2024年7月22日(月)から 7月26日(金) の5日間、日本女子大学附属豊明小学校では、英語サマースクールプログラム「JWU Homei Summer School」が開催された。本プログラムは、日本女子大学における一貫教育の利点を生かし、同大学教員の監修のもとに考案され、子供たちが英語に親しみながらSTEAM(Science、Technology、Engineering、Art、Mathematics)に触れ、グローバルな視点で物事を捉えられる経験を積むことを目指す。初開催となる今回は、日本女子大学附属豊明幼稚園の年長児および日本女子大学附属豊明小学校1年生~6年生の希望者161名(先着順)が参加した。
日本女子大学では、「誰もが生涯を通して、学び成長し続けることができる社会を創る」をビジョンに掲げ、幼稚園から大学・大学院までの一貫教育において、STEAM教育、グローバル教育、キャリア教育の充実を推進している。この一環として、同大学の大学教員が監修して誕生した「JWU Homei Summer School」は、子供たちが英語で楽しみながら非日常な体験をすることで、将来、グローバル化の進んだ社会で活躍するために不可欠な「考える力」を育むことを目的とした教科横断のプログラム。子供たちはネイティブスピーカーによる英語、サイエンス、プログラミングなどのクラスに参加する。
同大学の今市涼子理事長は、「子供たちそれぞれが自分の固有性に気付き、それを磨いていくためには、多岐にわたる経験の機会を得ることが大切です。『JWU Homei Summer School』の5日間は、まさに子供たちにとって経験を通じて自己の固有性を感じることができる環境だと自負している」と語る。
「JWU Homei Summer School」を通じて、子供たちはどのような体験をして何を感じるのだろうか。当日のようすを見学し、今市理事長に「JWU Homei Summer School」開催の目的や意義について話を聞いた。
親しみのある環境で、オールイングリッシュの非日常体験
「JWU Homei Summer School」の参加対象は、日本女子大学附属豊明幼稚園の年長児および、日本女子大学附属豊明小学校の児童のうち希望者となる。2024年度の定員は各学年(年長~小学6年生)20名で先着順としたところ、募集開始から数十分でほとんどの学年で定員に達し、急遽小学1年生のみ20名増員することになったという。
講師は児童教育のプロである外国人ネイティブスピーカーを中心に、日本語もわかるバイリンガルアシスタント、そしてクラス周辺のサポートをする豊明幼稚園と豊明小学校の教員が加わる。STEAMをベースに構成したオリジナルカリキュラムを提供し、1クラス20名の子供に対し、3名体制で手厚くサポートする。また、日本女子大学に在学する留学経験のある日本人学生と外国人留学生が学生スタッフとして参加した。
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会場は豊明小学校校舎であり、子供たちにとっては親しみのある安心できる場所。でありながら、「JWU Homei Summer School」期間中は特別仕様で、チャイム音は英語のポップス、教室や廊下は国旗や英語のサインボードなどでカラフルに装飾され、非日常を体験できる環境となっていた。見学した4日目のようすをレポートする。
教科を横断した英語&STEAM教育
Team Activity
9時半の始業にあわせて、「JWU Homei Summer School」のロゴとキャラクターのイラストが入ったバッグを提げた子供たちが、続々と講堂に集まって来る。毎日、最初の30分は全学年合同で「Team Activity」が行われる。
ネイティブ講師やスタッフ達が笑顔で「Good Morning!」と迎えると、子供たちも元気に「Good Morning!」と応える。「Team Activity」は1日のウォーミングアップの意味合いが濃く、クラス対抗のゲームなどで体を動かしながら講師や参加者とコミュニケーションを行う。
英語での簡単な発話を促すシーンでは、講師が「Volunteer?(誰か発言したい人は?)」と呼びかけると、子供たちから次々と手があがり、大いに盛り上がっていた。
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見学したのはプログラム4日目だったが、子供たちは講師の手を引っ張ったり、背中に乗ろうとしたり、すっかり仲良くなっていた。「ネイティブ講師の人選にあたっては、とにかく子供が好きで、元気な先生を厳選している」(今市理事長)とのことだが、子供たちの反応を見る限り、その選考が功を奏し、講師たちは子供たちの心をしっかりとつかみ、楽しい学びの場となっていた。
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「Team Activity」のあとは、学年別の1クラス20名に分かれ、英語、サイエンス、プログラミング、食育、体育、SDGs&アートなど、それぞれの活動に取り組む。
English
5年生の英語のクラスは、バナナの歌「Go!Bananas!」からスタート。ジェスチャー付きでみんなで楽しく歌う。
その後は「Please」「Thank you」などの表現を使うシチュエーションについて、英語で話しあった。クラスには、日ごろから英語に親しんでいる子もいれば、あまり英語を理解できない子もいて、レベルはそれぞれだ。しかし、ネイティブ講師は英語がわかる子のサポートをうまく引き出しながら、わからない子の発言を促すことで、クラスの一体感を生み出している。その指導力はさすがのひと言だ。
