自然とエネルギーのつながりを実感…J-POWER「エコ×エネ体験」初の小学生向けオンラインツアーの魅力

 J-POWERによる「エコ×エネ体験プロジェクト」の小学生親子編が初のオンライン開催に。親子で美しい映像を楽しみながら、奥只見ダムでの水力発電や森の体験、理解を深める実験などを通じて学んだオンラインツアーのようすをレポートする。

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自然とエネルギーのつながりを実感…J-POWER「エコ×エネ体験」初の小学生向けオンラインツアーの魅力
自然とエネルギーのつながりを実感…J-POWER「エコ×エネ体験」初の小学生向けオンラインツアーの魅力 全 52 枚 拡大写真
 2007年からスタートした「エコ×エネ体験プロジェクト」は、長年、電源を開発してきたJ-POWERが、環境とエネルギーの共生を目指して、豊かな自然と生活に欠かせない電気のつながりを伝えていく活動だ。小学4年生から6年生を対象に行われる親子ツアーは、2020年の夏はコロナ禍によって現地を訪れるツアーが中止に。2021年は2年ぶり、初めてのオンライン開催となった。その人気は例年非常に高く、今年も高倍率の抽選になったという。

 親子一緒に美しい映像を楽しみながら、奥只見ダム、水力発電、自然について知り、実験を通じて理解を深めたオンラインツアーのようすをレポートする。

「子育てベスト100」の著者、加藤紀子氏に聞く体験ツアーの魅力



 人気の体験ツアーの魅力を探るとともに、累計17万部のベストセラー「子育てベスト100」(ダイヤモンド社)の著者、加藤紀子氏に、親子体験の効果やその生かし方を聞いた。

加藤紀子氏に聞く「親子の共体験」で伸ばす2つの力



 コロナ禍により、子供たちの感情が揺さぶられる機会が少なくなっています。国立成育医療研究センターが行った「第5回コロナxこどもアンケート調査」によると、約半数の子供が「楽しいと思うことが減った」と答えています。

 そうした中、今回のようなオンラインツアーは親子にとってとても楽しく、刺激に満ちた非日常体験です。自然と共存する壮大なダムのようすは、子供たちの感情を大きく揺さぶったことでしょう。現地を訪れることはできなくても、自然やダムが至近距離で見られたり、リアルな移動のように行動範囲に制限がない分、さまざまな体験ができたりするのは、オンラインならではのメリットだと言えます。

 このような体験を通じて子供が伸ばせる力はおもに2つあります。

 まずは思考力です。私たちが日常生活に多くの恩恵を受けている電気がどのように作られているのか。そのために自然の力がどう役立っているのかを知ることは、電気という目に見えない「当たり前」を問い直す絶好のチャンスです。「なぜ」「どうやって」といった「問い」を投げかければ、子供が考えを深掘りするきっかけになります。

 もうひとつは主体性です。バーチャルとはいえ、電気がつくられるリアルな現場に触れる経験は、社会の課題を「自分ゴト」にでき、自分に何ができるかを考える主体性を育みます。

 一方、親御さんにとっては、子供がどんな場面に食い入っていたか、どこでワクワクしていたかなど、じっくりわが子を観察できる時間になります。子供が自分から努力し、自信をもてるようになるための土台は、熱中できるかどうかです。わが子の熱中ポイントがわかれば、そこから興味を広げ、やる気を高めるサポートがしやすくなります。

 子供には一番大切な人がワクワクを共感してくれることが何よりの幸せ。「すごいね」「面白いね」といったオウム返しで良いので、子供と一緒にワクワクを分かち合ってみてください。


 今回の「エコ×エネ体験ツアー2021オンライン@小学生親子編~オンラインで森・水・電気のつながりを学ぼう」は約2時間30分のプログラムで、2021年は8月12、13日の2日間で計4回開催。延べ124組、約250名の親子が参加した。スケジュールは以下のとおり。(2021年8月実施内容。毎年プログラムは異なる)。

