「親が幸せになることが大切」幸せな子どもを育むポジティブ心理学 松村亜里さん

 オンライン講座やコーチングを通じて3,000人以上の日本人の親にポジティブ心理学の理論とスキルを伝えてきた、ニューヨークライフバランス研究所代表・ウェルビーイング心理教育アカデミー代表理事の松村亜里さんに、親も子どもも幸せになれる方法について話を聞いた。

生活・健康 その他
村松亜里さん、インタビューのようす
村松亜里さん、インタビューのようす 全 3 枚 拡大写真
 ここ数年、各国で注目されているのが、ポジティブ心理学を応用した子育て論だ。2019年3月には、その子育て論を日本の親向けに紹介する「世界に通用する子どもの育て方」(WAVE出版)が出版され、大きな反響を呼んでいる。

 著者は、ニューヨークライフバランス研究所代表・ウェルビーイング心理教育アカデミー代表理事の松村亜里さん。これからの時代、どんな子育てをすれば、子どもは幸せになれるのか。自身も2児の子育て中であるインタビュアー&ライター鯰美紀(なまずみき)が話を聞いた。

日本人の子育てにも有効な「ポジティブ心理学」とは?



--松村さんの著書「世界に通用する子どもの育て方」のベースとなっている“ポジティブ心理学”とは、どのような学問なのでしょうか。

 ポジティブ心理学は、幸せになる方法を科学的に検証する学問です。1998年にアメリカで提唱されて以来、企業や教育機関で応用されてきました。その後、家庭での子育てに応用する研究がなされ、「子どものストレスが軽減された」「成績が上がった」「親子関係が改善された」「親自身が幸せになった」などの効果が発表され、世界中の専門家から注目されています。

 心理学の研究において、アメリカは日本よりも10~30年進んでいるといわれています。私は2010年からニューヨークを拠点とし、ポジティブ心理学や育児法の最新情報に触れてきましたが、その中には、日本で長く信じられてきた常識を覆すものも少なくありません。日本人として、専門家として、また、2人の子どもを育てる母親として、早く日本の皆さんに伝えたいと思っていました。

 オンライン講座やコーチングを通じて3,000人以上の日本人の親にポジティブ心理学の理論とスキルを伝え、確かな手応えを感じていました。本書では、理論、エビデンス、スキルをすべてご紹介していますが、実際に読者の方々からは、「子どもが変わった」「子育てが楽しくなった」「親子ともに幸せになった」などの感想が届いています。

人は成功するから幸せなのではなく、幸せだから成功する



--現代の日本の親は、子育てにおいてどのような悩みを抱えているのでしょうか。

 「子どもの問題行動に困っている」「勉強をしてくれない」「良い学校に入れたのに、本人は幸せそうではない」などが多いですね。問題は多様ですが、共通するのは、どの親も子どもの幸せを願っているということです。

--子どもの幸せを願って一生懸命子育てをしているのに、なぜかうまくいかないということですね。私自身も心当たりがあります。この問題を解決する方法はあるのでしょうか。

 幸せを願っているのに、幸せになる方法がわかっていないことが大きな問題かもしれません。たとえば、高学歴であれば、社会的に成功し幸せになれると思っている親は多いかもしれません。ところが、ポジティブ心理学の研究では、「成功の先に幸せがあるわけではない」というエビデンスが報告されています。親が幸せのメカニズムを理解し、学歴や成功は幸せの条件ではないことを知っていれば、子育ては今よりずっとラクになるのではないでしょうか。また、親が幸せでないと、子どもを通して自己実現をしようとしてしまいかねません。子どもに学歴をつけようとプレッシャーを与えて勉強をさせたりすると、子どもが反抗したり、子育てはより苦しくなるかもしれません。

--「成功すれば幸せになれる」というわけではないのですね。では、人が幸せになるためには、何が必要なのでしょうか。

 幸せには、長期的な幸せと短期的な幸せがあります。お金、地位、名誉、美貌など、人と比べて優位に立つことで感じる幸せは、短期的です。一方、心理的健康・身体的健康・社会的健康がバランスよく満たされていれば、長期的に幸せを感じることができます。

