参画企業は約680社、官民連携で子供を笑顔に「こどもスマイルムーブメント」開始

 東京都は2021年12月19日、幅広い主体の連携により「チルドレンファースト」の社会を創出する「こどもスマイルムーブメント」のスタートアップイベント「キックオフ・アクション」をオンラインで開催した。

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「こどもスマイルムーブメント」のスタートアップイベントでのディスカッションのようす
「こどもスマイルムーブメント」のスタートアップイベントでのディスカッションのようす 全 7 枚 拡大写真

 東京都は2021年12月19日、幅広い主体の連携により「チルドレンファースト」の社会を創出する「こどもスマイルムーブメント」のスタートアップイベント「キックオフ・アクション」をオンラインで開催した。

 「こどもスマイルムーブメント」は、行政、企業、大学・学校、NPO等の幅広い主体が連携した子供の目線を大切にしたアクションを推進する取組み。子供を大切にする社会気運を広め、現在と未来の子供の笑顔があふれる「チルドレンファースト」の社会を実現する東京都の取組みだ。都は同年3月に策定した都の総合計画である「未来の東京」戦略において「子供の笑顔のための戦略」を第一に掲げて子供政策を戦略の中核に位置付けている。また、同月に制定した「東京都こども基本条例」も踏まえ、子供目線に立った政策を強化しており、今回の「こどもスマイルムーブメント」はその一環としてスタートした。

 キックオフ・アクションでは、同ムーブメントの概要や、参画企業等の具体的な行動方針となる「こどもスマイルムーブメント」宣言、「未来の東京を考える授業」ワークショップ等に参加した子供たちによる取組みなどが発表された。また、「チルドレンファースト」の社会の実現に向けて、東京都知事の小池百合子氏、衆議院議員・野田聖子氏(内閣府特命担当、女性活躍担当、こども政策担当、孤独・孤立対策担当)、東京大学名誉教授・学習院大学文学部教授の秋田喜代美氏、タレントの香取慎吾氏らが登壇し、ディスカッションを行った。

すべての子供が健やかに成長を…官民が全力サポート



 キックオフ・アクションではフリーアナウンサーの大熊英司氏が司会を務め、まず「こどもスマイルムーブメント」の概要を紹介した。

 これは行政や企業、経済・労働団体、大学・学校、NPOなど多様な主体が連携して子供の目線を大切にした取組みを推進することで「チルドレンファースト」の社会を創出する都の事業。具体的には

(1)遊びや学び等、子供の成長を全力で応援(自然体験、スポーツ・文化体験など)
(2)社会のさまざまな場面で子供の参画の機会を創出(モニター意見、子供の参加した公園づくりなど)
(3)子供を大切にする社会の実現に向けた気運醸成(子供向けイベント、子供割引など)
(4)誰1人取り残されないように子供をサポート(学習支援、インクルーシブ公園など)
(5)子供にやさしいまちづくり、商品・サービスの創出(安全性を追求した商品、子供目線に立ったまちづくりなど)
(6)子育てと無理なく両立できる働き方の推進(男性の育児休暇取得促進、職場と家族のつながり促進など)

を推進し、チルドレンファーストの社会構築へつなげようとするもの。大熊氏は、この事業にはすでに多くの企業が賛同しており、イベント当日にはおよそ250の企業・団体が参加していると説明。会場スクリーンにはオンラインで参加している参画企業・団体の代表者の大勢が映された。

「こどもスマイルムーブメント」宣言

 そして、香取氏を応援ゲストに迎え、参画企業・団体が具体的な行動方針である「こどもスマイルムーブメント宣言」が発表された。内容は「こどもスマイルムーブメント」に参画し、すべての子供が希望をもって自らの未来を切り拓いていけるよう、子供の笑顔があふれる「チルドレンファーストの社会」の実現に向けて、すべての子供が今と将来への希望をもって、伸び伸びと健やかに成長できるよう、全力でサポートすること子供が社会の一員としてさまざまな場面で参画できる機会の創出に努め、子供の目線に立った取組を推進すること社会全体で「子供を大切にする」気運を醸成し、安心して働き、子育てができる環境づくりに取り組むことの3点を宣言したもの。同宣言を受けて、香取氏をはじめ、イベントに参加している参画企業・団体の代表者らが拍手で賛同し、ムーブメントに取り組む意思を共有した。

