東洋英和生が「野尻に帰る」理由、伝統キャンプが育む世代を超えた絆

 創立から140年余りの歴史を重ねる東洋英和女学院。その伝統を象徴する行事の1つが、長野県・野尻湖で行われる「野尻キャンプ」だ。90年にわたり受け継がれてきた夏の伝統行事で、在校生と卒業生が世代を超えて集い、自然の中でさまざまな活動に取り組む。

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東洋英和生が「野尻に帰る」理由、世代を超えてつながる90年の伝統
東洋英和生が「野尻に帰る」理由、世代を超えてつながる90年の伝統 全 7 枚 拡大写真

 創立から140年余りの歴史を重ねる東洋英和女学院。その伝統を象徴する行事の1つが、長野県・野尻湖で行われる「野尻キャンプ」だ。90年にわたり受け継がれてきた夏の伝統行事で、在校生と卒業生が世代を超えて集い、自然の中でさまざまな活動に取り組む。

 今回は、野尻キャンプ委員長として生徒たちを見守ってきた今井亮仁先生と、キャンパーとして参加した中学3年生、高校3年生、卒業生リーダーとして参加した大学生に話を聞いた。学年や立場を越えて受け継がれる“野尻っ子”たちの絆と、この体験を通して育まれる「東洋英和らしさ」の根っこにある想いに迫る。

世代を超えて受け継がれる、野尻キャンプの魅力

--野尻キャンプとはどのような行事なのでしょうか。

今井先生:東洋英和が長野県・野尻湖にキャンプサイトを作ったのは、今から約90年前です。現在につながる「野尻キャンプ」は1971年に始まり、今年で56回目を迎えました。

 参加するのは、中学3年生から高校3年生までの希望者約90名と、「卒業生リーダー」として運営を支える大学生約20名です。5泊6日の日程で、1つのキャビンに10人が寝食を共にしながら、遠泳やボート、カヤック、ヨットなどのプログラムに取り組みます。

 学年を越えた交流の中で友情を育み、仲間との絆を深めていくことが、このキャンプの大きな特徴です。

--みなさんが野尻キャンプに参加したきっかけと、今年担当した役割について教えてください。

Sさん(大学4年生):私は中学3年生のときに初めて野尻キャンプに参加しました。コロナ禍で高校1年時は中止、2年時は校内開催となり、野尻に帰れませんでしたが、高校3年生では再び参加し、その後は「卒業生リーダー」として大学4年間、毎年携わってきました。今年は最年長リーダーとして、生徒たちの体調や安全への配慮はもちろん、先輩たちから受け継いだ野尻の魅力を後輩たちに伝えることを大切にしていました。

Oさん(中学3年生):野尻キャンプは今回が初めてでした。野尻が大好きな英和生は「野尻っ子」と呼ばれています。先輩たちの話を聞いていて、私も「野尻っ子の一員になりたい!」と思ったのがきっかけです。

Hさん(高校3年生):私は高校1年生から3年生までの3回参加しました。今回は総務として、準備やキャンプ中の集会の司会、帰校後の野尻キャンプ報告礼拝での発表などを担当しました。キャビンでは最高学年だったので、「年下の子たちが全員楽しめるようにすること」を心がけていました。

「また野尻に帰りたい」キャンプで生まれる世代を超えた絆

--野尻キャンプの中での先輩や後輩との関わりで、特に印象に残っていることはありますか。

Sさん:高校3年生のときに同じキャビンだった後輩が、「去年の先輩の姿を見て、今年も参加したいと思った」と言ってくれたことがありました。その言葉を聞いて、自分が感じていた野尻の魅力や大好きな気持ちが、こうして後輩に受け継がれていくのだと実感できて本当に嬉しかったです。

 野尻では、リーダーとキャンパー、キャンパー同士も学年に関係なく自然に話します。先輩後輩関係なく名前で呼びあうので、部活動の先輩と同じキャビンになると最初は緊張することもありますが(笑)、先輩のほうから「呼び捨てでいいよ」「敬語じゃなくていいよ」と声をかけてくれるんです。

 野尻を経験した子たちは、校内ですれ違ったときも、学年を越えて気軽に声を掛けあいます。そうした特別な絆が学校に戻ってからもずっと続いていくからこそ、「また来年も野尻に帰りたい」と思う“野尻っ子”が多いのかなと感じています。

