国内・海外合わせて約120のロボットプログラミング教室「ロボ団」を展開する、夢見る株式会社の代表取締役 重見彰則氏に、子供たちと保護者の支持を得ている背景やその特徴、今後の展望などについて聞いた。
コロナ禍でも止まらないロボットプログラミングの学び
--イード・アワード2021「プログラミング教育」で「最優秀賞」、さらに「講師が良いプログラミング教育」「面倒見が良いプログラミング教育」「子どもが好きなプログラミング教育」の各部門賞の受賞、おめでとうございます。感想をお願いします。
うれしかったです。自分がうれしいというよりも、チームとして自分たちがやってきた教育の成果がひとつの形になって、チームのみんなに感謝したいと思いました。
--コロナ禍の中、小学校のプログラミング教育必修化が始まりました。ロボ団はこの1年、どのようにWithコロナの中で運営してきたのでしょうか。
ロボ団は、昨年の3月下旬から5月末までリアルの教室はクローズしました。「Never Stop Learning」をスローガンとして掲げ、オンライン授業を開始しました。普段はロボットプログラミング教材として「教育版レゴマインドストームEV3」を教室で貸し出しているため、子どもたちの家にはロボットがありません。そこでまず、プログラミングの知識や算数・理科に絡めた学習をオンラインで届けることから始めました。
ただロボットの良さは手で直接触れて動きを見て、わかりやすいトライ&エラーができるところです。そこでプログラミングができる「レゴブースト クリエイティブ・ボックス」という玩具版のロボットキットを、希望する生徒全員に無償配布しました。
弊社は2019年12月から家電量販店のエディオングループに入っていたので、物流や仕入れなどはエディオンのリソースを使い、生徒にキットを届けてレゴブーストを活用した授業をオプションで受講できるようにしました。結果的に退会者もほぼなく、緊急事態宣言が明けてから(取材時2021年4月15日現在)は再び教室に通っていただいています。
--全員に無償配布!子供たちの反応はいかがでしたか。
とてもうれしそうでしたね。生徒たちはもちろん、保護者からも感謝されました。家で過ごすことを余儀なくされている子供たちが、ゲームや動画視聴に長い時間を消費するのではなく、何か教育として取り組めることがないかと悩んでいた保護者も多かったのだと思います。
ロボ団のこだわりは、チームで取り組む「ペアラーニング」
--「ロボ団」の特徴やこだわりをあらためて教えてください。
まず最初にチームで取り組む「ペアラーニング」が特徴です。多くのプログラミング教室では、創造性や個性を育むために1人で取り組むスタイルです。そして学校では、社会性を身に付ける側面が強いと思います。ただ世の中は個性も社会性も両方必要ですので、ロボ団ではこのバランスをとても重視しています。
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ロボ団も開講当初は1人1台でやっていましたが、生徒たちは分からないとすぐに先生に頼りがちです。自分で粘る力にも限界が出てきて、講師たちも自分で考えて取り組むよう促しますが、やはり大人のアシストを前提とした「粘り」になってしまいます。
その点、ペアラーニングは、チームで相談しながら1人でやりきるのが難しいところにも、チームで向かっていけます。生徒たちは自分たちで乗り越えられたという自信が付き、講師は生徒たちの力を引き出すことができます。
「好き」から入って算数や理科を学ぶ
--算数・理科などの学習単元と紐付いた独自カリキュラムについて詳しく教えてください。
多くのロボットプログラミングの教室では、センサーの使い方やプログラミングの仕方を学んで動かすことが一般的です。ロボ団はコンセプト「好きを学びに、社会とつながる」を実現するため、子供たちの好きなレゴのロボットを動かすプログラミングを学びながら、自然と算数や理科、社会の学習ができるよう学習単元に紐づけたカリキュラムを自社開発して提供しています。
実際にロボ団に通う生徒と一般の生徒の約1,000人ずつに調査を行ったところ、ロボ団に通うお子さんの方が、算数・理科に対する苦手意識が低く、好きという度合いが高いとわかりました。ロボ団に通う生徒たちの多くは小学校低学年で、算数も理科も本格的にやっていないので、元々算数や理科が好きな子供たちが集まっているというわけではありません。それがロボ団で理数が好きという度合いが高まると、学校のテストの点数が平均して10点ほど高くなるという調査結果にも表れました。
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授業では、たとえばロボットを既定の距離を移動させるミッションを行いますが、この時、ロボットのタイヤの「円周」と1回転で進む距離の関係を理解しないとうまくできません。タイヤを何回転させるべきかを手計算ではなく、何cm進むか数字を入れたら自動で進むプログラムを作ります。その時に「円周」とはどういうものかを学びます。