--社会的健康とは、具体的にどういうことでしょうか。

 社会的健康とは、人とのつながりや、やりがいのある仕事がある状態です。つまり、「心身が健康で、人とのつながりを感じられ、強みを活かした仕事で社会貢献できる人」は、幸せが持続するということになります。そして、幸せな人こそが成功できるのです。

--「成功するから幸せになるのではなく、幸せだから成功する」ということですね。なぜ、幸せな人は成功するのでしょうか。

 幸せなら、ポジティブな感情をもつことができます。人間はポジティブな感情のときに、視野も広がることがわかっています。つまり、幸せな人ほど、チャンスに気づき、チャレンジできるのです。チャレンジすることで知識、スキル、能力が向上し、人とのつながりもできます。さらにそこからチャンスが舞い込む好循環が起きるのです。

次世代の子どもたちに必要な力とは



--長期的な幸せを感じるための要素として、「やりがいのある仕事」「社会への貢献」がありました。次世代の子ども達が、やりがいのある仕事を通じて社会に貢献するために求められる力は何でしょうか。

 必要なのは、「自分の強みと興味を活かしたうえで、社会のニーズをくみ取り、仕事を創造する力」ですね。2030年には、今ある仕事の49%がAIに取って代わられるともいわれています。指示された仕事をするだけの単純作業は、AIに奪われてしまうでしょう。残るのは、人間にしかできない創造性、人間味、温かさや思いやりを求められる仕事です。また、組織に属するのではなく、個人がそれぞれの強みを活かしながら、仕事をつくり出し、価値を提供し合う時代へと向かっていきます。

--子どもの強みは、どうやって見つけたらいいのでしょうか。

 ポジティブ心理学者らが開発した「性格の強みの調査票」(海外サイト:VIA INSTITUTE ON CHARACTER)がありますので、ぜひ活用してみてください。ポジティブ心理学では、弱みよりも、強みに注目します。これは、自分の強みを知っている人は幸せになるというエビデンスがあるからです。ところが、特に日本人は、弱みに注目して克服しようとする傾向がありますね。でも、仕事も人生全般も、強みを活かしたほうが楽しくスイスイと進むものです。

「罰」や「ご褒美」では幸せになれない



--日本では、「騒いだら廊下に立たせる」「ちゃんとしないと叩く」など、子ども達の行動を抑制するために罰が使われてきました。本書では、罰は子どもをダメにすると主張されています。なぜ、子どもに罰を与えないほうがいいのでしょうか。

 まず、当然ながら、子どもは自分に罰を与える人を嫌いになります。親子の関係性が崩れてしまうわけです。また、罰からの逃避が家出につながることも多いですね。さらに、「罰を避けるために、いい子にする」ということは、「罰がないところで、悪いことをする」ということにもなってしまいます。厳しい家庭の子どもが、「家ではいい子なのに、外で犯罪をしてしまう」というケースは、珍しくありません。何より、罰を受けることで、子どもの自己肯定感が下がります。人間は、本能的に思考・感情・行動を一致させようとする傾向があります。「罰を与えられるほどのダメな自分」という思考ができあがると、「ダメな自分」にふさわしい行動をしてしまうのです。

--では、ご褒美はどうでしょうか。一見、罰とは対照的でポジティブな印象を受けます。

 「これをしたらご褒美をあげるね」というのは、交換条件つきの報酬ですね。せっかく子どもが興味をもっていることでも、報酬をもらうことが目的になってしまうことで、興味・好奇心を失い、パフォーマンス力が低下してしまいます。また、交換条件を出すということは、子どもをコントロールするということ。子どもは親の真似をして、「これをするから、ご褒美ちょうだい」と、親をコントロールするようになってしまうのです。

--「本を読んだらテレビを観ていいよ」「100点を取ったらゲームを買って」といった親子の会話を耳にすることは珍しくありませんが、それがお互いをコントロールしているという意識はないのかもしれません。

 誰かにコントロールされている限り、幸せにはなれません。なぜなら、人は生まれながらにして、「自分で決めたい」という欲求があるからです。特にこれからの時代は、やりがいのある仕事を獲得するためにも、自己決定と自律性が必要です。産業革命時代に求められた単純労働的な働き方なら、誰かの指示どおりに行動することで、罰を回避して報酬を得ることができたかもしれませんが、これからの時代には通用しないでしょう。

