成長を実感…カリキュラム内外の学びをつなぐ国際高専「STEMフェア」

 2020年9月、国際高等専門学校(以下、国際高専)において「STEMフェア」が開催された。STEMフェア開催の背景や評価について国際理工学科副学科長の伊藤周(いとうめぐる)氏に、また具体的な取組みの感想について2年生の杉晃太朗さんと徳山美結さんに聞いた。

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カリキュラム内外の学びをつなぐ、国際高専「STEMフェア」
カリキュラム内外の学びをつなぐ、国際高専「STEMフェア」 全 6 枚 拡大写真
 2020年秋、国際高等専門学校(以下、国際高専)において「STEMフェア」が開催された。毎年後期授業のはじめに開催する、夏休み中に学生が取り組んだ自由研究を発表するイベントだ。理工学的思考力を英語で身に付けることに取り組んでいる同校らしく、発表はポスターセッション形式、もちろん英語で行われる。

 国際高専では、高等専門学校での5年間のエンジニアリングデザイン教育と、金沢工業大学・大学院での4年間でのプロジェクトデザイン教育を組み合わせた「5+4」の一貫教育をめざしている。国際高専の5年間は、1・2年生が全寮制の白山麓キャンパス、3年生がニュージーランド留学、そして4・5年生では金沢工業大学の学生と連携したクラスター研究やプロジェクト活動を行い、学年が進むにつれて複雑な課題にも取り組める専門的な研究環境が用意されている。STEMフェアは、そういった研究の「型」を身に付けるためのスタートとも言えるイベントだ。

 STEMフェア開催の背景や評価について国際理工学科副学科長の伊藤周(いとうめぐる)氏に、また具体的な取組みの感想について2年生の杉晃太朗さんと徳山美結さんに聞いた。

--最も優れた研究に贈られるファーストプレイス賞を受賞した杉さん、それに次ぐセカンドプレイス賞を受賞した徳山さんのプレゼンテーションを動画で拝見しました。入学から1年と少しで、あれほどまでに英語のプレゼンテーションがスムーズにできるようになるのですね。

伊藤先生:いやあ、私もびっくりしました。学生皆、英語は3年生の留学に備えて、1年生からハードな授業をこなしていますが、研究の流れやプレゼンテーションの構成なども昨年からは見違えるほど成長しました。日々の学びの成果だと思います。

徳山さん:昨年のSTEMフェアと比べて、プレゼンのスキルが上がったと自分でも実感できました。質問の受け答えもスムーズにできるようになりました。

杉さん:自分の関心のあるテーマでありながら、調査しやすいという点で、昨年と比べて、良いトピックを選定することができたと思います。研究的な視点が養われた気がします。

カリキュラム内外の学びをつなぐ、国際高専「STEMフェア」取材に応じてくれた国際高専2年生の杉晃太朗さん(左)と徳山美結さん(右)

--伊藤先生にお聞きします。STEMフェアを開催する狙いは何でしょうか。

伊藤先生:国際高専のカリキュラムは、通年の一貫した時間割で科目を履修するのではなく、前期と後期それぞれ科目が変わります。そのため、前期と後期をつなぐ学びを夏休みの自由研究として実施しています。学生個々人の中で興味関心を育ててほしいという思いもあって、授業の内容にとらわれない課題として「STEMプロジェクト」を課し、その発表の場として「STEMフェア」を開催しています。

 STEMプロジェクトの評価はどの科目にも紐付きませんが、多くの教員が審査に参加し、学生の取組みを評価しています。日々の学びだけでなく、将来にも役に立つ研究スキルが身に付き、学生たちもそれを実感できているようです。

--評価自体はSTEMプロジェクト単体のものであっても、学びの観点では他の授業や活動とも関連付けられますね。

伊藤先生:そうですね。国際高専では1、2年生の間に高校3年分のカリキュラムを行うことに加えて、1年生の前期にMicrosoft OfficeのWord、Excel、PowerPoint、3DモデリングのFusion 360、そしてAdobeのIllustratorとPhotoshopなど、ツールの使い方を学びます

 もちろん、プロフェッショナルな使い方にまでは達しませんが、基本的なことはひととおりできるようになります。そのスキルをSTEMフェアでのプレゼンテーション用のポスターデザインや、その他の授業で行う研究のデータ処理などに生かせます。学んだことを生かす経験を何度も繰り返す中で、それぞれのスキルを定着させ、伸ばしてもらいたいと思っています。

徳山さん:今回私は研究テーマに「夕日の色」を選んだのですが、このテーマを選んだきっかけは物理と化学の授業でした。授業で色の仕組み、その応用として夕日について少し授業で教わり、もっと知りたいと思ってテーマに設定しました。また研究の中でも、化学の授業で習った実験を応用することができました。化学の先生が評価してくれて、とても嬉しかったです。

カリキュラム内外の学びをつなぐ、国際高専「STEMフェア」徳山さんの研究「Colors of Sunset」

杉さん:課外活動としてロボコンチームに所属しています。ロボコンにも応用できると思い「ジェネレーティブデザインの実用性について」というテーマで研究を行いました。

--皆、自らの学びに関連付けながら、STEMプロジェクトを進めていたのですね。伊藤先生にお聞きしますが、STEMフェアの評価はどのように行っていますか。

伊藤先生:白山麓キャンパスの全教員で「ベストSTEMプレゼンテーションアワード」を、そしてSTEM科目の4人の担当教員で各教員の名前入りの「スペシャルアワード」をそれぞれ評価・選出しています。白山麓キャンパスには約30人の教員がおり、全教員が評価に参加するのはなかなか難しいことではありますが、学生の学びの成果を多角的に評価したいという思いと、学生たちがどんなことに興味関心をもっているかを学校全体でシェアしたいという思いから実施しています。