「エコ×エネ体験ツアー2021オンライン@小学生親子編~オンラインで森・水・電気のつながりを学ぼう」

 はじまりの会→お互いを知る時間→「奥只見ダム・水力発電所バーチャル見学」→(休憩)→白川郷映像体験「電気のなかった昔の暮らし」→「森の体験プログラム」→ドクターと学ぶ「科学の実験教室」~水力発電編~→親子でふりかえろう→おわりの会



事前に参加者に送られた奥只見の地図やオリジナルリングノート等の学習キット

 エコ×エネ体験ツアーでは例年、参加者もスタッフも各自キャンプネーム(ニックネーム)を付けて参加。今回のオンラインツアーでもキャンプネームで呼び合った。文中はキャンプネームのまま紹介する。なお、2021年6月に行われた本イベント用映像の撮影は、子供の視点でより良い映像を制作するために、筆者を含めスタッフの親子3組が実際に体験しながら行った。その時の写真も交えてレポートする。

おうちにあるコンセントの数はいくつ?



 夏休み中の親子がオンラインで顔を揃えたところで、現地に行く例年のツアーでもおなじみ、山梨県の清里にあるキープ協会の「おのの」の明るく元気な司会でイベントスタート。「カメラはオン、マイクはオフ、そしてリアクションはキュートに!」というオンラインライブイベントならではのルールを胸に、いよいよ2時間半の体験の時間がはじまった。

 まずはJ-POWERの「しげさん」からの挨拶。このツアーでは、目に見えない電気がどうやって作られて、どのように家庭や学校に届いているのかの秘密に迫り、楽しみながら親子が何かを発見することへの期待等が述べられた。

進行はキープ協会の「おのの」(左)が明るく楽しく務めた。J-POWERの「しげさん」(右)から始まりの挨拶。子供たちからの質問にも数多く応じていた

 次にオンラインならではの活気あふれる場作りのために、参加者のリアクションやコミュニケーションを手話で練習したり、どこから参加しているのか事前に郵送されているオリジナルリングノートに記入して見せ合ったりした。参加した親子は、北海道から沖縄まで日本全国津々浦々。ロンドンやバンコクなど海外からの参加者もいるなど、このツアーの人気とその広がりに驚かされた。

おうちにあるコンセントの数はいくつ?

 家にあるコンセントの数を確認してノートに書いて見せ合ったところ、およそ20個から100個超とさまざまな数が並んだ。コンセントの向こう側の世界を想像して、「奥只見ダム・発電所のバーチャル見学ツアー」へと出発した。

日本有数の規模が圧巻「奥只見ダム」と水力発電所



 J-POWERの発電所は全国にあり、水力や火力、自然エネルギーなど、さまざまな方法で電気を作っている。今回は、その中のひとつ、新潟県の奥只見発電所へ向かう。

 新潟県南魚沼市にあるJR浦佐駅は、東京から新幹線で1時間30分。駅からバスに乗ってダムと発電所のある奥只見へ向かう。バスの車窓から見える魚野川の水はとてもきれいで、夏には鮎を釣る人がたくさん訪れるそうだ。そして、魚沼の代表的な米の銘柄コシヒカリが採れる広大な田んぼが広がる。

日本酒の名前にもなっている八海山は標高1,778m。他にも中ノ岳や越後駒ケ岳が並び、3つの山を合わせて「越後三山」と呼んでいる

落雪を避けるために縦に並ぶ信号機、雪を溶かす消雪パイプがある道路、積雪で玄関や1階の窓が埋まらないように家の土台は高くなっているなど、豪雪地帯特有の工夫が見られた

 「シルバーライン」という道路で山を越えながら奥只見発電所に向かう。このシルバーラインは、奥只見ダムと奥只見発電所を作る際、工事に使うための資材や道具、機械などを運ぶための道として作られ、全長は22km。そのうちトンネル部分が18kmだという。およそ60年以上前に作られた当時の困難さが想像される。トンネルの途中にある分かれ道もなかなか珍しい。その分かれ道を進むと江戸時代に銀が採れた「銀山平」という場所に出るという。この「銀」がシルバーラインの名前の由来。最後のトンネルを抜けると、そこは奥只見。ダムとダム湖が見えてきた。