「私たち英和生にとって、野尻は“行く”のではなく“帰る”場所なんです」とSさん

Oさん:私は今回初めての参加だったのですが、遠泳での経験がとても印象に残っています。野尻では、ヨットやカヌー、ボート、遠泳のプログラムがあり、私は遠泳に参加しました。遠泳は第1希望ではなく、水泳にも苦手意識があったので、正直なところ最初は気が進まなかったんです。泳力別では一番下のクラスでした。

 いざ練習が始まると、先輩方が本当にたくさんの声を掛けて応援してくださって、おかげで「私も泳げるかもしれない」と前向きな気持ちになれました。1日目に先輩方からたくさん力をもらったので、2日目以降は私も同じグループの仲間や先輩たちに向けて、「頑張れ!」と応援の気持ちを返せるようになりました。

Sさん:野尻の遠泳では、体力をなるべく消耗せず、安全に長く泳ぎ続ける「英和泳ぎ」という独特の泳法が受け継がれています。一番上のグループでは1時間近く泳ぐ一方で、最初は水に顔をつけるのも怖いという子もいます。

 それでも練習を重ねるうちに少しずつ泳げるようになり、最後には長距離を泳ぎ切れるようになるのです。その過程を、先輩やリーダー、仲間たちみんなで「頑張れ!」と全力で応援する。そんな一体感や温かさも、野尻ならではの魅力だと思います。

Hさん:私は、大学受験を控えたこの夏、キャンプに参加するかどうか本当に迷っていました。そこで、これまでの野尻キャンプで出会った卒業生の先輩方に相談したんです。

 印象的だったのは、みなさんが口をそろえて「受験も大切だから、自分が後悔しない選択をしてほしい」と言ってくださったことです。私の気持ちを第一に考えてアドバイスしてくださる温かい言葉に、「これが野尻っ子らしさなんだな」と感じました。その言葉のおかげで、心から納得できる決断をして、今年も野尻に帰ることができました。

受験を控えるなか、先輩たちの温かなアドバイスを受け、野尻に“帰る”ことを決めたHさん

--卒業後も大学生リーダーとして戻ってくる文化は、野尻キャンプの大きな特徴の1つだと思います。リーダーはどんな役割を担っているのですか。

Sさん:私は大学生として参加した4年間、「ヨットリーダー」を担当しました。ヨットは普段なかなか触れる機会が少なく、操縦できる生徒も限られています。だからこそ、「自分がしっかり技術を身に付けて、ヨットの楽しさと伝統を後輩たちにつないでいきたい」という思いで取り組んできました。

“野尻っ子”の想いを乗せて歌い継がれる伝統

--野尻キャンプを通して身に付いたこと、そして次の世代に受け継ぎたいことについて教えてください。

Sさん:私が野尻で身に付いたのは、「主体性」です。「誰かがやってくれるだろう」ではなく、落ちているゴミに気付いたら自分で拾う。そんなふうに、ひとりひとりが「自分がやる」という意識をすごく大切にしている場所なんです。野尻での経験を通して、自ら考えて行動する力が身に付いたと感じています。

 後輩たちには、仲間がいるからこそ挑戦できること、そして挑戦を乗り越えたときの達成感を伝えたいです。先ほどの遠泳の話にもありましたが、野尻には仲間が温かく応援してくれる環境があります。だからこそ一歩を踏み出せるんです。私自身、大学生になって新しいことに挑戦するときや壁にぶつかったときに、「仲間と一緒にやり遂げた」という野尻での思い出に何度も背中を押されました。後輩たちも、そんなかけがえのない経験をしてほしいと思っています。

Oさん:野尻に行く前は、「同じ場所で、同じプログラムをやれば伝統は受け継がれていくのかな」と、どこか簡単に考えていました。しかし実際に参加してみると、野尻の魅力はプログラムそのものだけではなく、みんなが全力で応援やサポートをし、心から楽しむ姿にあることに気が付きました。その温かい雰囲気や人を大切にする姿勢こそ、受け継がれている伝統なのだと思いました。

 だから私も、後輩たちにつないでいく立場になったら、プログラムだけでなく、そこに込められた思いや気持ちを伝えていきたいと思っています。

初参加だったOさんは、「プログラムに込められた思いや気持ちを後輩に伝えていきたい」と思いを新たに

Hさん:私は、「自分が楽しむだけではなく、その楽しさを周りに伝えていくこと」の大切さを学びました。また、先輩たちからもらった優しさを次の世代へつないでいくことも、野尻が大切にしていることだと思います。

 たとえばキャンプソングです。初めて参加した下級生の中には知らない曲もあって、戸惑う子がいます。そんなときは歌いながら振り付けを教えたり、自然と笑顔になれるような関わりを大切にしています。そうした小さな関わりを通して、「楽しい」と感じてもらえるような温かい文化を受け継いでいきたいです。

