情報さえあれば世界は拓ける…松野知紀さんに聞く「地方公立でも勝つ法則」

 全国的に増える中高一貫校。進学の選択肢が増える分、受験の悩みも増える。そもそも中高一貫校を選ぶ理由は何か。入学後どのように過ごすべきか。リセマム編集部では、茨城県のとある公立中高一貫校に通う男子高生を取材した。

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茨城県立日立第一高等学校2年の松野知紀さん
茨城県立日立第一高等学校2年の松野知紀さん 全 8 枚 拡大写真
 近年、全国的に中高一貫校の設立が急速に進んでいる。文部科学省「高等学校教育の改革に関する推進状況(平成28年度版)」でも、3年前の報告から145校増加し、平成29年4月1日時点で595校にのぼったと発表された。そのうち公立は198校、私立は392校、国立は5校。45都道府県に設置されているという。

 進学の選択肢が増える分、受験の悩みも増える。そもそも中高一貫校を選ぶ理由は何か。入学後どのように過ごすべきか。ここにひとつのロールモデルを提示したい。リセマム編集部では、茨城県の公立中高一貫校に通う男子高生にインタビューした。

--はじめまして。リセマム読者に向けて、自己紹介をお願いします。

 松野知紀と申します。関東北部にある茨城県立日立第一高等学校に通っていて、2019年4月に2年生になりました。

茨城県立日立第一高等学校2年の松野知紀さん
茨城県立日立第一高等学校2年の松野知紀さん

国際学生サミット「MG20」出場で得たもの



--本日はよろしくお願いします。松野さんは2月に北京で開催された「Model G20 Youth Leader Ship Summit(以下MG20)」に日本代表として出場されたそうですね。この大会について、教えてください。

 毎年主要20か国の大臣が集まる「G20」というものがありますよね。その学生版という表現が一番わかりやすいと思います。25か国、300人を超える学生が集まって、ひとつのテーマについて長い時間をかけてディスカッションします。5人で1グループになり、自分の出身国ではない国の人になりきって交渉をしていきます。ちなみに今回のテーマは「スマートシティとグローバルイノベーション」。僕はロシアの立場で参加しました。模擬国連と似たようなイメージですが、チーム戦の模擬国連とは異なり、個人で参加する形式です。

--日本人はどれくらい参加されていましたか。

 僕を含めて8~9人ほどです。高校生は3人で、他は早慶上智の大学生でした。出場するためには、エッセイの提出と基本的な成績などの書類審査、オンラインの面接を経て、選考を通らなければなりません。

--参加するきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

 僕は茨城に住んでいるのですが、県下の「次世代グローバルリーダー育成プログラム」に所属していて、そこで情報を入手したのがきっかけです。他にもtwitterやFacebookでも開催情報が流れてきたのを見て、面白そうだなと思って参加しました。

MG20参加の決断から出場当日まで、世界での学びを体感できる実り多き時間だったという。

ディベートスキルの競い合いよりも、情報交換・意見交換を楽しむ場



--面白そう、とのことですが具体的にはどのあたりに魅力を感じたのでしょうか。

 今回参加したいと思ったのは、テーマそのものへの関心が高かったからです。それにテーマに関する交渉に集中できる環境が整っていると思ったから。たとえば、プレゼン大会やディベート大会の多くは、プレゼンやディベートの「スキルの見せ合い」としての側面がメインになっていて、テーマそのものを深掘りしきれないことが多々あるように感じます。皆が関心のあるテーマに関してお互いに情報を交換したり、現実味をもちながら交渉する機会が少ないように思い、物足りなく感じることがありました。

 その点、今回のMG20は、自身の関心事にもつながるテーマを各国の学生たちと語らえたこと自体がとても楽しく、充実していました。将来のことも考えると非常に良い機会でした。

