中学校・高等学校の授業の一部に取り入れられている「プログラミング教育」だが、小学校では何を学ばせればいいのか。また、中学校との連携はどうすればいいのか。セミナー当日は、先進的にプログラミング教育に取り組んでいる、宮城教育大学 教育学部の安藤明伸准教授、相模原市立総合学習センター指導主事の渡邊茂一氏、草津市教育委員会 学校政策推進課 専門員の西村陽介氏らが、それぞれのプログラミング教育への取組みを紹介した。
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NEE2017で行われた講演「プログラミング教育が目指すもの~本当に必要な教育内容や指導体制とは~」
◆プログラミング教育は国をあげてのプロジェクト
まず始めに、堀田氏は次期学習指導要領に小学校におけるプログラミング教育が明示されるに至った経緯を概説した。
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東北大学大学院 情報科学研究科教授の堀田龍也氏
それによると、プログラミング教育の必修化は、国が発表した「日本再興戦略2016―第4次産業革命に向けて―」の中で「日本の若者が第4次産業革命時代を生き抜き、主導できるよう、プログラミング教育を必修化するとともに、ITを活用して理解度に応じた個別化学習を導入する(参照:第1 総論 「I 日本再興戦略2016の基本的な考え方」より)」と明記されている。
それを受けて、文部科学省に「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」が設置され、小学校段階でのプログラミング教育の在り方について2016年6月16日に議論のとりまとめが提出され、中央教育審議会(中教審)に申し送られた。
その結果、中教審最終答申を経て、新学習指導要領の総則に「児童がプログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論知的思考力を身に付けるための学習活動」と示された。昨年(2016年)のNew Education Expoは、有識者会議の議論のとりまとめの発表前だったため言及できなかったが、この一年で急速な進展があり、試行錯誤しつつもプログラミング教育にすでに取り組んでいる自治体もある。
今後、少子高齢化が深刻化する日本では、AIやロボットの力を借りながら生活していかざるを得なくなるだろう。そのような時代において、未来を担う子どもたちがプログラミングについて知らなければ、“ロボットに使われる”ことにもなりかねない。イギリスでは「コンピューティング」という教科があり、小学校1年生からアルゴリズムやデータ構造についても学んでいる。日本の子どもたちは、将来彼らと闘わなければならないと考えると、プログラミング教育は避けて通るわけにはいかない。
以下、パネラー陣から各自の取組みに関する発表を紹介する。
◆習い事など、家庭レベルではすでにプログラミング教育への関心は高まっている
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宮城教育大学 教育学部の安藤明伸准教授
安藤氏:中学ではすでに必修化されており(編集部註:技術・家庭科の「プログラムによる計測・制御」が該当)、高校でも選択ではあるがプログラミング教育は行われてきた。小学校には「情報」という教科はなく、「各教科の特性に応じて、ふさわしい場面でプログラミングの学習活動を入れる」ことが求められている。
宮城教育大学附属中学校では、「技術・情報科」という教科を設け、プログラミングを柱にした教育課程をつくってきた。その中で、プログラミング教育は探究的な学習課程と相性がいいこと、総合的な学習の時間で採り入れやすいことがわかってきた。また、プログラミングというと、難しいプログラミング言語をひたすら覚えるというイメージを持つ人も多いが、プログラミング言語も目覚ましく進化しており、子どもたちが楽しく取り組めるアプリも出ている。さまざまな教科との接点も見い出せてきた。学校教育だけでなく、習い事としてはすでにかなり広がっている。企業がCSRの一貫としてプログラミング教育を行うケースもあり、関心のある子どもや家庭が全国的に増えている。
◆中学校との連携を考えた授業づくり…パソコンを使わないでも取り組める方法を探る
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相模原市立総合学習センター指導主事の渡邊茂一氏
渡邉氏:相模原市では、ICT環境の整備は全国的に遅れている。当初はプログラミング教育といっても、どんな授業を行ったらいいのか見当もつかなかった。行政・企業と連携し、(1)プログラミングの仕組みの理解、(2)中学校との連携を意識した授業づくりを方針の柱とし、「プログラミング的思考を育てる授業」づくりを目指した。
まず、中学校の授業内容を改革した。従来、接触センサーと走行型ロボットによる、車庫入れや迷路抜け、ライントレースロボット教材によるコースの走行に取り組んできたが、生徒たちの反応は芳しくなかった。そのため、もっと身近な技術として、自動改札やタッチパネル式の自動販売機をプログラミングで制御する、という取り組みを行った。一人一台パソコンの環境はなく、PC教室での取り組みとなったが、そのため生徒たちが集まって相談しながら試行錯誤するという協働型の活動となり、大変おもしろい授業となった。
