京大・河原教授に聞く、AIを使う側から創る側へわが子を導くヒント…社会を動かすプログラミング

 プログラミング総合研究所の飯坂正樹氏と、音声認識AI研究の第一人者である京都大学大学院情報学研究科 河原達也教授に、AI時代に求められる情報を読む力や思考力、プログラミング教育の意義について対談いただいた。

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京大・河原教授に聞く、AIを使う側から創る側へわが子を導くヒント…社会を動かすプログラミング
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 デジタルネイティブからAIネイティブへ。生成AIの普及により、子供たちが学習でAIを使うことが当たり前の時代を迎えている。一方で、AIが瞬時に答えを返してくれる環境だからこそ、情報を読む力や考える力、自ら課題を見つける力の重要性が高まっている。そういった力を育むために、必要な学びとは何だろうか。

 小学生から社会人までを対象としたプログラミング能力検定(以下、プロ検)を主催するプログラミング総合研究所の飯坂正樹氏と、音声認識AIの研究を牽引し、世界で初めて国会議事録作成システムにおいて自動音声認識技術の導入を実現した京都大学大学院 情報学研究科 河原達也教授が対談。

 河原教授が研究開発に邁進してきた自動音声認識技術の社会実装や、アイヌ語の保存・継承に向けたAI活用、アンドロイド研究を起点に、子供たちを単なるAI利用者で終わらせず、社会を豊かにする創造者へと導くためのヒントを語りあった。

【プロフィール】

プログラミング総合研究所 代表 飯坂正樹氏

 成果が見えにくいプログラミング教育の課題解決をミッションとし、学習効果を可視化する手法を研究。科学的アプローチに基づいたカリキュラムや評価指標を開発・提供することで、保護者が安心して子供を学ばせられる教育環境を整備している。

京都大学大学院 情報学研究科 河原達也教授

 音声認識や対話システムを専門とする研究者。世界で初めて国会への音声認識システム導入を実現した。近年はAIを活用したアイヌ語などの希少言語の保存・継承に取り組むなど、テクノロジーを通じて文化や社会の発展に貢献する研究を推進する。


世界初の挑戦から見えた、社会を動かすプログラミングの力

飯坂氏:河原先生は、2011年に世界で初めて国会議事録作成に自動音声認識システムを導入されたことで知られています。そもそも情報工学の道を志したきっかけは何だったのでしょうか。

河原教授:私が京都大学工学部情報工学科に入学したのは1980年代半ば、昭和の終わりころです。当時は、ロボットが人と会話したり、自動翻訳で言葉の壁を感じずにコミュニケーションをとったりする世界は、SF映画の中だけの話でした。だからこそ、「自分が生きている間に実現できたら面白い」と考え、情報工学の道へ進んだのです。

京都大学大学院 情報学研究科 河原達也教授

飯坂氏:そこから、当時はまだ夢物語だった自動翻訳や自動音声認識の技術を形にしていったのですね。

河原教授:はい。ただ、道のりは決して平坦ではありませんでした。人間の言葉をコンピュータに理解させることは想像以上に難しく、一般の人が使える水準に達するまでには長い時間がかかりました。2000年ごろに国会審議の音声を自動でテキストに変換できないかと相談を受けたものの、その時点では正直「実現はまだ難しい」と考えていました。音声合成による読み上げソフトは既にありましたが、音声から文字への変換は実用レベルに達していなかったからです。

飯坂氏:音声を読み上げる技術と、音声を文字に変換する技術では難しさが違うのでしょうか。

河原教授:まったく違います。音声合成は特定の話者の声を再現できれば成り立ちますが、音声認識は不特定多数の人の話し方や声質、話す速さ、言い回しの違いまで理解しなければなりません。そこに、音声認識技術の本質的な難しさがあるのです。

飯坂氏:10年にわたる研究が結実して、2011年についに国会で実用化されたわけですね。

河原教授:90%以上の精度で認識できた瞬間は、本当に感動しました。長年思い描いていたSFの世界が現実になったと感じましたし、自分が作り続けてきたプログラムが社会の中で実際に機能した喜びは格別でした。こうした達成感は、研究者だけのものではありません。試行錯誤しながら作ったプログラムが思いどおりに動いた瞬間の喜びは、プログラミングを学ぶ子供たちにとっても大きな成功体験になるはずです。

河原達也教授らの研究開発による自動音声認識技術は、2011年より世界で初めて国会で運用が開始された

未知に飛び込む面白さ…アイヌ語研究から考える「自分の問い」の育て方

飯坂氏:河原先生はアイヌ語の音声記録をAIで解析する研究にも取り組まれています。まったく未知の分野に、なぜ挑戦しようと決断できたのでしょうか。

河原教授:おもに口承で伝えられてきたアイヌ文化には、昭和期に録音された数千時間分の音声資料が残されていますが、専門家の手作業では解析が追いつかない。その打開策として文化庁から相談をいただいたのがきっかけです。アイヌ語の知識はまったくありませんでしたが、実際に音源を聴いた瞬間、「技術的に可能だ」と直感しました。長年の研究経験から、困難の中にも成功の道筋が見えたのです。