ニューヨークライフバランス研究所代表・ウェルビーイング心理教育アカデミー代表理事の松村亜里さん松村亜里さん

--では、わが子の自律性を育むために、どのような子育てをすればよいのでしょうか。

 日本の子育てタイプは、「(自律)支援型」、「厳格型」、「迎合型」、「無関心型」、「虐待型」に分けられます。「無関心型」と「虐待型」が子どもを幸せにしないことは明白です。あとの3つの違いについてご説明します。

 たとえば、子どもの進路にAとBの選択肢があるとします。親は「子どもにAを選ばせたい」、子どもは「Bを選びたい」と思っています。子どもに、「何が何でもAにしなさい」と強制するのは厳格型、「あなたがBがいいなら、そうしなさい」と子どもの好きにさせるのが迎合型です。「お母さんはAがいいと思うけれど、あなたはBがいいのね。じゃあどうする?」とお互いの主張を尊重しながら歩み寄り、お互いが納得するC案を探るのが、「支援型」です。「支援型」で育った子ども達は、将来、学歴と年収が高く、幸福度も高い大人に育つというデータがあります。

母子家庭・中卒・働きながら大検取得後にアメリカ留学



--親子でお互いの主張を尊重しながら歩み寄ることが大切なのですね。松村さんは、日本で生まれ育ち、アメリカに留学。最終的には、コロンビア大学大学院で修士課程を、秋田大学医学部で博士課程を修了し、能力を活かして活躍していらっしゃいます。ご自身はどう育てられたのでしょうか。

 私は母子家庭に育ち、経済的な理由で中学卒業後はアルバイトをしていました。その後、「手に職があったほうがいい」という母の勧めで、老人ホームで働きながら准看護師学校へ入学。同時に通信制高校にも通って大検を取りました。成績が良かったため、看護大学への推薦も内定していたのですが、勉強は得意でも看護師には向いていないと気付き、母の反対を押し切って、アルバイトで貯めた200万円をもってアメリカへ留学しました。経済的苦労があったので、子どもの頃は夢をもてず、決して幸せとはいえませんでした。ただ、母親がとても愛情深い人で、愛だけは充分に感じていました。

--経済的には苦しい中でもお母さまの愛を感じられたことは、松村さんの幸せに大きな影響を与えているのかもしれませんね。

 それは、あるかもしれません。留学中ずっと、母が私に送ってくれる手紙は、「かわいい、かわいい亜里ちゃんへ」から始まり、「愛してるよ!」で終わっています(笑)。私には兄1人、弟2人がいますが、それぞれ好きなことを仕事にして、よい伴侶と出会い家庭をもち、幸せになっているように見えます。

 特に子どもが幼いときは、言葉やハグで、ストレートに愛を伝えることが大切だと思います。日本には「空気を読む」という表現がありますが、子どもは、目に見えないものは見えないし、読めません。親がいくら子どものためにご飯を作ってあげても、お風呂に入れてあげても、それだけでは愛は伝わらないのです。

一番大切なのは、親が幸せになること



--松村さんも2人のお子さんを育てていらっしゃいます。心理学を学んでいた松村さんでさえ、子育てで悩んでいた時期もあったそうですね。

 心理学や子育ての知識はたくさんありましたが、知識だけではダメだと実感しました。夫がアメリカの大学の博士課程に入り、私は日本の大学で働きながら子育てをしていたときは、仕事のプレッシャーや経済的なストレスで、常にイライラして子どもに当たっていました。母親の孤独と自己犠牲は、子育てに一番よくないですね。子どもを産む前の私は、勉強や仕事をがんばることで自信をつけてきたのですが、子育てはがんばっても結果が出ません。「完璧なら愛される」という条件つきの自尊心が崩れてしまったのです。

--そこから、どう克服されたのでしょうか。

 まさにポジティブ心理学との出会いが私を救ってくれました。幸せになるというエビデンスのある行動習慣を片っ端から実践し、幸福度がとても高まりました。同時に、直接ポジティブ心理学の学問ではありませんが、「自分は何もできなくても尊い」「完璧でなくてもいい」と思えるセルフコンパッション(自分への思いやり)を意識することで、自分の弱さを受け入れられるようになり、周りに助けを求められるようになったことも大きかったです。