小学生絵画コンクールプロジェクト:未来のベイエリアを子供目線で形作る



 ついで、東京都が進めている子供の意見や目線を大事にした取組みとして、「未来の東京を考える授業」ワークショップ等に参加した子供たちによる取組みが発表された。取組みの内容は、(1)「みんなでつくろう!未来のベイエリア」絵画コンクールに参加した小学生の取組み、(2)2040年の東京を想像しながら理想の未来の東京のために自分が何ができるのか議論した中学生の取組み、(3)東京都「こどもホームページ」作成メンバーの小学生の取組みの3つ。

 (1)の絵画コンクールに参加した小学生の取組みに関しては、50年後、100年後の未来のベイエリアをテーマにした絵画コンクールに参加した小学生たちの中から、優秀賞受賞者をレゴランド・ディスカバリー・センター東京に招待。レゴ職人である「マスター・モデル・ビルダー」と一緒に、自分たちで描いた絵の街をレゴブロックで表現し、みんなでレゴブロックの街を組み合わせて、未来のベイエリアを完成させた。

 小学3年生の金田さんはレゴブロックで「歩くエスカレーターでつながるベイエリア」を表現、海沿いの東京の各エリアが歩くエスカレータでつながり自由に行き来できる街が描かれ、「東京の海がいろんな魚が泳いでいろんな船がいてほしいです」と語った。また、小学5年生の邑本さんは「未来の水中都市」と題して海の中の都市空間を描き、未来の東京については、「みんなが住みやすくて差別の心配がいらないような、安心して暮らせるまち。英語など翻訳してくれるものをどんどん取り入れてほしい」と希望した。この取組みについて、香取氏は「素敵です。未来はこうなるんだろうなというのが、みんなのカラフルなアートから見えてくる」とコメントした。

アートの観点から子供たちの活動を賞賛するタレントの香取慎吾氏

中学生ディスカッションプロジェクト:すべての人がつながり分かり合える東京



 (2)の中学生の取組みは、「『未来の東京』を考える授業」ワークショップに葛飾区立水元中学校、府中市立浅間中学校の生徒が参加。東京都が策定した「未来の東京」戦略を参考に、2040年の自分を想像しながら理想の未来の東京のために自分が何ができるかを考え、議論を行い、その成果を動画にまとめた。

 水元中学校は「お互いを認め合うために、違う考え方の2人が意見をぶつけて、考えを変えられたら良い」などと議論し、動画にて「日本で1番、人が集まる東京。お互いが分かり合えているか」と問題を提起した。「高齢者にもゲームの魅力を知ってほしい」「高齢者のことも知りたい」「私たちの理想の東京。話し合い、互いを認め合う東京になってほしい」と訴え、認め合う心をもつ、分かり合える方法として、学校で多様な価値観を知り合うランダムトークのレクリエーションなどをやりたいと語り、「話し合い、互いを認め合う東京をつくる第一歩にしたい」と強調した。

 一方、浅間中学校は、人と人がつながるために何ができるか考え、「府中市を回る活動を地域の大人の人と一緒にできれば良い」、「自分たちが学んだ技術を高齢者や小さい子にレクチャーする機会を作って広めていく」、「スポーツを通して関われる場があったら良い。学校を開放してスポーツできる場を増やす」などのアイデアを発出。こうした議論をふまえ、動画では「『すべての人がつながる東京』へ」と題し、地域の人と自分たちの街を知ろう、学んだ技術を全世代に広げよう、スポーツを通して関われる場をつくろうと呼びかけた。

 これに対して、香取氏は「僕ら大人にも変えられることもあるかもしれないけど、子供たちは思うだけではなく、言葉にしてそれをみんなでぶつけ合っている。そうした時間は大事なんだなと感じました」とコメントした。

