量の変化、ダイエット願望、不規則な食事時間…思春期ならではの「食悩み」を解決

 管理栄養士・アスリートフードマイスターとして、子育ての経験を生かしながら小中学生の保護者やスポーツチーム等で子供の栄養指導を行ってきた貴田都代子氏に、小学校4年生から6年生までのご家庭を対象に、家庭でできる思春期の栄養管理、食事管理についてお話を伺った。

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他人と自分を比較しがちな思春期はダイエット欲も出てくる年頃
他人と自分を比較しがちな思春期はダイエット欲も出てくる年頃 全 5 枚 拡大写真

 「五合の炊飯器1つじゃ足りない」。運動部の男の子をもつママ友の衝撃的な発言が記憶に残っている。「食べ物に困らず健やかに育つように」と願うお食い初めから始まり、子供がいくつになっても悩む「食事」のこと。ママ友同士の会話はあれど、他の家庭の実際の食卓のようすは見えづらく、親は年齢に応じた適切な量や栄養素をなかなか把握しづらいものである。

 管理栄養士、アスリートフードマイスターとして、子育ての経験を生かしながら小中学生の保護者やスポーツチーム等で子供の栄養指導を行っている貴田都代子氏に、小学校4年生から6年生までのご家庭を対象に、家庭でできる思春期の栄養管理、食事管理について話を聞いた。

小さなころから「カルシウム貯金」を



--心も身体も成長真っ只中の思春期。この時期だからこそ取り入れたい栄養素はありますか。また、それぞれの栄養素にはどのような効果がありますか。

 大人の食事は日常生活の健康維持がおもな目的ですが、子供はさらに、成長やスポーツや勉強に必要な栄養も摂る必要があります。さまざまな栄養素をバランス良く摂ることが基本ですが、体重あたりのエネルギー量や栄養は大人より多く必要です。

 大事な栄養素を大きく分けると、
(1) エネルギー源になる「炭水化物」と「脂質」
(2) 身体の材料になる「タンパク質」
(3) 体調を整えるための「ビタミン」や「ミネラル」

の3つ。これらの栄養素がどれか1つでも足りないと、子供の身体づくりは完成しません。特にミネラルの中の「カルシウム」は成長期に不足させたくない栄養素の1つです。

 それぞれの栄養素をみると、まず、カルシウムは骨の発育と健康に重要な役割を果たす、成長期に特に必要な栄養素です。カルシウム量は20歳前後で骨の中の貯蓄量がピークを迎え、その後は加齢とともに減少に向かいます。成長期にカルシウムの貯蓄量をぐんと上げておくことで、高齢者に増加している「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」を防ぐことができます。将来の子供の骨のためにも、牛乳や小魚、緑黄色野菜からこまめに摂取して「カルシウム貯金」を増やしてほしいですね。

 次に、身体を動かすためだけでなく、骨を作るときのエネルギー源にもなるのが、炭水化物です。最近は脂質を摂りすぎている子が多いのですが、エネルギーは本来、主食である炭水化物の糖質から取ることが望ましいです。また、カルシウムの効率的な吸収を助けるのがビタミンD。ビタミンDは皮膚で陽の光を浴びることで生成されますので、屋内でもできるだけ窓際に座る等、日光浴を意識してみてください。きのこやサーモンが入ったクリームシチューも、ビタミンDが含まれているのでお勧めですよ。

--近年の子供たちの食の「好き嫌い」事情について教えてください。

 食生活が豊かになり、昔より子供時代に出会う食品の絶対数が多くなっています。それによって苦手な食材に出会う確率が高くなり、結果的に、好き嫌いのある子供が増えているようにみえるのです。とはいえ、幼いころからさまざまな食材に出会うこと自体は非常に良いこと。もし好き嫌いがあったとしても、無理に押し付ける必要はありません。見た目や食感での好き嫌いは、年齢が上がるにつれ、人付き合いやダイエットがきっかけで克服できることが多いのです。親としては「せっかく作ったのに何で食べてくれないの」と辛くなってしまうこともあるかもしれませんが、同じ栄養素を他の食べ物から摂れば良いと気楽にスイッチを切り替えられると良いですね。まずは幼児期から「楽しく食べようね」と家族で食事に向かうことが、食育の第一歩になります。

