全国で進む「こどもまんなか」改革…NPO・企業・大学が語る子供支援の最前線

 こども家庭庁は2月6日、霞が関プラザホールにて「こどものまわりのおとなサミット2025」を開催した。同庁は「こどもまんなか社会」の実現を掲げ、子供や子育て世帯を社会全体で支える仕組みづくりを進めている。全国でどのような取組みが広がっているのか。NPO・企業・大学が語る子供支援の最前線をレポートする。

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2026年2月6日、霞が関プラザホールで開催された「こどものまわりのおとなサミット2025」のようす
2026年2月6日、霞が関プラザホールで開催された「こどものまわりのおとなサミット2025」のようす 全 7 枚 拡大写真

 こども家庭庁は2月6日、霞が関プラザホールにて「こどものまわりのおとなサミット2025」を開催した。近年、子供を取り巻く環境は多様化し、地域や家庭だけでは抱えきれない課題が増えている。こうした現状に対し、同庁は「こどもまんなか社会」の実現を掲げ、子供や子育て世帯を社会全体で支える仕組みづくりを進めている。その取組みのひとつが「こどもまんなかアクション」だ。

 本サミットは、子供の居場所づくりや社会参画支援の最前線で活動する人々が集結した。パネリストとして全国からNPO、企業、大学などの6団体が参加し、それぞれの「こどもまんなかアクション」実践報告を通じて知見や課題を共有。会場では活発な意見交換が行われ、オンライン視聴者を含めた参加者は約180名にのぼった。

霞が関プラザホールで開催された「こどものまわりのおとなサミット2025」のようす

全国から6団体が集結、実践事例と思いを共有

 こども家庭庁 こどもまんなかアクション推進室 高根沢景氏は開催の挨拶で、「これからの時間が、共通の思いや課題を見つける場となり、『こどもまんなかアクション』をさらに広げるためのきっかけになれば嬉しい」と述べ、サミットは幕を開けた。

 まず、動画にて参加6団体の活動が紹介され、続いて、こども家庭庁こどもまんなかアクション推進室広報推進官 安藤温子氏の司会のもと、各団体の代表者が次のように具体的な取組みについて説明した。

6団体の代表者が、それぞれの思いを言葉にした

NPO法人ベビースマイル石巻 代表理事 荒木裕美氏

「声や気持ちを羅針盤に。子供と大人の育ちあう力を信じて、つなぐ地域をエンパワー」
 東日本大震災時に妊娠中だった荒木氏が、自身が妊娠・子育て中に人との“つながり”に助けられた経験をもとに設立。「命を守る。地域とつながる。こども・子育て支援」を理念に、妊娠期から18歳未満の子供と家庭を地域で支える活動を行っている。マタニティ・子育て広場や児童館の運営、父親の子育て参加促進など、現場の声を起点とした支援が特徴だ。荒木氏は、「子供を真ん中に据えることで、立場を超えたつながりが自然に生まれていく」と語った。

一般社団法人未来の準備室 理事長 青砥和希氏 

「線を引かず、橋をかけ合おう」
 東日本大震災をきっかけに、当時19歳だった青砥氏が立ち上げ、築90年の古民家を拠点に“高校生びいき”のコミュニティ・カフェ「EMANON」を運営。「大学のない白河市で、高校生たちが社会と出会える場をつくりたい」という思いが活動の原点で、「誰でも集まれる居場所」「高校生の気持ちを活動に変える探究活動の拠点」「社会との橋渡し」の3つの役割を掲げる。高校生は無料で利用でき、これまで延べ約3,000人の高校生が訪れた。

株式会社埼玉りそな銀行 経営企画部サステナビリティ推進室室長 鈴木学氏

「お手伝いしたい企業はたくさんいます」
 2021年からの5か年計画で子供の居場所800か所設置を目指す埼玉県で、参画に手をあげたのが埼玉りそな銀行。鈴木氏は現場の声に触れる中で、「場所があるだけでも大きな価値があると実感した」という。同行は施設の一部を開放して居場所づくりを始め、現在は県内8か所に広がっている。外国人コミュニティやNPO、大学生など多様な担い手が関わる点も特徴だ。さらに職員をNPOに派遣し、支援を人材育成と結びつけている。鈴木氏は「子供の課題と企業の思いをつなぐ場があれば、社会は良くなる」と語った。

右から、NPO法人ベビースマイル石巻 代表理事 荒木裕美氏、一般社団法人未来の準備室 理事長 青砥和希氏、株式会社埼玉りそな銀行 経営企画部サステナビリティ推進室室長 鈴木学氏

