ゼロから始めたオンライン学習で変化した児童の学び、北鶴橋小学校の取組み

 北鶴橋小学校の光井栄雄校長と橋爪教諭に、普通の公立小学校がゼロから始めたオンライン学習への取組み、ICT活用での児童の学びの変化について聞いた。

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インタビューに応える光井栄雄校長(Teamsで実施)
インタビューに応える光井栄雄校長(Teamsで実施) 全 7 枚 拡大写真
 GIGAスクール構想により、全国の学校へのICT導入が急ピッチで進む一方で、どのように利活用すれば良いのか、不安や疑問をもつ教職員は多いのではないだろうか。

 今年、創立102年目を迎える大阪市立北鶴橋小学校(きたつるはししょうがっこう、大阪市生野区)は、全校で6学級の小規模校だ。「心ゆたかな子ども よく考える子 助け合う子 進んでやる子」を教育目標に、今年度から赴任した光井栄雄校長のもとで、Change(変革する)、Challenge(挑戦する)、 Collaborate(協働する)、Create(創造する)の“4つのC”を重んじた学校運営が行われている。北鶴橋小学校の光井栄雄校長と橋爪教諭に、普通の公立小学校がゼロから始めたオンライン学習への取組み、ICT活用を通した児童の学びの変化について聞いた。

ゼロから始めたオンライン学習



--オンライン学習に取り組んだ背景についてお聞かせください。

光井校長:年度始めのいちばんの課題は、休校による未履修単元の補講と、次に休校になったときの対応策でした。仮に再び休校になった場合でも、確実に学習を進められる環境を作れるように教職員と話し合いました。それがオンライン学習を始めたきっかけです。

 私が今年の4月に北鶴橋小に赴任した時点では、タブレットがネットに繋がらない状態で、ICT環境が比較的整っていた前任校との違いに驚きました。現在は、調べながらWi-Fiなどの環境を整え、徐々に活用を開始しています。

 GIGAスクール構想では、今年度中の児童生徒1人1台の情報端末、Wi-Fi環境の整備が目標ですが、本校ではまだWi-Fiルーターが3台しかない状況でした(記事掲載時点では全教室に無線ルーター設置済み)。それでも、学びを止めないために、1クラスの人数分のSurface GoとMicrosoft Teams for Education(以下、Teams)を活用したオンライン学習の実施に取り組みました。休校でなくとも今後は、ICTを活用した学習が求められていきますので、オンラインによるアクティブラーニングに取り組み始めたというわけです。

心の距離が近づいた“オンライン日記”



--何から取り組まれましたか。

橋爪先生:新年度の登校が始まり、始めにTeamsの仕組みや操作を学び、OneNote Class Notebookで毎日「オンライン日記」をつけることを目標にしました。長い休校や生活の変化でストレスを感じている子どもたちをサポートできるよう、オンラインでの日記を始めたのです。

 子ども同士での日記の共有はしませんが、教員は児童全員の日記を確認できるように設定しました。子どもたちは日記に、その日に感じたことや、授業の感想などを書いてくれます。普段、教師に授業の感想を伝えにくる子はほとんどいませんが、オンライン日記には、子どもたちが感じていること、好きなこと、家庭での出来事などを、心を開いて書いてくれて、児童によってはむしろ教師との心の距離が近くなり、それはオンラインならではの良さだと感じています。

毎日つけることを目標にしたオンライン日記
毎日つけることを目標にしたオンライン日記

Surface Goで日記をつける児童たち
Surface Goで日記をつける児童たち

--オンライン日記は、パソコンやTeamsを使う練習にもなりそうですね。

橋爪先生:オンライン日記は、タブレットやスマートフォンからも
Teamsを開いて書くことができるので、自宅にパソコンの無い家庭の児童でも日記を書けて、日常にどんどんオンライン学習が入っていきました。

 また、休んでいる子どもたちにもこちらからチャットをすることで連絡ができたり、コミュニケーションをとったりすることができたことも、オンラインの強みだと感じています。教師も、スマートフォンなどを利用して授業の合間や空き時間に、気軽にコメントを書けるのが便利です。

