おおたとしまさ×イモニイ×松島伸浩が熱論「幸せな中学受験」

 2019年5月21日、教育ジャーナリストおおたとしまさ氏の「いま、ここで輝く。超進学校を飛び出したカリスマ教師イモニイと奇跡の教室」出版記念トークセッションが開催された。ゲストはイモニイこと栄光学園の井本陽久先生と、花まるグループ スクールFC代表の松島伸浩氏。

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おおた氏からは熱いメッセージ
おおた氏からは熱いメッセージ 全 9 枚 拡大写真

中学受験の失敗って何だろう?



 第3部は「中学受験で得られるもの」をテーマに、井本先生、松島氏、そしておおた氏の3人によるトークセッション。

 まずは、おおた氏から「中学受験の失敗とは何か?」「親が力を貸しすぎる弊害は?」「親としてのもどかしさとどう向き合えば?」「反抗期もしくは中だるみに接したときに親としてどうすれば?」といった、中学受験のおよそ3年間から中高6年間の9年間で想定される問いが提起された。

中学受験と親の関わりがトークセッションのテーマに中学受験と親の関わりがトークセッションのテーマに

 おおた氏は、いま中学受験の「学校選び」において、親御さんたちの目が肥えてきたと感じているという。学校の本質を見て、親の教育観や子どもの個性に合っている学校を選ぶようになってきているとのことだ。そんな中で、松島氏からは、学校選びは親の大切な役割としながらも、普段感じていることが訴えられた。

 「中学受験の失敗の影響は、その後で子どもがどう伸びていくかによって違ってくると思います。受験を通して、考えることや学びが好きになった上で進学するのと、中学受験の段階で、もうちょっと勉強は嫌だなというふうに感じてしまうのとでは、やっぱり雲泥の差があります。

 また、中学受験なのでたしかに合否は出ますが、ご家庭によっては、うちは1校しか受けません、そこに入らなかったら公立に行かせますと、頑なにの合格できるところを選ばないご家庭もあります。でも、ひとつでも合格を得るということは、子どもにとっては大変な喜びなんですね。たとえそれが進学しないという選択になったとしても、それまでの時間を、子どもたちがやって良かったと思えるものにしてほしいと思っています。」

 おおた氏からは、さらに想いが語られた。

 「たしかに中学受験をすると第1志望に受かるのが一番良い結果で、自分がやってきた努力が報われるという経験は人生に大きな教訓をもたらすと思います。でも一方で、第2志望もしくは第3志望に行くことになったけれど、良い先生に出会えた。もしくはその学校でしか得られなかったであろう親友に出会えた。この学校ですごく努力することで、その環境でしか得られなかった新しい人生の道筋を見つけたなど、12歳からの6年間をどう過ごすかによって、事後に自分の正解にすることはできるわけです。それが、誰かに与えられた正解ではなくて、自分で自分の正解を作る力なんじゃないでしょうか。」

 さらにその先の大学受験や社会に出るところまで話が広がる中で、井本先生から、親がはっとするような興味深い話があった。

 「あんまり真面目すぎないほうがいいと思うんです。皆さんすごく関心があるから、こうしてここに来ているわけで、いろいろと心配もするわけですよね。たしかに子どもに関心をもつのは、子どもにとっても嬉しいし、本当に子どもの心を殺すのは「無関心」ですけれども、これは才能に関していうと、才能を殺すのは無関心ではなく「熱心さ」なんです

 子どもなんて親の思うようにならないんだから、本当にほっとけばいいと思うんです。ただ、やっぱりほっとけないじゃないですか。でもほっとけなくても、どうせ中高で子どもは反抗してくれるので。迷いなくコントロールしきれたら逆に危ないですよね。ある例ですけど、お母さんがコントロールを徹底しきれてしまう、家ではとても良い子なんだけれども、外ではすごく危ないことをしてしまうといったケースはあるんです。