NPO法人じっくらあと理事長 小浦詩氏

「ゆるやかな公私混同」
 石川県輪島市で医療と居場所を連動させた地域ケア。1階の「ごちゃまるクリニック」では、医師である小浦夫妻を中心に、助産師、看護師、理学療法士、作業療法士などが連携し、外来・在宅・地域ケアを展開。上階には子供が安心して過ごせる「わじまティーンラボ」を設置。さらに、学校への「出張ラボ」も行っている。2024年、輪島地域は地震と豪雨という二重の被害に見舞われたが、「利用者、支援者、スタッフのおかげで今がある」と小浦氏。「人生はらせんのように続く。ラボ、学校、診療、地域などで出会ったときに、紙一重になれる存在であり続けたい」と語った。

一般社団法人JUNTOS代表理事 吉村迅翔氏

「“ちがい”は、私たちをつなぐ“カギ”」
 愛知県豊田市の保見団地を拠点に、子供たちの居場所づくりと地域とのつながりを育む活動。代表の吉村氏が大学生時代に学生団体として立ち上げ、法人化した。「友達でも先生でもないけれど、いつも近くにいる大人」という立ち位置。保見団地内の公立小学校では、外国籍の児童が7割を超える学校もあるが、吉村氏は「この数字を課題ではなく魅力と捉えている」という。毎週土曜日に心理的安全性の高い居場所を提供するほか、地域イベントなどを子供たちと一緒に企画・運営している。

南九州大学 人間発達学部 子ども教育学科 学部長 教授 宮内孝氏

「ななめでつながる地域に!」
 地域と大学を往還し、協働で育てる「ななめプロジェクト」。宮内氏は「親子のような垂直の関係でも、友達同士や教師と生徒のような水平、上下の関係でもない。子供と地域、大学生、教員が“ななめ”につながる関係が大事」と語る。キャンパス内には、不登校の子供が通う都城市教育支援センター「青空ラボ」を設置し、2026年4月には学びの多様化学校「都城市立あやめ野中学校」も開校。また、附属の子育て支援センターでは、子供や保護者の居場所づくりに加え、保育者研修にも取り組む。大学の専門性を地域に還元しつつ学生自らも現場で学ぶ循環が生まれている。

右から、NPO法人じっくらあと理事長 小浦詩氏、一般社団法人JUNTOS代表理事 吉村迅翔氏、南九州大学 人間発達学部 子ども教育学科 学部長 教授 宮内孝氏

「こどもまんなか」を忘れなければ、うまくいく

 後半は、伊澤佑美氏のグラフィックファシリテーションによって議論の内容がリアルタイムで可視化される中、参加者による活発な意見交換が行われた。まず議論の焦点となったのは、学校・地域・企業の間に存在する「見えない壁」という課題だ。

 宮内氏(南九州大学)が、じっくらあとの学校への出張ラボについて触れ、「地域の人が学校に入り込むことは難しい。その見えない壁を越えた取組みは素晴らしい」と述べると、鈴木氏(埼玉りそな銀行)、青砥氏(未来の準備室)、吉村氏(JUNTOS)らは、外部の人間が学校現場へ入り込むことの難しさを指摘した。これに対し小浦氏(じっくらあと)は、月1回の「保健室カフェ」など地道な活動を通じた信頼性構築の重要性を述べた。りそな銀行と協働している埼玉フードパントリーネットワークの草場澄江氏は、「フィールドワークを求める大学と地域はWIN-WINの関係になれるはず」と語った。

 未来の準備室に関わる外国にルーツをもつ大学3年生の女性は、成長過程で感じてきた「他者との壁」を振り返りつつ、「支援団体が集うこの場には壁がない。この連帯感に触れたことで、自身の役割をあらためて問い直す契機になった」と語った。

 議論の核心は、子供を「まんなか」に置くことへの意義へと深まった。

 JUNTOSのスタッフは、子供の「やりたい」という気持ちを置き去りにしないことを大事にしているという。子供は、自分の言葉を一緒に形にしてくれる大人がいると実感することで笑顔になり、その笑顔が大人にも力を与え「前向きな循環」が生まれると語った。

 「うまくいかないときは、子供の存在が抜け落ちている。そこが崩れると活動の土台が揺らぐ」「子供を軸にすると、大人同士の関係も、大人と子供の関係も整い、地域とのつながりも自然に生まれる」など、各パネリストは自身の経験に照らし合わせ、活動の根幹としての「こどもまんなか」という視点の重要性をあらためて強調した。

グラフィックファシリテーションによって議論の内容がリアルタイムで可視化される中、参加者による活発な意見交換が行われた

 サミットに出席していたさまざまな立場の人も議論に参加した。“食で人をつなぐ”をコンセプトに活動するコロリドージャパン合同会社CEOの竹内ひとみ氏は、シリコンバレーでのシェアハウス運営経験を紹介。「子供が真ん中にいると、大人のモラルが高まる」と述べ、「同じ食卓を囲むことで、人種や世代、性別を超えた対話が生まれる」と語った。宮内氏(南九州大学)も「青空ラボで畑づくりを行っているが、食を中核に据えることで関係性がぐっと近づく」と共感を示した。