--ひとつひとつのイベント参加を、将来に関連づけて考えているのですね。

 今の世の中は急速にグローバル化が進んでいて、それに対応するためには世界で何が起きているか、それに対する人の意見を知っておく必要があると思います。知った上で、自分の考えを固めておく必要があると感じています。ニュースでは主観がない客観的な事実だけしか得られないので、それに対して世界中の人がどう思っているのかは自分で情報を取りにいかなくてはいけない。ニュースに秘められた背景や人の考えが知りたいと思い、今回のMG20への参加は、そういった意見交換や自分の考えを整理するためのチャンスだったんです。MG20に参加したことは、自分にとってベストな選択だったと思います。

出場者のなかから、松野さんを含む5名がグローバルリーダーシップアワードを受賞した

--なるほど。自分を知ることがも大きな学びだったということですね。そのほかに得た収穫はありますか。

 さきほども簡単にお話ししたように、日本のディベート大会やプレゼン大会は「スキル」を競われることが多いように思います。いくつかプレゼン大会へ出場しているので基盤は養われていたのですが、ディベートの技術だけでなく、交渉のテーマそのものについての知見を深めることができたのが、今回の大きな収穫でした。

等身大の高校生たちが発展途上国のために考えるボランティア団体設立



--各種ディベート、プレゼン大会への出場をはじめ、多岐に渡る活動をされている松野さんですが、ご自身でも団体を立ち上げているのですね。その「High School-Volunteer Organization」について教えてください。

 はい。「High School-Volunteer Organization(以下ハイスクールボランティア)」は、僕がChief Executive Directorとして立ち上げた、高校生だけで構成されたボランティア団体です。同じ学校に通う友人や、校外のコミュニティで知り合った海外出身の子や現在留学中の子などの5人が中心メンバーですが、それぞれ細分化された活動に参加してくれる登録メンバーは30人ほどいます。1人だけ大学生の方に加わってもらって、活動や組織運営に関するアドバイスをもらっています。

--具体的に、どういう活動をしているのですか。

 「高校生が自分たちの力で動けるボランティア」をモットーにしたボランティア団体です。大人の手は借りずに自分たちの手で活動していこうというのが根底にあります。「発展途上国を助けたい」とか、大きなことを成し遂げたいと思っても、僕たち高校生には大人と違って資金力がありません。その中でも自分たちにできることはないかと考えて、発展途上国の状況を年少者に広めていく啓蒙活動など、等身大の自分たちができるボランティアをしています。今はメンバーから「子どもでも伝わりやすい絵本をつくりたい」という提案があり、プロジェクトが動き始めています。僕たち高校生の小さな活動から国際援助、国際協力に繋がっていく道をつくっていきたいと思っています。

茨城県立日立第一高等学校2年の松野知紀さん
関心の赴くまま、仲間と立ち上げた団体も30人規模に

--立ち上げたきっかけを教えてください。

 最初は軽い気持ちだったんです。学校で友達と「何か新しいことやりたいね」と盛り上がって。僕はもともとグローバル化、具体的にはGDPの伸び率などの統計データも含めて興味があったので、この友人との話をきっかけに「発展途上国の現状を知りたい」とさらに気になり始めました。そのときはあまり深く考えずに立ち上げたんですけど、共感してくれる仲間がたくさんいることに気付き、あっという間に30人規模の団体になっていました。

--メンバーは、どのように活動に参加するのですか。

 公式のWebページは更新をさぼり気味なのですが(苦笑)、twitterなどのSNSで情報を発信しています。海外にいる仲間もいるので、基本はSkypeで会議をして、企画を決めています。SNSの投稿を見た大学生の方がアドバイザーとしてサポートをしてくれるようになったり、来年度から入りたいと考えている中学3年生の方からもメッセージが届いたり。現在メンバーのボリュームゾーンは高校1、2年生ですが、さらに規模が広がるように感じています。僕が高校を卒業するときには下の代に受け継げるようにして、持続可能な団体にしたいというのが長期的なプランです。

--なるほど。先を見据えた活動をしているのですね。

 僕がこうした活動をできるのは、中高一貫校に入学したからこそだと思っています。

中高一貫校だからこそ得られた「視野を広げるゆとり」



--それはなぜですか。

 僕が住んでいる茨城県にも、全国の例に違わず公立中高一貫校が設立されています。僕の入学検討時期にも、すでに身近に一貫校が存在していたこともあり、自然と進学先の候補として考えるようになり、そのうちに具体的な志望校へと変わっていきました。