 最大の壁はデータ量でした。国会の音声認識では数千時間分の書き起こし付き音声データがありましたが、アイヌ語はわずか20~30時間分、しかも話者が限られていました。日本語のデータで事前学習させることで高精度の認識を実現しました。現在では誰の声でも認識できる段階に達し、昨年のユネスコ会議では世界の「危機言語」保存のモデルケースとしても注目されています。

プログラミング総合研究所 代表 飯坂正樹氏

飯坂氏:先生ご自身は、こうした研究のどんな点に面白さを感じるのでしょうか。

河原教授:研究とは、仮説を立てて設計し、実装し、実験して結果を確かめる。その繰り返しです。うまくいけばもちろんハッピーですし、期待どおりにいかなければ「どう改善すればいいだろう」と考える。その試行錯誤自体が研究の醍醐味です。

飯坂氏:そうした姿勢は、子供たちがプログラミングを学ぶ上でも大切になりそうです。

河原教授:そのとおりです。プログラミングも研究も、「結果を見て改善する」というサイクルの積み重ねです。

飯坂氏:子供たちには常に結果から振り返るプロセスを大切にしてほしいですね。AIに質問すれば、すぐに答えが返ってくる時代、子供たちに学ぶことの大切さをどのように伝えると良いでしょうか。

河原教授:世の中には正解のない難しい問題がたくさんあります。そうした課題に対して、AIを活用しながらも、自分自身の頭で、本当に正しいのかを確かめ、必要なら修正していくこと。そして、「自分に何ができるのか」「どう社会に貢献できるのか」を考え続けることが、これからの時代に求められる学びだと思います。

飯坂氏:なるほど。そのためには、「自分は何を解決したいのか」を考えることも大切ですね。子供たちが身近な疑問や課題から自分なりの問いを見つけるために、保護者はどのような働きかけをしてあげると良いでしょうか。

河原教授:私は、夏休みの自由研究のような活動がその第一歩になると思います。日常の中で感じた素朴な疑問について、自分で調べ、仮説を立てながら考える経験は非常に大切です。

 たとえば「AIと人間は何が違うのか」という問いであれば、AIに聞けば一般的な答えは返ってきます。しかし、それを「感情や身体をもつことにはどんな意味があるのか」といった自分なりの問いへ発展させていくことが重要です。保護者の方には、「なぜそう思うの?」などと問いかけながら、子供が問いを深めていけるよう後押ししてほしいですね。

AI時代だからこそ求められる「読む力」

飯坂氏:最近では生成AIがプログラムのコードまで書いてくれるようになり、「もうプログラミングを学ぶ必要はないのでは」という声も聞かれます。こうした時代に、プログラミングを学ぶ意義をどのようにお考えでしょうか。

河原教授:子供のころからプログラミングに触れることで、論理的な思考力が身に付くことに大きな価値があると考えています。複雑な課題をどう分解し、どのような手順で解決していくかを考える力は、プログラミングを通して自然と養われます。また、プログラムは基本的に決められた手順どおりに動きますが、生成AIは確率的に答えを生成する仕組みです。この違いを理解していると、AIの出力を必要以上に過信せず、適切に使い分けられるようになります

 さらに、プログラミングの知識があると、身の回りのデジタル技術がどのような仕組みで動いているのかを推測しやすくなります。すべてをブラックボックスとして受け入れるのではなく、「なぜこの結果になったのか」と考えられるようになるのです。

飯坂氏:AIがコードを書いてくれる時代だからこそ、それを読む力が必要になってきますね。

河原教授:まさにそこが重要です。一見うまく動いているように見えても、問題が起きたときには人間が原因を突き止めなければなりません。そのためには、コードやエラーメッセージを読み解き、問題箇所を把握する能力が不可欠です。

飯坂氏:我々が実施している「プロ検」は、その読む力を測る検定です。AI時代においては、「プロ検」の重要性がさらに増すかもしれません。

河原教授:確かにプログラミングを学んだことがあるかないかは大きいと感じます。実際、私たちがアイヌ語研究で開発したソフトウェアを研究機関に提供した際、インストール時にエラーが発生したことがありました。私たち研究者であればエラーメッセージから原因を推測してすぐ修正できますが、プログラミングに慣れていない方には、その原因を特定することが難しいのです。

飯坂氏:AIが浸透してもプログラミングそのものがなくなることはないでしょうし、むしろプログラミングに触れる機会は増えるかもしれませんね。

河原教授:そうですね。AIを使う人が増えるほど、その結果を評価し、責任をもって判断できる人材が求められます。その意味で、プログラミングは単にコードを書く技術ではなく、AI時代を生きるための教養として、ますます重要になっていくと思います。

