全国小中学生プログラミング大会とは
全国小中学生プログラミング大会は、すべての子どもたちの自由なアイデアの表現や創造、発信のために、その手段としてのプログラミングを普及・推進することが目的としている。2016年の第1回大会の開催以来、これまでに400名以上の小中学生が作品を応募もしくは関連のイベントに参加している。
最終審査当日の会場では、全国小中学生プログラミング大会とU-22プログラミング・コンテストの合同企画として「ヤングプログラマーズ・デイ2018」が併催された。全国小中学生プログラミング大会の入選作品ブースのほか、初心者から体験できるワークショップやVRの体験ブースがあり、数多くの親子が各所に参加して楽しむようすがあった。2020年より小学校でプログラミング教育が必修化されることにより、保護者や小中学生のプログラミングへの関心がさらに高まっていることがうかがえた。
2018年の第3回全国小中学生プログラミング大会は、角川アスキー総合研究所とUEIエデュケーションズ、CANVASにより構成される「全国小中学生プログラミング大会実行委員会」が「こんなせかいあったらいいな」をテーマとして作品を募集した。PC・スマートフォン・タブレットで動作するプログラムやアプリ、ゲーム、ムービーなどのソフトウェア、ロボットや電子工作などのハードウェアであれば、使用するプログラミング言語や作品の形式は問われない。
2018年7月1日から9月5日まで募集した結果、昨年の167作品を大きく上回る282作品の応募があった。大会の審査基準は「発想力」「表現力」「技術力」となっており、その後の第1次審査では30作品に絞られ、続く第2次審査によって入賞10作品が最終審査に進んだ。
今大会の審査員は、河口洋一郎大会審査委員長(東京大学名誉教授/アーティスト)をはじめ、金本茂氏(スイッチサイエンス代表取締役)、川井敏昌氏(FabCafe LLP COO)、林千晶氏(ロフトワーク代表取締役)、増井雄一郎氏(トレタCTO)、松林弘治氏(エンジニア/著述家/鮮文大学校 グローバルソフトウェア学科客員教授)の計5名が務めた。
最終審査では、審査員が入賞作品の各ブースをまわり質疑応答などを行い、同日に協議し各賞を決定した。以下にグランプリをはじめとした各賞および入選作を紹介しよう。
完成度の高いUIが印象的
グランプリ「つながる。」(三橋優希さん・中3)
タイルをクリックすることで回転させ、人と人が白い線によって繋がることをゴールとするゲーム。Scratchオフラインエディタにより開発されている。みんなが繋がることができる温かい世界があったらいいという思い、UI(ユーザーインターフェイス)、難易度などのゲームデザイン、BGM・効果音などにこだわりがあるゲームで、会場のデモでは多くの子どもたちが熱中するようすもあった。
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「つながる。」(三橋優希さん・中3)
河口審査委員長からは「審査員一同でこの作品がトップだろうとなりました。非常に完成度が高く、3次元的な順列組合せが素晴らしいと思います。中学3年生だが今すぐ働いてほしい、雇いたいとまで感じています。感動しました。」とグランプリ作品に対する高い評価が率直に述べられた。
日常の課題を解決できる
準グランプリ「点字メーカー Ver1.03」(越智晃瑛さん・小4)
簡単に点字を調べて表示できる。点字を書く場合、点筆(点字を書くピン)を持つと、不明な点字を調べるときに非常に不便。そこで、腕の動きだけで文字入力が可能なリストバンド形式の入力装置と調べた点字を表示する装置を開発した。
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「点字メーカー Ver1.03」(越智晃瑛さん・小4)
審査員の金本茂氏からは「今回の入賞作品では電子工作的な要素をもった作品がたくさんありましたが、その中でもこの作品は、電子工作をすること自体を目的とするのではなく、日常から感じている課題を解決するために電子工作という方法を使ったといえるもので、とても素晴らしいと感じました。また膨大な量のプログラムを最後まで根気よくやり抜いたことも審査員一同から評価されています。」とのコメントがあった。
できないことをテクノロジーで実現
準グランプリ「Magical Guitar ~あなたも今からギタリスト~」(真家彩人さん・中3)
