共働きでも大丈夫!中受指導のカリスマ小川大介氏が語る「親も子もハッピーになる最強の子育て」とは

 中学受験指導のカリスマである小川大介先生は、「子どもが自立すること、その力を幼い時期から無理なく楽しく育んであげることが、忙しい親自身の気持ちと時間の自由につながる」と語る。

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共働きでも大丈夫!中受指導のカリスマ小川大介氏が語る「親も子もハッピーになる最強の子育て」とは
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 共働き世帯が増えている現在、仕事と子育ての両立、さらには受験対策と親御さんの負担は増える一方だ。「かしこい塾の使い方」主任相談員で中学受験指導のカリスマである小川大介先生は、「子どもが自立すること、その力を幼い時期から無理なく楽しく育んであげることが、忙しい親自身の気持ちと時間の自由につながる」と語る。そんなメッセージを込めた著書「親も子もハッピーになる最強の子育て」(発行:ウェッジ)の刊行を受け、小川先生に話を聞いた。

ライフスタイルに合わせた親子の関係構築



リセマム:小川先生は中学受験生を抱える数多くのご家族と約25年に渡って向き合って来られました。その間で家庭に大きな変化を感じられたそうですね。

小川先生:はい。ここ数年で親御さんからの相談内容が変わってきました。それまでは成績を上げたいといったストレートな悩みがほとんどでしたが、最近は親御さんご自身が子どもの勉強と仕事とのトレードオフ、つまり“どちらかを犠牲にしなければ成り立たない”という悩みを訴えられることが増えてきました。子どもが中学受験のころといえば、年齢的に管理職になる方も多く、心身共に大変な時期です。そのような中で「子どもがこんな成績で苦労しているのは、自分が子どもの勉強を十分に見てやれないからだ」と自分を責め、うまく行かないのは親のせい、という子育てをやっている親御さんがとても多いのです。特にお母さんから「仕事をパートに変えた」とか「休職をした」などという報告が意外にも多く、フルタイム共働き家庭では時間のやりくりにかなり苦労していることがわかってきました。

リセマム:巷の成功体験を見聞きすると、親がたっぷりと時間をかけ、きめ細やかなフルサポートをしなければという義務感に駆られがちです。特に、自分自身が専業主婦の母親に育てられた場合、自分が母親にしてもらったことを自分の子どもにしてあげられないのは母親失格だ、と苦しむケースはとても多いように感じます。仕事でもお金を頂く以上は、それなりの責任は果たさないといけませんから、真面目な人ほど手を抜けなくて頑張ってしまうんですよね。さらに子育てに十分なエネルギーを割けない自分を責めてしまうという心身ともに辛い状況です。

小川先生:時間と労力をかけるほど子どもの成長にプラスになるという思い込みが想像以上に強いです。この子育て観は、もはや信仰に近いレベルです。親である自分たちがすべてを管理しなければという義務感と、職場でも家でも忙しくて時間がない厳しい日常との板挟み状態です。 

 ただし、こうした親御さんの苦しみは「子どもにはできない」という思い込みから始まっています。でも実は、大人が「子どもだからできない」と勝手に決めて、「やってあげないといけないのに時間がない」「仕事のせいだ」と悩んでいるのは、大人の独りよがりでしかないのです。

 仕事柄、何千人もの子どもたちと向き合ってきてわかったのは、子どもには何もかもやってあげようと思わなくていい、ということ。子どもは生まれながらにして各々に素晴らしいエンジンを備え、自分で育っていく力をもっているからです。

 今は子育て世帯の6割以上が共働きです。共働きの家庭で子どもの成長を考えるとき、「親と一緒にいる時間を増やし、手をかけてやらなければ」と思う必要はないと僕は思っています。少しずつ子どもの自立を促し、親も楽になればいい。関わる時間がふんだんにある専業主婦を前提とした子育てイメージから脱却し、今のライフスタイルに合わせて親子が自立した関係を早くから築ければ、お互いにハッピーでいられるのです。

子どもの自立を助ける生活習慣と学習習慣



リセマム:必要以上に子ども扱いせず、子どものもつ力を信じて関わればよい、と。では子どもの自立を助けるために親は具体的にどんなことができるのでしょうか。

小川先生:生活習慣、学習習慣を、早い段階から少しずつ、成長に応じて教えていくことです。

 生活習慣では、お風呂に入るとき自分の脱いだものを洗濯機に入れるとか、食べ終えたらお皿を下げるといった身の回りのことから、ゴミの分別のような家のお手伝いを任せてもいいでしょう。「ありがとう」「助かったよ」という感謝の言葉、「面白そうだね」という前向きな声かけが原動力となり、3歳から子どもは自分から楽しんで動きますよ。

