セカンドキャリアを築くワーママに聞く(2)…外資系企業勤務経験と英語力を生かして起業

 米国公認会計士として外資系企業に勤め、第1子の育休時にご主人の海外赴任でニューヨークに引っ越し、休職中に第2子出産、帰国後に元の職場に復帰。ほぼ4年のブランクでも復職できた理解のある会社だったけれど「起業」を選んだという安田奈々さんに話を伺った。

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 現在中学生と小学生の2人のお子さんがいる安田奈々さん。米国公認会計士として外資系企業に勤め、第1子の育休中にご主人が海外赴任となり、ニューヨークに引っ越し第2子を出産。育休終了後はしばらく一般休職をとり、ご主人の海外赴任が終わって帰国後に元の職場に復帰した。

 ほぼ4年休職しても復職が可能だったという理解のある会社を辞め、起業した理由とは。

2児出産、ニューヨーク生活、約4年のブランクから復職



--お子さんが生まれるまではどのようなお仕事をされていましたか。

安田さん:米国公認会計士として、日本と米国の監査法人で企業の監査や企業買収にかかる財務調査などをしていました。海外のクライアントが多く、特に企業買収関連のお仕事は非常に短期間で納品することが要求されたので、日本にいても時差に関係なく遅くまで仕事をすることが多かったです。大変なことも多かったですが、世界中のマネジメントレベルの方々と一緒にお仕事できたのは、今から思うととても刺激的で良い経験でした。

--産休・育休は取得しましたか、またどれくらい取得しましたか。

安田さん:34歳で第1子が生まれて1年ほど育休を取得しました。育休中に主人の海外赴任が決まり、育休終了後は一般休職に切り替えて家族でニューヨークに在住しました。その間に第2子も出産し、帰国後、すぐに復職しました。そのとき上の子どもは3歳半、下の子どもは生後8か月。なので合わせて4年ほど会社を離れていたことになります。「普通の会社ならとっくにクビになっている」と周りに驚かれました。とても理解のある会社だったと今でも感謝しています。

--お子さんが生まれて、これまでどおりに働くことが困難だと感じたことはありましたか。

安田さん:復職する際に、フロントからバックオフィスへの異動を希望しました。子どもが2人いる状態では、以前のように24時間体制でのクライアント中心の生活は不可能だと思ったためです。幸運なことに、ちょうど英語のスキルを活かせるポジションが調査部門に空いており、フレックス制度を使い9時半から4時半までの時短勤務から始めました。

 それでも最初は仕事と育児の両立が大変でした。普段の家事だけでなく、子どもの病気や園の行事など突発的な対応で、仕事も育児もどっちつかずだと感じ悩んだ時期もありました。

しっくりこない勤務形態と評価基準



 子どもが成長するにつれ、両立することには慣れてきたものの、なかなか最後までしっくりこなかったのが、「決まった時間に出社すること」と「画一的な評価基準」でした。

 子どもは赤ちゃんのときだけ手がかかるわけではありません。大きくなると、今度はたとえば勉強だ、友だち関係だ、と違うことで親も子も翻弄されます。そんなときはそっと子どもに寄り添う時間が必要だったりします。なので、できる限りフレキシブルに働きたい、という希望はずっとありました。そんな私にとって、毎日同じ時間に同じ場所にいなければいけない会社勤めという勤務形態は、時に煩わしく感じることがありました。

 「画一的な評価基準」も、働く時間と関係があります。職場にもよると思いますが、監査法人やコンサルなどの専門職はクライアントに時間でチャージすることが多いため、長時間働ける人が評価されやすい人事システムになっています。私は時短勤務だったので、確かに長い時間は働けないけれど、誰よりも効率的に働いていると自負していました。なぜなら限られた時間で同じ仕事をこなすには効率を上げるしかないからです。それなりに結果も出していたと思いますが、それでも夜の会議に出られなかったり、急な仕事の対応が難しかったりして、周りの理解と協力なくして時短勤務は難しいと感じることが多かったです。きっとフレキシブルに働く人がもっと増えれば、会社の評価制度も少しずつ変わっていくのではないかと思います。

