【無料試し読み】「ダメ子育て」を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと(5)

 SBクリエイティブの協力により、星友啓著『「ダメ子育て」を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと』の第一章を紹介する。

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「ダメ子育て」を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと
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 さまざまな情報が飛び交い、先の見えない今の時代。だからこそ「子育てこそ科学的エビデンスが必要」というのは、スタンフォード・オンラインハイスクールの校長の星友啓氏だ。氏は現在、世界40か国以上からの中高生とその保護者をサポートしつつ、スタンフォード・オンラインハイスクール入学を希望する小学生の支援プログラム運営も行っているという。

 SBクリエイティブの協力により、星氏の著書『「ダメ子育て」を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと』の第一章を紹介する。

第1章 子供の脳と心について知っておくべきこと(5)

脳が一番効率的に学べる瞬間とは?

 この章の括りに、子供の脳のメカニズムについて、もう1つ重要な事実を解説しておきましょう。それは、脳は間違えたときに、もっとも効率的に学べるようにできているということです。

 これは昔から経験則的にも語り継がれてきた考え方ですが、近年の脳科学の成果からも再確認されています*16 。それだけに、間違えた瞬間をうまく生かしながら勉強させてあげることが、効率的な学習への近道となります。重要な点なので、少し詳しく解説していきましょう。

 私たちの脳は見る、聞くなどの知覚を通して周りの環境を認識して、その状況に関するなんらかの予測を立てます。

 たとえば、子供が猫と遊んでいるとしましょう。子供が猫の頭をなでたり、背中をさすったりすると、猫も楽しそうにじゃれついています。かわいい猫のリアクションがうれしくて、子供も猫のいろんなところをなでて遊びを続けていきます。この場面で、猫の状況を観察しながら、なでて遊んでいる限りは機嫌良くいられるだろうという予測を立てています。

 しかし、じゃれ合う中で子供が猫のしっぽをつかんでしまいました。その瞬間、これまで楽しそうだった猫が、急にうなり声を上げ、子供を嫌がってにらみ付け、かみついてきました。スキンシップをとっていれば、楽しく遊んでいられると思っていた子供の予測が外れてしまうわけです。そして、その体験をした子供は、次に猫と遊ぶときには、しっぽに触れないように気を付けて遊ぶようになるのです。

 このように、自分が立てた予測が間違っていたときに脳の中で学習が起こります*17。近い将来、似たような環境でより正確な予測ができるように、脳の回路が組み替わるのです。実際に最近の研究により、脳の予測が外れたとき、脳内でドーパミンの分泌量が増え、ニューロン回路が効果的にアップデートされる仕組みもわかってきました*18。 *18 M. Pessiglione, B. Seymour, G. Flandin, R.J. Dolan & C.D. Frith(2006), Dopamine-dependent prediction errors underpin reward-seeking behaviour in humans, Nature, 442(7106); pp.1042-1045.

 つまり、予測を立てて間違えたときに、脳はその間違いを正しく修正するための「準備」を整えるのです。この脳のメカニズムが、間違いを最高の学習チャンスにするのです。

 そのため、子供が間違えたとき、親子で落ち込んでいる暇はありません。それでは最大のチャンスを逃してしまいます。日頃から、子供が間違えたときに「間違えたから脳が学ぶ最高のチャンスだ」と思えるようにサポートしていきましょう

子供に脳科学を教えると成績がアップする

 それでは、そうしたイメージを子供が持てるようにするためには、どうしたらいいのでしょうか?もちろんシンプルに、日頃から「間違えたときが学ぶための最大のチャンスだ」ということを子供に教えていくことが第一歩になります。

 そのうえで、小学校高学年くらいの子供には、より効果的な方法があります。それはこの章で説明してきたような脳科学の基礎を教えてあげること。

 本章で説明している脳のメカニズムは、小学校高学年くらいであれば、丁寧に説明することでスムーズに理解することができます。難しく詳細な情報は必要ありません。大まかな脳のメカニズムを理解することで、学びや自分の能力に対するポジティブなイメージを持つことが目的です

 そうやって変化し続ける脳のイメージを持つことによって、実際に子供の成績や学習に対する意識が改善することが明らかにされてきています。

 たとえば、数学の教育学の世界的権威である、スタンフォード大学のボアラー教授の「youcubed」という数学指導プログラムにおいて、本章でお伝えしたような脳科学の事実を子供に教えることで子供の成績がアップしたというデータが報告されています*19 。 *19 J. Boaler, J.A. Dieckmann, T. LaMar, M. Leshin, M.E. Selbach-Allen & G. Perez-Nunez (2021), The Transformative Impact of aMathematical Mindset Experience Taught at Scale. In Frontiersin Education; p.784393.