誰もがかっこよくギターを演奏できるような世界を実現するために製作。Magical Guitar本体をパソコンにUSBケーブルで接続し、左手の人差し指にホイルを装着。ソフトウェアを立ち上げることで演奏をスタートできる。
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「Magical Guitar ~あなたも今からギタリスト~」(真家彩人さん・中3)
審査員の川井敏昌氏は「テクノロジーを利用することによって、ギターを弾けない人でも楽しくギターを演奏できるといった発想が非常に素晴らしいと思いました。抵抗値を変えるために、紙の質までこだわったり、鉛筆を用いたりとさまざまな試行錯誤が見えたのも良かったです。」と実際にモノづくりに携わってきた観点からこの労作を高く評価した。
ハードウェアの完成度が高く丈夫
優秀賞・中学校部門「ロボロボパズル!」(平野正太郎さん・中1)
画面に表示される絵や計算に合うように実際のタイルをはめて完成させるまでのタイムを競うパズルゲーム。みんなが楽しめるように英語版も作成。また計算が苦手な人や、小さい子どもでも楽しめるように、絵合わせや簡単な問題も数多く設定されている。
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「ロボロボパズル!」(平野正太郎さん・中1)
審査員の松林弘治氏は「ハードウェア部分の完成度が高いのに驚きました。子どもたちが雑に扱いそうなタイルが思ったよりも丈夫で、耐久性まで考えられていることに感心しました。また表示されるゲームの複雑さやパターンも多いように思いました。」と好評価のコメント。
ビジネスへの発展性も感じさせる
優秀賞・小学校高学年部門「写刺繍 ~Sha-Shi-Shu~」(菅野晄さん・小6)
誰でも簡単に刺繍の図案が作成可能なiOSアプリ。スマホで撮影した写真を刺繍の図案に変換でき、図案から実際に必要な刺繍糸がわかる。祖母の刺繍からヒントを得て開発。書籍にあるお手本のとおりに刺繍するだけでなく、自分自身でデザインから挑戦できる。
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「写刺繍 ~Sha-Shi-Shu~」(菅野晄さん・小6)
審査員の増井雄一郎氏からは「この作品が小学生のものかと、まず信じられないという印象が出てくる完成度の高さがあります。昨年から技術的にもひとつ進めたもので仕上げてきたことも高い評価のポイントです。もうひとつ独創性のあるものが加わると、さらに良くなると思います。」とのコメントがあった。
なお、今回の優秀賞・小学校低学年部門は該当作品なしとなった。入選の5作品は次のとおり。
入選の5作品
シンプルだが奥深い世界観
入選作「Planet Adventure」(渡辺悠さん・中3)
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「Planet Adventure」(渡辺悠さん・中3)
宇宙飛行士が不時着した惑星で、重力・気温・降水量を変えながら物質を集めて地球に帰ることを目的としたゲーム。不時着した惑星の環境によって、キャラクターなどの動きに変化をつけた。作者とのお話からは、さらにグレードの高いものを作っていきたい、またできれば将来もプログラミングを生かしていきたいという希望や、家庭もプログラミングに対して理解があるようすが感じられた。
メンタルヘルスマネジメントと向き合う大作
入選作「アンガーマネジメントVR~認知行動療法に基づく怒りのコントロールVRへのバイオフィードバックの適用~」(霜田貫太さん・中1)
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「アンガーマネジメントVR~認知行動療法に基づく怒りのコントロールVRへのバイオフィードバックの適用~」(霜田貫太さん・中1)
認知行動療法に基づき、アンガー(怒り)のコントロール方法を学べるVR。心拍数を測定し、心拍が落ち着いていくようすをVR画面に表示できる。怒りを自分でコントロールするために、認知行動療法やバイオフィードバックなどの手法を用いている。作者の話からは、身近な人の経験が開発の動機となっており、またメンタルヘルス領域におけるテクノロジー活用の可能性がさらに高まるのではないかと感じられた。
なぜか目が釘付けになる面白さ・美しさ
入選作「魚の国」(伊藤直輝さん・小3)
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「魚の国」(伊藤直輝さん・小3)