光井校長:Teamsを使った日記は教師と児童が1冊のノートを共有できるため、双方自分の都合の良いときに読めて書き込めるのが良いですね。今まで日記の学習を進めてきた先生方ならば、日記の確認や受け渡しの時間のやり繰りなどでの悩みが解決されると思います。「共有できる」ことが大きなメリットです。他校の先生方にもお勧めしたいですね。

--教室内での学習ではどのように活用されていますか。

橋爪先生:グループワークで大阪の紹介をしたのですが、パワーポイントの操作を学んだうえで、Teams上での協働作業で資料を作成しました。子どもたちは、自分のパソコンから見えている友だちのアニメーションや文字を参考にして、編集を加えたり、写真のデザインなどを確認したりしてソーシャルディスタンスを確保しながらも、教え合って作業を進めていました。

 また、オンライン社会見学も実施しました。

--オンライン社会見学とはどのようなものでしょうか。

橋爪先生:今年度は校外学習ができない状況ですが、オンラインであれば社会見学ができるのではないかと考え、日本マイクロソフトに協力いただき、オンラインでお仕事のようすや会社の中を見学しました。

 通常の校外学習では、見学の位置によっては説明を聞き取りにくかったり、質問をしにくかったりする場合があります。今回のオンライン社会見学では、のSurface Goマイクに向かって「あれなんやろう」などとつぶやくと、すぐに説明員の方が答えてくださいました。ある意味、全員が最前列で見学できたというわけです。大阪と東京という離れた場所にもかかわらず、会社の中をリアルタイムに見学できて、気になることがあったらすぐに質問できる。Teamsを使って外の世界と直接つながるという感覚が、子どもたちにはとても新鮮だったようです。

 最初は緊張している子もいましたが、徐々に質問が増えていきました。実施後の日記には、「次は実際に行ってみたい」「そこで働きたい」などの感想が書かれていました。

日本マイクロソフトの協力で実施した社会見学
日本マイクロソフトの協力で実施した社会見学

光井校長:そのあと、6年生の学級で文化遺産の見学をメインとしたオンライン校外学習も実施しました。リアルに行くことができればそれに越したことはありませんが、今回は、私が東大寺などがある奈良公園にSurface Goを持ち込みリアルタイムで動画を配信、子どもたちはTeamsで参加するかたちです。

 モニター越しにリアルタイムに質問できることが、これまでの映像教材による学習との違いです。子どもたちから思いも寄らない質問が出るなど、こちらにも気付きがありました。先日、保護者から「奈良公園のオンライン社会見学は面白かったです」とお声がけいただき、私のほうが驚きました。お子さんと一緒に、保護者も見てくださっていたのです。

文化遺産の見学をメインとしたオンライン校外学習
文化遺産の見学をメインとしたオンライン校外学習

 学力が親の収入に比例するという調査結果もありますが、私は子どもの経験の差が学力に与える影響がもっとも大きいのではないかと考えています。ならば、オンライン社会見学などにより経験の機会を増やすことで、格差の是正につなげられるのではないかと思っています。

オンラインが学校と家庭の学びをつなぐ



--オンライン学習によって、子どもたちの学び方に変化はありましたか。

橋爪先生:大阪を紹介する資料の作成では、学校で取り組んだあと家庭でも紹介文を書いたり、写真を取り込んだりしていたようです。個人面談のときに、保護者の方から「こんなにパソコンが使えるようになっていて驚きました」という声が多数聞かれました。私たちが思っている以上に、家庭でTeamsを開いた子は多く、保護者の方々にも好評だったようです。

 子どもたちは普段の学習では、おもに黒板に向かいノートに写して学んでいきますが、発言して学びを深めるタイプの子の中には、それが得意ではない子もいます。オンライン学習では、特にそうした子どもたちが前向きに取り組んでいたように思います。

大阪紹介の資料を作成
大阪紹介の資料を作成

自信につながる操作の上達



--Surface Goに対する子どもたちの反応はいかがでしたか。

橋爪先生:Surface Goは操作がわかりやすくて、子どもたちに好評です。社会科での新聞作りではこれまで手書きで紙に書いていたものを、キーボード入力で作成しています。子どもたちは自身のタイピングの上達が嬉しいようで、先日の授業参観でもお子さんから「入力が早くなって、操作が上手になったから絶対に見に来て!」と言われたと、保護者の方も喜んでいました。キーボード入力やパワーポイントなどの操作の上達が、子どもたちにとっても自信につながっていると思います。