ダムと発電所建設のために作られたシルバーラインは全長22km

トンネルを抜けると奥只見ダムに到着。奥只見ダムはコンクリートの重みで水をせき止める「重力式コンクリートダム」

 奥只見ダムと発電所の見学は、J-POWERグループの奥只見電力館の館長、伊藤氏がガイドしてくれた。奥只見ダムはコンクリートの重みで水をせき止める「重力式コンクリートダム」で、高さは157mと、重力式ダムの中では日本一の高さだ。幅は480m、体積は163万立方mでこれは東京ドームの1.3倍。ダムの完成には約4年の月日を要したという。福島県と新潟県の県境を流れる只見川をせき止めて作られている。発電所はダムの地下に作られており、発電所で作られた電気は、近くにある開閉所という送電設備から、送電線を通って首都圏や東北地方に送られているそうだ。

ダム湖の反対側を覗くと洪水吐がみえる。6月撮影時には下方に雪が残っていた

 ダムの高さをもっとも感じることができる天端(てんば)からダム湖の裏側の下方を覗くと、洪水吐(こうずいばき)という設備が見える。この洪水吐は大雨で急激にダム湖の水が増水した時に、青色のゲートを開けてダム湖の水を放流するための設備。ただし、奥只見ダムの場合はダム湖が大きいため、運転を開始した1960年以来、放流は60年間でたったの8回だという。天端からダムの裏側を覗き、葉っぱを投げると、下からの上昇気流の影響で、葉っぱは落ちずに一気に上に舞い上がり、映像からも壮大なダムの風の勢いを感じることができた。

落ち葉を落とすと、すべて舞い上がって飛んでいく(360度映像より)

ダムの下にある発電所に潜入



 エレベーターに乗ってダムの内部に。1番上のフロアから下へ降りて行くので、フロア表示は下に向かって11階となっており、普通のエレベーターとは逆の表示だ。このエレベーターを使って、ダムの中を約140m下に降りる。

上から下へ降りるエレベーターのため、数字は下に向かって大きくなる

 エレベーター内にあるダムの断面図を見ると、発電所はダムの下にあることがわかる。水を取り入れるための取水口は各発電機の上にある。4号発電機はあとで増設したもので、取水口は1~3号機の取水口より少し上にある。黒いラインは、ダムを点検するための通路である監査廊だ。

奥只見ダム縦断図。黄色いラインがエレベーター

 11階に到着。そこから連絡通路を200mほど通り、さらに発電機室へ降りるエレベーターへ向かう。この連絡通路の気温は、年間通じて10度前後だという。ダム湖の下方の水温が年間を通じて5度前後で安定しているためで、ダムの外と比べると、夏は涼しく、冬は暖かく感じる。ダムがせき止めて貯めた水と接していることが理解できる。通路の蛍光灯の周りを見ると、壁が緑色になっている。これは苔の仲間で、蛍光灯の光で光合成を行っているため、その周りの壁だけに生息しているのだ。

連絡通路の気温は、年間通じて10度前後

 発電機室に到着。発電機の1号機、2号機、3号機、4号機に、ダム湖に蓄えられた水が4本の水圧鉄管を通って水車発電機まで運ばれることが伊藤氏から解説された。水力発電は、高いところにある水が低いところへ運ばれるという「位置エネルギー」を利用して、巨大な水車を回して発電する方法だ。そのため、水の量と水の落差が発電の出力に大きく影響している。

発電機室には1・2・3号機とあとから増設された4号機がある。2021年は20年に1度の大規模なメンテナンス工事が行われていた

水の力を使って水車を回すことで発電する。発電機はダムの下にある。子供たちはその仕組みに興味津々のようす

 水力発電は現在、電気の使用量が増える日中や夕方のピーク時対応として使われるのが一般的だという。4号機は日中のピーク需要が増えたために増設され、1秒間で最大138立方メートルの水を使う。これは25mプールを3秒間でいっぱいにするほどの大量の水の量。水車に流れ込む水の力で水車が回り、水車によって回る回転軸につながる磁石がコイルとコイルの間で回ることで電気が発生する。発電に使われた水は、ドラフトチューブと放水管という水圧管を通ってダムの地下から下流の川に流れていく。