 勉強も同じです。小さいときから勉強をやらせるのは可哀想、などという声が外野から聞こえてくるかもしれませんが、子どもが興味をもつなら算数でも漢字でもどんどんやらせて、学習習慣を早いうちに身に付けてしまえばいいんです。

 小学校に入ってから、親御さんが帰宅して寝るまでの3~4時間にあれもこれも「できるようにならなくちゃ!」と焦るくらいなら、前倒しできることを徐々に積み重ねておけばいいということです。

 ここで大事なのは、我慢をしないこと。親主導の関わりだと、どうしても「できてほしい」「やってほしい」という親の理想を押し付けがちで、その理想を子どもがクリアできないとイライラしてしまう。そうではなく、我が子のありのままを受け入れる、認めること。その子の成長に応じた関わり方をすることがとても大切です。

自分史を振り返り我が子の“できない”も受け入れる



リセマム:それは正直なかなか難しいです。他の家のお子さんができていることを我が子ができないという状況は、親としてはとても不安になります。

小川先生:この悟りの境地(笑)に達するコツがあります。それは、親である自分のこれまでの育ち方を振り返り、過去の失敗についても卑屈にならずにすべてを前向きに受け入れることです。

 大学受験では第1志望には行けなかったけれど、こんな楽しい思い出ができて、就職して、恋愛して結婚して今、この子の親になったなぁと。親、友人、恩師など、さまざまな人たちと関わりながら、自分も努力して頑張って、こうして今の自分がいるという“自分史”を振り返っておくのです。

 さらに子どもは夫婦で授かったものですから、それぞれが互いの“自分史”を共有しておきます。これが、我が子のありのままを受け入れる準備になります。「子どもをこう育てたい!」という理想ばかりに囚われることはなくなりますよ。

 我が家では、僕は勉強といえばいつもベッドの上でゴロゴロ。試験では山を張って当てに行く横着なタイプでしたが、妻は隈なく真面目にコツコツと努力を積み重ねるタイプ。どの夫婦もそれぞれ違いますよね。その間に生まれたのが我が子です。たとえば机がいつも汚いのは、あぁ僕の子だなぁと(笑)。自分軸に立って我が子を見れば、理想としては子どもにやってほしいこと、やってあげたいことが10あったとして、半分くらいしかできなくてもまぁいいかと思えませんか。


リセマム:なるほど。親は自分のことを棚に上げ、自分たちが勝手に作り上げた理想を一方的に求めているのかもしれませんね。子どもに理想を求める前に、まずは親自身が自分について振り返っておくというのは大事なことですね。

我が子を褒めたくなる、そして好循環が生まれる



小川先生:今は手の届くところに情報やサービスがたくさんあるので、子どもの時間を隙間なく埋めて、何もかも与えることのできる時代です。だから子育てでもビジネス同様、インプットした分だけの成果を求めてしまう。これは子どもを苦しめます。子育てではビジネスのような因果関係は成り立ちません。だからこそ、親は自分たちの過去を振り返ってみて、自分たちの人生には何が大切なのかを改めて考え直し、それぞれの家庭に合った子育てをやることが一番だと思うのです。

 また、自分を振り返ると同時に、1日10分でいいので、お子さんと無心になって一緒に過ごす時間をつくってみてください。毎日10分でも、1年間じっくりと見続けていけば、お子さんのいろんな面がわかってくるはずです。

 親が自分史を振り返り、我が子をしっかり観察し、自分たちの子育ては「2勝8敗くらいでちょうどいい」くらいの気持ちになって子どもに向き合えば、目の前の我が子の良い面が不思議なくらいたくさん見えてきます。そうすると、思わず子どもを褒めたくなります。褒められた子どもは自信を持ちます。自分のことを信じてもらっていると実感すれば、子どもは自分で動けるようになるのです。

我が子をやる気にさせるコツ



リセマム:確かに、自立しているなと思えるお子さんは、自分に自信をもっているように感じられます。そんなやる気があって前向きなお子さんを見ると、比べてはいけないとは思いつつ、目の前の我が子の「やる気のなさ」に悩んでしまう親御さんってとても多いと思うのですが…。

小川先生:「どうしたらうちの子やる気になりますか」というお悩み相談は本当に多いですよ。これは、先ほどの“我が子のありのままを認める”という話に繋がります。そもそも、やる気がない状態の我が子を認めていない、ということです。乱暴な言葉に言い換えれば、「私が決めていることをすべてやらせたいけど、どうやったら子どもは黙って私の命令に従ってくれますか」という相談になる。つまり、子どもにやる気がないと悩むことは、子どもを自分の思いどおりに従えたいという欲求から出ているのです。

 我が子を命令どおりに動くロボットに改造したいかと聞かれたら、どんな親もイエスとは言いません。なんとかして子どもをやる気にさせようとするのは、実は親が自分の不安感を拭い去るためなんです。

