【NEE2014】PISAショックからの立ち直りと「総合的な学習の時間」…尾崎春樹氏
国立教育政策研究所の前所長である尾崎春樹氏は、OECDの学習到達度調査(PISA)で日本の生徒の学力が落ちたという問題(PISAショック)から、近年回復傾向にあるのは「脱ゆとり」による指導要綱の改訂よりも「総合的な学習の時間」の効果ではないかという講演を行った。
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
PISAはOECD加盟国向けに実施される子どもの知識・技能・問題解決力などを測る調査である。調査対象は、義務教育終了段階の15歳の生徒(日本では高校1年生)で、2000年から3年ごとに実施されている。内容は、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー、問題解決能力にアンケート調査だ。そして、日本はこの調査において2003年、2006年と連続して多くの分野で順位を下げていた。これがPISAショックと呼ばれ、とりわけ2002年に実施された指導要領の改訂、いわゆる「ゆとり教育」に原因があるのではないかと問題視された。
しかし、2009年からは順位が上昇している。これは、2008年に策定され2011年から実施された「脱ゆとり」による指導要領の改訂による効果とは考えにくい。事実2012年のPISAでも日本は順位をさらに上げている。2012年に調査対象となった生徒は、2003年に小学校に入学した児童だ。小学5年生までは、改訂された指導要領での授業は受けていない。
ではPISAでの日本の成績が上がったのはなぜか。2012年のPISAについて「日本はすべての分野でトップ、またはトップに近く(加盟国中での順位)、問題解決能力においては、レベル4以下(成績中位・下位層)の成績が他国の同レベルから20ポイントも高い。その理由として教科と総合的な学習のクロスカリキュラムへの生徒の参加がある。」というレポートをOECDが作成している。同じレポートでは、「カリキュラムの改訂で指導内容を3割減らしたものの、2007年には実社会での知識や活用力に焦点をあてた全国学力テストも実施されている。」と全国学力・学習状況調査についても分析・言及している。
尾崎氏は、OECDの分析をもとに、日本がPISAショックから立ち直ったのは、総合的な学習の時間と全国学力・学習状況調査を組み合わせた取り組みが功を奏したのではないかとする。そしてこれは、国内で実施した全国学力・学習状況調査の結果からも裏付けることができるという。この調査でも、総合的な学習の時間を積極的に取り入れた学校(秋田県でその結果が顕著)では、正答率が上がるなど成績面での効果が見られた。
ただし、課題もあるという。まず、PISAのアンケート調査の分析では、日本の生徒は成績は良い(正答率)ものの、自己信念に関する項目でネガティブな考えをもっている傾向がある。通常、自己信念(この問題を解けると思う、この教科は得意だと思う、授業や理解に自信がある、など)がポジティブなほど正答率は上がるのだが、日本は正答率が高くてもこれらの指標が加盟国中下位に位置する。考え方や文化の違いかもしれないが、尾崎氏は、逆に日本の生徒が自己信念に関してもっとポジティブになるような施策をすれば、さらに成績が上がるのではないかとする。
また、PISAの調査でも、日本の学習状況調査でも、学力と社会・親の経済的背景(SES:Socio Economic Status)の影響が指摘されている。親の収入や学歴は学力と非常に強い相関がある。もちろん例外もあるわけで、収入が高ければ必ず学力も高いということではないが、結果として収入や経済的要因が学習の機会や質に影響があることは認識しなければならない。
続けて尾崎氏は、調査では、収入が低くても学習時間や生活習慣、親の関与、学校の支援などがあれば成績上位層に入れることも確認されており、これが対策のヒントとなるとする。しかし、低いSES生徒の成績上位層のポイントは、高いSESの成績下位層のポイントと同レベルというデータもあるといい、国や自治体による政策的な支援や機会均等の施策が重要だと述べた。
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