ゲーム×教育…CEDECで初の小学生向けワークショップ開催

 20周年を迎えたゲーム開発者向けカンファレンスCEDECで、初の小学生向けプログラミングワークショップが開催された。ゲーム業界の子どもの教育への取組みは? 小学生向け教材のセッションとあわせて取材した。

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1DAYプログラミングキャンプ in CEDEC―ゲームプログラミング実践コース―
1DAYプログラミングキャンプ in CEDEC―ゲームプログラミング実践コース― 全 9 枚 拡大写真
 コンピュータエンターテインメント協会(CESA)主催のコンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2018(CEDEC 2018)が2018年8月22日から24日まで、パシフィコ横浜で開催された。20周年を迎えたCEDECで初の試みとなる小学生向け教育イベント「1DAYプログラミングキャンプ in CEDEC―ゲームプログラミング実践コース―」が実施された。

指導者はゲーム開発者



 1DAYプログラミングキャンプは、小学校4年生から6年生を対象に、午前10時から午後6時までの1日を1セットに3日間、横浜市との共催で無料開催された。昨今のプログラミング教育熱の高まりもあり、各回25名、3日で75名の定員に対して300名以上が応募。プログラミング教室や体験イベントでは男子が多い傾向にあるが、応募者の女子率は3割程度だったという。

 多数の応募者から抽選で選ばれた幸運な小学生たちは、Nintendo Switchでプログラミング言語「BASIC(ベーシック)」を使ったプログラミングに挑戦。プロのゲーム開発者よりプログラムやゲーム作りについて直接指導を受け、ゲーム制作の流れを1日で体験した。

 講師を勤めた小林貴樹氏は、ゲームやツールの企画・開発・コンサルティングなどを行うスマイルブームの社長で、北海道科学大学や北海道情報大学で教鞭もとる。同社では本業のかたわら、子ども向けのプログラミングワークショップを実施している。

講師の小林貴樹氏
講師の小林貴樹氏

 スマイルブーム取締役の徳留和人氏は、「参加者の皆さんは(ゲーム・エンタメ業界にとって)お客さまであり、将来の業界を担う人材にも成りうる」という。「ゲームは勉強しないと作れないもので、CEDECはそれを極めた人たちが集まるイベント」であるとし、「参加者の皆さんが必ずしもプログラマーになったり、エンタメ業界に就職するわけではありませんが、興味をもつきっかけになれば嬉しい」と語っていた。ワークショップの休憩時間には、CEDECのカンファレンス会場を見学するツアーも実施された。

 小学生向けのプログラミング体験イベントでは「Scratch(スクラッチ)」のようなビジュアルプログラミング言語を使用するものが多いが、今回のキャンプではBASICを使用し、穴埋め式プログラミングの入力というかたちで行われた。23日の参加者のうち、Scratchなどのプログラミング経験者は3割程度であったが、ほぼ全員にキーボード使用経験があり、全員が4年生以上であることからローマ字でつまずくこともなく、ワークショップは順調に進行。プログラムが実行されるたびに、歓声が上がっていた。

プログラムが実行されるたびに、歓声が上がる
プログラムが実行されるたびに、歓声が上がる

 間に休憩は挟まれるものの8時間という長丁場のワークショップに、最後は疲れ果てるかと思いきや、後半に向けお子さんたちのテンションは上がる一方で、終了後にも残って作業を続けるお子さんもいたようす。

真剣にプログラミングに取り組む参加者
真剣にプログラミングに取り組む参加者

 小学校6年生の女児と横浜市から参加した父親は、学校で配布されたチラシで同イベントを知ったという。今後、小学校でのプログラミング教育は算数や理科といった授業のなかで実践される予定だが、BASICでのプログラミング経験があるという父親は、プログラミングが、たとえば算数の学習の理解に役に立つことが理解できたと語っていた。徳留氏によると、「小学生の保護者世代にはBASICを学んだ方も多く、イベント参加後に家庭で、親子でプログラミングに取り組む例もある」のだという。