 発電機の上には、1台で260トンを吊り上げる天井クレーンが2台あった。保守点検などで重いローター等を吊り上げる時に使用する。搬入口は、ダムの外部からトラックなどで資材を運搬し、天井クレーンで吊り上げて、発電機に必要な資材の上げ下ろしを行なう場所。この搬入口から外へ出てダムを見上げると、ダムの大きさがより実感できた。

運転停止で止まっていた回転軸。運転時はイヌワシが飛ぶように見えるという(6月撮影時のようす)

搬入口からダムの外に出て見上げると、ダムの大きさがわかる(6月撮影時のようす)

 奥只見には貴重鳥類のイヌワシやクマタカ、湿地にはモリアオガエルやムツアカネ等の希少な生物が生息しており、2003年の4号機の増設工事の際には、イヌワシの繁殖に影響を与えないよう、騒音や照明等に配慮した。また工事残土の埋立地の湿地に生息していた希少な昆虫等を保護するため、「エコパーク」として人工的に湿地と生態系の移植を行ったそうだ。人の生活のために自然を切り開いて作られた設備は、自然環境の保存も合わせて考えて作られていることを伝え、バーチャル見学ツアーの時間は終了した。

環境との共生を持続的にしていくためのエコパーク

身近なものでダムと発電の仕組みを再現



 水車を回して電気を作るとはどのようなことなのか。ダムと発電所の迫力映像を楽しんだあとは、エコ×エネ体験ツアー名物「ドクター」が笑いを誘いながら「電気ができる仕組み」の解説。磁石と銅線をぐるぐる巻いたコイルでの実験の後、発電機の中で水車が回って電気が起こる仕組みを説明。上から水が流れて水車が回ることで、エネルギーが電気に変わることをわかりやすく教えてくれた。

磁石とコイルによって電気が起こる

コイルの中に磁石が入っている懐中電灯

振ってコイルの中の磁石を動かすと、電気が発生して光る

 さらに「おのの」から、電気が光の速さで届くこと、今、使っている電気は、今、発電している電気であることが加えて説明されると、メモを取りながら真剣に視聴していた子供たちに驚きの表情がみえた。

自分でエネルギーを作って使う…電気のなかった時代の生活を白川郷の映像から学ぶ



 休憩後は白川郷映像体験「電気のなかった昔の暮らし」。現在は電気があって当たり前の生活だが、電気がなかった時代は、寒さやご飯を炊くとき等に必要となるエネルギーをどうやって作ってきたのか。岐阜県の御母衣発電所近くのトヨタ白川郷自然学校の「ある」が解説した。

トヨタ白川郷自然学校の「ある」が電気のなかった昔の暮らしを解説

 白川郷合掌集落は世界遺産。四方を山に閉ざされ、冬は雪が3m近くも積もるため陸の孤島と呼ばれることもあるほど他の地域との流通が難しい場所だった。そのため合掌家屋をはじめとした昔の人の暮らしが色濃く残っている。

 映像では、スギ(針葉樹)とミズナラ(広葉樹)の薪が用意され、囲炉裏の薪に向いている木はどちらかの実験が行われた。軽い木は密度が低く激しく燃えるがすぐに燃え尽き、密度が高く重い木は緩やかな火力で長く燃える。実験ではミズナラの木が重く、この木は切られても、切り株からまた芽が伸びて大きくなる、蘖(ひこばえ)という伸び方で、成長しやすいのが特徴だという。早いサイクルでの成長が、持続可能なエネルギー源になっていたのだ。

スギよりもミズナラは重い

 電気がない夜は真っ暗だ。そこで昔は薪を燃やす他に、「ろうそく」を使ったが、木の実を絞って出てきた蝋(ろう)で作られた「和ろうそく」は、高級品だったため、松の木の油を集めた松明(たいまつ)や、植物の芯に油を染み込ませて燃やして小さな灯りにしたという。すべてが森から集めたエネルギーで、エネルギーを作る人と使う人は一緒だったころのくらしに思いを馳せるひとときとなった。