今井先生:キャンプソングは長い歴史がありますが、実は楽譜がなく、長い間口伝えで歌い継がれてきました。そのため、時代と共に曲調が変わったり、歌われなくなった曲が出てきたりもしました。

 今年のリーダーたちは、上の世代の卒業生の方々に「昔はどんなふうに歌っていましたか」と聞きながら、歌い方ひとつひとつを確認していました。

Sさん:最近歌われなくなった曲や、音程が変わってしまった曲もあったので、「せっかくだから正しく歌えるようになりたいよね」とリーダー同士で話しあいました。今のリーダーの中には、お母さんも英和生で、かつて野尻キャンプのリーダーをしていたという人もいました。そこで、お母さんやその友人、卒業生リーダー経験者の先生に教わりながら曲を復活させました。今年のキャンプでは、復活させた曲をみんなで歌えるようにしたいという思いで、一生懸命取り組みました。

今井先生:野尻では、みんな四六時中歌っています。誰かがふと歌い始めると、自然とみんなが合唱に加わるんです。学校でもピアノやオルガンの音色、歌声が聞こえてくることがよくありますが、そうした音楽にあふれた東洋英和らしい光景は、野尻の大自然の中でも変わりません。

歌い継がれてきたキャンプソングはなんと100曲以上。それぞれ、思い入れのあるお気に入りの曲があるという

互いを認めあう温かさが育む「東洋英和らしさ」

--野尻キャンプを通して感じられる「東洋英和らしさ」とは何だと思いますか。

Sさん:野尻は「ありのままの自分でいられる場所」です。普段めったに泣かない私も、最終日のキャンプファイヤーでは感動して涙を流してしまうほど、素の感情を出せるんです。

 もちろん学校生活の中でも、友達のありのままの姿や気持ちをお互いに受け入れる文化があります。野尻は、そうした東洋英和らしい関係性が、より濃く表れる場所なんです。互いのそのままを受け入れる温かさこそが、野尻でも育まれている東洋英和らしさだと思います。

Oさん:キャンプソングの話もありましたが、野尻では食器を片付けているときも、お風呂に入っているときも、本当にずっと歌っているんです。その明るい雰囲気の中で、自然と会話が生まれ、友達になれた子もいました。誰にでも温かく接するところに、東洋英和らしさが現れているのだと思います。

Hさん:私はもともと人見知りで、自分から話しかけるのが得意なほうではありません。でも、野尻では、不思議と誰とでも話せるようになるんです。そんな経験を通して、人との関わりを楽しめる自分の一面に気付くことができました。また、先輩や仲間から受け取った優しさを、次は自分が誰かに返していきたいと思えるようになったことも、大きな成長だったと感じています。

今井先生:東洋英和では毎朝の礼拝で聖書を読み、讃美歌を歌います。そうした日々の積み重ねの中で、「あなたは大切な存在ですよ」というメッセージを受け取って育っているからこそ、東洋英和の生徒たちは自分自身を肯定的に捉え、自己肯定感を育んでいるのだと思います。

 建学の精神である「敬神奉仕」を、頭で理解するだけでなく体感できる場が野尻キャンプだと思っています。仲間と歌い、湖の冷たさや突然の雨といった自然を五感で受け止め、さまざまな体験を仲間と共有することで、人とのつながりや東洋英和が大切にしてきた価値観をより深く実感できるのだと思います。

 卒業後も大学生リーダーやスタッフとして関わり続け、おばあちゃんになっても野尻への愛着をもち続ける人もいます。世代を超えて心の拠り所であり続けていることこそ、この伝統の素晴らしさなのではないでしょうか。また、保護者の皆さんもキャンプサイトの整備や準備に協力してくださっていて、多くの人に支えられながら野尻の伝統は受け継がれています。

今井先生は、「建学の精神である『敬神奉仕』を、頭で理解するだけでなく体感できる場が野尻キャンプ」と語る

 準備では保護者らが協力し、現地では同級生や先輩、そして大学生となった卒業生リーダーたちが互いに温かく支えあう。そんな人とのつながりの中で、「自分は多くの人に愛されて、支えられているんだ」と心から実感できる野尻キャンプ。野尻で見つけた自分らしさや、仲間との大切な絆を胸に、東洋英和の生徒たちはそれぞれの未来へと歩みを進めていく。

東洋英和女学院 中学部高等部

《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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