 今からね、こうやって育てないと子どもが曲がるんじゃないかみたいに思ってるとつまんないじゃないですか。曲がったら曲がったで、曲がったら本当はそこが魅力になるみたいな。特に大学受験なんていうのは、どうにでもなるわけで、子どもにしてみたらもう自分の人生に親が関わってほしくない、というのもあるんですよね。

さまざまな気付きがあったトークセッションさまざまな気付きがあったトークセッション

 要は普通、他人にあれこれ言われたら、それだけでうっとおしいじゃないですか。でも先生と生徒、親と子になると、そこはズケズケ言っていいみたいな。感覚がなくなっちゃうんですね。嫌がって反抗するのは当たり前なんですよ。親が大学受験のことを心配したら、どうせ反抗してくれるんだから、あんまりこういろいろ考えなくてもいいんじゃないかなと思いますね。」

 トークセッションは、最後におおた氏からの熱いメッセージで締めくくられた。

 「もどかしいときにも基本放っておく、反抗期があるのは当たり前だということですね。付け加えれば、中だるみが中高一貫校のデメリットですよと言われることがあるんですが、むしろ中だるみするために入るんでしょって。

 14歳、15歳っていう年齢は、本当は勉強しないといけないのはわかってるけど、その自分と向き合えない、その葛藤を味わいながら、それを乗り越えていく。『14歳からの哲学』なんて本もあったじゃないですか。『君たちはどう生きるか』のコペル君も14歳ですよね。コペルくんは旧制中学からいまの中高一貫校のような、高校受験がない環境にいたわけで、14歳って哲学をしはじめる年齢なんですね。そのときに紙と鉛筆で勉強しているのかって、そんなわけないだろって僕は思います。

 どんどん先生や親以外のいろんな大人にあって、失敗をして、その中で自分を知り世界を知り、どこに自分の居場所があるのかっていうのを見つけていく。そういう時期が思春期で、それが自立につながっていく。そうした環境を与えていってあげるのが、中高一貫校を選択するということで、そこに至るまでには中学受験がある。

 でも、中学受験って子どもを潰しちゃうかもしれない。幸せな中学受験とは、松島先生が言うように、親が迷いながらも、子どもを傷つけてまでやらせる必要はないことをおさえていれば、無理して同じことをする必要はないんじゃないかと思います。その子にはその子のやり方があっていいんじゃないでしょうか。

中学受験をはじめとした著書に定評のある、おおたとしまさ氏中学受験をはじめとした著書に定評のある、おおたとしまさ氏

 最終的に中学受験で12歳の2月の入試の本番で、ひとりで本番会場に向かっていくわけです。小さな背中を向けて1人で向かっていくその勇姿。あなたの頑張りを見てたよ、誇りに思うよと、親が伝えることができたら、それはひとつの成功体験なんじゃないかと思います。そういう中学受験に失敗はないと、僕は信じています。

ちっちゃな大人を作るわけではない



 トークセッションの後には会場から、「質問:息子が中学受験をしたものの、進学先が合わずに最終的に公立中へ。でもオレのほうが楽しい授業をやる、先生の言っていることは間違っているなどと言っています。学校に馴染めないとか、自分の能力を過信しすぎているといった生徒がいた場合、どう指導なさいますか。」といった質問が出された。

 井本先生は、「息子さんが、先生やみんなを見下すようなことって、親がいくら言っても仕方がないんですよね。だって本当にそう思っているわけだから。大事なのは、自分で全部決めさせるってことだと思うんです。そう思い続けているとすると、その先でやはり失敗するわけですよ、どこかでね。そこで学ぶわけじゃないですか。

 でも一番大事なのは、自分で決めることなんですよね。たとえば、この授業ダメだ、聞かねーなんていうのも、その子が決めているんだったらもうしょうがないんです。そこに親が介入していろいろやっていたら、彼が自分自身で決めたことじゃないから、反省も何もできないんです。いわば、自分の中での試行錯誤がないんですね。そうなってしまうので、やはり自分で決めさせる。お母さんは、いま、本人が言っている不満などを聞いてあげるだけで良いんじゃないんですかね。

