多様なステークホルダーが連携し、教育のDXを推進しているICT CONNECT 21は2026年8月30日、東京大学伊藤謝恩ホールにて、「多様な学びカンファレンス2026」を開催した。
企画したのは、ICT CONNECT 21が新設した多様な学びを推進する専門部会「多様な学びSIG(Special Interest Group)」。不登校や認知特性・発達特性など、子供たちのさまざまな個性や学びのニーズに対応した「多様な学び」の社会実装を目指し、実践知の共有と具体的な解決の道筋を共に創り出す場として開催された。
会場とオンラインのハイブリッド開催で、学校・行政・地域・企業・家庭などが横断的に集結。会場内には自治体や企業、団体などによる多彩な展示ブースも並び、参加者同士の情報交換や連携のきっかけづくりの場となった。
開会の挨拶を行なったICT CONNECT 21会長の山西潤一氏は、「GIGAスクール構想が始まって6年。コンピュータなど適切な道具立てがあれば多様な子供の能力を伸ばすことができるが、技術は進歩したもののそれを受け入れる社会が整っていない」と問題提起。それぞれの現場がもつ「実践知」の共有と、多様性を前提とした教育基盤の共創を訴えた。
本記事では、このカンファレンスの概要をお伝えする。
次期学習指導要領では「学ぶことが楽しい」と思える教育を
基調講演は、鈴木寛・東京大学公共政策大学院教授による「次期学習指導要領と多様な学び・認知特性への着目」。学びの多様化はライフワークであると述べた鈴木氏は、まず今の教育状況と課題を整理した。

鈴木氏は、不登校が全国で35万人にのぼり年々増加していること、その要因も多様化しており世界的な傾向であると指摘。一方で、日本の生徒・児童は、不登校生を除けば学校生活には満足度が高いという調査結果も紹介した。また、日本の学力成績は好調であり、身体的健康も世界最高レベルである一方、児童・生徒の精神的な幸福度、家族からのサポートへの満足度は世界最低レベルであることもデータで示し、「現状の日本教育には良い部分と問題のある部分が両極端に存在している」と分析した。

学習意欲に関して、鈴木氏は日本の生徒・児童の特徴として、「外発的動機付けが中心で内発的動機づけに難あり」「高校は探究学習の成果もあり、『知るのが楽しい』『問題を解くのが楽しい』といった内発的動機が増加しているものの、小中学校では『叱られたくない』などの外発的動機づけが増えている」「失敗を恐れて挑戦しない若者が多く、学習時間が減少している」と指摘。この背景には、試験や受験に脅されて勉強を続けてきた結果、学び続けない大人が多いことがあると分析した。「学ぶことが面白いと意識した教育をしてこなかったツケがきている」と述べ、"世界一学ばない"日本の大人を変えていくには、内発的動機付けが重要だと訴えた。


さらにAI時代の教育については、過去に言語化・数値化された知識はAIで対応可能になると指摘。そのうえで、哲学者・西田幾多郎が「純粋経験と歴史的身体と行為的直観が人間の本質である」と説いたことを引用しながら、これからの教育で大切にすべきことを示した。
鈴木氏によれば、「純粋経験」とは実際に五感で感じる体験、「歴史的身体」とはひとりひとり異なる身体を通した学び、「行為的直観」とは行動しながら湧きあがるひらめきを意味する。AI時代だからこそ、こうした人間にしかできないことを重視した教育を考えていく必要があると強調した。
文部科学省が作成を進めている次期学習指導要領には、ひとりひとりに応じた学びを実現するため、公正な個別最適化を進める施策が盛り込まれているという。
具体的には、柔軟な教育課程編成を可能にする「調整授業時数制度」が検討されている。また、多様な認知特性への配慮も重視されており、視覚優位だった従来型の授業だけでなく、聴覚優位の子に合わせて動画やポッドキャストを活用するなど、デジタル技術を用いた多様な認知環境の整備も進められている。