 中高一貫校を選択して良かったと感じるのは、まず高校入試を気にする心配がなかったことです。中3の1年間を自由に過ごせたからこそ、勉強だけでなく他の活動にも視野が広がったと思います。僕の場合、高校入試に割かずに済んだ時間と労力を使って、独学で中国語やドイツ語に挑戦しました。ドイツ語はあきらめたんですけど…。これからは日本語と英語だけでは勝負できないと思います。言語としては3か国語が必要で、その上で教養や知識が必要な時代だと感じます。中高一貫校に入ることで時間に余裕ができ、そういった自分の基盤を作っていくことができていると感じています。

--ちょっと気になったのですが、中国語やドイツ語を独学で学んだとおっしゃいましたがもしかして英語も独学で?

 そうですね。僕は帰国子女でもハーフでもありません。個人経営の英会話スクールに4歳頃から通っていましたが、小6までは英検5級の合格も苦戦するほど、英語は苦手科目だったんです。

--それでどうやって今の語学力を身に付けたのですか。

 トリガーになったのは、中学校の副教材だったニュートレジャー(Z会)です。難易度がとても高かったのですが、授業についていくために必死に食らいつきました。幼い頃に英会話スクールに通った経験で、発音に関しては心理的な障壁がなかったので、あとは独学で、DMM英会話のアプリを使って学びました。毎日25分の教材なんですけど、中1から毎日欠かさず続けています。

スマホのホーム画面にはcoursera、BBCニュース、TEDなどのアプリが並ぶ

 スマホには、TEDやTOEFLのアプリを入れて活用しています。BBCなど海外のニュースを意識的に読むようにしています。僕のスマホには、そういう実用的なアプリばかりがインストールされているので、それを知った担任の先生が、クラスの友人たちに「松野のスマホを見習え!」と言っているそうです(笑)。

「情報を集めて、飛び込む」のが行動の鉄則



--文明の利器を最大限に活用して、デジタルネイティブの鑑ですね。独学で身に付けた英語力で実際に短期留学されたとお伺いしましたが、そのときの話をお聞かせください。

 短期留学は中2でシドニー、昨年の夏にフロリダのオーランドに行きました。この2回の短期留学は、違う目的でチャレンジしました。昨年のオーランドは英語学習の効果を確かめるために行きましたが、中2でシドニーに行ったときは英語も社会的スキルも乏しい状態でした。ただ、何のスキルももたずに、まっさらな状態で飛び込んだことで、純粋に外国文化を体験できましたし、社会生活をどう上手くやっていくかということを考えるきっかけになりました。短期留学の手続きを全部自分で進めたことも、ひとつの学びになりました。

--往復の飛行機や留学時の滞在先などもご自身で手配したのですか。

 はい。学校で留学プログラムも用意されていたんですけど、そうなると日本人のグループで固まってしまったり、結局日本語でのコミュニケーションが中心になってしまったり、留学だからこそのメリットが半減してしまうのではないかと思って。本当は中1で行きたかったのですが、現地の学校の受け入れ年齢が中2からだったので、進級してからすぐに行きました。

--勢いと即断力がありますね。

 あまり未来に見通しを立てないタイプなので、そのときに「良さそう」と思ったらすぐポンッと出かけちゃう感じです。

--卒業後の進路はどのように考えていますか。

 海外の大学への進学を考えています。学校での学び以外でも「次世代グローバルリーダー育成プログラム」でオンライン講座や研修を受講しています。それぞれの学びが自信につながっていますね。進学に際して検定のスコアが必要であれば、Amazonで検定試験の本はいくらでも探せるし、発音がわからなかったらリスニングの音声をダウンロードすれば良い。近隣に海外大学への進学に対応したも塾がないこともあり、これからも塾には通わず独学でやっていこうと思います。