昔のくらしでは灯はとても貴重だった

水力発電の源「水」をつくるブナの森へ



 続いてエコ=自然について学ぶ時間。発電所の周りにはたくさんの森がある。映像では、奥只見ダムの建設によってできた奥只見湖を船で渡り、キープ協会の「ぱりんこ」のガイドで「銀山平」の森へと進んでいく。

船の後方に広がる奥只見湖。写真奥に奥只見ダムがある。湖の周囲が森に囲まれていることがわかる(6月撮影時のようす)

 森の入り口には尾瀬の名前の由来となっている平安時代の人物、尾瀬三郎の石像が立っていた。雪が降ると5mある尾瀬三郎の石像の帽子を少し残して、あとはすべて雪で埋まるという。森の中に入ると少しひんやりとした空気で、葉っぱの表面もとても柔らかく、ネズミの穴、キツツキの巣など、生き物たちのすみかもあった。

尾瀬三郎の石像を左手に森へと向かう

 ここで参加者すべてが赤、青、黄の3つのブレイクアウトルームに分かれて、事前に宿題として出されていた5枚の葉っぱを使った「葉っぱじゃんけん」に臨んだ。

葉脈が多い葉は?ギザギザが多い葉は?葉っぱじゃんけん大会

 葉っぱじゃんけんは、さまざまな条件のもとで、自分の持っている葉っぱを出し合って比較しながら勝ち負けを決める遊び。3回勝負が行われ、子供たちは、自分の用意した葉と全国各地から集まった皆の葉を比べながら、さまざまな特徴の葉があることを実感しているようすだった。

なぜブナの木はなぜ曲がっている?



 葉っぱじゃんけんを楽しんだあとは再び銀山平のブナの森へ。ブナの木は、白い木肌が特徴で、触るととても冷たい。「ぱりんこ」がブナの葉を手に取り観察。葉っぱは真ん中がへこんだお椀型で、この形が雨を受け止めるのに良いのだという。また、ブナの実も発見。殻の中に入っている小さな実は栄養豊富で森の生き物の食料になっている。

 森の地面は落ち葉もたくさん積もっている。「ぱりんこ」は落ち葉をめくりながら、その下にあるものを見せていく。次第に細かくなっていく葉っぱのようすや、一番下の土が少し湿っていることに触れ、土の中にいるミミズや微生物など小さな生きものたちが落ち葉を食べて細かくして土を作っていること、そして森には、水も栄養も豊富な豊かな土がとても大事なのだと伝えてくれた。

落ち葉をめくっていくと、葉の大きさは小さくなっていき、細かくなって水を含んだ土が出てくる

 ブナの森には、雪の重みで根元が曲がっているブナの木がたくさんある。この曲がったところに寝転がってみるのもエコ×エネ名物の体験のひとつなのだそうだ。今年はオンラインのため体験できないのは残念だが、いろいろな生き物たちが元気に暮らし、森が元気に生き生きとしていることを感じながら、自分も森の一部になった気持ちで寝転がるのは間違いなく気持ち良いことだろう。

雪の重みに耐え曲がったブナの木の根元でひと休み

自然とエネルギーのつながりを可視化!ドクターの実験教室



 いよいよクライマックス。森の水がどう電気に変わっていくのかをわかりやすく説明する「ドクター」の実験がスタート。助手は「かず」と「よーこば」が務めた。

 まず、植物が生える土を考える。土は小さな粘土の粒が基本だ。用意されたキッチンペーパーはセルロースという小さな粒の集まりで、土壌と性質が似た素材。それを実験用にグラウンドの土と見立てる。「森」には、土や落ち葉、雨による水がある。そしてダンゴムシ、ミミズ、カニムシ、ヨコエビ、リクガイ、トビムシ、ナガコムシ、ハサミムシなどのさまざまな生き物たち、いろいろな菌や微生物、乳酸菌やカビ、キノコなどが生息していて、落ち葉を細かくしていき、粘土は粒のような丸い土となる。

