平成29年度灘中学校入学式、和田孫博校長の式辞…全文掲載

 4月8日(土)、灘中学校高等学校で入学式が執り行われた。中学入学者は185名。リセマムは、灘中学校高等学校より情報を提供いただき、和田孫博校長の式辞を全文掲載する。

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平成29年度灘中学校入学式、和田孫博校長の式辞を掲載する(画像はイメージ)
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 4月8日(土)、灘中学校・高等学校で入学式が執り行われた。中学校入学者は185名。期待に胸をふくらませ、灘中の一員となった生徒たちに向け、どのような激励の言葉が贈られたのか。リセマムは、灘中学校高等学校より情報を提供いただき、和田孫博校長の式辞を全文掲載する。

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◆式辞(平成29年度灘中学校入学式)

 入学生の皆さん、おめでとう。君たちの入学を心より歓迎します。君たちは75回生です。本校では高校を卒業してからもこの何回生という言い方を使いますので、君たちが75回生だということを覚えておいてください。

 先ほど、教頭先生に名前を呼ばれたとき、とても元気よく返事ができた人がたくさんいました。中には緊張や恥ずかしさのあまり大きな声が出なかった人もいますが、今日は私をはじめとする教職員と君たちとの出会いの日です。出会いのときの印象で、人間関係がスムーズにいくかどうかが決まる場合もあります。先生や友達からの声掛けに対する返答、あるいは「おはよう」や「さようなら」などの出会いと別れの挨拶、これが笑顔でできるかどうかは、社会の中で生きる上で非常に大切なことです。来週には先輩たちとも出会います。先輩の中にも挨拶がちゃんとできない人もいますが、後輩から挨拶されて嫌な思いをする人は誰もいません。私も学校内で皆さんの顔を見たら積極的に声をかけますから、しっかり挨拶をする習慣をつけてください。

 さて、本校は数年前から2年に亘るリノベーション工事を行い、素晴らしい教育環境が整いました。しかし、何もかもがさらっぴんの新設校とは違い、この講堂が象徴するように、いい伝統を残すことにも腐心しました。その1つが、君たちが今日教室で座った机椅子です。古めかしい木製の机で、日本全国でもあの机を使っている中学校はほとんどないでしょう。座ってみた感触はどうでしたか?あまり座り心地が良くなかったかもしれません。しかし実は、あの机は勉強するにはうってつけなのです。背筋を伸ばして姿勢良く座っていると何時間座っていても疲れません。逆に悪い姿勢だとすぐに体が痛くなるし、後ろにもたれかかると背中が痛いです。灘中では開校以来ずっとこの机椅子を使ってきました。つまり中学から本校に入学した先輩は、皆同じ机椅子に座って勉強しながら、良き校風を築き、受け継いできたわけです。君たちもこの伝統とも言える良き校風の担い手となって欲しいと思います。

 次に、正面の上にかかっている2つの額を見てください。「精力善用」・「自他共栄」これが本校の校是です。昭和の初めに本校を創立するときに顧問になっていただいた嘉納治五郎先生の直筆です。治五郎先生やこの校是の詳しい意味については、私の道徳の授業で説明しますので、今日はその主旨だけを述べておきます。

 「精力善用」は自らの力を最大限に使うということですが、それを可能にするには自分にどういう力があるのかをしらなければなりません。また、今やろうとしていることが意味のあることなのか、独りよがりで他の人に迷惑をかけたり不快感を与えたりしないだろうか、常に自分で自分をチェックすることが必要です。

 もう一つの「自他共栄」は、他者と協調して生きることが大切だという意味です。皆さんは灘中の入学試験に合格したのは自分ひとりの力だとは考えていないと思いますが、皆さんの周りには支えてくれるたくさんの人がいるのだということを忘れないでください。そしてその人たちへの何よりの恩返しは、皆さんがこれからもっと立派に成長していくことであることを肝に銘じておいて欲しいのです。

 それと、これまでご近所や小学校や塾でたくさん友達を作ってきたことでしょうが、新しい環境に入るとまた新しい出会いがあります。そのとき、これまでの友達とばかりで集まって、新しい友達を作るチャンスを逃してしまうのはもったいないです。これから6年間の長い付き合いの始まりです。どんどん積極的に話しかけましょう。ただし、友達をたくさん作ることはいいことですが、内輪で楽しむだけでその外側にいる人々を排除する、いわゆる排他的な集団を作っては何にもなりません。学校の中にも外にもいろいろな個性の人がいます。自分の個性を大事にしながらも、他者の個性をも尊重し、そういう人からも学ぶべきものは学んでいくような柔軟な姿勢を持つことが大切です。それこそが、自他共栄の精神に合致することだと思うのです。