 活動を継続する上での現実的な課題についても、率直な意見が交わされた。

 鈴木氏(埼玉りそな銀行)は「地域が元気でなければ企業も生き残れない」と述べ、場の無償開放を通じた経済と支援の好循環を理想に掲げた。支援のあり方について荒木氏(ベビースマイル石巻)は、「支援する・される」という固定的な関係に陥らない工夫が必要だと指摘した。

 小浦氏(じっくらあと)は、被災地での経験から「自分たちも楽しみ、家族との時間にも余裕をもちながら、届く範囲で続ける」という無理のない継続の姿勢を共有した。「横のつながりによる共感がエネルギーになる」「子供の気持ちに自分の思いを重ねて楽しむ」など、孤立を防ぎ活動の質を保つための核心的な視点が次々に示された。

 ひとりひとりのアクションが可視化され、共有されることは、社会全体で子供を支える「こどもまんなか社会」を実現するための大きな原動力となる。本サミットの締めくくりとして、こども家庭庁は、日々の生活の中で実践したアクションをハッシュタグ「#こどもまんなかやってみた」とともに、SNS等で積極的に発信してほしいと呼びかけ、盛況のうちに閉幕した。

未来を担う「次世代の視点」…学生への期待

 サミット終了後、南九州大学 教授の宮内氏と、子育て環境支援に取り組む学生「チームくれよん」のメンバー3名に話を聞いた。

 「チームくれよん」は、宮崎県都城市高城町をフィールドに、地域課題に向き合う高校生・大学生チームで、現在は3年計画の1年目として調査を行っている。メンバーの清水優花さんは、フィールドワークを通じて「講義だけでは知り得ない保護者の声や、地域の課題に触れられた」と活動の手応えを語る。また、押川愛実さんは「子供の発達はひとりひとり異なると学んできたが、現場で実際に接することで、その真意を肌で実感した」と振り返る。

 今回のイベントへの参加を通じて、清水さんは「肩の力を抜いて良いこと、『子供のため』という原点に立ち返ることの大切さを学んだ」と述べ、橋口瑠奈さんは「これまで大人目線で企画を立てていたことに気づいた。子供が本当にやりたいことを知る必要がある」と、自らの姿勢を問い直した。

 こうした学生たちの成長を受け、宮内氏は「学生には『こどもまんなか』を実現する次世代の担い手になってほしい」と期待を寄せる。その上で、「質の高い学びを実現するには、学びの場である地域の質を高めることも欠かせない。大学が地域課題の解決に深く関わることで、教育と地域の幸福な好循環を生み出していきたい」と未来への展望を力強く語った。

南九州大学 人間発達学部 子ども教育学科 学部長 教授 宮内孝氏と子育て環境支援に取り組む「チームくれよん」の学生たち(右から、清水さん、橋口さん、宮内氏、押川さん)

地域からキャンパスへ。進化し続ける「こどもまんなか」の未来

 こども家庭庁の「こどもまんなかアクション」の輪は、今まさに全国へと波及している。2026年2月時点で、応援サポーターは41都道府県・369市区町村を含む計4,176の団体・企業・個人に到達した。Webサイトでの事例紹介数は212件、リレーシンポジウムの開催自治体数は北海道から沖縄まで42自治体に及ぶ(いずれも2025年末時点)。

 実践と対話の場もさらなる深化を遂げた。2025年8月には「ユースのアクションサミット2025」を、9月には「こどもの居場所づくりオールミーティング」を開催。多様なプレイヤーが集い、知見や課題について意見交換を行う場が創出された。

 また、情報発信を通じた理解促進も加速している。2025年はこども家庭庁公式noteで20本の記事を公開し、政策の背景や現場の熱量を広く届けてきた。今後も自治体と連携したリレーシンポジウムを各地で継続するほか、2026年度には大学生と社会をむすぶ新たな試みとして、大学での開催も計画されている。


 それぞれの立場で子供の課題に真摯に向き合う人々が、全国に広がっていることを強く実感させるサミットだった。実践の中で迷いが生じ、活動の軸が揺らぐこともあるだろう。しかし、本サミットは「こどもまんなか」という原点に立ち返る場となり、横のつながりを力に変える確かな契機となった。子供を核としたこの大きなうねりは、次世代の担い手を巻き込みながら、さらなる広がりを見せていくに違いない。

こども家庭庁
「こどもまんなかアクション」
note こども家庭庁公式アカウント

《なまず美紀》

なまず美紀

兵庫県芦屋市出身。関西経済連合会・国際部に5年間勤務。その後、東京、ワシントンD.C.、北京、ニューヨークを転居しながら、インタビュア&ライターとして活動。経営者を中心に600名以上をインタビューし、企業サイトや各種メディアでメッセージを伝えてきた。キャッチコピーは「人は言葉に恋♡をする」。

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