国際科学オリンピックに期待と課題…日本選手団が説明会

 2012年度の国際科学オリンピックに出場する日本選手団が、代表選手の発表および参加への意気込みなどを語る記者説明会が、7月6日に開催された。参加は、数学、化学、生物学、物理、情報、地学、地理の7科目。

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物理オリンピック日本委員会 国際物理オリンピック派遣委員長 北原和夫氏
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 2012年度の国際科学オリンピックに出場する日本選手団が、代表選手の発表および参加への意気込みなどを語る記者説明会が、7月6日に開催された。今年の参加は、数学、化学、生物学、物理、情報、地学、地理の7科目となっており、全国の高校から選ばれた31名の代表選手が、7月から10月にかけてそれぞれの科目ごとの本大会に参加する。

 NPO法人 物理オリンピック日本委員会 国際物理オリンピック派遣委員長 北原和夫氏が日本選手団を代表して挨拶を行い、以下、情報、物理、数学、化学、生物学、地学、地理の順で各選手団の代表が、それぞれのオリンピックの概要や代表選手の紹介、参加の目的や目標、課題などを発表した。

◆国際情報オリンピック:4名参加で上位を目指す

 国際情報オリンピックについては、情報オリンピック日本委員会 専務理事 谷聖一教授が発表を行った。2012年はイタリアで9月23日から30日までの日程で開催される。競技は、問題の論理的な分析からアルゴリズムを考え、実際のプログラムを作成し、その実行結果や時間などを評価するそうだ。筆記試験ではなくプログラミングの技術を個人戦で競う形になる。日本からは4名が参加して上位を目指す。なお、本大会で使用される言語はC/C++だそうだ。

◆国際物理オリンピック:強みを発揮

 続いて国際物理オリンピックの発表だ。発表は、挨拶を行った北原氏である。今年は昨年に引き続き参加する選手もおり、強化合宿などの感触もよく強みを発揮できるのではないかと抱負を語る。また、物理オリンピックにおける日本の課題としては、参加者のすそ野を広げる取組みやフォローアップのしくみを強化することと、韓国やドイツの例を参考に、選抜しながら教育も行うようなプログラム開発も必要だとした。開催はエストニアで8月15日から24日までの日程だ。

◆国際数学オリンピック:合宿強化などで8位を目指す

 国際数学オリンピックは今年で53回目となる歴史ある大会だ。説明を行ったのは、数学オリンピック財団 事務局長 淺井康明氏である。数学オリンピックは選手の得点で順位を決めているため、昨年はメダルは6個獲得したものの順位は12位だった。今年はOBらの指導や合宿を強化し8位を目指すとした。課題としては、地方からの選手の掘り起し、指導のさらなる強化、そしてグローバルでは9月始業というタイミングから4月に大学生になってしまう高校3年生が参加できないなどの問題点も指摘された。数学オリンピックは7月9日から15日までアルゼンチンで開催される。

◆オール化学界で取り組む国際化学オリンピック

 国際化学オリンピックは、東京農工大 米澤宣行教授が説明を行った。化学オリンピックは、日本化学会や武蔵大学、秋田大学、三重大学などが選考試験、準備問題、訓練合宿などに協力し、日本のオール化学界で取り組んでいるという。競技は実験がメインで行われるため、結果をまとめるレポートの品質を上げることが課題だとした。また、代表選手の特徴として、化学部(クラブ)の生徒は部のかけもちが多く、今回の選手の中には高校野球の球児という生徒もいるそうだ。今年の開催地はアメリカのメリーランド大学(開催期間:7月21日から30日まで)だそうで、大会終了後には化学オリンピックのOBが留学しているMITへの訪問も予定している。

◆成長が目覚ましい国際生物学オリンピック

 国際生物学オリンピックは7月8日から15日までの日程でシンガポールで開催される。説明を行ったのは国際生物学オリンピック日本委員会 松田良一教授だ。生物学オリンピックの参加は7回と歴史は浅いが、昨年は3位に入賞するなど、ここ数年の成長が目覚ましい。生徒のモチベーションも高く結果も期待できるが、大学などの協力体制に課題が多いと松田教授は語る。

 選手への教育にはいくつかの大学の協力が得られるが、活動自体に業務との関連が付けられないため、人事評価に貢献しない、オリンピック参加が出張扱いにならないなどの問題があるとした。合宿や研修に大学の施設などを利用する場合に、「大学にメリットはあるのか」といった意見が出される現実にいたっては、理科振興費などの活用を含めて国としても検討すべき問題かもしれない。

 なお、生物学オリンピックの代表選手には、今年の日本代表団唯一の女子生徒も選ばれている。

◆国際地学オリンピックは支援体制が確立

 国際地学オリンピックの説明を行ったのは、地学オリンピック日本委員会 事務局長 瀧上豊理事だ。2012年の地学オリンピックは10月7日から13日までの開催となる。これは、競技にはフィールドワークもあるため、開催地であるアルゼンチンの冬を避ける措置だそうだ。

 日本の生徒は地学の授業で地質・地球科学、気象・海洋科学、天文・惑星科学をカバーしているため、JAMSTEC、JAXA、その他博物館など支援体制も確立されており、他国より有利だとする。反面、大学受験重視の学校は地学を開講していないところも少なくないという課題もある。地学は災害研究や環境問題と密接しているため、力を注いでほしい科目だ。

◆国際地理オリンピックでは金を含む複数メダル獲得を目指す

 最後は、国際地理オリンピックの説明だ。担当するのは、国際地理オリンピック日本委員会の大谷誠一氏だが、大谷氏は現役の高校教師だそうだ。開催地はドイツ。日程は8月21日から27日までとなっている。

 2013年の地理オリンピックは日本での開催が予定されているそうで、今年の大会はその広報も行いつつ、金を含む複数メダルの獲得を目指すという。そのために、国内合宿では、京都の視察等に訪れていた国際大会委員長らによる講演を開催したり、英語の地理教科書を使った指導、ドイツでの現地合宿なども行っている。

◆代表選手の意気込み

 一通りの発表を終えた後、説明会に参加していた3名の代表選手が、それぞれオリンピック参加への意気込みなどを披露してくれた。

 情報オリンピックの代表選手である劉鴻志さん(栄光学園高等学校2年)は「目標は金メダルです。過去の大会の問題などから、実力を出せればとれると思っています。大会参加は初めてですが、ネット上の国際大会での知り合いに直接会えることも楽しみにしています。」と語ってくれた。

 数学オリンピックの代表選手からは、村井翔悟さん(開成高等学校3年)が登壇し、「去年はメダルはとれたものの成績には不満があったため、今年はぜひ金メダルを目指したいです。英語の壁を感じていますが、がんばります。」とのコメントを寄せてくれた。

 化学オリンピックは昨年の大会で金メダルを獲得している副島智大さん(立教池袋高等学校3年)が「昨年に続きメダルをとるべく、体調管理をしっかりしたいと思います。英語については問題は感じなかったのですが、積極性が足りなかったという反省があり、今年は積極的に質問したり他国の参加者との交流を深めたいです。」と抱負を語ってくれた。

 国際科学オリンピックでも、近年、韓国、中国、タイなどアジア諸国の台頭がめざましいという。日本も本気で国際競争力をつけるつもりなら、題目を唱えるだけでなく、このような若い世代の教育や支援に注力すべきだろう。産業だけでなく頭脳まで空洞化が進むことは避けなければならない。

《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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