【無料試し読み】「ダメ子育て」を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと(4)

 SBクリエイティブの協力により、星友啓著『「ダメ子育て」を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと』の第一章を紹介する。

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「ダメ子育て」を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと
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 さまざまな情報が飛び交い、先の見えない今の時代。だからこそ「子育てこそ科学的エビデンスが必要」というのは、スタンフォード・オンラインハイスクールの校長の星友啓氏だ。氏は現在、世界40か国以上からの中高生とその保護者をサポートしつつ、スタンフォード・オンラインハイスクール入学を希望する小学生の支援プログラム運営も行っているという。

 SBクリエイティブの協力により、星氏の著書『「ダメ子育て」を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと』の第一章を紹介する。

第1章 子供の脳と心について知っておくべきこと(4)

社会脳を育てれば頭が良くなる

 「サーブ&リターン」が子供のコミュニケーション能力やメンタルを成長させるのはわかった。それでは、子供の知能や認知能力の側を伸ばすためにはどうしたら良いのか?

 これに答える前に、もう少しだけ、子供の脳について解説しておく必要があります。

 人間は全身に対して脳の比率がもっとも大きい動物*11だと聞いたことがないでしょうか。.どうしてそんなに人間の脳は大きくなったのでしょう。いろんなことができるように? それも関係していることでしょう。しかし実は、社会性に関する能力が、人間の脳の大きさともっとも強く関係していることがわかっています。 *11 B.L. Finlay (2009), Brain Evolution: Developmental Constraints and Relative Developmental Growth. In Larry R. Squire (Eds.), Encyclopedia of Neuroscience (pp.337-345). Academic Press: USA

 たとえば、サルの仲間では、一緒に行動する群れが大きければ大きいほど、体に対する脳の新皮質の比率が大きくなります*12。周りとうまくやって群れを大きくできれば、自然淘汰の中で優位に立てる。つまり、人間の脳が発達し「大きく」なったのは、みんなと仲よくうまくやるためというわけです。*12 R.I.M. Dunbar (1992), Neocortex size as a constraint on group size in primates. Journal of Human Evolution, volume 22(6); 469-493.

 これがいわゆる「社会脳仮説(social brain hypothesis)」です。この仮説にちなんで、人間の脳は「社会脳」なんて呼ばれるようになりました。そのため、「サーブ&リターン」で、子供の社会性を自然に成長させようとすることは、人間の脳の根本的なメカニズムにかなっているのです。

 それだけではありません。子供たちの社会的(social)・感情的(emotional)な認識やそのコントロールをサポートすることで、子供の心の健康が改善される*13 のはもちろん、なんと学力もアップする*14 ! *13 A. Clarke, M. Sorgenfrei, J. Mulcahy, P. Davie, C. Friedrich & T.McBride (2021), Adolescent mental health: A systematic review on the effectiveness of school-based interventions. Early Intervention Foundation. *14 R.D. Taylor, E. Oberle, J.A. Durlak, & R.P. Weissberg (2017), Promoting Positive Youth Development Through School-Based Social and Emotional Learning Interventions: a Meta-Analysis of Follow-Up Effects. Child Development, 88; pp.1156-1171.

 つまり、社会性や感情の能力が脳のメカニズムの中心にあるため、これらの能力をサポートすることで、子供の知的能力も高まるということです

 このことは、感情や社会性、知的能力といったさまざまな働きが、脳の中で複雑に関連し合っていることの表れでもあります。

 したがって、「勉強だ、勉強だ!」と単一的なアプローチで、子供の脳の成長をサポートするのは効果的ではありません。さまざまな体験を通して心と体の能力も伸ばしていくことが、脳を効率良く成長させるベストなサポートであり、結果的に成績アップの近道にもなるのです

 実際、これまで偉業を達成してきた天才たちの脳を分析した研究で、脳の中の異なる領域同士のつながりが非常に強くなっていることが発見されたりしています*15。つまり、目指すべきは、脳の多様な機能が発達し、それらがうまくつながっている状態であり、孤立した脳の一部がものすごく発達している状態ではないのです。 *15 C. Kalb (2017), What Makes a Genius? National Geographic, May.

 したがって、成績を伸ばそうと考えるなら、勉強ばかりしているのはもっとも効果的なやり方ではありません。友達と笑ったり泣いたり、成功や挫折を経験したり、運動やアート、異文化を楽しんだり。多様な体験を通じて、脳が包括的に成長することで、結果として、もっとも効率的に成績が伸ばせるのです。

「一気に変える」「少しずつ変える」習慣化にはどちらが効果的?

 次に、子育ての大きなテーマの一つである「習慣化」についてお話ししましょう。

 毎朝運動するようにする。決まった時間に勉強するようにする。好き嫌いせず健康なものを食べる。子供に大事な習慣を身に付けさせてあげたい。

 子供に新しい習慣を身に付けさせるとき悩ましいのが、ガラッと一気に変えていくのか、それとも、少しずつ変えていくのかという問題です。

 いつもやっていることを一気に変えることで、心機一転、新しい習慣のリズムに乗っていけるのではないか。いやいや、今やっていないことを急にやるのは難しい。やはり、少しずつ慣らしていかないとできないのではないか。

 「一気派」と「ちょっとずつ派」、一体どちらがより効果的なのでしょうか。

 この問いに脳の仕組みから答えれば、新しい習慣を身に付けようとするときは、ちょっとずつ習慣を変えていくのが理にかなっているといえます。実際、習慣を変えるプログラムなどでは「ちょっとずつ派」のアプローチをすることが効果的であると確認されています。

 そもそも、習慣とは、自分の強い意志で行動しようとしなくても、ある一定の状況に置かれると自然としてしまう行動のことです。たとえば、朝起きたら迷うことなく洗面所に行って歯を磨き始める。そうやって意識することなく行動することを、習慣というわけです。そして、何かを習慣化するということは、そうした自然な行動のパターンを脳に焼き付けるということになります。

 ではどうやって、脳にそのパターンを焼き付けることができるのか? それはズバリ、何度も同じような状況で同じような行動をとることしかなし得ません。繰り返し同じような体験をしていくことで、同じようなニューロンの回路が何度も何度も活性化されて、強固で通りのよいニューロン回路が出来上がってきます。そうした強いニューロン回路ができることで、また同じような体験が起きたときに、あれこれと考えることなく、これまでと同じような行動をすることができるのです。朝起きて何も考えずに、洗面所に行き、歯を磨くような習慣ができるためには、繰り返しのトレーニングが必要なのです。

 以上、脳は常に変わり続けていますが、その変化は少しずつなので、子供が、何かを習慣化するには「少しずつ派」の精神で根気強く臨んでいかなくてはいけません。本書の第3章では子供の習慣化について、より詳しく解説していきます。そこで焦点にするのは、ゲームの時間を減らしていく科学的な方法です。

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