森の土には生き物がたくさん住んでいる

 続いてペットボトルを使った実験。同じ量のグラウンドの粘土と森の土を用意し、水が染み込む速さを比較。森の土の方がスムーズに染み込み、グラウンドの粘土はなかなか染み込まなかった。いつまでも土に水が残っている状態は植物の根が腐りやすくなる、と説明。その後、ペットボトルにストローを差し込み息を吹きこんで空気の通りやすさを調べると、グラウンドの土は森の土よりも息を吹き込みにくいことが分かった。植物の根が育つためには酸素が必要で、空気の通りが良い土では根もぐんぐん伸びる。また、このような空気を含みやすい土は水も含みやすい。丸い土を手で絞って水が溢れて出てくるようすをみせてくれたが、森の土がたくさんの水を吸収していることが一目瞭然だった。

左がグラウンドの土、右が丸っこい形の森の土(6月撮影時のようす)

 さらに、森や山をどんどん広がっていくさまをイメージをしながら、この森の土を入れたペットボトルをたくさんつなげていった。雨が降るように上から水を投入すると、水は下に染み込んで落ちて「地下水」となるようすを再現。

森の土が入ったペットボトルをつなげて、森や山の上から雨を降らす

 この地下水は、飲み水や農業用水はもちろん発電にも欠かせないため、森の存在は電気の安定供給のためにも重要であると示唆。水力発電は、水がなくなると電気を作れなくなってしまうので、ダムに水を貯めて電気が必要なときに発電を開始し、必要ではないときには停止しているそうだ。奥只見ダムは日本でも有数の水力発電ダムだが、24時間フルパワーで運転すると、およそ2週間で水力発電に使用することができる水はすべて使い切ってしまうのだそう。そのため、必要な時に電気を作るという運用になっているという。

ダムで発電を繰り返す実験

かなりの量と勢いの水が水車を回す。コイルの中の磁石を回転させて発電

 とはいえ、雨がなかなか降らないと水が足りなくなる。これは水力発電では困った事態だ。そこで電力会社は神社に行き本当に「雨乞い」をするという。「ドクター」「かず」「よーこば」が一列に並び「雨乞い音頭」を披露。参加者も楽しそうに踊っていた。

 最後にドクターは「水力発電では森のことを考える必要があります。森が成立するには、葉っぱや土、いろいろな生き物が関係しています。その生き物たちのおかげで、じわっとゆっくり水の染み込む土が作られ、森に充分に水が貯まる。そして溢れた分は地下水として流れて、その水がダムに貯まって発電に使われる。自然の力と人間の力を合わせて、実は水力発電のダムができています。」とまとめ、実験の時間が終了した。

自然の力と人間の力によって、電気が生まれる

自然とエネルギーのむすびつきを理解し、これからのアクションにつなげる



 ツアーの締めくくりは、今回の体験で発見したことや驚いたことを参加者がそれぞれノートに書いて振り返る時間。

 発表では、「水の力で電気が作られることをはじめて知った」「奥只見の水の量の多さがすごかった」「大きなダムの水を使い切るのはたったの2週間ということに驚いた」「磁石とコイルで電気が作られることがわかった」など、ダムの仕組みや水力発電、発電そのものの仕組みに多くの発見があったようすだった。

 また「森が水力発電に関係することを知らなかった」「森が大事、虫の働きが大事」「自然が僕たちの生活を支えることに驚いた」と自然とエネルギーのつながりを実感したようすで、「電気を大切に使おうと思った。自然を守っていきたい」と、エネルギーを大切にすることが自然を守ることにつながるという理解も深まったようすだった。

 最後は、「しげさん」から「火力発電や風力発電、太陽光発電、地熱発電など、さまざまな発電方法があって、それぞれの強みや弱み、特徴があるので、夏休みに調べてもらえたらうれしいです。エコ×エネのスタッフは、エネルギーと環境の両方を大切にする人が増えてくれるよう取り組みを続けています。さらに仲間が増えることを期待しています」と話しがあり、「おのの」が「また今度、本当に実際の発電所で会おうね。ありがとう」と呼びかけると、多くの参加者からは「ありがとう」の声があがり、ツアーは幕を閉じた。

