伝統と革新が融合した「SSH指定校 横須賀高校」のグローバル教育

 さまざまな教育へのアプローチが模索されるなか、創立から100年を超える伝統ある横須賀高校もまた、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)認定校として、グローバル人材を視野に入れた授業・研修を行っている。

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横須賀高校の新入生宿泊研修
横須賀高校の新入生宿泊研修 全 8 枚 拡大写真
 さまざまな教育へのアプローチが模索される中、創立から100年を超える伝統ある横須賀高校もまた、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校として、グローバル人材を視野に入れた授業・研修を行っている。何を目指し、どのような授業・研修をしているのだろうか? 2019年5月30日、湘南国際村で行われていた新入生を対象とした研修を取材した。

留学生と一緒に課題解決を探る新入生宿泊研修



 真っ青な空と輝く海が見える湘南国際村の研修センターでは、新入生を対象に、大学などへの留学生と一緒に課題を発見し、解決の道を探るグループワークが行われていた。本研修では、はじめにゲームをして留学生リーダーやグループの仲間とアイスブレイクし、その後お互いを呼び合うニックネームを決めてネームタグを作成。次に留学生リーダーたちによる母国語講座がある。フランスやバングラディッシュ、ベラルーシなど、英語圏以外からの留学生もいてさまざまな言語が飛び交う。

横須賀高校の新入生宿泊研修
横須賀高校の新入生宿泊研修

 宿泊研修の最終日の2日目、留学生リーダーの英語による見解を聞き、その意見を参考に、生徒たちがマインドマップを使いながらグループで課題を探っていくというワークが行われた。皆は、「平和ではない、公平ではない」一番の原因は何かを探っていた。ときには、教育実習生のアドバイスを受けながら話し合いをして、意見をまとめていく。そして研修の最後には、その課題を解決する方法を探り、それまでの議論の内容を他者に伝える方法を考えて、発表するのだという。

横須賀高校の新入生宿泊研修
横須賀高校の新入生宿泊研修

生徒から見た横須賀高校の魅力と宿泊研修



 研修中のニックネーム「Hajimeさん」さんと「Yuriko Takeishiさん」の2人に、横須賀高校を選んだ理由や研修の感想などを聞いた。

--横須賀高校を選んだ理由は何でしょうか。

Hajimeさん:中学3年になる前に、志望校を決めました。将来したいことは外国に関することなので、横須賀高校の英語に関する授業方針に魅力を感じて入学しました。

Yuriko Takeishiさん:ただ机に向かって勉強するだけではなくて、いろいろな場所に行って自分から知りたいことを学べること、自主的に活動できることがすごく良いと思いました。将来就職したときには自分で発信していくことが大事だと思います。

--SSHならではの魅力はなんですか。

Hajimeさん:歴史が好きなので、プリンキピア(SSHの研究開発課題の中心となる教科)では課題研究で文化財の保護をやらせてもらっています。科学的に見たときにどういう保存方法があるかを研究することに魅力を感じています。

Hajimeさん
Hajimeさん

--今回の宿泊研修の感想を聞かせてください。

Hajimeさん:以前から外国の異文化を経験してみたいと思っていたので、良い機会になったと思います。(留学生の方々の英語に)はじめのうちは慣れなかったのですが、時間がたって耳が慣れてくると、わかるようになってきました。英語以外の外国語にも興味があって勉強していたので、母国語講座では自分の知らなかった表現を知り、楽しかったです。担当の先生がパキスタンの方で、ウルドゥー語での1日の挨拶やありがとうなど基本的な表現を教えてもらいました。

Yuriko Takeishiさん:英語が好きなので、将来は英語を生かせる仕事につきたいと思っています。研修が始まったときには、留学生の方を前に緊張していましたが、だんだんと意思疎通ができるようになり面白くなりました。聞き取れない単語もありましたが、ジェスチャーで教えてくれたり、わかりやすい単語で説明してくれたり、それでなんとかついていけています。担当はベラルーシの方で、母国語はベラルーシ語とロシア語。英語は勉強して話せるようになったと聞きました。