率直に言葉にしてぶつけ合う、子供ならではの感性の大切さを語る香取氏

小学生ホームページプロジェクト:ホームページで子供自ら東京の魅力を発信



 (3)東京都「こどもホームページ」作成メンバーの小学生の取組み。同ホームページは東京の魅力や都政と子供をつなげる目的のもと、子供の自由な発想やアイデアを取り入れてつくられるもので、子供たちは魅力的なホームページを作成するためにワークショップでいろいろな意見を出し合っている。

 子供たちはホームぺージ作成メンバーになった理由について、「自分が行ったことがあるところをホームぺージで知らせたい」、「学校のホームページを作る委員会に入っていて、さらに東京都の魅力が伝えられるようになったらと思った」などとコメント。東京都の魅力については、「交通の利便性」、「大きな都市なのに治安がよいところ」、「自然や文化を守る姿が東京都の魅力」など、ホームページ作成を通して今後達成したいことについては、「東京都のことをもっと知って東京都の魅力をみんなの言葉でほかの知らない人に伝えられるようになりたい」、「住んでいる人からはずっと住みたい、他の県に住んでいる人からは東京に行ってみたいと思われるようにしたい」などと抱負が語られた。東京都は今後もワークショップを行い子供目線を取り入れたホームページを作成していくとしている。

 その後、小池氏、野田氏、秋田氏も登壇し、会場参加しているこれらの取組みに参加した子供たちとの対話が行われた。「みんなでつくろう!未来のベイエリア」絵画コンクールの活動については、小池氏は「邑本さんの絵で『差別の心配なく暮らせる東京に』というのは本当に素晴らしいと思います。翻訳してくれる機能についても言及がありましたけど、もっといろんな国の人と自由に喋れたらとか、いろんな文化に触れられたら、など具体的な街をレゴで街づくりまでしてくれたそうで。ありがとう」と語った。これを受けて邑本さんは「外国の知らない文化もたくさんあるので、もっといろんなことを知ってみたい。レゴで絵を立体にするのは最初は難しいかなと思ってたけど、やってみると楽しくて夢中になった」と楽しそうに語った。

取組みに参加した子供たちと登壇社とのオンラインディスカッションのようす

 また、未来の東京を考える授業の中学生の活動について、小池氏は「つながりあうとか、違いを超えるということがキーワードになっている。みなさんがこれまでの経験でつながることや話し合いを通じて解決できたことは?」と中学生に質問。中学生らは「合唱祭でクラスがバラバラになったときがあったけど、まずは意識の高い生徒たちで話し合って練習態度を見せたことでクラスが1つになり、みんな納得できる合唱ができた」「SDGsの授業で、僕は多様性や平等が大事だと思ったけど、グループの人は地球環境だと言ったので、自分の視野が広がった」など自分の経験を語った。それを受け小池氏は「素晴らしい。そんな体験をぜひ東京中に広げていってほしい」と称賛した。

 また「こどもホームページ」については、小池氏や、小学校のホームページ委員会も担当している池上さんに具体的な作業や役割について質問。池上さんは「タブレットを使ってこれから入学する子供たちに向けて、学校のキャラクターを取り入れながら、授業や行事などについてわかりやすく紹介するキッズページを作ったり、大人向けには新聞をつくるソフトなどを使って記事を書いている」と説明。これには小池氏、香取氏から「すごい」「ぜひその経験を生かしてほしい」と感嘆の声があがった。

子供を社会の真ん中…子供が主役の日本に作り替える



 最後に、小池氏、野田氏、秋田氏、香取氏の4人で「こどもスマイルムーブメント」の活動の意義や社会で子供を育むために必要なことなどについて議論した。

 香取氏による「子供たちの意見を聞く取組みに力をいれるのはなぜか」という事業背景に関する質問に、小池氏は「東京都で制定した子ども条例には、子供は社会の宝であって、みんなで育んでいかなければいけないという思いを詰め込んでいる。内閣府の調査で、子供を産み育てやすいと思う人が欧米では8~9割だが、日本は4割未満だという調査結果があった。子育て世帯が周囲に気兼ねをしたり、少し前までは男性が育休を取ることへの非難もあったりした。そうした意識を変え、制度を変えていくことによって少子化の現状を変えていかないといけないし、子供が輝いているからこそ社会が活気づいていく。子育てをしやすい町、東京にしていく」と話した。