小学校では、中学校で行う授業から逆算して、何をするべきか考えた。相模原市では、国語の授業の中でプログラミング学習を行った。企業の協力を得て、「レゴWeDo2.0」を用いてプログラミングを体験させ、その体験をもとに、レポートを書かせるという授業を行った。この過程で、「世の中のプログラムを見つける、触る、つくってみる」という体験をし、「調べた内容を人にわかりやすく伝える文章表現を身に付ける」ことを目指した。
そのほか、国語の授業では、「お店やさんと客との会話のやりとりを短冊に書き、並べ替える」という活動を通して、プログラミング的思考力を身に付けるなど、「パソコンを使わないでできる」取組みを行った。
今後、算数の「おおよその数」を「Scratch(スクラッチ;編集部註 小学生でも簡単にプログラミングができる無料のプログラミング言語学習環境)」を用いてできないか検討している。プログラミング教育の指針を作成し、全市に広げていきたい。
◆とにかくやってみることで見えてきた方向性
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西村氏:草津市は、平成21年度からICT化に取り組み、平成28年度には児童生徒2.3人に1台のタブレットPCがあり、ICTを活用した草津型アクティブラーニングも実践してきた。プログラミング教育については市内の2校が実践を進めており、来年度(2018年度)から市内全校に実践を広げる予定である。
カリキュラムは、ICT機器を活用して行うプログラミング教育と、紙を使ったアナログの授業「コンピュータサイエンスアンプラグド」とを組み合わせ、発達段階に応じた、効果的・体系的なカリキュラムを編成した。
当初、どのようなソフトをどんな場面で使ったらいいのか、各学年でどんなことができたらいいのか、これまでの研究とどう結びつくのかなど、不安や疑問はあったが、「とにかくいろいろやってみる」こととし、図工、生活科、理科、学活などさまざまな場面での実践を行った。
やっていくうちに、「学年ごとに適したソフトがある」「実物があると低学年の児童にもプログラミングの仕組みが理解しやすい」「パソコンを使わなくてもワークシートなどを使ってプログラミング的思考力の育成はできる」などがわかってきた。
また、授業づくりにおいても、「指導案の型を作ってそれに当てはめて計画を立てるようにしておくと、大切な事項を忘れずに計画できる」「学年ごとや授業の過程ごとに、つけたい力を整理しておくと、体系的に取り組める」などの気づきがあった。
平成28年度の取組みの成果をまとめると、「問題解決能力・創造力・論理的な考え方が身に付いた」「仲間と協力しながら試行錯誤して考えた経験は、どの教科でも生きてくる」などの成果が得られた。今後は、「教科の特性を生かしたプログラミング教育の実施」、「プログラミング教育に関わる評価基準・教材の作成」、また「授業時間確保」が課題だと考えている。
◆学校だけでできることは限られている…産官学での取組みが重要
安藤氏、渡邉氏、西村氏の発表を受け、堀田氏は次のように締めくくった。
「草津市の『とにかくいろいろやってみる』というのは、教育の情報化が始まった当初に似ている。『いろいろな不安はあったが、とにかくやってみたら最初の心配は杞憂だった』ということが来年のこの場で共有できるかもしれない。
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講演のようす
『プログラミングを体験させる』ということは、とにかくやればできる。しかし、『プログラミング的思考を身につけさせる』ためには大変な時間がかかる。これをすべて、コンピュータを使った授業で行うことは無理。プログラミング体験をする時間のほかにも各教科等の中で『プログラミング的思考』を育てることが可能であり大切であることが、事例からわかったかと思う。
プログラミング教育については、国としても産官学協働で取り組むべき課題と認識していて、2017年2月に文部科学省、総務省、経済産業省が、『未来の学びコンソーシアム』を発足。学校関係者や教育関連やIT関連の企業・ベンチャー、産業界と連携し、教材の開発や体験的プログラミング活動の実施等を行っていく。
プログラミング教育で何を目指すべきか、なんとなくわかっていただけたと思う。学校のみでできることには限りがある。外部のリソースもうまく使いながら、やれるところからやってみるのが大事かと思う。」(堀田氏)
安藤氏の発言にもあったが、筆者も「プログラミング教育=難しいプログラミング言語を子どもに学ばせる」というイメージがあり、小学校からの必須化に疑問を持っていた。しかし、習い事としてプログラミングを学ぶ子どもが増えていること、ビスケットやスクラッチなどの子どもでも簡単にできるツールを利用し、遊び感覚で子どもがプログラミングに取り組んでいる姿を見て、プログラミング教育に対する印象は変わった。
すでに世の中の商品やサービスの多くがプログラミングによって動いている。「機械に使われないためにも最低限の知識は必要」という冒頭の堀田氏のコメントは、未来を生きる子どもたちを育てるすべての大人たちが心にとめておかなければならないことだろう。