【プログラミング教育の基礎3】算数とプログラミング的思考の関係とは…関西大・黒上晴夫教授

 次期学習指導要領で注目される、小学校での2020年からのプログラミング教育の導入。その第一人者である関西大学総合情報学部・黒上晴夫教授が「プログラミング教育」の基礎をわかりやすく解説。

教育・受験 先生
図3
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 次期学習指導要領で注目される、小学校での2020年からのプログラミング教育の導入。その第一人者である関西大学総合情報学部・黒上晴夫教授が「プログラミング教育」の基礎をわかりやすく解説。

学習内容の理解につなげる



 算数の計算は、手順そのものである。二桁引く一桁の引き算を考えよう。筆算の場合、まず1の位に目をつける。イとウを比較して、イの方が大きければ、イからウを引いた数をオに書く。エにはアをそのまま書く。同じであれば、0をオに書く。エにはアをそのまま書く。ウの方が大きければ、イに10を足して、そこからウを引いた数をオに書く。エには、アから1を引いた数を書く。文で書くとこうなる。ややこしいので、箇条書きすると下のようになる。

図3
イとウの大きさを比べる
(1)イがウより大きいとき
・イからウを引いた数をオに書く
・エにアをそのまま書く
(2)イとウが同じとき
・0をオに書く
・エにアをそのまま書く
(3)イがウより小さいとき
・イに10を足して、ウを引いた数をオに書く
・エにアから1を引いた数を書く

 (1)(2)(3)の分岐があって、その先に異なる処理が続いている。二桁引く一桁の引き算で多く見られる間違いが、(3)の後の処理である。(3)であってもイからウを引いた数をオに書いてしまう。エにアをそのまま書いてしまう間違いも多い。

 このような手順については、子どもが自分で考えるのが大事だろう。そしてそれを、グループやクラスで比べて確かめることで、違っている部分が発見できる。もちろん、クラスみんなで手順を考えて、流れを整理していってもよいだろう。その際も、各自が心の中で思っている手順が、相互に比較されるようにもっていきたい。それが、教科内容の理解につながる。

 手順を教えられると、どのようにその手順ができたのかがわからず、ただ記憶するだけになる。そして、間違って覚えたり、忘れたりする。困ったときに、自分なりのやり方を発明してしまう。

 このように、手順を考えることが、教科内容の理解につながる場合も少なくない。そのような事例を、実際に見つけ出してみようということで、執筆者みんなで、実践を考えてみた。教科の内容もあれば、特別活動もある。避難訓練のようなものもある。

 手順や分岐や反復を考えて、それを自分なりに図示してみることが、より深い理解を生むものは何かを考えた。そして、それがどのようなプログラミング的思考につながっているのかを検討した。

プログラミング教育への期待



 プログラミング教育についての期待を描いておきたい。プログラミング的思考の教育に的を絞ってみたが、プログラミング体験を否定するものではない。むしろ、その体験の前に、これらの学習があれば、体験の背景にあるアルゴリズムに気付き、それを理解しやすくなるのではないかと考える。それがなければ、ただ楽しくモノをコントロールするだけの遊びに、体験が終わってしまいかねない。かといって、無理やり背景にあるアルゴリズムを教えると、楽しくなくなる。プログラミング・アレルギーさえ生み出しかねない。プログラミング的思考を、教科や日常生活の学習場面で培っておくことが、より有意義なプログラミング体験につながるのだと思う。

 そして、これらの教育は、やはり優秀なプログラマーをつくることを目的にしてはいけないのだと思う。優秀なプログラマーは、彼らを必要とする企業に雇われていく。外国の企業であっても。

 もっと大事なのは、新しい発想のプログラムを用いた動きを創り出せる人材をつくることなのだろう。それには、プログラミングができることより、プログラミングすることで生まれる世界を見通せることの方が重要だ。

・よりよいプログラムになるように、問題を上手に可視化すること
・プログラムすることで、新しい価値が生まれそうなことを見つけ出すこと

 これらが、プログラミング教育の到達点であってほしい。

イラスト

本書(*1)で扱った事例



*1 「プログラミング教育導入の前に知っておきたい思考のアイディア (教育技術MOOK)」発行:小学館

 以下に、今回検討した事例を一覧しておく。それぞれ末尾の( )に、プログラミング的思考のどの要素が含まれているかを記している。

p16 プロット図を用いて、出来事が起こる順序を考えてお話を書く(順次) 国語
p18 おおきいかず(順次・分岐・実行) 算数
p20 ローマ字のきまりをまとめよう(順次・分岐・実行) 国語
p22 ストップモーションアニメーションをつくろう(反復・実行) 図工
p24 主語と述語に修飾語を付ける(反復・実行) 国語
p26 考えたとおりに動くように確認しながら、Webサイトを作成する(分岐・順次・実行) 社会
p28 住みよいくらしをつくる(順次・分岐・反復) 社会
p30 わり算の手順を、フローチャートで整理する(順次・分岐・反復・実行) 算数
p32 問題の解決に必要な手順を、意識させる(順次・分岐・反復) 総合
p34 インタビューの計画を立てよう(分岐・順次・実行) 総合
p36 学校改善案を考え、提案しよう(分岐・順次・実行) 国語
p38 自動車を組み立てる工程をまとめよう(順次・分岐・反復) 社会
p40 図形の敷き詰め(反復・実行) 算数
p42 きまりを見つけ、利用しよう(順次・実行) 算数
p44 理科実験の流れを、フローチャートで理解する(順次・分岐・反復) 理科
p46 リズムアンサンブルをつくろう(順次・反復・実行) 音楽
p48 かけ算を、筆算で早く正しく解く方法を探ろう(分岐・順次・実行) 算数
p50 水溶液の名前を当てよう(分岐・順次・実行) 理科
p52 いろんな作戦を考えよう(順次・実行・相互作用) 体育
p54 カレーライスのつくり方を考える(順次・分岐) 家庭
p56 かかりのしごとを、かんがえよう(順次・分岐・反復・実行)学級活動
p58 『命を守るために』(地震の場合の避難訓練)(分岐)学級活動
p60 効率的な掃除の方法を考えよう(順次・分岐・反復・実行)学級活動
p61 漢字の書き取り力を付けよう(順次・分岐・実行)学級活動
p62 よりよいクラスになるために(順次・反復・実行)学級活動

プログラミング教育導入の前に知っておきたい思考のアイディア (教育技術MOOK)

発行:小学館

<著者:黒上 晴夫>
関西大学総合情報学部教授。米国や豪州における授業研究を元に、2012年に「シンキングツール~考えることを教えたい~」を無料でWeb公開。以来、思考スキル・思考ツールの活用研究をリードしてきた。学習指導要領改訂に関わる各種会議委員。
<著者:堀田 龍也>
東北大学大学院情報科学研究科教授、博士(工学)。東京都小学校教諭を皮切りに、情報社会に生きていく子どもたちのための授業の在り方を追いかけてきた。文部科学省参与(併任)。中央教育審議会情報ワーキンググループ主査。小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議主査/学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議座長。

《リセマム》

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