 また、皆さんは幸運にも入試でうまく得点が取れたために合格したのですが、不運にも不合格となった人もたくさんいるということを忘れてはいけません。その差は紙一重であり、もう一度試験をすると何十人かは入れ替わる可能性さえあります。もちろん合格したことは素直に喜べばいいのですが、不合格だった人も灘中に入って勉強したいという気持ちは皆さんと同じくらい強かったことでしょう。皆さんにはその人たちの気持ちも背負って頑張って欲しいのです。それだけ一生懸命この学校で充実した時間を送ってください。

 次に、本校では校則、学校の規則は明文化されていません。制服や制帽もありません。ただ、灘中生らしくという目に見えない枠はあります。どういう服装なら枠内か、どういう行動は許され、どういう行動は許されないか、先生方のおっしゃることや先輩の様子を指標に、君たち自身で考えてもらわなければなりません。私たちとしても、灘中生という枠を大幅にはずれた行動をした諸君には、それなりに厳しく処さざるを得ません。

 それと関連しますが、君たちは生まれたときから周りにコンピュータがあった世代で、ITネィティブと呼ばれます。実際、ほとんどの人が携帯電話やスマートフォンを持っているでしょうし、家に自分用のコンピュータを持っているという人もかなりいることでしょう。インターネットでいろいろなことを調べたり、SNSで自分の意見や思いを伝えたりしている人もいるかもしれません。私など中学生の頃にはまだパソコンがなかった世代から見れば、ITネィティブはある意味驚嘆の対象です。しかし、ITを本当に使いこなすには、その危険性についても十分認識していなければなりません。目の前にいない人に対する悪口も書けますし、逆に書かれることもあります。自己発信としてのSNSが不特定多数の目に触れて、発信者が予想もしない風に悪用されたり、攻撃の対象にされたりすることもよくあります。本校では、ルールを守れば携帯やスマホを持つことも自由です。しかしそういう危険性をしっかり認識してリスクを負ってやるものであることを自覚しておいてください。まして、そういう物を利用して、他者を傷つけたり損害を与えたりすることは、自他共栄の精神に反する行為であり、学校として厳しく対応します。いささか耳の痛い話ばかりだったかもしれませんが、みんなが楽しく過ごせる学校であるために、一人一人がよく考えた行動をとり、みんなに迷惑をかけないことが大切だということを、新生活を始めるにあたってしっかり心に留めておいて欲しいと思います。

 さあ、いよいよ灘校生活が始まります。これから先、必ずしも楽しいことばかりでなく、苦しいこと、悩むことも多いかもしれません。そのときには今日、胸を弾ませて入学式に臨んだ瞬間を思い出してください。そして「自他共栄」、つまり、君の周りには君を支えてくれる多くの人の笑顔があることをもう一度確認し、一歩前に足を踏み出しましょう。「精力善用」の精神で自分の力を最大限に活かす道を探れば、解決方法は見つかるはずです。皆さんの灘校生活が充実したものとなることを心より祈念しています。

 最後になりましたが、保護者の皆様には、朝早くより多数ご参列いただきまして有難うございます。ご子息の立派な姿に、喜びと誇りを感じておられることと拝察いたします。

 ここで一つお願いがございます。学校というところは生徒が主役であるべきだと私は常々思っております。そのためには生徒の皆さんが主体性を持って活躍することが何よりも大切でありますが、我々教員や保護者の皆様、つまり大人が先回りして子どもを保護してばかりいてはその主体性が育ちません。学校でも中学生としての自覚を持って自らのことは自分で責任を持つよう促して参りたいと思いますので、ご家庭でもご子息の自立が進むようにご配慮くださいますようお願いいたします。

 また、伝統を踏まえつつ新しい時代にふさわしい教育環境を整えるためのリノベーション工事は一通り完成しましたが、今後も施設、設備の維持管理や更なる教育環境の充実が必要だと考えております。何卒ご理解を賜り、ご支援くださいますようお願い申し上げます。
以上をもちまして、入学式の式辞といたします。

平成29年4月8日
灘中学校長 和田 孫博

《編集部》

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