アンドロイド研究が映し出す「人間らしさ」とは

飯坂氏:河原先生といえば、自律対話型アンドロイド「ERICA」の研究も印象的です。

河原教授:私たちの研究室では、音声対話だけでなく、仕草を含めた「人間らしいコミュニケーションとは何か」を研究しています。ERICAはそのための研究プラットフォームのひとつです。最近では、京都大学の生成AI利用ガイドラインを説明する動画にも登場してもらいました。AIで動画を生成することもできますが、あえて実際のERICAが語るようすを撮影して制作しています。

京都大学の教育・学修における生成AI利用に関するガイドライン(YouTubeチャンネル:京都大学情報学研究科附属次世代情報・AI教育研究センター)

飯坂氏:人間そっくりに見えますが「何か違う」と感じる人もいるのではないでしょうか。

河原教授:そこが面白いところです。10年ほど前から、人間らしい話し方を研究してきましたが、この動画を学生に見せると「こんなに流暢に話す人間はいない」と言われることもあります。少し言い淀んだり、「えーと」と考えたりする自然な間があってこそ、人は人間らしく感じるのです。その絶妙なバランスを再現するのは簡単ではありません。

飯坂氏:そもそも、人間らしさを追求する目的はどこにあるのでしょうか。

河原教授:1つは、人と共生できるAIを実現したいという思いがあります。ただ、それ以上に、人間の振る舞いの意味を理解したいという研究的な関心が大きいですね。人と同じような仕組みをもつアンドロイドを作ることで、人間のコミュニケーションの本質が見えてきます。

 そして、そこで得られた知見は、人と関わるAIの開発にも生かせると考えています。たとえば将来的にAIカウンセラーを実現する場合、カウンセリングでは言葉だけでなく、適切なタイミングでうなずいたり相づちを打ったりすることが重要です。そうした振る舞いを再現することで、より自然な対話や信頼関係の構築につながるでしょう。

飯坂氏:人間に近づかせるのではなく、機械らしさを残したままでも良いのではないかという考え方もあります。

河原教授:確かにそうかもしれません。生成AIは基本的に利用者を否定せず、寄り添う形で応答してくれます。その心地良さゆえに、AIとの対話ばかりを好み、人とのコミュニケーションを避けるようになり、結果としてレジリエンスやコミュニケーション能力が損なわれる危険性も指摘されています

 保護者の皆さんにも、AIに依存しすぎることの危険性をお子さんに伝えていく必要があると思います。子供が家族や友人と直接会話し、自分の言葉で考えを伝えあう時間を意識的に大切にしていただきたいですね。

情報工学は世の中を変えられる学問

飯坂氏:近年は情報系学部の人気が高まっていますが、中には「将来性がありそうだから」という理由で志望する人も少なくないようです。

河原教授:「親に勧められた」「偏差値が高いから」という理由で進学した結果、入学後にミスマッチを感じるケースもありますので、情報工学という学問に興味をもっていることが大切だと思います。普段使っているスマートフォンアプリの仕組みを考えたり、自分でもアプリを作ってみたいと思ったりする好奇心が、大学での学びにつながります。

飯坂氏:最後に、これから情報工学やプログラミングを学ぶ子供たちと保護者へメッセージをお願いします。

河原教授:SFの世界が現実になりつつある今、次は何を目指すか。戦争や格差など解決が難しい課題がたくさんありますが、まず未来をより良くするために何ができるのかを自分で考えていかなければなりません。その中で大切なのは、AIに使われる側ではなく、AIを使いこなし、新しい価値を生み出す側になることです。そのためには、AIがどういう仕組みで動き、なぜその答えを返してきたのか、もっと良い答えを導くにはどうしたら良いのかを考える習慣をもつことが大切です。

 情報工学は実装によって世の中を変えられる学問です。私自身も「社会にどれだけインパクトを与えられるか」を常に意識しています。自分が開発した技術が社会の中で使われ、人々の役に立つことに大きなやりがいがあります。論文や研究成果を追求することはもちろん大切ですが、自分の技術でどのような価値を生み出せるのかという視点ももってほしいですね。

飯坂氏:河原先生は本当にいろいろなシステムを社会に実装されています。その面白さを、子供たちがもっと実感できると良いですね。本日はありがとうございました。

「プログラミング能力検定」とは

 プログラミングの基礎力を客観的に評価する検定試験。小学生から社会人まで幅広い層を対象に、プログラミングの基本知識を「順次処理」「繰り返し」「条件分岐」「乱数」「変数」等の概念に分類、それぞれの概念の得意不得意を測定できる問題設計となっている。試験は全国2,628会場(2026年7月時点)で実施され、ビジュアル言語とテキスト言語の両方に対応。学習順にレベル1からレベル6と段階的にスキルを測る。学校や塾での導入も進み、学習成果の可視化や指導の改善にも役立っており、学習意欲の向上のみならず、大学進学、就職時にも活用されている。


プログラミング能力の証明に役立つ
プログラミング能力検定





《木村りこ》

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