--将来の夢はなんですか。

Hajimeさん:学者になって大学や博物館に勤めて、現地調査や研究をしたいと思っています。

Yuriko Takeishiさん:英語を生かせる観光業系でホテルのスタッフになりたいです。また看護師にも憧れています。人を元気づけられる仕事がしたいと思います。

Yuriko Takeishiさん
Yuriko Takeishiさん

横須賀高校ならではのSSHの取組みとその魅力



 続いて、横須賀高校出身で2019年度に校長になられた海浦洋子先生と、SSH推進委員リーダーの柴田治郎先生に、教育理念やSSHの取組みについて話を聞いた。

--横須賀高校の教育理念についてお話ください。

海浦校長:もともとの校訓は、自主・自律・自学・自習・文武両道。それにもとづいて、目標は、「心身ともに健康になる」「豊かな情操と高い教養を身に付ける」「意志強固で不屈の精神をもつ」という3つになります。

--文科省からSSHの指定を受けられていますが、主な取組みを教えてください。

海浦校長:2016年度からSSHの指定を受け、今年度で4年目になります。本校でのSSHの研究開発の目的は、「科学的な思考力と国際性、そしてその育成」。そして、「自ら積極的に課題を発見し、その解決に向けて主体的・協働的に取り組み、持続可能な社会の発展に貢献できる国際的なリーダーとなる人材の育成を図る」ということです。今回の研修も、各国からの留学生と交流をもち、課題解決を図る内容になっています。

 新入生宿泊研修は、SSHになる前から「横校アカデミア」という高大・高院連携講座として10年間やってきましたが、それとSSHを融合させて、現在、SSHのスタートアップの取組みとして行っています。

海浦洋子校長
海浦洋子校長

研究機関とともに課題に取り組むプリンキピア



--横須賀高校のSSHの中心となる教科「プリンキピア(Principia)」について詳しく教えてください。

柴田先生:プリンキピアで学習する内容として、1学年の1学期では、今回の「新入生宿泊研修」と「研究機関訪問」というのがあります。本校では三浦半島に研究所をもっている18の研究機関・教育機関とともに課題研究を行っています。

 そして2学期には、グループ研究の後、ゼミのように中間発表会を行い、3学期にはグループごとに生徒全員がポスターを作ります。そして、その中の優秀なグループが生徒研究発表を行います。さらに学年の終わりには論文提出となります。

 2年生になると1学期に3泊4日の研修旅行があるのですが、今ちょうど北海道に行っています。事前研究をもとに、エゾシカとキタキツネについて調べるクラスもあれば、森林や水の勉強をするクラスもあります。それからは、研究課題を決めて探求活動を行い、ポスターセッションの後、論文提出と1年生のときと同様に進みます。1年生と違うのは、1年生が研究機関に頼って進めていたのが、2年生では生徒自身が主体性をもって取り組むということです。

 3年生ではプリンキピアは選択制となり、外部研究機関と連携して、学会やコンテストに出ていきます。取組みをAO入試などで使いたいと考える生徒や将来研究者を目指す生徒が選択して受講しています。昨年度では、特許取得の申請までいった生徒もいます。

--SSH指定校ということで御校を志望する生徒さんもいらっしゃるようですね。

柴田先生:SSHはサイエンスに特化した授業ですが、本校では、文理融合として、文系の生徒たちも取り組める内容にしていることも魅力の1つかもしれません。たとえば提携している研究機関も理系の研究所だけではなく、県立金沢文庫、横須賀市自然・人文博物館などがあります。

 また、SSHと教科学習をリンクさせるということも行っています。教科学習で学んだことをSSHの課題研究に生かしたり、教科学習前でわからないことをSSHの課題研究で先取りして学んだりする。それを本校では「知の循環」と呼び、教師が皆で取り組んでいます。