光井校長:Surface Goを使ったオンライン日記は、オンライン学習を進めていくうえでの根幹になっています。これまでキーボードを使った経験のない子どももいましたが、Surface Goで毎日日記を書くことで、タイピングはかなり上達しました。

 やはり、ICTの活用を日常化させることがいちばん大事だと思います。最初はうまく使えなくても、少しずつ慣れ、使うことが当たり前になってくる。Teams上で資料を共有して、アクティブラーニングに発展させていく。ビジネスの世界でもリモート会議が広がってきましたが、小学生の子どもたちもすでに同じことを始めています。それは将来、彼らの強みになると思います。

まずは一歩を踏み出そう



--オンライン学習の取組みは、先生方の意識改革や働き方の効率化につながりましたか。

光井校長:先生方もオンライン学習という新しいことを始めるには、最初は少し抵抗感があったと思います。それでも一歩を踏み出し、Teamsを使って実際にやってみると、思ったよりもできそうだという手応えを感じたと思います。ただ単に黒板を映して説明するだけでは子どもには伝わりませんので、より良い学びをどう実現していけるかを考えていきたいですね。

 働き方を効率化するという意味では、ICTの特徴である「再現性の高さ」があげられます。一度作ったデータは、次年度以降も共有して利用できる。これまで、教材室という大きな部屋に保管してきた紙の資料やモノはかなりの量になっています。これがデータに置き換われば、場所をとらないということも大きなメリットです。データを使いやすく整理して管理し、蓄積して共有していけば、教員の働き方の効率化につながると思います。

新たな可能性が生まれるICT活用



--今後のオンライン活用の計画についてお聞かせください。

光井校長:学校には、限られた人しか入れない場所があります。たとえば給食室ですが、衛生面から実は校長の私も入ることができず、許可されているのは給食調理員さんと栄養教諭さん、そして教頭先生のみです。こうした、子どもたちが普段見ることのできない給食室で調理するようすを栄養教諭さんに撮影していただき、子どもたちがオンラインで見学するという取組みを計画中です。これは栄養教諭さんの発案なのですが、食育にもなるのでぜひやりたいと考えています。

 また「デジタル教科書」も活用していきたいと考えています。Teamsならば、子どもたちのパソコンやタブレットにデジタル教科書を映すことができます。大阪市では今年、全校でデジタル教科書が導入され、どの学校でも利用が可能です。実際に使ってみると、オンライン学習を進めるのにデジタル教科書はとても効果的だと感じています。今後研修会で、より効果的な活用について話し合おうと考えています。

--学校行事でのTeamsの活用はお考えですか。

光井校長:運動会では、ソーシャルディスタンスを確保するために、学年ごと競技ごとの入れ替え制にしようと考えています。そのために、講堂のスクリーンに情報を配信し、今何の競技をしているのかをリアルタイムで確認できるようにしようと準備しています。

特別な環境がなくてもオンライン学習はできる



--これからICT活用に取り組まれる他校の先生方にメッセージをお願いします。

光井校長:本校は、特別にICT環境が整っているわけではないので、同様の取組みはどこの学校でも可能だと思います。誰かが一歩目を踏み出すことで、利用が進んで行くと思います。そして、取組みを模索し続けていけば、地域や行政、企業・施設との連携、学生ボランティアとの協働などの可能性も、さらに広がっていくと思います。

--ありがとうございました。

大阪市立北鶴橋小学校
大阪市立北鶴橋小学校

 光井校長と橋爪先生のお話から感じたのは、ICTの環境整備をきっかけに、人と人とがつながることで、子どもたちの学びに良い変化が次々に生まれていく素晴らしさだ。子どもたちを中心とした学びの実現は、自分ごととして動くことで果たされる。普通の公立小学校の小さな一歩が、全国に広がることに期待したい。

《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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