教育ICTを拓く先生たち…小池幸司氏に聞くiTeachers TV 200回の歩み

 授業にタブレットや電子黒板といったICT機器を活用することで、教育機関に“新しい学び”が広まりつつある。iTeachersは、そんな教育ICTを進める有志団体だ。小池幸司氏に話を聞いた。

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iTeachersの発起人 小池幸司氏
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 授業にタブレットや電子黒板といったICT機器を活用することで、教育機関に“新しい学び”が広まりつつある。iTeachers(アイ・ティーチャーズ)は、そんな教育ICTを進める有志団体だ。学校・塾の教員や研究者で構成されるメンバーは、互いのICT導入・活用事例を共有し、実践の中で培われた経験やノウハウを発信し続けている。iTeachersの発起人であり、YouTube番組「iTeachers TV」のMCも務める小池幸司氏に話を聞いた。

 iTeachersがYouTubeから発信している「iTeachers TV」がまもなく200回を数える。iTeachers TVは、先生や生徒、教育関係者をゲストに招き、その実践や取組みをプレゼンテーション形式で紹介する教育ICT情報番組。番組は2015年4月の初回から4年以上もの期間、毎週水曜日に休まずアップロードされ続けているというのだから驚きだ。

現場の声でICTを盛り上げる試み



--iTeachersはどのような経緯で結成されたのですか。

 iTeachers結成のきっかけとなったのは2013年3月に発売された「iPad教育活用7つの秘訣ー先駆者に聞く教育現場での実践とアプリ選びのコツ」という神谷加代さんとの共著の出版記念パーティーです。そこで本に関わってくれた教育関係者の方たちと集まり、「こういう取組みを続けていきたい」という話になったのです。「せっかくなのでチームを作ってやりましょう」と。そこで私と片山敏郎先生、中村純一先生、栗谷幸助先生、小酒井正和先生、金子暁先生、永野直先生、岩居弘樹先生、杉本真樹先生の9人から始まりました。

--YouTubeからの発信のきっかけは。

 講演などの発信を重ねる中で、2つ課題がありました。1つは「地方から参加することの難しさ」。地方にもICT教育の取組みを頑張っている先生はたくさんいらっしゃるのですが、学校などでは「とがった存在」として煙たがられてしまうことも多い。そういう先生たちの心の火を消したくなかった。

 もう1つは「自分も登壇したい」という声に応えること。自分から「やりたい」とは言わなくても、声をかけると「登壇したかったんです」と言ってくださる先生も多い(笑)。でも通常の講演の形式で開催することは難しい。そこで、「ICTを使っているのだからYouTubeでやればいいじゃない」と。そんな思いからYouTubeで発信を始めることになりました。現場の先生のモチベーションになることを意識しているので、「出られた」ことを喜んでいただけるだけの番組クオリティは求めるようにしています。グリーンバックであったり、コーナー編成であったり。出演された先生が「すごいのに出ましたね」って思われるような番組を目指しています。

--iTeachers TVに課題はありますか。

 出演されたメンバーを見てもらうとわかると思いますが、私学の先生ばかりです。国公立の先生はさまざまな配慮から出演が難しいという面があります。教育委員会や文科省などの後援を得られるとよいのでしょうか。もっと国公立の先生方にも出演していただけるようになるとよいと考えています。

iTeachersの発起人 小池幸司氏

ICTのあり方と課題



--6月に公表された文科省の「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」についてはどう思われますか。

 かなりの「本気さ」を感じますね。グローバルな視点で練られていますし、なるほどな、と思わせるような内容になっています。積極的に支持したいですね。ただ、現場とのリンクがうまくいくのか、というのが課題だと思います。実現するにあたっての策が十分なのかという懸念があります。

--現状の教育現場へのICT導入に関する課題は何だとお考えですか。

 私学では、ICT教育の広がりに駆られて、導入することが目的になっているというケースもあります。そういった現場では、教育にうまく活用できないことも多くなっています。校風や現場のニーズに合わせた導入の目的を、まずは明確に規定する必要があるでしょう。目的なく導入した場合によくあるのが、「iPadでドリルを解いてみよう」という発想です。こういう従来的なインプット重視型教育のプロセスにおいては、デジタル機器が最適とは思いません。日本の知識教育の方法論はすでに確立されていますから。

 ICTが有効なのは、たとえば、生徒の主体性を引き出すことです。タブレットで最初に着目したいのはカメラ機能。写真を撮ってプレゼンテーションをしたり、アプリを使って動画の物語作品の制作したりすると、子どもたちは自分からコミットするようになります。子どもたちが自発的に休み時間も創作にのめり込んだり、指定外のソフトを使ってクオリティを追求したりする例もあります。

 上から統制する教育から脱して、生徒との距離を縮めるコミュニケーションツールとして使ってほしいですね。先生の都合で、「今はまだ使うな~」とか「そこはまだ開くな~」というように生徒を制するようなやり方はしてほしくない。「お、それ自分でよく調べたじゃない」のように言えるようにならないと。先生より知っていることを褒めるようにならないといけないと思います。生徒の主体性に委ねるような授業をしてほしいです。

--次の目標は何でしょうか。

 1つは公立の先生にもっと出演していただくこと。もう1つは、学生、特に教員志望の若者に出てもらうことです。学生のうちに参加した経験がある人は、将来現場へ出たときにICTに高い意識を向けてくれると思います。登壇した学生の話もとても面白いんです。学習者目線で厳しい指摘をしてくれたり、教育理念をまじえながら熱くICTを語ってくれたり。だから学生にも積極的に参加してもらいたいと思っています。

--ありがとうございました。

 ICTを導入するにあたっては明確な目的が必要だと述べた小池さん。「失敗しないICT導入」というテーマでも講演をされており、ただ機器を使えばうまくいくわけではないということもよく承知されている。テクノロジーを活用しているという外面ではなく、教育の内面から従来のスタイルを脱することに、ICT導入の意義がある。教育の明日をよりよくするためのiTeachersの活動を、これからも近くで見守っていきたい。

《押山麟太郎》

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