鈴木氏は、学習環境の最適化には、学習集団の規模や、「いつ・どこで・誰と・何を学ぶか」といった要素が重要になると指摘。「まさにこの点こそ、AIやデジタルテクノロジー(AX・DX)によって限界を乗り越えられるはず」と訴え、講演を締めくくった。
「学校が子供に合わせる」公立で実現する学びの多様化
続くパネルディスカッションでは、自治体や関係団体、企業、研究者などが登壇し、それぞれがもつ現場での実践知を共有した。「誰ひとり取り残さない不登校支援の社会実装」「多様なニーズのある子供たちの学びの機会を保障する」というテーマでは、自治体と民間企業・団体による連携で展開している不登校支援や、多様なニーズに応じた学びの実践などが紹介された。
テーマ:誰ひとり取り残さない不登校支援の社会実装
ファシリテーター:今村久美氏(カタリバ代表理事)
パネリスト:稲垣 一郎氏(神奈川県葉山町教育長)/久保田 智子氏(兵庫県姫路市教育長)/ 瀬川 知孝氏(カタリバ オンライン・子ども家庭支援ドメインディレクター )

テーマ:多様なニーズのある子どもたちの学びの機会を保障する
ファシリテーター:秋元 智行氏(LITALICO 公共 DX 事業部 教育ソフト部部長)
パネリスト:石戸 奈々子氏(慶應義塾大学教授)/ 杉本 真紀子氏(東京都稲城市教育長)/ 藤本 恵美氏(埼玉県戸田市教育委員会 教育政策室 指導主事)/ 永塚 健氏( LITALICO スーパーバイザー)

「~デジタル・テクノロジーの活用~自律的な自己調整力を育む不登校支援」のテーマでは、ベネッセコーポレーション代表取締役社長・岩瀬大輔氏をファシリテーターに据え、京都大学総合博物館・塩瀬隆之教授、ベネッセ高等学院・上木原孝伸学院長ならびに同学院中等部2年生の松本桃奈さんと、二木ゆずきさんがパネリストとして登壇。不登校支援におけるAIやデジタルの活用と社会実装の可能性について議論を深めた。
テーマ:~デジタル・テクノロジーの活用~自律的な自己調整力を育む不登校支援
ファシリテーター:岩瀬 大輔氏(ベネッセコーポレーション 代表取締役社長)
パネリスト:上木原 孝伸氏(ベネッセ高等学院 学院長)/塩瀬 隆之氏(京都大学総合博物館教授)/松本桃奈さん・二木ゆずきさん(ベネッセ高等学院 中等部在籍)

冒頭には塩瀬氏から、開校を支援した岐阜市立草潤中学校の事例が紹介された。同校は東海地区初の公立の不登校特例校(現:学びの多様化学校)として、令和3年に開校。「ありのままの自分で学ぶ」を教育目標に掲げ、「“学校が子供たちに合わせる”を公立校の範囲で現状できることを全部やってみた」という実験的な学校だという。開校のきっかけは、当時の岐阜市の教育長から塩瀬氏に「不登校になってでも行きたいくらい理想的な学校をつくりたい。それってどんな学校?」と聞かれたことから始まった。塩瀬氏の答えは、(絵本の)『バーバパパのがっこう』。フランスの小学校をモデルに作られたストーリーで、自分の好きなことからスタートでき、生徒たちは「好き」を伸ばしながら基礎的な力を身に付けていくというものだ。

塩瀬氏は、「学ぶ場所、時間、内容など、生徒が自分で選ぶ機会を最大限に増やし、多様性への対応を最優先にする、その次に共通性の確保を進めるという順番に心を砕いた」と振り返る。その結果、草潤中学校では、授業は常時オンライン配信で、教室・図書室・自宅のどこでも受講可能とし、自ら学びたい内容に合わせて場所や先生を選べる仕組みになった。図書室にはカーペットとテントを張り、好きな本を好きな姿勢で読めるだけでなく、本を読まない生徒にとっても心地良い空間を目指した。お弁当を食べる場所では、校長室が人気だそうだ。

生徒が担任を選べる個別担任制も導入した。これについて当初は「甘やかしすぎでは」という批判や「人気投票になる」といった不安の声もあがったが、実際にやってみると生徒の希望は見事に分散。塩瀬氏は「子供たちが自分の力になってくれる人を自分で選べる力をつけてもらうこと、そうやって依存先を徐々に増やしていくことがとても大事」だとし、こうした草潤中学校での実践が、学びの多様化が当たり前になるきっかけになればと語った。