専門スキルがあることに気付いて独立



--ご自身のセカンドキャリアについて見直すきっかけはどのようなことからでしたか。

安田さん:自分にしかできない専門スキルがあると気付いたことが、「独立」という次のキャリアにつながりました。「決まった時間に出社すること」と「画一的な評価基準」にモヤモヤをずっと感じていたときに、社内の翻訳チームの立ち上げに関わりました。監査法人なので、翻訳と言っても会計や財務に特化した専門部隊です。そこで3年ほどみっちり翻訳した経験を通して、実は「会計」と「英語」のスキルをかけ合わせて使える人がほとんどいないことに気付きました。これだけ希少性が高いなら、会社にいなくても、独立してもやっていけるかもしれない、と確信したのです。でも、そう気付いてからも、実際に会社を辞めて独立するまでに2年ほどかかってしまいましたが…。サラリーマン生活が長かったので、会社を辞めるという選択には勇気がいったのです。

--今はどのようなお仕事をされているのでしょうか。

安田さん:監査法人で会計に特化した専門的な翻訳をしていた経験を生かし、iProfess翻訳事務所を立ち上げて今年で5年目になります。監査法人や一般企業向けに、アニュアルレポートなどの開示資料や、社内文書、プレスリリースなどの翻訳サービスを提供しています。最近では翻訳だけでなく、通訳の依頼も増えてきました。通訳でも翻訳でも、「会計や監査をきちんと理解した英語」を提供できることが強みです。通訳は現場に張り付きになりますが、翻訳はお客様のご要望によって会社に伺ったり自分のオフィスで作業をしたりします。会社勤めのころよりもずっとフレキシブルに働けるところがとても気に入っています。

安田奈々さん米国公認会計士として外資系企業に勤め2児を海外で出産。復職し「会計」と「英語」のスキルを磨き、起業を決断した安田奈々さん。


育児の経験も、どんな経験も役に立つ



--今のお仕事でこれまで築いたキャリアや育児の経験などが生かされていると感じますか。

安田さん:翻訳と通訳の仕事に、これまでのキャリアだけでなく、育児の経験もとても役立っていると思います。

 翻訳や通訳は、単に言葉を右から左に変換するのではありません。右の人が言ったことの意図をきちんと理解し、左の人に理解してもらえるよう簡潔に正確に伝えるのが仕事です。ビジネス(キャリア)の観点から言うと、会計の内容だけでなく、事業や取引の仕組み、国による商慣習の違いなども瞬時に理解する必要があります。色々な国で色々な人と色々な仕事をしたことが、当時は根無し草のようで悩んだこともあったけど、今は翻訳や通訳に生きているとを実感します。育児の観点から言うと、相手の言おうとしていることを理解したい、きちんと伝えたい、という育児で鍛えた全身全霊で「聴く」姿勢が役に立っていると思います。一言でいうと「愛」でしょうか…。間に入ってコミュニケーションを円滑にする通訳や翻訳の仕事は、和を大切にする女性に向いていると思います。

--今のお仕事で大切にしていることはどのようなことでしょうか。

安田さん:とんがったプロで居続けることです。別の言い方をすると、自分にしかできない領域を極めていくことです。iProfess翻訳事務所の社名は実はそこから来ています。プロフェッショナルの語源である「profess」には、「神に宣言する」という意味があります。「私はプロであることを誓う」で、「i profess」です。私のライバルはAIだと考えています。AIが踏み込めない領域を見つけ極めること。そのためには学ぶ謙虚な姿勢、スキルを磨く努力、新しいことに挑戦する勇気が大切だと思っています。

--これからセカンドキャリアを築こうとしているワーキングマザーや女性へのアドバイスをお願いします。

安田さん:人生100年と言われる時代です。私もそうですが、まだまだ先が長いので、焦らず、細く長く仕事を続けていけたらいいのかなと思っています。仕事をする形はひとつではないはずですし、どんな経験も、未来の仕事に必ず役に立つと思います。

--ありがとうございました。

 リセマムで実施した「セカンドキャリアに関するアンケート調査」の結果、親の2人に1人「新たに挑戦したい仕事がある」と回答。新たに挑戦したい仕事のTOP3は、

1位…起業家
2位…塾講師
3位…英語の先生

となった。

 結婚、出産、育休、復職、子育てとの両立…目まぐるしく変化する生活なかで、さまざまな困難に向き合い、自分のワークスタイルを考え直すことがしばしばある。起業のみならず、1分間英語で自己紹介する小中学生向けの教育プログラム「1分ピッチ」を考案し、出張授業やイベント開催などアクティブに活動している安田さん。どんな経験も未来の仕事に必ず役に立つと信じ、経験を重ねスキルを磨いていく母でありたいと勇気をもらったインタビューだった。

《編集部》

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