1日の推奨量の4割をまかなう「学校給食」の偉大さ



--学校給食について教えてください。成長期の子供のために、どのような点に気を付けて献立が組み立てられているのでしょうか。小学校と中学校の違いはありますか。

 学校給食は、文部科学省が策定した「学校給食実施基準」に基づいて各学校や給食センターで献立が考えられています。この基準は随時見直されていますが、昨今では、食塩や脂質を摂りすぎている子が顕著に多いことから、子供たちの将来の健康や生活習慣病予防も考慮されている印象です。

 また、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」を参考に、給食における子供1人1回あたりの栄養素ごとの基準値も設けられています。「日本人の食事摂取基準」ではより多く摂ることが望ましい栄養素には「推奨量」、反対に摂りすぎてはいけない栄養素には「耐容上限量」が定められており、1日の推奨量の40%前後を給食で補うことが目指されています。ミネラルは鉱物なので「耐容上限量」を設定されているものが多く、レバー等に含まれるビタミンAは、「推奨量」も「耐用上限量」も両方設定されていますが、給食ではいずれも、摂りすぎになることはまずないので安心して大丈夫です。また、中学校になると自治体によっては給食がなくなるため、これまで給食で摂っていた栄養素をお弁当で補う必要があります。

 また学校給食においても、以前から変わらず危惧されているのは、カルシウムの摂取不足です。多くの家庭が給食の乳製品に頼っているという調査結果もあり、給食のない日でも牛乳だけは提供する「ミルク給食」を実施している自治体もあります。カルシウムは、積極的に家庭でも摂取するようにしてくださいね。

運動部男子は母親の1.2倍以上、文化部女子は少なめ



--中学入学後は、部活動によっても食事の必要摂取量が大きく変わるのではないでしょうか。文化部、運動部それぞれの適当な食事量や必要な栄養素について教えてください。

 成長期の子供の食事量は、大人の女性を基準に考えるとわかりやすいと思います。たとえば、運動量の多い男子は、ご飯もおかずも母親の1.2倍以上必要です。一方、文化部等で運動量の少ない女子の場合には、ご飯もおかずも母親の0.8倍~1倍程度の量が適当です。

 運動したり、勉強したりといった活動にはエネルギーが必要ですが、冒頭でもお伝えしたとおり、エネルギーは脂質からではなく、消化が良く脳の栄養にもなる炭水化物の糖質から摂ることが望ましいのです。ご飯やパン、麺類といった主食の中でも、特に糖質を消化吸収しやすいのは、おもち、うどん、パン、パスタといった米粉や小麦粉を使ったものです。私が試験勉強中の夜食にうどんや雑炊をお勧めするのは、消化吸収が早く、喉越しや口溶けも良く、食べやすいからです。

 また、スポーツをしている子には「ダブルタンパク質」をテーマに、納豆や卵料理等のように簡単に1品増やせるものでタンパク質源を増やしてあげると良いです。

--子供のタンパク源として扱いやすい食材に卵があると思います。先ほど「生活習慣病」のお話もありましたが、卵の食べ過ぎは悪影響でしょうか。

 卵の摂取量については一時期「摂りすぎは良くない」という世論がありましたが、ここ数年で学会等でも見解が見直され、現在は「1日3食卵を食べても大丈夫」というのが通説です。以前の論では卵が「悪玉コレステロールを増やす原因」とされていましたが、卵の摂取が悪玉コレステロールの増加に直結するという調査結果はありません。ただし、卵の黄身は脂肪ですので、脂肪を摂りすぎないようにという点で注意する必要はあります。卵に限らず、1日に摂取する脂質が多ければ「悪玉コレステロール」が増える要因となるので、1日の食事全体のバランスを調整することが大切ですね。

ダイエット願望、食事時間の乱れ…思春期ならではの「食悩み」解消のポイント



--思春期は「ダイエットしたい」と言い出す子供も出てくる時期です。その際の親のフォローと、提供すべき食事例を教えてください。

 そもそもダイエットが必要かどうかは、身長と体重のバランスをみて考えなくてはいけません。ダイエットや健康に関して、インターネットやSNSにはたくさんの情報があふれ、あたかもすべて正しいものかのように誤認しがちです。保護者も情報を取捨選択して、正しい知識を学んでほしいところです。食事量を急激に控えれば短期的には痩せますが、デメリットが多くあります。食事制限だけで痩せると筋肉が落ち、リバウンドすると今度は脂肪だけがつきます。