「つながりあう・違いを超えるということがキーワード」と話す東京都知事の小池百合子氏

 さらに「東京都庁でも『イクボス宣言』を進めており、まず上司が部下の子育てを理解しないといけない。仕事と子育てが無理なく両立する東京を作っていくには企業の取組みも不可欠で、このムーブメントの参画企業数は現在約680になっている。今日のイベントもオンラインで3,000名ほど観覧していて、会場にいる人とオンラインの人とで、ムーブメントを作っていき、子供を産み育てやすい、子供が輝く東京にしていきたい」と現在の取組み状況を交えて述べた。

 これに対して、香取氏は「子供のスマイルのムーブメントを起こすには大人のスマイルも大事だと感じた」とし、「『みんなで子供を育む』『社会全体で育む』とはどんなイメージか」とさらに質問。小池氏は「子育てが楽しいと考えている国がある一方で、日本の場合はそうした意見が少ない。(子育てを)負担に思わざるを得ない社会になってしまってはいけない。国でこども家庭庁をつくる計画もあり、うまく国とも連携していきたい」と回答した。さらに「2030年までに男性の育休取得率90%を目指そうと思っている。実現するためには意識改革が必要だが、残業が多いほどよいという意識を変えたい」と具体的な展望を語った。

「こども家庭庁」についても言及する衆議院議員・野田聖子氏

 野田氏は、「子供たちのことを考えて決める国会議員の平均が60歳くらいで、大人だけで物事を考えて進めるには限界が来ている。日本を明るい未来にするためには、主役を子供たちにする、子供たちが日本のど真ん中にきてくれること。みんなが持っている宝を掘り当てて、それを広げていこうと。子供を主役にした日本に作り替えようというのが『こどもまんなか』政策。これは世界で初めての言葉で、子供が自分がやりたいことを言う。そうした子供の意見を大人がもらって、子供の力を生かした日本をつくる。そのために『こども家庭庁』を新しく作り、すべての子供の思いがそこに集まるようにして、その中から新しい形を作っていく。子供たちは自分たちが毎日笑っていられるように、何をしたら良いかどんどん投げかけてほしい」と語った。

遊びを通して子供の自己肯定感と幸福を育む



子供にとっての「遊び」の大切さを指摘する東京大学名誉教授・学習院大学文学部教授の秋田喜代美氏

 また、秋田氏は「子供の成長には、遊びがとても大事」と指摘。同氏は「遊びに夢中になって没頭し、他の仲間とつながることによって意欲が高まったり、コミュニケーション力、忍耐力が育つ。コロナや子供の声がうるさいといった声により、子供に不寛容な社会に変わってきていないかと懸念している。OECDが世界の子供4,700人にどんな遊びが好きか聞いたところ、自分たちでいろいろ考えて作り出していく遊び、思いっきり体を動かす遊びが好きだと判明した。そういう遊びが子供の創造力や元気に動く力を育むが、一方でユニセフが子供の自己肯定感を調べたところ、日本は38か国中37位だった。『やった』『できた』『もっとこうしたい』という気持ちを育んでいくことが子供のウェルビーイング、幸福につながっていくのではないか。子供の幸福を育むには、社会みんなでサポートしていくことが非常重要であり、今回のこどもスマイルムーブメントで行政も企業もみんなで子供を支えていく形ができれば」と活動の意義を語った。

 最後に、小池氏から「ひとりひとりのアクションが『こどもスマイルムーブメント』につながる。これからも子供が笑顔の東京を作っていきたい。今日のキックオフアクションを皮切りに官民一体となってムーブメントの輪を広げていきましょう」と呼びかけられ、参加者全員の拍手でイベントの幕が閉じた。

《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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