 また、脳科学のシンプルな事実を学ぶことで、子供が「成長マインドセット」を持てるようになります*20 。「成長マインドセット」は、世界的ベストセラー『マインドセット─「やればできる!」の研究*21 』の著者、世界的な教育学者であるスタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授が提唱してきたコンセプトです。 *20 J. Boaler (2019), Limitless Mind: Learn, Lead, and Live WithoutBarriers, HarperCollins Publishers: New York. *21 『マインドセット「やればできる!」の研究』キャロル・S・ドゥエック 著、今西康子 訳、草思社、2016年

 子供の才能や能力は既定のもので、学習したり成長しても変化しないというイメージが「固定マインドセット(fixed mindset)」。それに対して、才能・能力は努力やトレーニング次第で伸びていくというイメージが「成長マインドセット(growth mindset)」。これまでの研究によれば「成長マインドセット」を持っている子供は、忍耐強く、成績やパフォーマンスも右肩上がりなのに対し、「固定マインドセット」の子供は、諦めがちで向上心に欠け、成績やパフォーマンスも横ばい。

 つまり、脳科学を学ぶことで「成長マインドセット」でポジティブな自己イメージを持つことができるようになると、成績やパフォーマンスの向上につながるというわけです。

 そのため本書では、子育てメソッドの解説にそえながら、脳のメカニズムについても解説していきます。さらに各章の終わりには、その章でお伝えした「脳のメカニズム」や「脳科学的に正しい子育て」について簡潔にまとめています。ぜひ、本書で学んだ、シンプルな脳科学のイメージを子供にも教えてあげてください。そうすることによって、子供が正しくポジティブな脳のイメージを持てるようになり、効果的な学びができるようになります。

まとめ

①  「すぐに𠮟る」子育て法は子供の理解にとって逆効果。感情が昂っているときにしつけを試みても、子供の脳は、それをうまく呑み込むことができない。

②  「コネクト&リダイレクト」とは、右脳のオーバーヒートを優しく落ち着かせてあげてから、未発達の左脳でも理解ができる落ち着いた状態で、やるべきこと、やってはいけないことを説明する方法。

③  子供がカッとなったときに、一緒になって落ち着かせてあげることは、子供が自分の感情をコントロールできるようになるためのトレーニングになる。

④  「子供の脳の9割は5歳までに完成する」は、認知能力の基礎が完成に近づくという意味。

⑤  5歳を過ぎてからも脳は常に変化し続ける。

⑥  長期におよぶ恐怖や不安など、極度のストレスがかかると脳の自然な発達が滞る。

⑦  身体的、精神的な虐待はもちろん、長期的な家族の不仲もストレスになる。育児放棄は、身体的な虐待と同じくらいの悪影響を与える。

⑧  子供の「サーブ」に大人が「リターン」することで、子供の認知能力やコミュニケーション能力の自然な発達を促せる。

⑨  子供のときに、しっかりとした信頼関係を持てる大人が一人でもいることで、逆境に耐えられるメンタルの強さを身につけられる。

⑩  脳のメカニズムの中心である社会性や感情の能力をサポートすることで、子供の頭が良くなる。

⑪  多様な体験を通してさまざまな能力を伸ばしてあげることが、脳を効率良く成長させるベストなサポートで、結果的に成績アップの近道になる。

⑫  新しい習慣を身につけるには、一気に変えるより、ちょっとずつ習慣を変えていく方がいい。

⑬  脳は間違えたときにもっとも効率的に学べるようにできている。子供に「間違えたときこそ、脳が学ぶ最高のチャンスだ」とメッセージすることが大切。

⑭  脳科学を子供に教えると、「成長マインドセット」につながり、好奇心ややる気がアップする。さらに学力も向上する。

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