--松村さんは、日本とアメリカの2か国で教育を受け、それぞれの国での子育ても経験していらっしゃいます。日本とアメリカの圧倒的な違いは何でしょうか。

 日本では、人に合わせること、みんなと一緒であることに価値を置きますが、アメリカでは、人と違うこと、多様性を認める傾向があります。私は小さい頃から、かなり変わった子どもだったと思います。「変わっている」と言われるので、人と違うことは自分の欠点だから、治さないといけないと思っていたのです。ところが、アメリカに来てみたら、「ユニークですばらしい」「それが君の強みだから、伸ばしたらいい」と絶賛されました。弱点だと思っていたことが、海を渡ったら強みに変わったのです。

--個性に価値を置くアメリカの風土によって、松村さんの強み生かされ、才能がさらに開花したのですね。最後に、子育てに悩む日本の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

 まずは、親であるあなた自身が、最高に幸せになってください。親が自分の強みを生かして、人とつながり、幸せになれば、今抱えている子育ての悩みのほとんどは、自然に解決するのではないでしょうか。やりたくない仕事をしたり、我慢したり、プレッシャーを感じていませんか? 親がプレッシャーを感じていると、子どもにもプレッシャーを与えてしまいます。親が自分を幸せにする工夫をしたら、子どものことも尊重できますし、親子関係もよくなります。親が幸せになり「人生は楽しい!」ということを見せたら、子どもも強みを生かし、勝手に幸せになっていきます。

 子育てに必要なのは、努力ではなく、工夫です。子育てに「絶対に正しい」という方法はありません。本や講座は、あくまでも、ツールとエビデンスが詰まった道具箱だと思ってください。子育てに悩んだら、道具箱から自分に合いそうなツールを取り出し、子育てに取り入れてみてください。人は本来、幸せになるために生まれてくるのだと信じています。親も子も、いつからでも変わることができる、いつでも幸せになれると信じています。

ニューヨークライフバランス研究所代表・ウェルビーイング心理教育アカデミー代表理事の松村亜里さん松村亜里さん

--子育ての工夫、私もすぐに実践したくなりました。ありがとうございました。

 ほとんどの親が、子どもの幸せを願っているはず。ところが、「何が幸せなのか」「どう育てれば、子どもが幸せになるのか」という問いに、自信をもって答えられる親は少ないのではないだろうか。だからこそ、親は迷い、悩み、巷にあふれる子育て情報に流され、溺れてしまう。エビデンスに基づいた村松さんの話は、説得力があるうえに、決して強制しない姿勢が心地よい。私たち親自身も、複数の選択肢の前で、自己決定と自律の機会を与えられているのである。子育ての期間は、長いようで短い。このインタビューや松村さんの著書などをヒントに、幸せを感じながら、未来への道のりを歩んでいく親子が増えますように。

世界に通用する子どもの育て方

発行:WAVE出版

<著者プロフィール:松村 亜里>

ウェルビーイング心理教育アカデミー 代表理事
ニューヨークライフバランス研究所 代表

 母子家庭で育ち中卒で大検をとり、朝晩働いて貯金をしてニューヨーク市立大学入学。首席で卒業後、コロンビア大学大学院修士課程(臨床心理学)、秋田大学大学院医学系研究科博士課程(公衆衛生学)修了。医学博士・臨床心理士・認定ポジティブ心理学プラクティショナー。ニューヨーク市立大学、国際教養大学でカウンセリングと心理学講義を10年以上担当し、2013年からニューヨークで始めた異文化子育て心理学講座が好評で州各地に拡大。ニューヨークライフバランス研究所を設立してポジティブ心理学を広めている。2017年に一般社団法人ウェルビーイング心理教育アカデミーを日本で設立。幸せを自分でつくり出す人を増やすために、エビデンスに基づいた理論とスキルを紹介し、実践に落とし込む講座を展開。世界中の親に向けて2018年に開設した「世界に通用する子どもの育て方オンライン講座」「グローバル ペアレンティングサークル」も開催中。


《鯰美紀》

【注目の記事】

この記事の写真

/

特集