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一方、6年生のクラスは、スリランカについて、食べ物から独立の歴史まで幅広く学んでいた。「英語を学ぶ」ではなく、「英語で学び、英語も学べる」といった感じだろうか。一見、小学生には難しそうな内容だが、子供たちは意外に抵抗がないようで、「Dutchはどこの国かわかる?」といった質問に答え、「当たったー!」と大喜び。
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ネイティブ講師たちの出身地は、アメリカ、ジャマイカ、ケニアなど多様だ。プログラム期間中には、講師たちが各クラスを回り自国について紹介する時間も設け、全学年が多様な国とその文化について知る機会をつくった。
Science
2年生のサイエンスの授業では、ドライアイスを使った実験が行われていた。ドライアイスが入った水に、カーネーション、スーパーボール、豆腐を浸し、その変化を観察する。児童が「泡が出てきた!」と報告すると、講師は「It makes bubbles!」と返し、「カチカチになった!」と言えば、講師は「It has hardened!」と応え、ホワイトボードに板書する。
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3年生のサイエンスの授業は、「Experiment time!(実験タイム!)」として、バスボム作りを行った。「材料は何が必要かな?」と問いかけ、Baking SodaやCitric Acidなどの単語を確認しながら作業を進めていた。
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Nutrition
4年生のNutrition(食育)のクラスでは、Meat/Fish、Fruits、Vegetables、Grainsのカテゴリに、Onion、Kiwi、Mushroomなどの食材を当てはめていく。栄養素について学びながら、単語を覚えていくプログラムだ。
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生徒が正しくカテゴリ分けする度に、講師は「Good job!」 「Well done!」と言いながら、ごほうびステッカーを渡す。
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このごほうびステッカーは、本プログラムのすべてのクラスで使われている。子供たちは発言したり、アクションを起こしたりすることでステッカーをもらい、自身のステッカーブックに貼っていく。講師陣が子供のわずかな発言やチャレンジも見逃さず、惜しみなくステッカーを渡す姿勢が印象的だった。
Lunch
ランチには日替わりで世界の国の料理が用意され、子供たちの楽しみのひとつになっている。この日はブラジルデーで、子供たちはブラジル風揚げ餃子「パステウ」などをおいしそうにほおばっていた。5日間のプログラムでは、ほかにアメリカ、フランス、中国、インドの料理が提供され、さながらグルメの旅だ。通常時の給食と同じ調理の方々から提供されるので、子供たちのアレルギー対応なども心配がない。
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幼稚園生と小学1年生はランチが終わると帰路につくが、小学2年生以上は、午後もプログラムが続く。
Programming
5年生のプログラミングの授業では、1人1台のダブレットを手元に置きながらも、授業の中心は大きなスクリーンだ。スクリーンに映ったイラストを見ながら、「Tから始まる単語のものは?」という講師の質問に、生徒が前に出て、「Table」「Tent」「Tree」とイラストをタッチすると、単語が浮かび上がる。最後のひとつ、「Telescope」がなかなか出てこなかったが、先生の「星を見るときに使うよ」のヒントで正解! クイズを通してタブレットの操作に慣れながら、英単語も覚えられるような仕組みになっている。
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Slow-motion Tag(スローモーションの鬼ごっこ)など、体を動かすゲームの時間もあり、ここでも盛り上がる。「プログラミングの授業=着席でタブレット操作」というイメージが良い意味で覆された。
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Physical Education
2年生のPhysical Education(体育)の時間はダンスタイム。英語圏で人気の音楽にあわせて、ネイティブ講師とともに、一生懸命身体を動かす子供たち。最後は子供たちだけでも一曲を踊れるようになり、達成感で高揚している。思い切り身体を動かしながら英語に親しむ、リフレッシュの時間となっているようだ。
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こうした授業を見学した今市理事長は、「講師たちは子供の反応を見ながら、うまくコミュニケーションを取っていた。経験豊富なプロならではの指導だと感心した。最初はあまり積極的に見えなかった子も、自分が興味をもてるトピックが出てくると、さっと参加する姿勢が見られて、そういう小さな変化が嬉しい」と話す。