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学校で円周率を勉強しても日常生活で使うことはあまりありません。算数は学ぶだけではなく活用することが大事で、自分の好きなものの延長線上やその周辺に、算数や理科があることを子供たちに実感してもらいます。「好き」から入ると学校の授業も聞くようになり、結果的に算数のスコアも上がります。
データの可視化でカリキュラムのクオリティ維持・向上へ
--子供たちの理解度を高める工夫などを教えてください。
テキストやカリキュラムはすべて電子化されています。ロボ団専用のアプリでは、生徒ひとりひとりにアカウントがあります。プログラミングの復習ができるクイズを解くとお子さんの得意・不得意な領域がわかり、また宿題を済ませたかどうかも保護者のスマホから確認できます。もちろん講師の管理画面でも受け持つクラス全体、あるいは生徒個別の理解度や傾向も把握できます。
プログラミングは属人的な部分も強く、理解度も塾などの勉強と違って明確に点数がつくわけではありません。そのため主観によるジャッジが多い。保護者が先生にうちの子は最近どうですかと聞いても、先生は感覚でしか答えられないことが多いでしょう。
そこで私たちの運営する120の教室では、一定のクオリティを担保するために、データに基づいて判断したうえで、講師はサポートしています。また本部に全校舎・全生徒のデータが集まりますので、今のロボ団のカリキュラムを分析して教材開発に生かしています。
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実際に子供たちがプログラミングを学ぶ中で、それが将来どう役立つかについて、保護者はお子さんになかなか説明できないと思います。だからこそ、学んでいることが日常の何かにつながっているのだと体感できる教材を作りたいと考えています。たとえば、電鉄系の会社やJAXAなどのさまざまな企業とタイアップした教材開発もそのひとつです。コンセプトの「好きを学びに社会とつながる」の体現ですね。
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生徒たちの自信と熱意が変わるロボットコンテスト
--ロボットコンテストにも積極的に取り組んでいますね。
ロボ団では「ダンカップ」というロボ団内部の大会を開催し、ワンステップ上がるとWRO(World Robot Olympiad)というレゴの大会にも出場しています。WROは毎年、全国大会に出ていますが、2018年、2019年と2年連続で日本代表選手として国際大会に出場しました。直近の2019年では小学生3チーム、中学生3チームの合計6チームの日本代表のうち3チームがロボ団でした。
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--コンテストはどのような役割を担っているのでしょうか。
普段のクラスは安心して取り組める場所です。それに対してコンテストは、全国の子供たちと切磋琢磨できる場所という位置づけです。
また、このコンテストはeスポーツのように、見ている側も楽しめるものを意識しています。この春にロボ団の生徒数は4,500人程ですが、そのおよそ1,000人がコンテストに参加しています。目標があることで生徒たちの熱意、意識が変わる。そこがコンテストの大きな役割です。
「好き」からその先の「学び」へ
--保護者や生徒の声にはどんなものがありますか。
習い事はどうしても親の意思や願いが反映されますが、ロボ団は入会前に本人に意思を確認するので、子供自身がやりたいと言わないとそもそも入会できません。子供の好きなことを伸ばしてあげたいという保護者がロボ団には多くいます。
こうした保護者から支持をいただいているのは、ロボ団が、友だちと協力しながら集中して取り組めるようになる、プレゼンで論理立てて話ができるようになるなど、保護者が子供に対して望む「こうしたスキルを身に付けてほしい」というニーズを汲んでいるからではないかと思っています。保護者の方々が「なかなかカバーできないことをやってもらえてありがたい」と感謝されることが多いですね。
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子供たちが作るロボットのデザインは、ロボ団がすべてCADで設計図を作っています。子供たちからは「そんなロボットを作れるの?」と、毎回違うロボットに期待感を持って参加してもらえています。こうした子供たちの興味関心を高めて、その先の数学的な思考や集中力につなげられるのは良い循環だと思います。
--講師の育成はどのように行っているのでしょうか。
講師にはティーチングではなくコーチングを徹底しています。ロボ団の資格制度によるライセンスを持つ人しか講師になれず、子供たちには教えられません。かなり厳しい基準を設定しています。また、約120ある教室のうち、およそ20教室が直営で、他はフランチャイズ(以下FC)ですが、今ロボ団にFCで新しく入る教室はすべて、塾などの併設ではなく「ロボ団専業」です。