 思春期は流行にも敏感ですし、カフェの新作や人気のお菓子を食べたいという欲もあると思いますが、そういった余分なものを控えさせるのが1番の近道です。特に菓子パンは、子供もコンビニ等で手に取りやすい一方で、栄養士業界では「菓子であってパンではない」(提唱:神奈川県立保健福祉大学・鈴木志保子教授)と言われるほど、腹持ちも良くなく、太る原因になるものです。パンを食べるときはサンドイッチや惣菜パンを選び、野菜や海藻、きのこ類を多めに摂る等の工夫が大事です。

 自分の食べたものを記録する「レコーディングダイエット」も十分効果があります。食生活を改善するために献立づくりなどで我慢や無理を強いることもありませんし、何より自分の食生活を見つめるきっかけになります。

--思春期という年頃に相まって、塾や習い事、部活動などで生活が乱れがちな子供多いのでは。それでも毎日健康的に過ごすための食事のコツはありますか。

 朝食の欠食は赤信号。夕食で摂った栄養素は寝ている間に使われてしまいます。朝食を摂らずに昼まで過ごすとなると、本来身体の一部として蓄えているものを、活動のためのパワーとして使わざるを得ません。朝から一汁三菜と果物という食事はもちろん理想ですが、まずはハムチーズトースト、鮭フレークご飯、納豆ご飯等の軽食で十分です。朝から食欲が湧かない子供には、そういったもののほうが負担なく食べられる場合もあります。前日に作った汁物に、野菜やうどん、マカロニを追加して作るのも短時間で作れますし、食べやすいので良いですよ。

 また、夕食に関しては栄養素ごとに時間を分けて食べる「分食」も有効です。たとえばスポーツをする子供の場合、おにぎりやたい焼きといった糖質を運動の前に食べ、運動後には肉まんやハムトースト等、糖質に少しタンパク質をプラスしたものを食べます。そして帰宅後、就寝までに2時間を切る場合には、軽めの夕食を取るか、リゾット等胃腸にやさしいものを食べます。

 一方、塾に通う子供の場合は、糖質を一気に摂ると、血糖値がグーンと上がり眠気を誘発してしまうので、塾前の補食はサラダチキン等タンパク質をメインに考えましょう。帰宅後に、リゾットやうどん等の糖質と、再度タンパク質を摂取するのが良いですね。

--子供の運動量や行動によって、摂取量やタイミングを考えることが大事ですね。貴重なお話、ありがとうございました。

 「親が作りやすく、子供が食べやすいもので栄養素を摂取して」と話す貴田氏。親自身も忙しい毎日ではあるが、カルシウムやエネルギーといった成長期に特に必要な栄養素を積極的に摂り、塾やスポーツといった子供の行動に合わせてタイミング良く補給してあげる等、できるところから取り入れていくことで、子供の心身共に健やかな育ちにつながるのではないだろうか。

<貴田 都代子氏 プロフィール>
 管理栄養士として料理学校講師歴10年、その後は乳業メーカーにてママ&ベビー向け栄養指導に携る。現在はトレーナー養成専門学校にて教鞭を取る(栄養学を担当)。また大学体育会水泳部等スポーツチームの栄養サポート、スポーツクラブでの保健指導、シニア健康教室での栄養指導など、さまざまなシチュエーションでスポーツと関わる老若男女の方々へ、ココロとカラダの健康を保ち、結果に結びつく食事方法をアドバイスをしている。 ◆公式Webサイト:アスリートフードマイスター

《土取真以子》

土取真以子

関西在住の編集・ライター。教育、子育て、ライフスタイル、お出かけのジャンルを中心に、インタビュー記事やイベントレポートなどの執筆を手がける。教育への関心が強く、自身の出産後に保育士資格を取得。趣味が旅行とハイキングで、目標は親子で四国お遍路&スペイン巡礼。

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