リセマム:我が身を振り返り、反省してしまいます…が、親としてはやはり「やる気」になってほしい(苦笑)。やる気にさせるコツってありますか。

小川先生:“やる気”というのはshould, can, willという3段階を経て生まれます。

 まずshould(やるべきこと)。決まったことをちゃんとやる。成長に応じて身に付けておくべきこと…基本的な生活習慣、そして勉強では漢字や計算といった土台づくりです。

 土台ができると、子どもは自分のcan(できること)がわかってきます。やれることが見つかれば、will(やりたいこと)が出てくる。“やる気”は“やれる気”なんです。

 canからwillに行く“やる気”の引き出し方のコツは、子どもの好きなこと・やりたいことに気づいてあげること。どの子にも必ずありますから。

 今の子どもの日常は忙し過ぎて、自分の好きなこと・やりたいことにどっぷり浸って楽しむことを学べないまま成長してしまうんですね。大人がつくる「やることのない時間があったら、少しでも何かを身に付けるための時間で埋めてしまおう」という雰囲気は、子どもが自分の好きなこと・やりたいことを引き出す時間を奪っています。“やる気”になれるチャンスを逃すというのは実にもったいないことです。

リセマム:やる気の取っ掛かりである”should”=土台づくりにおいて大事なことは何ですか。

小川先生:やるべきことを細かく分解してあげることです。仕事では“タスクリスト”なんて言いますね。これは年を重ねて学んだ“大人の知恵”であり、大人が子どもに教えられるノウハウなんです。

 朝ごはんのときにでも「パパやママはおうちに帰ったらご飯を作る、お風呂を入れる、洗濯物を畳むといったお仕事をします。じゃあ君は何をする?」と聞いてみる。子どもも一緒に漢字ドリル、計算ドリル、音読…とメモにリストアップし、かかりそうな時間を横に書きます。未就学児のお子さんなら、連絡帳を渡す、脱いだものを洗濯機まで持って行くというのも立派なタスクです。このタスクリストがあれば、「ごめんね、急いでご飯作るから待っててね」という後ろめたさはなくなります。子どもにも同時にやるべきタスクがあるから、「ごめんね」ではなく「お互い頑張ろう」となるわけです。

 そして必ず、一つできたら「すごい。できたね!」と言ってあげること。こうして子どもの中に“can”が増えていけば、“will”=やる気が自然に引き出されてくるはずです。

親も子もハッピーになれる向き合い方



リセマム:仕事も家庭も、背負うことが多過ぎる今の子育て。親御さんたちに、どんなことを伝えたいですか。

小川先生:小さいときから自己管理とか勉強とかやらせるなんてかわいそう、という思い込みをやめて、子どもが生まれながらにしてもっている能力を信じましょう。子どものもっている力を信じ、引き出し、子どもが自信をもてれば、それは子どもにとっての生き抜く力になります。親はラクになり、親も子もハッピーになれます。「ウチの子ってすごいんだぞ」と100%の信頼感をもって、お子さんに向き合ってみてください。


 小川先生のメッセージは、仕事と家庭の両立がブラック化している日常に、しんどい、つらい、私のせい、といったネガティブワードしか出てこない親御さんへの福音である。子どもを早くから徐々に自立させ、親はもっと解放されようという新しい子育て観は、決して放任ではない。全幅の信頼をもとに、ありのままを受け入れ、できることを取っ掛かりに、子どもが自分の好きなこと・やりたいことに向き合えるよう導いていく。仕事柄、自然にこういう子育てをしている親御さんたちにたくさんお会いしてきたが、確かにしっかりと自立したお子さんばかりだったし、会話も多く、親子関係がとてもよかった。「うまいなぁ」とひたすら感心するだけだったが、こうして小川先生に改めて方法論として教わると「あれ?もしかしたら私にもできるかも」と思えてくる。親子でハッピーな子育ても、タスクリストでひとつずつ、できることから実践してみよう。

親も子もハッピーになる最強の子育て

発行:ウェッジ

著者:小川大介
株式会社素材図書代表取締役、中学受験情報局「かしこい塾の使い方」主任相談員。1973年生まれ。京都大学法学部卒業。大手塾の看板講師として活躍後、さらなる学習指導の理想を追求し、中学受験専門のプロ個別指導教室SS‐1を設立。教科指導スキルに、声かけメソッド、逆算思考、習慣化指導を組み合わせ、短期間の成績向上を実現する独自ノウハウを確立する。幼児教育から企業での人材育成研修まで幅広く活動中。著書に「頭のいい子の家のリビングには必ず『辞書』『地図』『図鑑』がある」(すばる舎)、「1日3分!頭がよくなる子どもとの遊びかた」(大和書房)などがある。

《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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