わが子は「自分の分身」ではない、親子ともに豊かな人生を…ボーク重子さん&スカイさん親子対談(後編)

 2022年6月15日、書籍『しなさいと言わない子育て』(サンマーク出版)が発売された。著者は非認知能力育児のパイオニアとして知られるボーク重子さん。来日した重子さんと娘のスカイさんに、ボーク家で実践されていた「非認知能力を育む子育て」について話を聞いた。

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新刊『しなさいと言わない子育て』の出版イベントのために来日したボーク重子さん・スカイさん親子
新刊『しなさいと言わない子育て』の出版イベントのために来日したボーク重子さん・スカイさん親子 全 5 枚 拡大写真

 世界最先端の非認知能力育児のパイオニアであり、子育てや女性のキャリア構築などの講演会やワークショップを数多く行っているボーク重子さんが、2022年6月『しなさいと言わない子育て』(サンマーク出版)を出版した。指示命令ばかりの子育てから脱するためのヒントが詰まっている1冊だ。

 米最優秀女子高生コンテストで優勝した重子さんの娘・スカイさんとともに、ボーク家で実践されていた「究極の自己肯定感を育む家庭での声がけ」について聞いた。

>> 前編「非認知能力育児と英才教育との『大きな違い』」を読む

家族は、1つの「ユニット」



--ボーク家のご家庭のようすを教えていただけますか。スカイさんは、ご友人の家族と自分の家族と、違う点など感じたことはありますか。

スカイさん:私の両親は、年齢や立場問わず、フラットな家族の価値観をもっていると思います。私の友人が家に来ても、まるで自分の友人かのように一緒に遊びますし、話もします。親が絶対で、子供はそれに従う関係の家庭もありますが、わが家は横並びの関係です。

 私がひとりっ子だからかもしれませんが、3人で1つの「ユニット」というイメージです。大人対子供として分断されることなく、家族3人で楽しく生きていくためにはどうすれば良いかということを一緒に考えていたように思います。

--家族の在り方の意識が他の家庭と違ったと。スカイさんも、自分の家族の形を感じながら過ごしていたのですね。

スカイさん:ユニットのメンバーとして、自分の話をよく聞いてもらっている実感がありました。向き合ってもらっているというか。

重子さん:夕食時はTVやスマホをつけず、家族で会話を楽しむことが、わが家のルールなんです。

スカイさん:今思うと、日々の会話の中身も、他の家庭とは違うのかもしれません。「今日はどうだった?」というような日常会話ももちろんありますが、社会問題や世界のニュースなどの時事問題やコンセプチュアルな話題も多いんです。

重子さん:私も夫も、まったく違う分野の仕事をしているので、お互いが見ている世界について話すことも多いですね。夫は弁護士でアパルトヘイトや黒人問題などに造詣が深いので、彼が民族問題に関する問題提起をしたり、私はアートが専門なので、現代アートの潮流などを話したり。

--家族でディスカッションするということですか?

重子さん:ディスカッションというと仰々しいですが、みんながそれぞれ自分が思ったことを語り合うんです。例えば、展覧会を見に行った日には「どのアートが好きだった?」という話だけでなく、「なんで、この時期にあの展覧会を企画したんだろう」というように時事問題を絡めて、発展させながら対話する。

 正解は求めないし、そもそも正解がないテーマもたくさん話します。時間がいくらあっても足りないくらい、家族でのおしゃべりが尽きないんです。相手の思考のプロセスを知ることもできますし、自分の論理的思考力を養うこともできる。世界で起こっている問題に「自分だったらどうするか?」と問う、クリティカルシンキングは最高の遊びになるんです。おすすめですよ。

人生の責任は、自分にしかとれない



--スカイさん、他に「これは他のママやパパと違うな」と思ったことはありますか。

スカイさん:若いころ、バンドを組んでいてロックシンガーになろうとした時点で、他のママと違うと思うけれど(笑)。

 そうですね、ママが他のママと1番違うところは、自分らしく生きるということにすごくコミットしているところだと思います。自分の中で譲れないポイントが何かを分かっているところですね。

