バイリンガル環境で育てると子供の言語発達が遅れる?IBSが回答

 ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(IBS)は2021年6月9日、バイリンガル教育に関する疑問に答える記事「バイリンガル環境で子供を育てると、子供の言語発達が遅れる原因になりますか?(語彙学習編)」をWebサイトに公開した。

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 ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(IBS)は2021年6月9日、バイリンガル教育に関する疑問に答える記事「バイリンガル環境で子供を育てると、子供の言語発達が遅れる原因になりますか?(語彙学習編)」をWebサイトに公開した。バイリンガル環境での子供の言語発達や注意点について詳しく紹介している。

 IBSでは、保護者や教育関係者から寄せられる悩みや疑問に対し、先行研究をもとに回答する記事を定期的にWebサイトに公開している。今回は、バイリンガル環境における子供の語彙学習について答えている。

 0~6歳までをおもな対象とした早期英語教育、早期バイリンガル教育に関してはさまざまな意見が交わされているが、IBSによれば、2つの言語にふれる環境が初語の遅れる原因になることはないという。たとえば、英語とフランス語にふれながら育っているバイリンガル児を追跡調査した研究によると、少なくとも一方の言語で初語の出現がモノリンガル児と同時期であることが報告されている。

 子供は、1歳前後になると周囲で聞こえる音声の中から聞き慣れた語彙を認識できるようになるが、バイリンガル児28人を調査した研究によると、語彙認識力が現れた時期は、両言語ともモノリンガル児と同じ生後11か月ごろだったという。語彙とそれが表す事物(意味)を結びつける語彙学習の研究結果においても、バイリンガル児・モノリンガル児共に生後14か月でそのような能力が達成された、という結果が出ているという。こうした先行研究から、バイリンガルの語彙学習能力がモノリンガルよりも劣る、ということはないと考えられるという。

 語彙学習は日常生活におけるインプットと密接に関係しており、英語・スペイン語のバイリンガル児のそれぞれの言語の語彙量は、日常生活におけるその言語への接触量と関係しているとの研究報告が出ている。日常生活におけるインプット量が多い言語ほど語彙処理スピードが速く、インプット量と語彙処理スピードの両方がその後の語彙量の増加に影響するということが明らかになっていることから、それぞれの言語にふれる量に差が生じることによって「優勢言語」と「優勢でない言語」が存在することになる。そのため、優勢でない言語は、その言語のみを話すモノリンガルよりも発達のペースがゆっくりになる可能性はあるという。

 なお、子供の優勢言語が社会の少数派言語である場合には注意が必要だという。子供は社会の多数派言語を話す相手に対して、たとえ、それが自分の優勢言語でなくても同じ言語で話そうとする傾向があるという。日本語が優勢言語でない子供が、対する相手にあわせて日本語で話そうとした場合、結果的に優勢でない言語で語彙発達を評価されてしまい、日本語モノリンガル児よりも「遅れている」とみなされてしまう可能性があるという。

 IBSは、バイリンガル環境での語彙学習については、発語の遅れ等気になる点はみられないものの、バイリンガル児の片方の語彙量を、1つの言語のみにふれて育っているモノリンガル児と同等に比較することには注意が必要であり、安易な比較によって言語発達が正常かどうかを評価するべきではない、としている。

 記事全文はIBSのWebサイトで見ることができる。その他、「バイリンガル環境で子供を育てると、子供の言語発達が遅れる原因になりますか?(初期の言語発達について)」「親が英語を話せなくても子供はバイリンガルになれますか?」等、疑問に対する回答記事や、コラム、論文等を掲載している。

《畑山望》

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