Scratchで開発された「魚の国」。海の生き物が動いているところを見ることができる。父親によると、Scratchの環境は父様自身が古いPC上に用意したとのこと。作者がTVで見たものから着想を得て、Scratchで作者自らがパーツを製作することで実現した。今はほかの人が作成したゲームのコードなどを真似しながら、楽しんでScratchを利用している。
APIを巧みに利用
入選作「今日の洋服何着てく?」(澁谷知希さん・小5)
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「今日の洋服何着てく?」(澁谷知希さん・小5)
性別と郵便番号を設定すると、その地点の今日と明日の現在気温・最高気温・最低気温が表示され、さらにその日の天気、気温に合わせた最適な服装が2Dアバターで提示される。OpenWeatherMapから取得する気象情報の利用や、小学校の低学年でもわかりやすいGUIを意識。作者によると、さらにユーザー自身がもっている洋服の画像などをもとにコーディネートの提案ができるところまで進化させたいとのことだった。
改良を重ねる大切さ
入選作「子供のはじめての自動販売機(改良型)」(佐藤空汰さん・小6)
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「子供のはじめての自動販売機(改良型)」(佐藤空汰さん・小6)
自販機の上に設置された距離センサーの50cm以内に近づくと、距離センサーが感知して説明が流れる。使う人を楽しませる、さまざまな手法や工夫が見られる自動販売機。作品タイトルにあるように、本作品はユーザーの求めるものが何かを作者が考えて前作からグレードを高めた「改良型」となっている。単に一度のチャレンジだけでなく、改良を続けていく大切さも思い起こさせる作品だった。
子どもたちの未来に期待
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大会審査委員長の河口洋一郎氏による総評
表彰式の最後となった河口審査委員長の総評では「今日は非常に熱気に溢れた審査員の議論がありました。私はこれからプログラミングが子どもたちの未来の夢や希望を与えるものになると思いますし、確実にそうなるでしょう。そして今日の受賞者たちは多数の応募者の中から激戦を勝ち抜いた人たちです。サイエンス、テクノロジー、創造性といったことをさらに高めていただければ、日本の未来も明るいのではないかと思います。期待しています。」と力強いコメントが発せられた。
今大会グランプリ「つながる。」三橋優希さん
グランプリを獲得した三橋さんには、表彰式ですぐに働いてほしいといったスカウトのような声も飛び交っていた。三橋さんは「将来的にUIデザイナーを目指したいという希望はありますが、まずはいろいろと試してみたいと思っています。ほかにも楽しいことはあると思いますし、自分に合っているのかといったことや、実際に仕事にしたらどうなのかといった不安もありますので、いろいろなことを勉強したいと思います。」と語っていた。
三橋さんは、この大会には初出場だったが、アイルランドで開催されたCoderDojo Foundation主催のCoolest Projects 2018ではGame+WebGame部門で最優秀賞を受賞した経験をもつ。そのときのことは「通訳を通してだったので自分の言葉としてうまく伝えられなかった面はありましたが、さまざまなな面で評価をいただきました。」と振り返る。
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グランプリ「つながる。」三橋さんにインタビュー
今後については、「高校になると仕事、インターンなども経験ができるのでやってみたい」と考えているという。また「数学は高校1年レベル、英語は英検準2級レベルまで進めています。自分のペースで勉強をして、プログラミングにあてる時間をつくっています。これからも自分の生活スタイルなどはあまり変えずにいきたいと思っています。」と話してくれた。
今大会の入選作からは、子どもたちが「こんなことが実現できたらいいな」という柔らかな発想や着眼点から、プログラミングやテクノロジーを利用することによってクリエイティビティがどんどん高まっていくプロセスやその先の可能性をおおいに感じることができた。今後の「全国小中学生プログラミング大会」の動向に注目していきたい。