重子さん:それはすごくうれしい言葉だわ! 確かに、自分の大事にしたいところを守るために、戦います。他人からの批判も、心配の声も、余計なお世話も、鵜呑みにしてブレるのでなく、「どうしてそう思うんだろう」とまず疑問に思い、そのうえで同意も共感もできなければ、あとは自分を信じて前進あるのみです。

 私が初めて中国現代アート専門のギャラリーを開いたときも、散々「失敗する」と言われ続けました。でも、当時の私は「アジアの素晴らしさ、美しさを現代アートを通じて知ってほしい」というパッションがあったので、ブレなかった。その代わり「どうやったらうまくいくだろうか」にフォーカスしました。

 アメリカで娘の幼稚園を選ぶときも、同じアジア系のママたちからは「その幼稚園では、スカイちゃんが後で苦労するよ」などいろいろと言われました。でも、非認知能力の大切さをすでに感じていた私は「幼少期の今必要なのは、心の強さや自己肯定感を育む環境だ」という信念を貫きました。

--自分のパッションを信じて、大切なところは譲らない。強い意思を感じます。

重子さん:だって、とやかく批判したり、お節介なアドバイスをくれたりしたとしても、結局この人生を歩むのは私だから。自分の人生は、自分で責任をとるしかないんです。いろんな声に耳を傾けたとしても、鵜呑みにするのではなく、考え、検証し、時に無視して自分の納得のいく選択をしたいと思うのです。自分を幸せにできるのは自分だけ

 だからと言って、別にすべてのことに対して自分軸をもっているわけではありません。流されて良いところと守るところを見極めて、本当に自分のエネルギーを使うべきところに使う。「自分の人生を生きる」とは、すべてを自分の思うとおりにすることではなくて、譲れない自分軸を知り、それを大切にすることだと思っています。

--現在の日本社会では、自分軸をもちにくい気がします。モノや情報が溢れすぎていて、どれが譲れないポイントなのか判別できず、好きなことすら分からないという人も多いのでは。どうすれば、自分軸を見つけることができるのでしょうか。

重子さん:私たちが親になって真っ先に手放すものは、自分の時間なのではないでしょうか。何しろ子育ては毎日やることが多すぎる! それでも大人が自分軸を見つけるためには、とにかく自分のための時間、自分と向き合う時間が必要なんです。

 実は私、「ワークライフバランス」という言葉が大の苦手。「バランス」と言った瞬間に仕事も家事も育児も、全部バランス良くやらないといけない気がして。すべてを完璧にやらないといけないようなプレッシャーを感じてしまうんです。

 「ワークライフバランス」を実現するには、必然的に「効率よくこなす」ことが重要になってくる。「やらなければいけないこと」と時間に追われる毎日。こなせば、それなりの達成感が得られるのでなんとなく満足してしまうんです。そうしている間に、気がついたら自分は何が好きで、何をしているときが幸せで、どんな風に生きていきたいかを見失っている。いつの間にか自分軸とは関係のない人生を歩んでしまっているんです。思い当たることはありませんか?

 自分にとって何が大切かを知るためには、まず自分の時間を確保することです。ゆっくり自分の好きを見つけるためにいろんなことを試したり、考えたりする時間。もっとも有効な方法は、自分時間を習慣化することです。1回や2回なら誰でもできますが、続けることが鍵。そのためには毎日同じリズムで自分の時間を確保することが効果的です。

 家族の協力を得るためにも、緊急でない限り家事や育児に対応しないと家族に宣言しておくこともポイントです。最初は家族から不満がくるかもしれませんが、3週間もあれば慣れて、自分たちでどうにかしてくれるはずです。ちなみに、私は毎日22時半以降が自分の時間です。

--今まで自分のことは二の次だったママたちにとっては、最初は抵抗がありそうですね。

重子さん:現代日本のママたちは、家族のために自分のすべてを捧げてきた母親に育ててもらってきた方が多いのではないでしょうか。それゆえ、それが「母親」像になってしまっているのだと思います。確かに、それが従来の母親に求められてきた姿といえるでしょう。