令和8年現在、このように特別な教育課程を編成できる学びの多様化学校は全国の公立で59校、私立で25校の84校で設置されている。文部科学省は、不登校児童・生徒の多様な教育機会を確保するため、全国で300校を目指すとしている。
テクノロジーが広げる「生徒が選べる」学び
塩瀬氏の事例紹介を受け、ファシリテーターの岩瀬氏からは、「大人自身が在宅勤務も当たり前になった今、子供も毎日学校に行く必要があるのか」という問題提起とともに、「公立校としての制約の中で、どう工夫したのか」という質問が投げかけられた。
塩瀬氏は、「授業の配信や遠隔参加する生徒の出席確認など、テクノロジーの進化によって実現できることが格段に増えた」と説明。公立校としての制約を超え、生徒が学ぶ場所や時間を選べるようになったと振り返った。
一方、「若いころに我慢させてから後で自由を」という考え方も根強い。この点について塩瀬氏は、「未来を人質に取られて今を我慢しなければならないとなると、学ぶことが楽しいと知る機会がなくなる」と反論。「義務教育の最大のタブーは、無理強いしすぎることで子供が学びの楽しさから離れてしまうことだ」と強く訴えた。
さらに塩瀬氏は、食事にたとえてこう続けた。「子供にとって、ひとつでも面白いと思えれば、学ぶことが面白いと結びつく。大人が『あれもこれも食え』と無理に食べさせるから、子供は食べるのをやめてしまう。これが子供の多様さに配慮がないままの義務教育の失敗。学びの多様化学校づくりは、子供たちから信頼されるための学校の再挑戦だ」
中学は学級の15%が不登校傾向、ベネッセが新たな学びの場
続いて岩瀬氏は、不登校生の増加の現状を示した。
コロナ禍以降、不登校及び不登校傾向の児童・生徒は増加の一途をたどっており、「発達障害」「ギフテッド」など教育的支援を要する生徒も顕在化しているという。中学校40人学級では不登校が1.6人、不登校傾向が4.1人となっており、双方を合わせると1学級で15%弱を占める計算だ。
国は、平成29年施行の「教育機会確保法」や、令和5年策定の「こども大綱」で教育機会の確保を定めており、ICTなどを活用した学習支援や、フリースクールなどとの連携・出席認定などを進めている。
岩瀬氏は、ベネッセがこうした背景のもと、ベネッセ高等学院(2025年4月開校の通信制サポート校)及び中等部(2025年10月開校のフリースクール)を設立したことを紹介。同校では、1人の生徒に対して担任と赤ペンメンターによるダブルサポートで手厚く支援し、グループ内のシンクタンクであるベネッセ教育総合研究所と連携しながら、科学的にカリキュラムを設計している。中でも注目されるのが、生成AIを活用した実証研究だ。

AIは生徒の「伴走者」になれるのか
ベネッセ高等学院で学院長を務める上木原氏は、不登校生徒の「主体的な学び」を支援するための生成AI活用研究の成果を報告した。
2026年6月から7月にかけて実施されたこの研究は、中等部で生徒が日々取り組む「生活や学習を記録するシート(Beログ)」に、生成AIによるフィードバックを試みたものだ。担任が毎日、生徒ひとりひとりに長文のフィードバックを書く作業に負担が大きいという課題感から、AIが生徒の自己調整学習の助けになり得るのかを検証した。
研究では、AIからのフィードバック内容を(1)定例の挨拶のみを返す「挨拶のみ群」、(2)生徒の記述内容に応じたヒントを示す「ヒント群」、(3)生徒の記述内容に応じた例文を示す「例文提示群」の3つに分け、計画・振り返りの記述にどのような違いが生まれるかを検証した。
その結果、ヒント群と例文提示群では、挨拶のみ群に比べて具体的な振り返りを書けた日の割合が高いことが判明。また、例文提示群では朝の計画の質が上昇したのに対し、挨拶のみ群では低下したという。
上木原氏は、これらの結果から、AIが「何を書くか」を考える最初の一歩を支えたり、自分の状態や小さな変化を言語化する手助けをしたりできることが示されたと説明。「AIは生徒が考え始めるための伴走者になり得る」と評価した。
一方で、情緒面への対応は人の関わりが欠かせないことから、「AIとのやり取りに現れる生徒の状態を教職員が見取り、必要な支援につなげることが重要」と強調した。

