「やってみよう」が学校生活を変える、東三国小学校のICT活用の取組み

 すべての子どもの学びの保障に向けて、学校生活におけるICT活用を積極的に進める、大阪市立東三国小学校。同校の千葉法幸校長をはじめとして、3年生から6年生の各担任の先生に、ICTをどのように導入・活用しているのかを聞いた。

教育ICT 小学生
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東三国小学校の先生方(Teamsにてインタビューを実施)
東三国小学校の先生方(Teamsにてインタビューを実施) 全 10 枚 拡大写真
 GIGAスクール構想によって公立学校へのICT導入が急ピッチで進み、さらに学校現場での利活用が求められている。

 大阪市立東三国小学校(ひがしみくにしょうがっこう、大阪市淀川区)は、1年生から6年生まで各2学級、特別支援学級5学級の全17学級を有し、「すべての子どもの学びを保障し、共に学び、共に育つ教育の実践」を教育目標としている。2020年度に入り、積極的に学校生活へのICT導入・活用を推し進める東三国小学校の千葉法幸校長、3年担任の大貫先生、4年担任の安野先生、5年担任の高橋先生、6年担任の荒石先生に、ICT利活用の取組みや学校生活の変化などについて聞いた。

教師と子どもたちとのつながりを焦点にICTを段階的に導入



--ICT活用に取り組んだ背景についてお聞かせください。

千葉校長:コロナ禍では「子どもたちが学校に来られない」ことが最大の課題でした。学びについてはもちろん、子どもたちの家庭でのようすも心配でした。そこで、学びの機会の確保と、子どもたちと我々がどうつながるかを焦点に、段階的にICTの利用を進めていきました。

大貫先生:2つのフェーズがありました。まず新年度に入り4月から6月前半までの休校期間、そして休校が明けてからの時期です。

千葉校長:我々は、「すべての子どもの学びを保障する」ために、いろいろな方法を模索しました。休校期間中には、学校のホームページを利用して課題を配布し、次にストリーミングサービスなどを利用した動画配信へ。子どもたちの登校が再開してからは、学校生活のさまざまな場面におけるICT活用やMicrosoft Teams for Education(以下、Teams)を使った双方向でのやり取りへと進みました。先生方は、それぞれ子どもたちの実態に応じて、今も頑張っているところです。

みんなで集まらない“集会”をTeamsで実現



--何から取り組まれましたか。

千葉校長:学校全体では、まず学校朝会や児童集会でTeamsを利用しました。学校朝会は私が校長室から配信し、児童は各教室で参加しました。児童集会では、担当の子どもたちが体育館からTeamsを使って各教室にいる全児童に配信しました。こうして、ソーシャルディスタンスを確保した、みんなで集まらない“集会”をTeamsで実現したわけです。

学校朝会を校長室から配信する千葉校長
学校朝会を校長室から配信する千葉校長

児童集会のようす。(左)担当児童が体育館からTeamsを使って配信、(右)児童たちは各教室で参加
児童集会のようす。
(左)担当児童が体育館からTeamsを使って配信、(右)児童たちは各教室で参加

 従来月曜日に行っている学校朝会は、子どもたちは体育館に一斉に移動し、終了後に教室に戻っていましたので、せわしない朝でした。でも実は月曜日の朝は、気持ちが晴れない子どももいるので、そんなときこそ先生が子どもたちとゆっくりコミュニケーションをとってほしいと考えていました。そういう意味でも、移動の必要がないTeamsでの朝会は良いと思います。

高橋先生:今、授業時間の確保も難しいなかで、移動のないTeamsでの朝会は助かりますね。また、校長先生が言われたように、月曜日の朝一番に子どもたち全員の状況がわかるのは、やはり大きなメリットだと感じています。

--学年ごとの取組みについて教えてください。

大貫先生:3年生では簡単なことから始めて、少しずつICT活用の範囲を広げました。コロナの影響で風邪の症状があると登校できず通常よりも欠席者が多くなるので、連絡事項をTeams上で確認できるようにしました。