 子どものそういうところを見てしまうと、心配なところばかり目に行っちゃうじゃないですか。でも僕は、いまその子どもが良い状態か悪い状態かなんてどうでもいいと思っているんです。要するに、ちっちゃな大人を育てる必要はないので。

 それより、特に中高時代の関わりってすごく大事だと思っています。良い関係じゃなくなるって、何も生まないと思うんです。なので、子どもが生意気なこと言っていれば、言わせておけばいい。その間でも彼の中に魅力があると思うんです。魅力って自分で気付くものではなくて、他人が気付いてあげるものだと思うので。こういうことで心配だなあという部分とは別に、子どもの何か魅力的なところ、ここが良いなあというところを言ってあげると良いと思います。」と回答した。

 おおた氏は、「今日の話の中で“ちっちゃな大人を作るわけじゃない”がキーワードになっていたと思いますが、どうしても、こうあるべきだっていう姿を未来において、そこに到達させるために『じゃいま何してんの?』となります。どうなるかわからない将来の理想形ばかり。それは誰かが勝手に作った理想形ですよね。多くの場合は親御さんが。

 そこに向けて、いまを粗末にしていると伝えると、たぶん子どもは傷つくんだろうなと思うんです。でも、そこで、子どもの何らかのSOSだったりを、SOSという言い方が良いのかどうかわかりませんが、そういうものを発しているときに、その主張を否定せずに受け止めてあげる。『あぁ、そういう気持ちなんだ』と。どうしたらいいかわからないけれど、一緒にオロオロしてあげるというスタンスができれば、おそらくお子さんが、『あ、オレこうするわ』という次の展開を見つけるんじゃないかなと思うんです。これは、心理カウンセラー的な観点からですが、僕はそう思います。」と述べた。

大人が子どもを見る視点を変えてみる



 「おそらく今日の話を聞かれると、皆さんの子どもを見る視点が、若干変わっているはずなんです。イモニイのやっていることって、この本には書いてないんですけど、その子には居場所が必ずあるんだってことを確信させてあげること。イモニイの中に自分がいるんだって、どこかで気づかせてあげる。この世の中に自分の居場所があるんだと。だってこの世の中に生まれてきているだけで、奇跡なんだもの。そのことをみんな忘れてしまう。だけど、そのことに気付かせてあげることができるだけでいい。その瞬間、子どもは『いま、ここで輝く。』ことができると、僕はそういうふうに思っています。」

 おおた氏からのメッセ―ジで、トークセッションは幕を下ろした。

 親や教員は、時に自分が正しいと思い込み、熱心なほど、子どもを追い込むように接してしまうことがあるのではないだろうか。新著では、イモニイがなぜ子どものまるごとを“承認”していくようになったのかを理解することができる。

 親は子育てや受験の悩みが尽きず、「言うは易しく行うは難し」の面があるだろう。だが、新著を手に取れば、少し肩の力を抜いて、ほっとすることができるのではないだろうか。自分の視点を変えれば身の回りにも、もしかしたら小さな奇跡や変化が起こるかもしれない。多くを求められて疲弊している教育現場にも、この新著が届いてほしいと願わずにはいられなかった。

いま、ここで輝く。 ~超進学校を飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡の教室

発行:エッセンシャル出版社

<著者プロフィール:おおたとしまさ>
 1973年、東京生まれ。育児・教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートを脱サラ独立後、数々の育児・教育誌のデスクや監修を務め、現在は育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。心理カウンセラーの資格、中高の教員免許を所持。小学校教員の経験もある。著書は「ルポ塾歴社会」(幻冬舎新書)、「名門校とは何か?」(朝日新書)、「受験と進学の新常識」(新潮新書)ほか50冊以上。


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《佐久間武》

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