 これは教員の中でも議論していることですが、研究の成果に加え、伝え方も非常に大事だと思っています。理科科目担当の教員のみで評価するとどうしても「研究内容」だけを見てしまいがちです。しかし世の中からみた研究の評価は、高度な専門知識を並べただけでは伝わらなくて「ポスターの出来」や「発表態度(英語含む)」も含めて「伝わる研究」として、総合的に評価するようにしています。

--なるほど。先ほど杉さんや徳山さんからもお話がありましたが、他にもSTEMプロジェクトを通して自分自身の成長を実感したことがあれば教えてください。

徳山さん:発表後、先生方はいろんな質問をしてくるので、すぐに回答するのは難しいと感じることも多々ありました。でもしっかり英語で答えられると嬉しいですし、自信もつきます。

 また実験方法についても、専門の先生から具体的なフィードバックがもらえるので、次にも生かしやすいです。

杉さん:先ほどもお話したとおり、トピック選びが鍵でした。研究テーマの選定がうまくいったので、単なるシミュレーションで終わらず、実際に実験まで行うことができました。

カリキュラム内外の学びをつなぐ、国際高専「STEMフェア」教員約30名が評価に携わる一大プロジェクト

伊藤先生:学生は研究テーマのアウトプットをイメージしながら、プロセスを進められているように感じました。そのため、研究のストーリーがわかりやすく、データも必要なものを揃えることができました。

 受賞者の顔ぶれを見ると、実は1年生のときは実力がありながら評価はそれほど高くなかった学生もいます。今年はその反省を生かして頑張ったのでしょうね。他の学生も皆、研究のオリジナリティが高かったですし、自分の得意分野をきちんと理解して、それを発揮できるように、プロジェクトの計画自体を組み立てる力が付いていると感じました。

--研究のテーマはどのように決めているのですか。

伊藤先生:夏休みに入る前に、プロポーザル(提案書)を出してもらって、進め方や予算、時間などを計画してもらいます。担当教員は、学生の能力的に大きく外れないか確認したり、ネット上に同じ研究がないかもひととおりチェックしたりします。たとえば杉くんの「ジェネレーティブデザインの実用性」に関しては、プロの構造計算さながらに、仮説を立ててシミュレーションし、さらに実測して比較したのは、完成度が高かったですね。

 もちろん、計画どおりに進まなくて、思ったような結果が得られない学生もいます。たとえば昨年、特定の昆虫に寄生する虫の好みを調べる、というプロポーザルを出した学生がいましたが、残念ながらその寄生虫を捕まえることはできませんでした。しかしすぐに別のテーマに切り替えて、しっかりと原因を究明し、良い研究に仕上げていました。自分ひとりでできることとできないことを知り、理想と違ったときにどう修正するかもひとつの学びになります。

--普段から学生が興味関心を広げやすい環境をつくられていらっしゃるのでしょうか。

伊藤先生:3年分の授業を最初の2年間で行うので、授業の中だけではなかなか難しいものがあります。そのため、9月と2月に課外活動の期間を設け、興味関心を広げる時間をとっています。たとえば外部の方に来ていただき、普段接している大人とは違う、いろいろなバックグラウンドをもつ大人に出会う機会をつくっています。

カリキュラム内外の学びをつなぐ、国際高専「STEMフェア」杉さんのの研究「Generative Design」

 STEMプロジェクトでは、授業以外にプロジェクトや趣味などを頑張ってきた学生は強いですね。本人からも話があったように、杉くんは1年生の冬から、放課後にロボット製作に打ち込んでいます。正直私よりも上手にCADを使いこなしていますよ。他のロボコンメンバーも、コマの先端の角度をテーマに金属を削って強いコマを作る研究を進めていました。音楽の好きな学生は、自作の音楽を発表する場を自ら毎週つくっていますし、そういった意味でも2年生は、自分がこの学校で1年間学んできたものを日々発揮しているんだなと感じています。

--来年以降のSTEMフェアの展開を教えてください。

伊藤先生:国際高専では2年生は夏休み期間中、短期留学に行くことができます。本来ならSTEMプロジェクトは1年生だけが対象なのですが、今年は新型コロナの影響で留学中止を余儀なくされた2年生にも参加してもらいました。それがかえって功を奏し、2年生の圧倒的な成長をみることができました。とても良い出来だったので、今後は各学年で何らかの形でこうした研究と発表の機会をつくっていきたいと考えています。

--学生たち自身も成長を実感できる学びの機会が来年も実現できると良いですね。ありがとうございました。

 国際高専は、入学してからの2年間、大自然に囲まれた全寮制の白山麓キャンパスで過ごす。「他にやることがないんです」と笑う伊藤先生の思いの背景には、自分の好きなことや得意なことに没頭でき、わからないことがあれば先生や仲間と助け合う学びのコミュニティという後ろ盾がある。充実した設備と施設、そしてヒューマンリソースがある環境はうらやましい限りだ。

白山麓に広がる国際高等専門学校のキャンパス白山麓に広がる国際高専のキャンパス

 3年生のニュージーランド留学で機械や情報など、理工学の科目を学ぶため、2年生のうちに専門コースを選択するという。今回のSTEMフェアでより学びを深めた学生たちが、どのような分野に進んでいくのか楽しみだ。

《柏木由美子》

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