 また、学んだことを日記で振り返る「学習教科日記」をオンラインにしたり、Teamsに授業の振り返り用のチャネルを作って学習内容を共有したりしました。さらに、宿題の内容について質問ができる「質問コーナー」もTeams上に作って、日中受け付けています。

 キーボード入力の練習については、最初はみんなでチャットを使って「しりとり」をして、楽しみながら慣れられるようにしました。この取組みは「いいね」「メッセージの編集・削除」など、Teamsの機能の使い方の練習にもなりました。

 最近の取組みでは、リコーダーの練習ができる伴奏動画を作成して公開したところ、子どもたちからはとても評判が良かったです。Teams上に、動画を配信、視聴できるツールであるStreamのタブを作り、「リコーダー練習用」というフォルダにお手本と伴奏の動画を入れているので、家での練習用としても活用できます。コロナ禍の特例措置により著作権の制限がないため、教科書を写真に撮って、パワーポイントの録画機能で音を録音して動画にしました。動画を1本制作する時間は10分ほど。リズムがわからないときにはお手本に合わせながら練習したり、伴奏に合わせて演奏したりして、使ってくれています。

3年生:「リコーダー練習用」の画面

3年生:「リコーダー練習用」の画面
3年生:「リコーダー練習用」の画面

安野先生:4年生では、Teamsを使う練習として、簡単な問題を提示して子ども同士で考えるところからスタートしました。子どもたちは徐々に家庭からもアクセスするようになり、自発的に「こういう虫を発見したよ」と写真を送ってくれたり、夏休み中には「学校で育てていたカブトムシやザリガニは今こんなようすだよ」「公園で水がものすごく熱くなっていたよ」といった動画を送ってくれたりするようになり、子ども同士でやりとりする姿が見られるようになりました。

 社会科では、クラス内のチームごとに分けて、Teamsに資料を保存しています。授業で出た意見がわかるように黒板の写真をファイルに入れ、家庭での振り返りにも活用しています。たとえば、1学期末に実施した「水」の単元では、学校で学んだことをもとに視野を広げて調べた子が、世界における水資源の現状や、水に困っているようすについてユニセフのサイトで調べ、写真やデータをTeamsに投稿してくれました。学校では、その資料をもとに探求学習に発展させました。

 総合学習ではプロジェクトチームを組んで活動を進めていますが、チームごとのチャネルに共有できるよう資料を保存しています。チームごとのプレゼンテーションでは中間発表と最終発表を行いますが、家庭でも見られるように動画をアップし、保護者の方に評価をしていただいています。普段の総合学習もすべてTeamsで行っているので、保護者はいつでもどこからでも参観が可能です。また、保護者が授業に参加して、子どもたちとコミュニケーションをとることもあります。

4年生:家で調べたことを児童がTeamsに投稿
4年生:家で調べたことを児童がTeamsに投稿

チャットの利用で、子どもたちが話す場を確保



高橋先生:5年生では、分散登校のときに家庭学習の児童はTeamsで参加するようにしました。子どもたちからは「みんなと会いたい」という意見が多く出ていましたので、Teamsで交流できる場を作りました。

 最初は、授業では出題しないような、深く考える問題を出して、みんなで話し合って答えを出してもらいました。子どもたちはオンラインでの話し合いにも慣れ、徐々に難しい問題にも取り組むようになりました。この取組みを通じて、会って話すことはできないけれど、チャットでもほかの人とつながりをもてるということを実感できたようです。

 夏休み中には時間制限付きで、チャットでの雑談も許可しました。子どもたちは、教師が見守っていることを意識して、気を遣って書き込んでいるようでしたが、楽しくコミュニケーションがとれていたのではないかと思います。普段、学校ではあまり積極的に発言をしない児童もチャットだと参加しやすかったようで、それをきっかけに、2学期に入ってからは学校でも話すようになっていて、オンラインの良い効果を感じました。