柴田治郎先生
柴田治郎先生

社会での活躍を視野に入れた教育



--横須賀高校では、特色検査の評価の観点として「創造力および想像力」をあげられていますが、特別な想いをおもちなのでしょうか。

海浦校長:論理的思考力の先にあるクリエイティビティには、2つのソウゾウリョク(想像力と創造力)が必要になってきます。そこを本校では大事にしています。

柴田先生:それからクリティカルシンキング(批判的思考)も必要だと思っています。ロジカルシンキング(論理的思考)だけでなく、クリティカルシンキングもあわせた2つがあってはじめて、ディベートやプレゼンテーションなどに通じます。課題研究の最初の切り口でも、ロジカルだけでは解決できないところはクリティカルシンキングが必要だと考えています。将来のビジネスでも必要なことだと思います。

--研修ではSDGs(エスディジーズ)につながるような課題に取り組まれていましたが、SDGsに関する取組みをされているのでしょうか。

海浦校長:世界的規模での貢献を目指していますので、SDGsをテーマに取り組んでいるわけではありませんが、結果的につながっているということになると思います。

積極的な地域貢献や研究開発への挑戦



--横須賀高校では科学部を中心に地域貢献の取組みされているとのことですが、具体的にご紹介ください。

柴田先生:2018年度には、衣笠商店街のイベントで液体窒素を用いた科学ショーを行いました。また、横須賀高校生による衣笠小学校への出張授業、衣笠中学校との合同実験を行ったり、横須賀地区で行っている研究機関のフェスティバルに一緒に参加したりと、さまざまな活動をしています。驚きや感動を地域の人たちにも共感していただければと思っています。

--SSHに関する活動実績をお聞かせください。

柴田先生:学会に積極的にエントリーをしています。電気通信研究所のオープンハウスに参加し、優秀賞をいただきましたし、昨年度は日本看護学教育学会のナーシングサイエンスカフェにも参加しました。日本学生科学賞にも応募しています。そのほか、日本化学会、科学の甲子園、日本天文学会、電子情報通信学会、電気通信学会等にも参加しています。

--SSH指定校になったことで生徒さんたちの進路に変化はありましたか。

柴田先生:AOにトライする生徒やスーパーグローバル大学を希望する生徒が圧倒的に多くなりました。プリンキピアで課題探求にチャレンジしていなければ、生徒たちもそのような挑戦をしていなかったのではないかと思うと、学校の取組みが進路を左右するのだと実感しました。

さまざまな分野で世界のトップリーダーを目指す



--生徒さんたちにはどんな人に育ってほしいとお考えですか。

海浦校長:本校は創立111年目になりますが、「多様性を重んじる」ことを伝統的に受け継いできました。また、「世界のトップリーダーを目指す」ことは本校のミッションです。人生100年と言いますが、高校で社会での風雨にも耐え得るしっかりとした根を作って、やがて枝を広げ、大きな花を咲かせるように、さまざまな方面の世界のリーダーとして活躍してほしいですね。そのために、本校では学びの土壌を耕しています。

 実際に本校出身の方々には、政治家の小泉純一郎元首相、ノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊博士、柔道家で東京オリンピック金メダリストの猪熊功さんがいらっしゃいます。卒業生がこうしたさまざまな分野でご活躍されているところに、横須賀高校の特徴が表れていると思います。

柴田治郎先生と海浦洋子校長
柴田治郎先生と海浦洋子校長

--本日はありがとうございました。

 これからの新たな時代に活躍できる人材育成を目指して教育改革が進む中、横須賀高校は伝統的に多様性を認めたうえで、世界のトップリーダーを輩出してきた。まさに時代を先取りした教育を行ってきたといえそうだ。さらに独自のSSHがあり、教科学習との知のリンクも生まれている。今後、横須賀高校からどのような人材が生まれるのか、同校の躍進から目が離せない。

(協力:中萬学院)

《渡邊淳子》

渡邊淳子

IT系メディアのエディター、ライター。趣味はピアノ。

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