本は人口が減少し経済成長を阻害する「人口オーナス」の影響を受ける一方で、世界は人口増加と経済成長が予測されていると解説。日本企業による英語の社内公用語化等、国内で英語の必要性が増している実態を明かしながら、「将来の子供たちには絶対に英語が必要。臨界期仮説を考えると、できるだけ早いうちに英語教育を進めたほうがいい」と説いた。

出遅れている日本…英語レベルを世界標準に



 「アジアの近隣諸国の英語力」については、日中韓の英語教育を比較して「日本は20年くらい出遅れている」と指摘した。アジア29か国中27位というTOEFL(2018年)のデータ等とともに、世界標準で11歳以上が受ける子供向け英語テスト「TOEFL Junior」のスピーキングテストサンプルを聞かせ、「おそらく日本の高校生でも難しい内容だと思う。私たちはできるだけ早く英語教育を始めて、日本の子供たちの英語レベルを世界標準に近づけなければいけない」と語った。

TOEFL(2018年)のデータ
TOEFL(2018年)のデータ

私学3校が実践を紹介



 続いて、昭和女子大学附属昭和小学校(東京)、田園調布雙葉小学校(東京)、仁川学院小学校(兵庫)の3校が講演。昭和女子大学附属昭和小学校から校長の真下峯子先生(昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校校長兼務)と英語科主任の幡井理恵先生、田園調布雙葉小学校から副校長の筒井三都子先生と中学高等学校進路学習指導部長/情報科の小林潤一郎先生、仁川学院小学校から副校長の平石光生先生が登壇し、小学校英語教育とICT活用の展望、実践と課題について発表した。各校のおもな内容を紹介する。

他教科の内容も英語を使って学習



昭和女子大学附属昭和小学校



 指導と評価の一体化のプロセスをいかに進化させていくかということで、カリキュラム開発後の実装のための指導ツールとしてICTを活用している。6月からは、アセスメントを徹底してやっていこうと、指導法の振返りとデータ分析にもICTを活用している。

 英語指導を開始したのは1994年。児童にとって身近なテーマを中心に扱う指導から開始し、その後、児童の興味をもつ内容を中心に指導内容をより深めて、現在では他教科の内容の一部を英語で扱う等、科目内容と言語を統合して指導する授業を行っている。低学年では学校生活の中に英語がある環境に慣れ親しむことを大目標とし、中学年では友達と一緒に協力して学校で学ぶことでより英語を身近なものとしてとらえられるようになることを目標に設定。高学年では個々の特性を生かし自分なりの学び方を見つけて興味をもった学習内容をより英語を使って深めていくことを目指している。

昭和女子大学附属昭和小学校英語科の目標

 1年生の終わりころには、タブレットに絵本を読んで自分の声を録音できるようになる。2年生では、1年生のときに慣れ親しんだ絵本を使ってオリジナルのデジタル絵本を手作り。3年生の好きな食べ物を伝える単元では、学習アプリの思考を整理するツールを使用。4年生からキーボード付きのiPadを使用するため、4年生はブラインドタッチを目指してアルファベットの位置を体に覚え込ませながら、音と意味と綴りから単語を習得していく。5年生になると、おもに理科、社会、家庭科等、他教科の学習内容について英語を使って学ぶ授業へと切り替わる。6年生では、自分の考えや思いを人に伝えることを目標とした授業を実施。子供たちは、ICT機器を使って伝えたい内容について調べ学習をしたり、スライド作成をしたりして、英語を使いながら学習している。6年卒業時の英語力は、CEFRのA1からA2レベルを目指して指導している。

母国語のように英語を身に付けるステップを大切に



田園調布雙葉小学校



 学校として目指す英語力は、世界の人々と共により良い世界を作るという1つの目標のために協力できる人間に成長していくために必要な力。英語科の教員はすべてバイリンガルで、語学教育の研究所に所属し、小学校英語教育研究グループで専門に学び続けている。全学年週2回の英語の授業は、基本的にすべて英語で行われ、子供たちは英語のシャワーを浴びている。母国語のように英語を身に付けるステップを大切にしながら将来につながる素地を養っている。