この発表を受けて塩瀬氏は、AI活用の可能性について、より広い視点から見解を示した。教育現場では、教育委員会や保護者への対応、公務など、AIによる効率化を「先生が子供に向きあう時間を確保することにつなげてほしい」と訴えた。
さらに塩瀬氏は、学校におけるAI活用のあり方にも言及。「今の学校でのAI活用は1対1にとどまっており、これでは塾と変わらない。学校という集団だからこそできるAIの活用法があるはず」「学びの多様化学校は今の教育の先頭に立てる。公教育としての制約がない民間企業はどんどんチャレンジしてほしい」と新たな可能性に期待を寄せた。
当事者である生徒が登壇、本質を突く
今回のカンファレンスの特徴は、当事者である生徒も登壇している点だ。
ベネッセ高等学院中等部2年生の桃奈さんは、「学校に行けなくなってしまって、自分が唯一所属していたコミュニティから外れた将来への不安があった」と当時を振り返る。しかし、ベネッセ高等学院に入学後、メンタルに関する専門家の授業で自分と同じような境遇の子がほかにもいると分かり、「考え方が変わって毎日楽しくなった」「入学前はあまり人と話さなかったが、今は人と話すようになり、勉強もするようになった」と自分自身に変化を感じたという。


上木原氏が言及した生成AIによる実証研究の被験者となった立場からは、「使用後2週間で例文群から挨拶のみ群になった。挨拶のみになった時は腹が立った」「最初の方は丁寧に接してくれて、嬉しくなって頑張ろうと思えたのに、途中から挨拶のみになったので悲しくなった」と率直な感想を語った。AIに対するイメージについても、「先生や友達といった身近な存在ではなく、自分を俯瞰して見ている」「上から目線でちょっと偉そう」と忌憚のない意見を聞かせてくれた。

また、岩瀬氏が「理想の学校は?」と問いかけると、「遊園地でジェットコースターに乗りながら勉強するとか、学びが楽しい学校」「何でも自由にできる学校。好きな時間に好きなことができるけどちゃんと学べる学校」と回答。
さらにカンファレンスを振り返り、「学びの多様化が実際に進んでいて嬉しいと思った」「今日は大人がみんなで私たちのことを真剣に話してくれていて嬉しかった。でも、もっと簡単に考えてみても良いのではないか」と感想を述べると、会場は温かい笑いと拍手に包まれた。それは、大人たちが時間をかけて議論してきたテーマの本質を、生徒のシンプルな一言が突いた瞬間でもあった。

「当事者がいない教育カンファレンスが多い中、今日は生徒たちの声を直接聞くことができた。今後も子供たちと一緒に考え、できることを実現していきたい」と上木原氏。
塩瀬氏も、不登校の保護者から「先生が一緒に悩んでくれるのが嬉しい」とよく言われてきたことに触れ、「これまでの学校づくりは、先生をはじめ、大人ばかりが考えすぎてしまっていた。これから学校をつくるなら、当事者である生徒が悩んでいることをちゃんと聞かないといけない。生徒も交えて学校のことを考えていくことが大事」と強調した。
子供たちと共につくる、誰ひとり取り残されない学び
誰ひとり取り残されない学校づくりとは何か。
本イベントから見えてきたのは、支援する側・される側と分けるのではなく、子供たちも一緒に考えていくこと、そして学校だけではなく、行政、民間、NPO、社会がつながり、テクノロジーを活用しながら子供たちの学びを支えていくことの重要性だった。
試行錯誤の最中ではありながら、数多くの実践事例が手触り感をもって共有された「多様な学びカンファレンス2026」。
閉会の挨拶で、ICT CONNECT 21「多様な学びSIG」でリーダーを務める城座多紀子氏(ベネッセコーポレーション)は、「小さくとも自分が変化の担い手だと自覚する人が増えるほど、社会はドラスティックに変わっていく」と述べた。参加者ひとりひとりが、自身が関わる現場への実装に向けて背中を押されるような熱量の高まりとともに、カンファレンスは盛会のうちに幕を閉じた。
不登校の増加は、画一的な教育に対する子供たちからの静かなメッセージなのかもしれない。子供たちの好きを育み、得意を伸ばし、それぞれの個性や認知特性に合わせた個別最適な学習を実現する「多様な学び」。今回のカンファレンスは、その実現に向けた共創と連携が動き出す場となった。生徒からの「もっと簡単に考えてみては」という言葉は、大人だけで議論を重ねるだけでなく、当事者である子供たちの声に耳を傾け、共に考えていくことの大切さを改めて教えてくれた。
「ベネッセ高等学院」の詳細はこちら本イベントの詳細はこちら多様な学びを支える「ベネッセコーポレーション」