--「講師が良いプログラミング教育」を受賞されている理由ですね。
別業界の方々が教育をやりたいとFCで参入される場合でも、完全に新規事業としてロボ団専任のスタッフを採用してもらい、教室もロボ団専用の場所を作ってもらっています。専業として本気でやるからこそ、良い環境ができると思っています。
STEAM教育は子供の「好き」がベース
--GIGAスクール構想の影響を感じることはありますか。
タイピングができる生徒が増えましたね。昨年からチャットを使うことが増えて、特にそう感じます。GIGAスクール構想やプログラミング教育の必修化で年々、プログラミング教室に通うハードルは下がっています。ロボ団の教室への入会率も上がっているのは、自分たちの努力だけではなく、やはりプログラミング教室や学校のIT活用も認知されてきたのだと思います。またコロナ禍で保護者も仕事にITスキルが必要という意識が高まりました。
--STEAM教育の役割をどう捉えていますか。
子供たちは大人が想像できないことを想像したり、レゴやプラレールを作るのが好きだったり、絵を描いたり、砂場で遊んだりと、すでにSTEAMのどれかの領域を好きだったりしますよね。STEAMの役割は、そうした、お子さんの好きなことを伸ばす、子供が夢中になれることを応援する状態を早期に作ること、ととらえています。
年齢が上がればどうしても進学に目が向きがちになります。ですので「早期」というのはとても大切なポイントですね。
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--子供にSTEAMをやらせるというよりも、子供の「好き」を見ることが大事ということですね。
子供たちの好きなことが何かを見れば、分野横断的にSTEAMの何かに関わることが多いんです。ゼロから何かの形にしていく作業を、ほぼすべての子供たちが経験します。STEAMには、子供たちが興味や関心があるタイミングで、好きなことを学びにつなげるチャンスがあると思います。
失敗を重ねてやりきる体験が心を動かす
--生徒たちが輝く瞬間を教えてください。
やはり「できた!」という時のリアクションですね。数多くの失敗を経て、子供たちなりの山や谷を超えて来ています。積極的なトライ&エラーを繰り返している。だから子供たちの「できた!」に、かかわる大人たちも心が動かされるのだと思います。
ロボ団の“団”は、do, did, doneの“done”です。その仕事をやりきった、完了したという意味が込められています。子供たちは、やりきって良かったら次もまた頑張れる。失敗して終わっても、過去のやりきった経験があれば頑張れるのです。そうした子供たちの姿は輝いていますし、見ているととてもうれしい気持ちになります。
さらに社会とつながる「ロボ団」の未来
--今後の展望を教えてください。
教育面では、まずオフラインとオンラインの融合です。今はオフライン、つまりリアルの教室がメインですが、オンラインも活用できます。ただ小学校の低学年には保護者のサポートがないとオンラインオンリーは難しいため、ロボ団の入口となる年齢にはリアルの教室が必要です。リアルの教室の弱点は、週に1回だけという、圧倒的に短い時間しか関われないこと。そのため今後は、オフラインをベースにしながらも、オンラインで補足するという位置づけで価値を高めた教育サービスを目指します。
次に卒業生向けのサービス。卒業生が毎年数百人にのぼっています。ロボ団では「Python」というプログラミング言語を最後のコースで1年間かけて習得し、自分の作りたいものを卒業制作して発表します。ただプログラミングは英語と同じ。英語も、話せたら社会で活躍できるかというと違いますよね。ですから次のステップとして、プログラミングに加えて次の武器を探すための講座やコンテンツを今秋にリリースする予定です。
「好き」から始めて学んだことが自分のキャリアの選択肢を広げ、それを武器に生きていくことにつながる。そのためのラストワンマイルのサービスです。私たちロボ団が目指す「社会とつながる」という教育のひとつの到達点になると思います。
ビジネス面では、エディオングループで教室をさらに展開する予定です。全国にエディオンの直営店舗が430、FCも入れると1,200弱の店舗があるので、可能なところから教室を増やします。すでにこの1年間で関西中心の店舗に複数出店し、実験的なものはほぼ済んでいますので、ここからという感じです。エディオングループで、1人でも多くの子供たちにロボ団の教育を届けることを目指します。
--ありがとうございました。
重見氏へのインタビューからは、これからの教育への思いに基づく「実行力」を強く感じた。ロボットプログラミングを入口に社会とつながる「ロボ団」ならではの拡がりと、卒業生とともに生み出していく今後の展開に期待は高まる。