--大学の専攻は考えていますか。

 「経営工学」という分野を学びたいと思っています。まだ聞き慣れない学問名ですが、簡単に言うと「社会の流れを工学的な観点から考える」学問です。たとえば会社を経営するにしても、どのように人に仕事をしてもらえるかということだけでなく、どのような情報システムを導入していくのが効率が良いのか考えることが必要です。今まで経営学は文系の学問とされていましたが、そこに理系的な思考も加えたものが「経営工学」です。

 僕は理系科目の物理が好きで、それを大学で学びたい気持ちがあるのですが、現在のハイスクールボランティアの活動をはじめ、人をまとめたり人と交渉したり、文系の経営学にも関心をもち始めて。その2つの学問を両立する「経営工学」という分野を知って、興味をもっています。まだ新しい学問領域であるという点でも学ぶ価値がありそうで、楽しみです。

高校卒業後は、関心と経験を繋ぐ「経営工学」を学ぶつもりだ

情報社会はボーダレス…「地域差」の言い訳は無用



--面白そうですね。松野さんの関心と経験とを繋ぐ領域のように感じます。最後に、全国の高校生に伝えたいことはありますか。

 地方の高校生には、自発的に行動する子がかなり少ないように思います。というのも「東京には頭の良い子が多い」「都会は教育環境に恵まれている」という固定観念があって、無意識に田舎で暮らす自分たちを卑下してしまっている子が多いように感じるからです。実際MG20に出場した参加者は、帰国子女や都内近郊在住の子が多かったですし。

 僕自身、もし自分が立候補しても大きい活動をする場には選ばれないんじゃないかとか思っていたこともありました。でも、それは言い訳に過ぎなかったということもまた、今回のMG20出場を通して感じることができました。今の世の中、情報環境さえ整っていれば、インターネット上でいくらでも有益な情報は収集できます。あとは情報をいかに活用できるか。今、手に持っているスマホも使い方次第で、自分の道を開くことができるのです。

 地方出身者代表として、日本全国の仲間に「地方の殻に閉じこもらないでほしい」とメッセージを送りたいですね。住んでいる場所や環境のせいにして自分の芽を摘まないでほしい。地方とか都会とか、関係ないんです。

--「これからは情報活用能力がモノを言う時代」ということを体現されていますね。

 最近の高校生はおとなしい、内気、自発的ではないというネガティブなイメージがあるようですが、才能がある人は日本全国にいます。その才能を活用していく場を探す努力を高校生であるみんな自身もしてみてほしいです。帰国子女でもなければ、塾にも通っていない、茨城在住の僕が、MG20にまで参加することができたのですから。僕個人としては自発的にリーダーシップが取れるひとが増えれば将来的に日本はもっといい国になるんじゃないかなと思います。

これからの社会は情報戦」と話す松野知紀さん

--目の前のことに忙殺されることなく、広い視野で人脈や情報をフル活用する。そのゆとりが得られるという点でも、中高一貫校生活は有意義ですね。本日はありがとうございました。

 今後の活動を聞くと、2019年大阪で開催されるG20の公式付属会議「Y20 Summit 2019 Japan」にて、世界の高校生特別枠20人の一員として登壇予定とのこと。5月12日には、その関連イベント「高校生G20」が渋谷教育学園渋谷高等学校で開催され、今はその準備に大わらわだそうだ。「高校生G20サミット」は高校生であれば誰でも応募できる。G20のテーマにもなっている、Future of Workに関連した国際問題について議論し、日本政府に向けた提言として参加者の意見を取りまとめる予定だ。日本全国にくすぶっている才能の持ち主は、ぜひこの機会に飛び込んでほしい。

 取材中、拝見したスマホのホーム画面には、航空会社や空港のアプリがちらほら。理由を聞くと、飛行機の写真撮影が趣味だという。好きなことに没頭する高校生らしい一面も垣間見られてホッとしたところで、そんな地方在住の“普通”の高校生が市境、県境、そして国境をも超えて、情報という翼を手に入れて、飛行機のようにボーダレスに世界に羽ばたく姿も同時に想像した。

※松野知紀さんは2021年春、米ハーバード大学に合格されました。教育情報サイト「リセマム」では今後対談企画を予定しております。ご期待ください。

《土居雅美》

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