埼玉県さいたま市にある浦和実業学園中学校・高等学校(以下、浦和実業)。建学の精神である「実学に勤め徳を養う」を校訓に掲げ、実社会で真に役に立つ学問を身に付ける「実学教育」と、人としての優しさや礼儀作法などを身に付ける「徳育教育」の両面を重視して、バランスのとれた人間教育に力を注いでいる。
本企画では、各地で人気を集める私立校における先進的なICT教育の取組みを紹介する。浦和実業が本企画に登場するのは2023年1月に続いて2回目。前回取材の2022年から2年弱が経ち、さらに進化した浦和実業の「実学と徳」の教育および、そこで活用されるICTの役割などについて、学校長である岡田慎一先生をはじめとする先生方、生徒の皆さんに話を聞いた。
「実学に勤め徳を養う」をもとに、世に尽くす人間を育成
浦和実業は1946年、九里總一郎氏によって創設された私塾をその起源としている。建学の精神「実学に勤め徳を養う」をもとに、今の時代に求められる学問とスキルの習得に努めるとともに、1人の人間として力強く生きていくための人間力と自立心を養う教育を実践している。
中学校では6年間を見据えた少人数制の中高一貫教育を展開。高校は「普通科」5コース、「商業科」2コース、「中高一貫部」からなる特色あるコース制が組まれており、生徒の進路目標実現に最適なカリキュラムを組んで学習が進められている。部活動も盛んであり、文武両道の学校だ。
最近では、創立75周年記念事業の一環として2つの新しい校舎が完成し、2023年度より本格始動。建学の精神である「実学教育」をより具現化し、生徒が主体的に学べる環境を作るためにリニューアルした。2023年5月に完成した4階建ての1号館は「生徒が自由に利用し、友達や先生と交流できるスペースを増やした」(岡田校長)とし、UJ Cafe(食堂)、スポーツスタジオ、図書室、音楽室、ラーニングコモンズが設置された。また、2022年に完成した2号館は物理・化学・生物・理科の実験室およびPCルーム、書道室が設置され、特に4つの理科実験室はさまざまな実験や観察を通して知的好奇心を刺激し、文系・理系に関わらず、興味の幅を広げ実学につながる学びを提供している。
主体性や協働、自学の姿勢づくり促すICT教育
そして特筆すべきなのが、ここ数年著しい進化を遂げている浦和実業のDX化およびICT教育である。同校では教職員に4年前からiPadを配布して、校務のDX化を推進。また、自然科学分野に進学する生徒の増加や今後成長分野を担うデジタル人材の育成を目的とした高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)の指定を受けており、今後電子顕微鏡とハイスペック3Dプリンターを導入する予定だという。
一方、生徒には3年前から1人1台のiPad導入を開始しており、今年度(2024年度)、全生徒における1人1台端末環境が実現した。Society 5.0時代を切り拓く人材が求められている中で、同校ではICT機器を効果的に用いた学習を推進し、社会に貢献する人材の育成(実学教育)を実践している。「新学習指導要領では主体的、対話的で深い学びが掲げられ、実社会で役に立つスキルを身に付けることが求められている。これにはアクティブラーニングなどにより生徒の主体性を培うこと、皆で意見を出しあったり先生とやり取りしたりといった協働の活動、自ら学んで学びを深める姿勢作りが重要になる。そこで家庭や学校をつないで大事な役割を果たすのがICT技術。ICTがそれらの取組みを支えてくれるが、サポートしていく教員の力量も試される」と岡田校長は語る。

勉強にもっとも重要な「言葉」の学びを効率化する
1人1台のiPadが主体的・協働的な学習に欠かせないツールとなった同校で、生徒たちがより効率的に学ぶために採用したのが、カシオ計算機のオールインワンICT学習アプリ「ClassPad.net」だ。ClassPad.netは、授業に必要な機能がすべて入ったICT学習アプリ。その内容は、カシオの電子辞書「EX-word」をベースにした豊富な辞書機能、ふせんや画像、リンクなどのコンテンツが貼り付けられるデジタルノート機能、課題の送受信や生徒の回答一覧表示といったオンライン・双方向授業に役立つ授業支援機能、カシオの関数電卓のノウハウを詰め込んだ高度な数学ツールなど、多岐にわたる。
ClassPad.netの役割について、岡田校長は「勉強するうえで1番大事なのは言葉。共通テストが読解力を求められるテストになっているように、人は言葉を使って作業しているので、豊富な言葉をもち、それらを自由に操って考えを深めていくことが大事だと思う」としたうえで、「ClassPad.netは、辞書・辞典機能で短時間で効率よく関連した言葉を調べていくことができるので非常にありがたい」と高く評価した。さらにClassPad.netは相互コミュニケーションツールとしても利用でき、回答を一斉に投影、共有する対話的授業を実践できるため、グループワークやアクティブラーニングの本質である学びの楽しさを体験できるという。
生徒が提出・共有した答えを教員がフィードバック
そこで、ICTを活用した実際の授業を見学した。荒井廉征先生による高校2年生の英語の授業では、英作文の書き方について学習していた。「授業では生徒に考えさせる時間を多く作るようにしている。ClassPad.netを活用して、生徒が考えたものを提出・共有してもらい、それを解説してフィードバックをしていくという双方向の流れを作った」と荒井先生。生徒たちは皆、自ら考え、自分なりの答えを出し、さらに友達が出した答えを見ながら、自分では考えつかなかった答えに刺激を受け、それぞれの答えに意見を出しあい、協働しながら学びを深めていった。
浦和実業では、特に英語・国語といった言語の科目においてClassPad.netの活用が進んでいるという。国語の古典の授業で録音の機能を活用して音読をする、英語の授業でスライドなどを作って発表の動画を撮影し提出するなど、さまざまな展開が試みられているようだ。また、「宿題の提出や資料の送付などはすべてClassPad.netを活用している」と荒井先生は語る。これにより、「提出物の取扱いややり取りが非常に楽になったのが一番大きなメリット。また、資料スライドを生徒に送ることができるので、授業で使ったスライドを生徒たちの手元に残すことができ、より細かいことまで教えられるようになった」(荒井先生)という。

