【大学受験2021】コロナで出願傾向に変化…安全志向・地元志向強まる

 大学入試改革元年、いよいよ迎える大学入学共通テスト。コロナ禍、混沌とした2021年度大学入試の志望校の傾向や当日までの過ごし方について、東進ハイスクールを運営するナガセ 広報部長の市村秀二氏に整理してもらう。

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インタビューに応じるナガセ 広報部長の市村秀二氏
インタビューに応じるナガセ 広報部長の市村秀二氏 全 3 枚 拡大写真
 はじめての大学入学共通テストまで、ついに60日を切った。2020年春からの新型コロナウイルスの影響も重なって、当事者である受験生やその保護者は不安な日々を過ごしたのではないだろうか。

 英語外部検定試験の活用の見送りをはじめ、2019年12月には国語と数学の記述式問題導入の見送りも発表されるなど、当初からの変更が相次ぐ大学入学共通テスト。2021年度大学入試の出願や当日までの過ごし方について、東進ハイスクールを運営するナガセ 広報部長の市村秀二氏に話を聞いた。

コロナショックが受験生に与えた波紋



--コロナショックが受験生に与えた影響について教えてください。

 大きく4つの側面で、受験生の意識に変化があったように思います。まず、漠然とした受験への不安感が増大したことです。多くの大学がオープンキャンパスをオンライン開催したため、大学から直接情報を入手する機会が著しく減りました。学校選びのために必要な情報が不足したことで、受験に際して漠然とした不安を抱えていることは事実です。さらに、入試改革の見送りや、コロナ対策要請を受けての大学から度重なる情報更新が情報をますます煩雑化させました。本来受験のバロメーターになるはずの模試に関しても、実施回数・受験人数が減少したことにより、自己の実力がつかめないまま入試本番へ突入せざるを得ない状況です。


インタビューに応じるナガセ 広報部長の市村秀二氏

--ただでさえ不安になる大舞台への準備期間で、システム全体が揺らぐような事象が発生したことで、どれがますます増大しているのですね。その他の3点についても教えてください。

 その他の3点は、志望校選択における志向の変化です。まず、地元志向の受験生が増えました。なかなか通常の状態に回復できない大学の様子や都市部のコロナ感染者拡大状況を目のあたりにして、地方国公立大の人気が高まる傾向にあります。

 次に安全志向です。先行きがわからない状況の中、合格圏にある大学を志望校として設定し、早めに合格しようという傾向が見られます。チャレンジ校を減らして、志望大を下方シフトしている学生が増えています。同時に、感染拡大や学習の遅れへの心配から、早めに進学先を決めたい中・下位層の受験生において、総合型選抜・学校推薦型選抜の利用が拡大しています。

 最後に、志望系統の変化です。この背景にもコロナ禍による景気の悪化や社会情勢があると考えられます。

理高文低の傾向続く…“括り入試”にも注目



--具体的な志望校選択にまで影響を及ぼしているのですね。人気校・人気学部の傾向について詳しく教えてください。

 理高文低の傾向は続くと思われます。理系では、昨年度から引き続き理学系・工学系が人気を集めそうです。コロナ禍で不況が予想される中、AIやIoTの需要に下支えされ、就職に強い理工学部はますます人気が出るのではと予想しています。とりわけ、ICT系、具体的には電子工学、情報工学の情報系分野が伸びています。純粋な理系というよりも、データサイエンスなどの情報系の人気が高い傾向にあります。ICT系はしばらく好調を維持すると思われます。来年度も多くの大学が情報系の学部・学科を新設する予定です。その他、土木・建築などの人気も高く、公共のインフラ整備に関心が向いている傾向です。

2021年度の大学入試、理高文低の傾向続く…“括り入試”にも注目

 また特徴として、理工学部の中でも特に私立大の理工系の志望者が増えています。首都圏の東京理科大、芝浦工業大、工学院大、東京電機大、千葉工業大、神奈川工科大、地方の金沢工業大、福岡工業大など、特に就職や面倒見の面で認知されている工科系大学の人気が高まっています。初年度の大学入学共通テストの出題傾向がつかめないことから、入試の変化の少ない私立大学に絞って受けようという受験生が増えているのではないでしょうか。

--なるほど、大学入学共通テストを不安視する今年の受験生ならではの傾向ですね。他にはありますか。

 看護・リハビリテーションなどの看護医療系・保健衛生系の学部は、根強い人気があります。特に地方では大きな企業が少なく就職も限られるという点で、志望する学生が多いと考えられます。来年度は福島県立医科大学が保健科学部を新設することも注目です。

 また文系は全体的に低調ですが、データサイエンスを扱う情報系の学部は今後人気が出ると予想されます。例えば、一橋大商学部が2021年度にデータ・デザイン・プログラムを開設しますが、これは今後新設予定のソーシャル・データサイエンス学部のパイロット版と言われています。今後はこのような情報系文理融合型の学部の人気が高まると思われます。2021年度入試ではデータサイエンス系で文系受験が可能な滋賀大や横浜市立大、武蔵野大などの人気が高まるのではないかと考えています。

--学生自身の志向の変化だけでなく、大学側も新たな学部を新設し、時代に即した学びを展開しようとしているのですね。その他、注目の動きはありますでしょうか。

 国公立大の工学系学部の再編、入学時に系統やプログラムなどを大くくりにする動きは注目しています。学部を問わずに総合選抜のような形で一括募集する北海道大、筑波大、金沢大、学部単位で一括募集する慶應大、国際基督教大など、大学入学後1年ないしそれ以上学んでから専攻を決める「Late Specialization」という制度がトレンドになりそうです。

2021年度の大学入試、理高文低の傾向続く…“括り入試”にも注目

 その他、理系もしくは文系の知識だけでは解決困難な課題に対処できる人材養成が求められる中、金沢大が新設する融合学域や既存の九州大・共創、横浜国立大・都市科学、慶應義塾大の環境情報や総合政策など文理融合型の学部が注目されています。これらの学部の特徴として、学問を横断した他分野にわたる学びや文系と理系学生の協働、アカデミックな英語力の養成や海外留学が挙げられます。

正確な情報収集と健康管理…落ち着いて入試本番へ



--度重なる変更により受験生は不安になっているかと思います。受験生の皆さんにアドバイスをお願いします。

 入試変革の年にコロナ禍が重なり、不安を抱えている受験生は多いかと思います。ただ、条件は皆同じです。こういう時こそ安易に受かりやすい大学や学部へと志望を変更することなく、強い気持ちを持って第一志望校の合格に向けて努力を続けてほしいと思います。

 そのためには、入試対策の勉強はもちろんのこと、入試変更点などの情報収集が重要になります。今後のコロナ感染の状況によりさらなる変更が生じる可能性もありますので、志望校の情報は大学のWebページなどでこまめにチェックするようにしましょう。

 また、入試本番まで新型コロナウイルスの感染予防に加え、規則正しい生活を送り、健康面への配慮を心がけるようにしてください。

--ありがとうございました。

 大学入学共通テストもスタートする大学入試改革元年。想定外の幕開けに受験生のみならず、教育業界全体が揺らいでいる。やっと徐々に霧が晴れてきた今、正確な情報収集と健康管理を心がけながら、落ち着いて入試本番に臨んでほしい。

《野口雅乃》

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