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Homeroom
1日の締めくくりはホームルームにて、担当講師と1日の簡単な振り返りをしたあと、歌のおさらいをして終了。子供たちはお互いに「See You!」と手を振って元気に帰路につく。
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子供たちにサマースクールの感想を聞いたところ、「サイエンスでプラネタリウムを作ったのが楽しかった」「遊びながら学ぶから楽しいし、だんだんリスニングの力が身に付いた気がする」「英語が全然わからないこともあるけれど、内容がおもしろいから楽しい。来年も参加したい」など、とにかく「楽しい!」という気持ちが伝わってくる。
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今市理事長および監修者、講師やスタッフたちの、「安心できる環境で、楽しく学んでほしい」との思いは、子供たちにしっかり届いたようだ。
見学後、今市理事長に、豊明小学校の理念、「JWU Homei Summer School」開催の背景や目指すところについて話を聞いた。
大学教授が考案・監修したプログラムで楽しく学ぶ
日本女子大学は2021年に創立120年を迎え、今市理事長は、この節目に改めて一貫校としての同大学の特長を確認したという。同大学の特長として、3つの強みをあげる。
1.設立当初から自然科学教育に重きを置いていること
2.STEAM教育、グローバル教育、キャリア教育を3本の柱にしていること
3.幼稚園から大学・大学院まで、さらにその先の人生まで視野に入れた一貫教育を行っていること
これらの強みをより一層打ち出す取組みのひとつとして生まれたのが、「JWU Homei Summer School」の構想である。
豊明小学校では、独自の英語カリキュラムを実施し、子供たちが将来、グローバル視点をもち国際的に活躍する人材になるための基盤を築いている。日本女子大学附属中学校・高校に進学すれば、海外各地の協定校とのオンライン交流や短期留学など、豊富な海外体験プログラムが提供される。しかし、小学生にとっては海外に行くことはハードルが高く、国内での活動が基本となる。「夏休みに小学校内で参加できるSTEAM教育とグローバル教育を掛け合わせたプログラムを作れば、気軽に参加してもらい、成長の機会にしてもらうことができる」と今市理事長は語る。
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具体的なカリキュラムの構築には、大学附属校・園という利点を最大限に生かし、英語、化学、児童教育、社会学などを専門とする日本女子大学の教授陣が考案・監修に参画した。さらに、日ごろから子供たちの指導を行っている幼稚園や小学校の教員が、各学年の学習進度に基づいて内容を精査。英語指導のプロであるネイティブ講師と、カリキュラムの進め方を綿密に計画することで「楽しく学ぶ」を実現している。
非認知能力の育成を目指す
近年、幼少期における「非認知能力」の育成の重要性が注目されている。非認知能力とは、目標を決めて取り組む、円滑なコミュニケーションができる、新しい発想ができる、など、IQや点数などで数値化できない能力をさす。豊明幼稚園が重視している「実物教育」、そして豊明小学校が掲げてきた教育理念「自学自動」、つまり、子供が自分で自ら考え、解を見出し、動くことができる力を育むことは、まさに非認知能力の育成にほかならない。
豊明小学校では1958年に成績通知表が廃止された。数字で子供を評価するのではなく、固有性を尊重し育てることを重視しているからだ。「個性が共鳴して新しい価値を生み出す環境を提供することで、子供たちは将来の多様な場面で柔軟に対応し、自己を発展させる力を養うことができる」(今市理事長)。
今市理事長は、「シャイな子も、冷めている子も、積極的な子も、それぞれの個性があるが、自分に何があっているのかは触れてみないとわからない。子供時代に多様な経験をする機会を与えることは重要。小さいころの経験が、いつ、どのようなときに結び付くかわからない。そのうえで、自分の感覚で自分の人生を、自分のキャリアを選んでほしい」と話す。
本プログラムの開催に対して、保護者からは「いつもの環境で過ごせるので安心」「海外に興味をもつきっかけになれば嬉しい」など、予想以上の反響が寄せられた。初めての試みへの期待も大きく、プログラム実施中は毎日、保護者からのフィードバックが届く。スタッフ一同がすべてに目を通し、翌日以降のプログラムに反映させるなど、プログラムのブラッシュアップに対する熱意は高い。
今市理事長自身もプログラムのさらなる充実に意欲的で、「来年以降は、私の専門である植物などについても、その生態などに触れるプログラムを盛り込めるかもしれない」と語る。さらに、将来的には、STEAM教育とグローバル教育に加えて、キャリア教育の要素も取り入れることを検討中だという。「人生100年時代において、生涯を通じた自分のキャリアを考えることが重要ですから」(今市理事長)。
幼稚園や小学校のころから、自己の固有性に気付くさまざまな機会をたくさんつくってあげたいという今市理事長の熱意が込められた「JWU Homei Summer School」。サマープログラムをはじめとした幼稚園から大学・大学院までの一貫教育の今後の展開、そして、そこから巣立つ子供たちがどんな人生を、キャリアを歩むのか、楽しみである。
日本女子大学附属豊明幼稚園日本女子大学附属豊明小学校JWU Homei Summer School