スマホ学習が「主体性のある学び」のきっかけに…ノート共有がつなぐ学習の好循環

 「スマホ学習」という言葉に眉をひそめる大人たちが目に浮かぶ。しかしそれは、デジタルネイティブたちが切り開いた、新しい学びの形だ。本企画では、学習ノート共有アプリ「Clear」運営会社・代表である新井豪一郎氏に「主体性のある学習」について聞く。

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スマホ学習が「主体性のある学び」のきっかけに…ノート共有がつなぐ学習の好循環
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 2020年度から始まる大学入試改革は周知の事実だろう。これまでおもな評価項目となっていた「知識・技能」に加えて、「思考力・判断力・表現力等」そして「主体的に学習に取り組む態度」も評価され、今後子どもたちに求められるものが大きく変わろうとしている。

 本企画では、学習ノート共有アプリ「Clear」運営会社・代表である新井豪一郎氏に、アプリユーザーの家庭学習動向の考察を踏まえ「主体性のある学習」について聞く。

 学習ノート共有アプリ「Clear」は、学習者が自身で作成した手書きのノートをスマートフォンで撮影し、公開するアプリで、運営会社のアルクテラスのデータによれば、国内の中高生の4人に1人がダウンロード。公開されているノートは25万冊以上で、月間ユーザー数は100万人にものぼるという。

「スマホ学習」がスタンダードになりつつある現代



 本題に入る前に、スマートフォンが完全に普及した現在、学習ツールとして、それを活用している子どもたちは多く、特に中高生ではスマートフォンを使って勉強することがスタンダードになっているという前提を伝えておきたい。アルクテラス代表・新井豪一郎氏は「『Clear』ユーザーと接していてよく耳にするのが、勉強中にスマートフォンを見ていると親から『遊んでいるんじゃないの?勉強しなさい』と言われてしまうという嘆きです。確かに大人は、特に受験を控えている受験生の保護者であればなおさら、そう思ってしまいがちですし、心配になってしまうのも理解できます。しかし、保護者の皆さんが思っている以上に子どもたちはスマートフォンをうまく活用して学習しているのです」と話す。

スマホ学習が「主体性のある学び」のきっかけに…ノート共有がつなぐ学習の好循環
デジタルネイティブ世代の学びは「スマホ学習」がスタンダード

 MMD研究所とオンライン学習塾アオイゼミが2017年11月に実施した「中高生の勉強時におけるスマートフォン利用実態調査」では、中学生の91.0%、高校生の92.1%が勉強でスマートフォンを使用しているという結果が発表されている。

 活用目的の上位は「わからない単語や問題の検索」「YouTubeなどで問題の解き方や授業を視聴」など。また、学校へのスマートフォンの持込み状況についての項目では、中学生の14.5%、高校生の86.5%がスマートフォンの学校持ち込みを許可されていると回答している。学校でのスマートフォンの利用目的としても、中学生では「授業や勉強のわからないことを検索」「友達のノート撮影」「メモ」、高校生では同項目のほか「黒板の写真撮影」が上位を占める結果となった。大人が考える以上に、子どもたちは文明の利器を使いこなしながら、時代に合った勉強法を見出していると言える。この調査結果を知るだけでも「スマートフォンを見ている=遊んでいる」という偏見は払拭されるのではないだろうか。

主体性が左右する学習効果…ユーザー分析からわかったこと



 「主体的な学習」といっても具体的にイメージしにくいかもしれない。新井氏によれば「主体的な学習を実現する、ひとつの手段として『学んだことを人に教えることで理解を深め定着させること』がある」という。

「Clear」には25万冊を超えるノートが公開されている

 「たとえば、学習ノート共有アプリ『Clear』にはQ&A機能を設けています。勉強中にわからないことがあったらここへ投稿し、わかるユーザーがそれに回答をしていきます。また、公開したノートそれぞれにもコメントを残せる機能がるので、他のユーザーとやりとりが可能です。」(新井氏)

 なかには自分のノートは公開せず、閲覧するだけで学習しているユーザーもいるそうだが、『Clear』を活用して成績が上がったユーザーの行動を分析していくと、以下の3つの特性がわかったそうだ。

(1)まず、わからないことを教えてもらったり、公開されたノートを閲覧することで課題を解決する
(2)次に、教えてもらって理解したことを自分なりにまとめ、ノート公開することで次の人に教える
(3)他の人が投げかけた質問に対し、回答して教える

「人に教える」ことは、学習の好循環を起こす



 自分が手間暇かけて作成した学習ノートをインターネット上で「人に見せる」という行為に対し、疑問を抱く大人は少なくないだろう。なぜそんな面倒なことをするのか、せっかく苦労して蓄積した知識をライバルになるかもしれない他の誰かに見せても良いのか。それでも子どもたちは、喜んで自ら手書きノートを共有する。その理由を新井氏は、こう分析する。「理由は、すごく単純で『楽しいから』なのです。この『楽しい』の中身を紐解くと、承認欲求、つまり『いいね!』されたい、認められたい、人の役に立ちたいという要素が挙げられます。これは人間の本能なのだと痛感します」。

自分がわかっていることを人に教える

人に感謝される、うれしい

もっと分かりやすく書こう

わかりやすく書くためにもっと勉強しよう

 「人に教えることで、学習における正のスパイラルが回りはじめます。『人に教える』という行為は一見時間のロスとも思えますが、これこそが学習の好循環を生み出し、自身の学習を深化させるのです」と新井氏は語る。人に教えるという行為によって、自分だけでなく、相手も理解しやすいように、思考しながらノートを作成する習慣が生まれる。そこには色づかいや、イラスト、レイアウト等さまざまな工夫も含まれる。そうすることによって、相手から感謝されるだけでなく、後々自分がノートを読み返す際にもわかりやすく、結果的に自らの学びを向上させることができるのである。

「Clear」に公開されるノートには、伝えるための工夫が施されている

学びを楽しむきっかけづくり



 新井氏は「もしご自身のお子さんが『勉強をいまいち楽しんでいないな』と感じたときは『人に教える』きっかけを作ってあげてみてはいかがでしょうか」と提案する。わからない、勉強ができない、勉強がつまらないという袋小路に迷い込んでしまっているのなら、あえて自分ではない『他者のために』ノートをまとめるという視点で取り組んでみることで、突破口を見出せる可能性がある。

 知識・技能は、あくまでも道具だ。これらの道具を状況に応じて適宜使いこなせる、つまり、自分自身のもっている知識をつなぎ合わせたり、比較したりすることで、クリエイティビティを発揮し、アプトプットできるようになることこそが、学びの真の目的と言えよう。

 「自分が学んだことを上手に人に教えられるということは、非常に大きな、ひとつの『生きる力』だと私は考えます。人に教えることをきっかけに、主体的な学びが始まります。この仕組みをご本人や保護者の皆さんが理解するだけで、学習への向き合い方が変わるはずです。」(新井氏)

 「主体性のある学び」を引き出す方法もわからぬまま、ともすれば、主体的に学ばせようと勉強を押しつけてしまっていたご家庭も多いのではないだろうか。自分の知識を他の誰かにお裾分けすることをモチベーションに、学びを楽しむ。従来はひとりで完結していた学習という行為が、他者とつながることでさらに広がりをもつことができる。新たな視点が、学びを拓いてくれるに違いない。

《編集部》

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