5年生:先生が深く考える問題をTeamsで出題
5年生:先生が深く考える問題をTeamsで出題

5年生:児童はチャットで話し合いながら答えを導き出す
児童はチャットで話し合いながら答えを導き出す

主体的に柔軟な発想を獲得する機会に



荒石先生:6年生は3年生と同様にTeamsに連絡事項を載せています。

 大事にしているのは、毎朝、子どもたちが登校する前に私が連絡事項をアップすること。これは、「連絡帳は必ず書くものだ」という意識が、子どもの中で良くも悪くも定着しているためです。私は、写真で内容がわかるならばわざわざ書かなくても良いのではないかといったような意見が、子どもたちから出てほしいと考えています。そうした柔軟な発想ができるひとつの手段になればと思います。

 何か月か前に私はあえてチャットで「連絡帳って絶対書かないといけないの?」と問いかけました。そのときはほぼすべての子が「それは書かないと駄目」と反応しました。そこから時間が経って、今、連絡帳を書いている子は全体の7割。3割は書かなくなっています。本当に何が大事なことなのか、書くことが大事ではなく、その内容がわかることが大事といった判断をする子も出てきて、Teamsは主体的に考えるための入り口になっていると感じています。

6年生:「連絡事項」の画面
6年生:「連絡事項」の画面

学校での学びは社会につながっている



--チャットのコミュニケーションではさまざまなトラブルが懸念されますが、どのような対策をしていますか。

高橋先生:私たちの学校でも実際にトラブルはありました。時間制限を守らずに、夜遅い時間にチャットで喧嘩をして、翌日、学校で教師も交えた話し合いをして解決したこともあります。学校に関係のないゲームの話題でトラブルになる場合もあります。そうしたときは、オンラインでコミュニケーションする際に気を付ける点などをしっかり伝えることで解決を図っています。

大貫先生:トラブルも含めて、起きたことをもとにした学びもあるのではないかと感じることはあります。3年生にも、使用時間や言葉遣いに関する注意、Teams上での書き込みは教師やクラスの誰もが見ているものだということは事前に伝えました。また、このTeamsは学校関係者以外に見られることはありませんが、一般的なSNSだったら炎上にもつながりかねない。そうした話も同時にしました。

--学校という閉じられた環境でのTeams上の小さな失敗が、ネットリテラシーを学ぶ機会になるわけですね。

大貫先生:トラブルは、学校の中でも本当は起きてほしくないのですが、実際に世の中に出て、多くの人が目にする場所に書き込んだ場合は、もっと大きな問題になる可能性あります。そうなる前に、学校で学べたことは良かったといえるのかもしれません。

--ICT活用のメリットや課題についてお聞かせください。

大貫先生:Teamsを使うことで、放課後の児童と教師のつながりが強くなったと感じます。放課後のつながりは、安野先生がお話しされた学びの発展にもつながっているように感じます。

高橋先生:放課後や休日に、困っている子に応えられるのは、とても大きなメリットだと思います。教師側には、児童が何に困っているのかという気付きもありますし、解決できれば、児童は休み明けに気持ちよく登校できるので良いと思います。

--ICTにより保護者の方々に変化はありましたか。

安野先生:オンラインを活用するようになってから、保護者も積極的に参加してくださるようになりました。従来の方法ではお仕事等で参加できなかった方のなかにも、総合学習がオンラインになってからは、特別な機会でなく、通常授業でも参加してくださる方が増えています。保護者も学校での学習に積極的に関わって、進度も把握したうえでアドバイスをしてくださることは、とても高い価値があることだと思います。