 小学校6年生の男児と横浜市から参加した母親は、区役所のチラシでイベントを知ったという。お子さんは区のイベントでScratchを経験したことがあり、ゲーム好きなことから今回のイベントへの参加を希望したという。

 CESA人材育成部会 副部会長でバンダイナムコ スタジオの斎藤直宏氏は、「ゲーム制作は数学、物理、アート、アニメ、音楽、ダンス、ストーリーなどさまざまな要素を組み合わせて行うもの。このワークショップを通じて、まずはものづくりの楽しさを知って欲しい」と語っていた。

 2020年から小学校でプログラミング教育が必修化されることが決定し、保護者のプログラミング教育への関心が高まっている。プログラミング教室も増加し、今夏には多くの体験イベントが開催された。「1DAYプログラミングキャンプ in CEDEC」はそうしたイベントの中でも、特にじっくりと本格的なプログラミングに挑戦できたもののひとつだったのではないだろうか。

ゲーム×教育へのチャレンジ「QUREO」



 プログラミング熱が高まり子どもたちにとって身近なものになりつつある一方で、教室やイベントは都市部に集中し、地域格差という課題もある。この課題に挑戦したのが、「ゲーム×教育へのチャレンジ~ゲーム会社が子供向けオンラインプログラミング学習サービスを創る理由とは~」と題するセッションでアプリボットが紹介した、子ども向けのオンラインプログラミング教材「QUREO(キュレオ)」だ。オンラインで学べることから指導する人材不足を解決し、ゲーム会社のノウハウを生かし、継続率が低いと言われるeラーニングの課題解決を目指したサービスだ。

 「QUREO」では、アプリボットと同じサイバーエージェントグループの小学生向けプログラミングスクール「Tech Kids School」監修の300以上のレッスンを学ぶことができる。この300レッスンは、Teck Kids Schoolで2年間かけて学ぶカリキュラムに相当するという。

 QUREO事業部 事業責任者の高橋悠介氏は、ゲーム業界が培った技術の多くは、教育のほかさまざまな分野に生かせるものだと説明する。高橋氏が示した資料によると、eラーニングの継続率は低く、ハーバード大学の学生であっても修了率はわずか5.5%。この課題を解決するために「QUREO」にはゲーム的な要素で、楽しく学びに没頭する仕掛けを盛り込んだ。さらに保護者の「効果を見たい」という要望には、成績を見える化することで対応している。

 学習へのゲーミフィケーションの活用が進む中で、その効果に懐疑的であったり、ゲームに没頭しすぎることに不安を抱く保護者も多い。自治体や学校への導入実績もある「QUREO」にも、そうした疑問の声が上がることもあるようだが、朝読書ならぬ朝プログラミングのツールとして「QUREO」を使う試みを始めている私立小学校もあるという。読書のほうが大切という声も聞こえて来そうだが、読書習慣がついたお子さんには、毎朝継続的に、プログラミングに取り組むという選択もあるのではないだろうか。

 ゲーム開発者向けイベントで、「子どもの教育」をテーマにしたセッションへの関心はどうかというと、約120名定員の会場で、開始10分前には100名以上の行列ができており、立見が出る盛況ぶりだった。セミナー終了後も、プログラミング教育以外への展開というビジネス的な内容から、技術的な内容まで、出席者から多くの質問が寄せられていた。

 今回はワークショップもセッションも、いずれもプログラミング教育に関する内容であったが、教育ICTの活用が進むいま、水と油の関係のように言われていたゲームと教育の境界線は取り除かれてきており、EdTech(テクノロジーを活用して教育に変革をもたらすサービスや技法、またはその技術)に、技術やノウハウが生かされていくのではないだろうか。もちろん「楽しかった」で終わっては意味がないが、学習の動機付けを高めたり、自分のペースで学べる機能など、ゲーム要素のよさを生かした教材に期待したい。

《田村麻里子》

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