田園調布雙葉小学校の英語教育 (c) 2019 Junichiro Kobayashi

 たとえば「できる」という表現の学習では、「I can」に続く言葉を教え、パターンを繰り返して覚えさせていくような指導はしない。母国語は、生活の中でたくさん聞き、自分が真に伝えたいことを言葉にする中で習得していく。自分から伝えようとする中で、それまで聞き続けてきた言葉からまねて使ううちにふさわしい表現が引き出され、自然に身に付いていく。「できる」という英語表現を使えるようになるには自分ができることについて話さなければならない。先生は、ひとりひとりの答えたいことを拾う。間違った言い回し、単語、発音でも丁寧に拾いながら肯定し、先生がさりげなく言い換えてあげる。「おみじゅ」というわが子の言葉を拾い理解し、「お水ね、はいどうぞ」と差し出す母親と同じ役割を英語科教員は一斉授業という形態の中で子供たちひとりひとりに対して行っている。バイリンガルが指導にあたることの大きな意義であり、教員個々の学びと資質の素晴らしさだとも思っている。

 このような英語教育の中で、小学校6年間では約3,000のレセプティブボキャブラリー(見たり聞いたりするとわかる言葉)を取得する。ICT活用については、まだ英語科に積極的に取り入れる状況にはないが、学園としてプログラミング授業を小学校と中学・高校で連携している。

小学生版アプリを積極的に活用



仁川学院小学校



 国際理解教育として、2012年度から英語の教育改革を実施。もともとは開校の翌年1957年度から全学年1時間、英語の授業をしてきたが、2016年度から1~2年生で週3時間、3年生以上で週2時間行っている。イメージは日本人とネイティブとのティームティーチングで、クラスを半分に分けて片方は日本人、もう片方はネイティブの先生が指導。子供たちを入れ替え、日本人のバイリンガルの発音もネイティブの発音も聞かせている。子供の数を少なくすることで子供にたくさん発話させ、子供の発音を聞いてあげたいという思いから行っている。

仁川学院小学校の英語授業のイメージ

 授業時間数を増やしたり、留学生と交流したりすることを一生懸命やる中で、良いネイティブ教員の安定雇用の難しさと、子供たちひとりひとりの発音を客観的に評価することの難しさに直面。どうせやるならもっと大胆に他でやっていないことができないか、希望を叶えてくれる技術はないかと調べる中でELSTの前身となる「ひとり英会話」というアプリと出会った。「ひとり英会話for School」という仁川学院小学校用にカスタマイズされたアプリを作ってもらい、2018年度から活用し2020年度からはELSTを採り入れている。

 アプリの画面で「英語」と書いているところをタップすると英語の綴りが消え、「日本語」と書いているところをタップすると日本語も消える。発音をまねする、何と言っているか当てる等、いろいろな活用の仕方がある。英語の文章では、「お手本」というところをタップすると、お手本の発音を聞くことができ、「話す」をタップすると、自分の発音を録音することができる。そして、自分の発音を聞くこともできる。さらにその発音を瞬時に得点化してくれる。発音の悪いところは赤で表示されるため、子供たちは自分のどこがいけなかったのかをわかったうえで、もう一度チャレンジできる。点数は、流暢度、完成度も加味した点数となっている点が優れている。

音から文字へ導くのに有用なフォニックス



mpi松香フォニックス



 3校の発表後は、mpi松香フォニックス教育事業部教育課教育コンサルタント主任(元東京都公立中学校英語科教員)の近藤理恵子氏が「小学校英語におけるフォニックスの有用性」をテーマに講演した。近藤氏は、フォニックスを学ぶ効用について「初めて見た単語を自分で読める力がつく」「初めて聞いた単語を自分で書こうとする力がつく」「カタカナを振らずに英語が読めるようになる」「中学校へ行っても難しい単語に困らないようになる」の4点をあげた。