ClassPad.netの導入によって、これまで以上にきめ細やかな、思い描いたとおりの授業を展開できるようになり、生徒とのやり取りも効率的にできるため、授業の進行が楽になったようだ。また、「提出機能を使うことによって、クラス全員の意見を共有できるので、普段はなかなか授業中に発言できない生徒の意見も反映することができるのが非常に良いと思う」と荒井先生は述べた。
ClassPad.netでやる気と平均点が向上
ClassPad.net導入による変化は生徒側にもみられるという。荒井先生は「ClassPad.netを導入するようになって、生徒の平均点が全体的に上がった印象」と語る。その理由について、「50分の授業を受ける中で生徒は飽きてしまいがちだが、タブレットを使えるという点も含めて、従来型の授業にはない方法で生徒たちの興味関心を引くことができるので、やる気と点数が向上しているのではないか」と分析した。特に「ClassPad.netを使っている生徒の方が平均点の方が高いと感じている。ClassPad.netではより細かい部分まで生徒に伝えられるので、このことが平均点の向上にもつながっているのでは」(荒井先生)と所見を語った。

こうしたICT教育について保護者からは、端末の導入当初は「タブレットで動画などを見てしまうのでは」と懸念する声があがっていたが、面談などで「ClassPad.netを使っていること」「課題でこのように活用している」など具体的な使い方を丁寧に説明したことで、今では「安心した」などと賛成・肯定する反応に変わってきているという。生徒にも保護者にも、端末やICTツールを用いた学習方法について理解が広がり、それが浸透し、定着してきている。
浦和実業の授業を受けて、教員になる夢を描く
実際に授業を受けている生徒にも話を聞いてみた。高校2年生の石井勇多さんは、浦和実業の学びについて「先生はみんな優しくて、授業の雰囲気も明るい」と満足しているようす。端末は「授業で回答をみんなで共有したり、先生に言われた課題を提出する時によく活用している。また、自宅学習や授業中、わからない単語や興味を持ったことが出てきた時に調べるためによく使う」と語ってくれた。
ClassPad.netについて石井さんは、「先生から出された課題を考えて、ClassPad.netに記入している。それを黒板に投影してみんなの考えを簡単に共有できるし、一覧できて非常に便利」だとした。英語コミュニケーションの授業では、わからない単語が出てきたときにすぐに調べているといい、「辞書機能のEX-wordの内容が非常に豊かで、用語もいろいろなものがあってお気に入り」と笑う。将来について、「教えることが好きなので、教員に興味を持っている」と語ってくれた。生徒が「教員の仕事に就きたい」という夢をもつことこそ、浦和実業の授業やICT教育が充実していて楽しいものである証かもしれない。
授業のやり方も勉強スタイルもICT導入により刷新
同じく高校2年生の武田実莉さんは、「iPadやプロジェクターなどが整備されたことで、データを共有することができるようになったため、板書の時間が省けて効率的になった」と感じているという。自身の勉強スタイルについても、「授業中にiPadでメモをしたり写真を撮ったりして、自宅学習で復習するときに活用している」と便利さを語ってくれた。
ClassPad.netを使うようになってからの授業について、武田さんは「英語コミュニケーションの授業ではClassPad.netで配信された資料をフォルダーで管理したり、データを提出したり、それをプロジェクターに投影していろいろな人の意見をクラスでシェアしている」と新しい授業の形を教えてくれた。メモをまとめる際も「テキストのカラーバリエーションが豊富なので、内容ごとに色分けをできて便利」と、使い勝手の良さも気に入っているようすだ。将来は、「営業職に就きたい。今はITやAIが発達しているので、AIに負けないように、学生時代にITスキルを強化して、AIにはできないことをやっていきたい」と夢を語ってくれた。
最後に、浦和実業の先生たちは、今後iPadやClassPad.netでどのようなIT教育を展開していきたいのだろうか。荒井先生に聞いてみたところ、「もっと生徒の意見を取り入れて授業に生かしていきたい」と強調。「生徒が出した答えや意見などをClassPad.netで全員にシェアして、50分間の授業のうち、生徒の意見で40分、最後の10分で要点などをまとめるというように、生徒の意見を満遍なく授業で活用できれば」と展望を語った。ClassPad.netによる提出・シェア機能を使いこなすとともに、新しい授業の形や、やってみたい授業のイメージがどんどん膨らんでいるようだ。
意見を出しあい進化が続く浦和実業のICT教育
前回の取材時よりも、さらにICTを活用した学びが発展し、新しい授業や学習の形が萌芽しつつある浦和実業。ICT技術を用いた双方向の授業が実現し、定着したからこそ見えてきた、さらに一歩進んだ「自学」「協働」を叶え、「生徒たちが自ら意見を出し、対話して作っていく」生徒主体の学習が実現しつつあるのだろう。ICTツールを使い続ける中で、教員と生徒がそれぞれ意見を出しあい、楽しみながらどんどん進化していく浦和実業のICT教育。それこそまさに時代に応じた実学なのだろう。時代に応じた実学を追求していく浦和実業の取組みから、今後もますます目が離せない。