 でも今は、働いて経済的に自立して自分が幸せを感じる自分らしい生き方している女性たちがたくさんいます。求めれば、それが可能な社会の制度があります。これからはますますそんな女性たちが増えていくでしょう。今の女の子には私たち以上に生き方の選択肢があります。子供にはどんな人生を選んで欲しいですか。もし自分らしい生き方を選んで欲しいのであれば、まずはママが「自分軸を見つめ、自分らしい生き方を邁進する姿」を見せてあげることです。

--自らの行動をもって、その新しい母親像を示すこと自体が、女性が抱えがちなジレンマを子供世代に引き継がないことにつながるのですね。

重子さん:「新しい時代を、楽しく、自分らしく生きる子供」を育てるためには、まずは親がその姿勢を示すこと。親自身が自分の人生を楽しんでいる姿を見せることが大切ですね。

 自分のやりたいことが見つかると、実はその他にも子育てにも良い効果が出てきます。自分のやりたいことが見つかると、自分自身のために時間を使いたくなります。忙しくなれば、自然と「自分でできそうなことは自分でやって!」と子供に言えるようになります。それが必然的に、子供の自主性や自己肯定感の育成につながるのです。それに加え、親が自分のパッションのためにパワフルに頑張っている姿は、子供たちにも良い刺激になるはずです。「人生って楽しいんだ!」と感じてくれるのではないでしょうか。

わが子は「自分の分身」ではない…それぞれの人生を豊かに



--著書の中で「自分ができなかったことをさせたい」「自慢の子供にしたい」という親自身のニーズが子育てのベースになっていることがあるというくだりに、ドキリとしました。

重子さん:ピアノや留学や大学進学など「私ができなかったことを子供にはさせてあげたい」というのはよく聞く話です。「自分に不足している経験を子供に」という気持ち、よくわかります。私も娘にピアノをやらせましたから。でも娘はピアノが嫌いで。本当に子供って自分の分身じゃないんですよね。理想や完璧ではなく、その子をその子として育てるのが「子育て」なんです。

 私も、結婚出産で一度キャリアを中断し、うずうずしていた期間がありました。でも35歳のとき、「やっぱりやりたい」とパッションが再燃し、美術館の作品のハタキかけのボランティアからアートのキャリアを再始動したんです。それ以降、39歳で自分でギャラリーを開き、45歳でコーチングに出会って、49歳でライフコーチの仕事を始めました。親は皆「子供が生きがい」と感じると思いますが、子供以外の「自分の」生きがいが自分の人生には必要です。そして自分が幸せを感じる自分の人生は、いつからだってつくることができます。そのためにも自分軸が大切。その一歩は、自分時間の確保から!

スカイさん:そんな母をみていて、私自身「人っていつからでも変われるんだな」と感じています。母はどんどん変わっていくし、ますます楽しそうになっていっています。今が1番ママらしいけれど、ここまでくるには、今までのすべてのプロセスを踏んだからこそなのかなと感じています。

重子さん:うれしい! 「人はいつからでも変われる」ということは、まさに皆さんに伝えたいメッセージです。今日が人生で1番若い日。やりたいと思ったことを始めるのに1番いい日よ。ピアノをやらずに後悔しているなら、子供ではなく、自分がやれば良いし、大学進学を諦めていたなら、社会人学生としてチャレンジしてみたら良い。もしそれをみて、とやかく言う人がいても関係ない。だって、あなたの人生はあなただけのものなんだもの。是非とも自分軸を見つけて最高に幸せな人生をつくりあげてね。

--おふたりからパワーをいただきました! 今日はありがとうございました。

 インタビュー終了後、スカイさんに「理想の女性はママ?」と聞いてみた。「えー」と2人で顔を見合わせて笑ってから「私は私だから」とはにかみながら話すスカイさんの姿に、親子の深い信頼関係と重子さんの子育ての集大成をみた気がした。

 VUCAの時代と言われ、不安が尽きない今だからこそ、親からの指示がなくても自分のことを自分でやり、困難を乗り越え、自分で自分を肯定できる子を育てる「やりすぎない子育て」を実践してみてはいかがだろうか。


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《田中真穂》

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