「ありがとう」

コロナ禍での貴重な体験



 参加した親子にツアーの感想を聞いた。

ようようさん親子


 「いろんな電気を運ぶのに、寒い中、山奥でたいへんな思いをして電気を作るので大事にしたいなと思いました。たくさんの人が関わっていることがよくわかりました。電気を大切に使いたいと思いました。エアコンを高い温度にして使うようにしたいです(ようようさん)」。

 「インターネットやスマートフォン、ゲームなどの画面が映るのは電気のおかげで、子どもたちには電気が大切だという実感から大事に使ってほしいと思っていました。コロナ禍でお出かけもできない中、実際にこのツアーで体験して何かひとつでも心に残ればいいなと思います。たくさんオンラインイベントはありますが、皆さんの思いが伝わってきました。今度はリアルで絶対に行きたいです(ようようさんママ)」。

とーきっちーさん親子


 「ダムを作るためにわざわざ道を作ることに驚きました。ダムから葉っぱを落としたら普通なら落ちていくはずなのに、上昇気流で上に飛んでいったこともびっくりしました。奥只見ダムの地下に発電所があるのも驚きました。実際に行ってみたいです。また白川郷の映像をみて、電気をつけずに1日過ごせるかどうか挑戦してみたいと思いました(とーきっちーさん)」。

 「子供がツアーを大好きで、いろいろなところへ行っていましたが、コロナで連れて行く機会もなくなりました。今回、このツアーの告知を見たときに、これは絶対に行きたい!と息子が言うので直ぐに応募しました。抽選だったので心配でしたが参加でき、2時間半とても集中していて、とても楽しかったようです。実験で本当に水を使って、電気を作っていたので大事なんだと実感でき、親も楽しませていただきました。ありがとうございました(とーきっちーさんママ)」。

インタビューに答えてくれた、ようようさん親子(左上)、りららんさん(右上)、こうすけさん(左下)、とーきっちーくん親子(右下)
インタビューに答えてくれた、ようようさん親子(左上)、りららんさん(右上)、
こうすけさん(左下)、とーきっちーくん親子(右下)

りららんさん


 「水力発電について全然知らなくて、裏側まで見ることができて驚きました。ダムには行ったことありませんでしたが迫力がありました。ダムの高さが157mもあるとは思いませんでした。ツアーを体験して、電気を使いすぎないことは森を守ることにもつながることがわかったので、日頃から電気を無駄に使わないようにしたいです。」

こうすけさん親子


 「今まであまり水力発電のことを知りませんでしたが、今回で水力発電についていろいろなことがわかりました。特にダムの中の仕組みには驚きました。これからは電気をもっと大事にしたいと思いました。来年は実際に行ってみたいです(こうすけさん)」。

 「コロナ禍でなかなか実際に行くことができない中で参加できてとても良い体験でした。住んでいる沖縄には水力発電がないので、どんな仕組みなのか実際に見せてあげたいと思って応募しました。2年前に旅行で白川郷に行ったので、今日は美しい映像で白川郷を見ることができてとても嬉しかったです。白川郷の近くには御母衣ダムもあるので、また行きたいと思っています(こうすけさんママ)」。

 参加した親子からは質疑応答でとても丁寧に応じてくれたなど、感謝の声があがった。運営、実験、自然体験、映像撮影、配信等、さまざまな専門分野のスタッフ一同、子供たちと触れ合う時間をとても大切に考えて迎えたという今回のツアー。子供たちの発表からは、オンラインという形態であっても次のアクションを考えるなどの学びへと着実につながっているたことが感じられた。科学や環境をはじめとしたさまざまな「問い」が、子供たちの中に生まれたのではないだろうか。

 親子体験から新しい「問い」を持ち帰る大人気のエコ×エネ体験ツアー。来年もチャンスがあれば、まずは保護者が申し込みをする、というアクションをお忘れなく。
J-POWERエコ×エネ体験プロジェクト

《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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