フォニックスを学ぶ効用

 「音の違い」については、文部科学省から出ている研修ガイドブックにも記述があり、研修で先生方からもよく聞かれると説明。「この音の違い、母音や子音の音というところを子供たちがつかんでしまえば、とてもスムーズに読み書きにつながる」「音の世界から文字の世界へ導くのは、実はフォニックスがもっとも有用」と語った。

 3年間ある自治体でフォニックスICTを活用した「小学校英語SWITCH ON!」を実践してもらったアンケート結果によると、「フォニックスを学んだからこんなに読めるようになった」という子供は6割で、フォニックス学習の効果は約8割ということが実証された。また、2020年度までの教科書18冊、中学1~3年生の6,500語を超える語彙を調べた結果では、フォニックスを学ぶと7割が自分で読めるようになるという有用性が出た。特に中学1年生の単語では7割を超えていたという。

フォニックス学習効果の調査結果

 近藤氏は「『小学校でできるようになってほしい目標』と『中学校に入ってから困らないために』というのはとてもギャップがある」とも指摘。コミュニケーション活動が中心となる小学校に対し、中学校では「積極的に授業に参加できる」「教科書のどこを読んでいるかわかる」等が望まれるとし、「コミュニケーション活動であろうと、教科書中心であろうと、そこには必ず文字と音をつなげるフォニックスがある。フォニックスは、自立して英語を学ぶ基盤となる最良の学習方法です」と述べた。

ICT技術が支援する英語学習



サインウェーブ



 主催者のサインウェーブからは、営業・コンテンツチームディレクターの澤井亮平氏が登壇。小学校で英語が教科化されたことで、新学習指導要領において中学校英語で扱う英単語や文法が増えている実態に触れ、小学校の英語学習の大切さを解説した。

新旧学習指導要領で扱う英単語数の変化 (c) 2021 Sinewave Inc.All Rights Reserved.

 さらにAIの音声認識や音声評価の技術、画像認識の技術等を使って英語教育を支援する取組みや商品ラインアップを紹介。小学生向け英語学習アプリ「ELST Elementary」については、実際に操作して見せながら、単語学習、会話表現、発音の採点、フォニックス学習等のようすを伝え、先生・生徒に好評という検定教科書完全準拠のコンテンツや宿題配信、管理機能についての説明もあった。

小学生向け英語学習アプリ「ELST Elementary」の概要 (c) 2021 Sinewave Inc.All Rights Reserved.

 最後は、萓氏がセミナー全体を振り返り「今の子供たちに必要なことは英語教育とICTの技術。それをいかに子供たちに学習させるのかが私たち大人の課題である。また、どのようにICTを使って英語の授業を展開していくのかというのも私たち教員に求められる課題だと思う」と総括した。2時間にわたるセミナーはあっという間で、小学校英語教育の重要性と多彩なアプローチ手法を学ぶとともに、AI技術を駆使したEdTechの可能性をあらためて実感する機会となった。

秋以降も注目のテーマでウェビナーを開催



 サインウェーブでは、秋以降もオンラインでのセミナー開催を予定している。10月26日午後1時から2時には独自調査報告にもとづくウェビナー「いよいよはじまる東京都中学スピーキングテスト(ESAT-J)志望校選び年間スケジュールに与える影響とは?」、11月22日午後2時から4時には東京大学教授の峯松信明氏、中央大学准教授の斎藤裕紀恵氏らを登壇者に迎え「“リスニング力”先端研究の紹介~EdTechとリスニング対策について考える」を開催する。いずれもZoom開催。公式Webページにて随時情報がアップデートされる。関心のある方は確認してほしい。

10月26日開催の詳細・申込はこちら
11月22日開催の詳細・申込はこちら

《奥山直美》

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