--子どもたちはいかがでしょうか。

大貫先生:子どもたちからは、Teams活用の要望が増えています。実は、先ほどお話ししたリコーダーの動画も子どもからの発案です。教室で図画工作の作品を見せ合いましたが、1時間の授業ではすべてが見きれず、「先生、みんなの作品をTeamsに載せることはできないですか」といった意見も出ました。本当に、子どもからの声が増えていますね。Teamsを活用するとさまざまなものを校外でも共有できるので、子どもたちも何ができるのかを主体的に探っています。

持ち運びやすく、使いやすいデバイスの活用



--オンライン学習のデバイス環境はいかがですか。

大貫先生:現在学校には、学級担任や特別支援学級の各先生が使えるSurface GoのLTEモデル(SIM入り)が8台あります。これまで学校には、オンラインで映像を鮮明に映せる端末がなかったため、学校朝会や児童集会をSurface Goで実施できるのは非常に便利です。

荒石先生:私も常に教室に持ち込んで、カメラ機能などを使っています。子どもとのやりとりにも、Surface Goは使いやすいですね。

大貫先生:Surface Goは性能が良くて、画質もきれい、ペンで書くこともできるので、授業での活用がしやすいという意見は他の先生からも聞きますね。個人的に購入すると言っている先生もいます。

千葉校長:私は、デジタル端末を使用するのがあまり得意ではありませんが、それでもとても使いやすいと感じます。軽いので持ち運びにも便利です。児童集会でも、子どもたちが自らSurface Goを操作して、戸惑うことなく進行していますので、世代を問わず本当に使いやすい端末なのだと思います。

新しいことに取り組む環境が重要



--今後のオンライン活用の計画についてお聞かせください。

千葉校長:今後、学校行事などでどう活用していくかは、教職員からの意見をもとに、効率的であるものを取り入れていこうと考えます。学年や学級での活用についても、さまざまな意見が出てくるのではないでしょうか。

--先生方からアイデアが出やすい環境があるということですね。

千葉校長:そうですね。コロナ禍をきっかけに、徐々に新しいことに挑戦していける環境になってきています。

--学校を休みがちな子どものケアについての計画はありますか。

千葉校長:私はTeamsに、登校の難しい子どもたちとのコミュニケーションツールとしての可能性を感じています。もちろん、保護者との話し合いが必要ですが、タイミングが来れば、いつでも使う準備はできています。Teamsのような便利なツールが教育現場に普及して、登校しなくても十分な教育が受けられる世の中になると、良くも悪くも学校に来ることの意義が改めて問われてくるとも感じます。学校に来ても来なくても、教師と子どもたちがつながっていることを大事にしたいですね。

とりあえず、やってみよう



--これからICT活用に取り組まれる他校の先生方にメッセージをお願いします。

千葉校長:私は教職員に恵まれていると思います。ICT活用についても、新しいことをやってみようという意欲的な教職員がいる。みんな最初は経験もありませんし、ICT利用に長けた者もいれば、私みたいに苦手な者もいます。でもみんなで「とりあえず、やってみよう」と。とりあえず始めてみることが、とても大切ですね。

大貫先生:「やってみよう」という気概は確かにあります。また、先生が頑張るだけでなく、子どもたちと一緒に作り上げていけるものだと思います。

安野先生:オンラインでは、場所や空間が違っても、いろいろな人と人との「つながり」を作ることで、一緒に学んでいるという感覚が得られます。また、登校はしていても教室に入ることが難しい児童の場合でも、別室でTeamsを通じて一緒に過ごせる。そうした意味では、あらゆる教育機会に活用できる可能性があるのではないかと思います。

--ありがとうございました。

大阪市立東三国小学校
大阪市立東三国小学校

 東三国小学校の先生方からは、トラブルや課題を、マイナスではなくプラスに転じる力強さを感じた。新しいことを目の前にすると、ときにできない理由を並べることもあるが、どうしたらできるようになるのかポジティブに捉えて実行し、試行錯誤しながら活用の道を模索している姿が見られた。今後、ICTを導入する多くの学校の参考としてほしい。

《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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