増えるオルタナティブスクール、あらためて考えたい「これからの学校教育に教室は必要か」

 教育情報サイト「リセマム」では、オンラインイベント「2022年、私はどこで学ぶ?~教室を超えた学びが実現する2つのこと」を開催した。本記事では、おもに「通信制高校ナビ」編集長・北澤愛子氏による基調講演の内容を振り返る。

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増えるオルタナティブスクール、あらためて考えたい「これからの学校教育に教室は必要か」
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 通信制学校をはじめ、従来型の学校教育とは異なる学びを提供するオルタナティブ教育に関心が集まっている。フィギュアスケート女子シングルの紀平梨花選手が通信制のN高等学校、そして早稲田大学人間科学部eスクールに進学したことも話題になったが、オルタナティブ教育は自分らしいスタイルで学ぶ方法の1つとして、広く社会に認知されつつあり、その傾向はコロナ禍以降に一層高まっている。

 特に昨今、ロボット開発やeスポーツなど先進的な教育を行う学校や、大学受験に特化した個別最適化した学びを展開する学校など、オルタナティブスクールも多様化している。2020年前後、大きな過渡期を迎えているオルタナティブ教育にまつわる事柄を整理すべく、教育情報サイト「リセマム」では、オンラインイベント「2022年、私はどこで学ぶ?~教室を超えた学びが実現する2つのこと」を開催した。

 共催は、インフィニティ国際学院高等部ワオ高等学校。いずれも「通学」「教室での一斉教授型授業」という形式を取らず、教室を超えてより個々人の関心に寄り添った深い学びを展開している学校だ。2019年開校のインフィニティ国際学院高等部は、旅をしながら世界・社会を舞台に学ぶ新しいスタイルの「サポート校」。固定の校舎をもたず、約1か月ごと研修地を移動しながら、地域の方やサポーター、グループメンバーと交流し、プロジェクト単位での学びを展開する。一方、ワオ高等学校は、40年以上も教育活動を継続しているワオ・コーポレーションを母体として、2021年に開校した「単位制・広域通信制高校」。学習塾で蓄積したノウハウを生かし、従来の教科書的な学びを効率化したうえで、哲学、経済といった教養探究、起業やデータサイエンスといったオプションプログラムで学びの幅を広げるユニークなカリキュラムが特徴だ。

 イベントでは、両校の体験授業のほか、学校横断の先生座談会、在校生座談会が開催され、それぞれの会話から各校の特徴がよりわかりやすく描かれたと同時に、オルタナティブ教育そのものに関しても多角的に眺めることができた。

 加えて、基調講演として「通信制高校ナビ」編集長・北澤愛子氏を招き、運営実績15年を誇る老舗サイトの知見として、オルタナティブ教育の実情や業界を取り巻く変化などについてお話いただいた。本記事では、おもに基調講演の内容を振り返る。

増え続ける学校数と在学生数



--先日、通信制高校の在学生が過去最多を記録したというデータが出ていましたね。

 通信制高校の在学生は、全高校生のうち7%まで増加しました。つまり15人に1人、中学校の1クラスにつき2人ほどが通信制高校に進学する割合ですね。ただ、通信制高校について詳しい中学校の先生は、いまだに少ない印象です。古くからの通信制高校もたくさんある一方で、新しい学校も増えてきて、先生方も進学先の情報すべてを把握するのは本当に大変だと思います。国内の通信制高校は令和元年時点で253校あり、20~30年前に約100校で横ばいだった状況から倍増しています。

文部科学省「学校基本調査」結果より通信制高校ナビが作成

 増加の内訳としては、私立校が目立って増えています。私立校は、社会のニーズによりマッチした取組みを展開したり、時代を先取った教育を展開したりと、自由度の高いカリキュラムに着手しやすい特徴があります。最近はICTやeスポーツを学ぶなど先進的な学びを提供する学校も増えてきています。2021年に開校した、CLARK NEXT Tokyoも1つの例です。老舗通信制高校・クラーク記念国際高等学校の新キャンパスで、eスポーツやロボット開発などの先進的な内容を学びます。

 また、5年くらい前までは、通信制高校はまだ「不登校の生徒の受け皿」という側面が強かったように思います。不登校の生徒数は小・中学校ともにここ30年増え続けていて、中学校では2019年度では25人に1人が不登校になっており、1991年度比で4倍となっています。その影響もあって、社会的な要請にこたえる形として「受け皿」となる学校が増えたのではと見ています。

 不登校の理由も多様化しています。行きたいけれど行けないという、従来の理由のほか、(自分の意志で)行かないという「選択的不登校」の子も増えています。学びたいことが他にあるという子や、校則や周囲との関係性など学校という組織に属することの煩わしさを感じている子などが多いですね。

時間を「好きなことへの挑戦」に充てる



--先ほど中学校の先生方のお話もありましたが、「通信制高校」について、正しく理解できている方は少ないのではないでしょうか。仕組みをご説明いただけますか。

 そうですね。まず入学試験については、基本的に書類選考と作文、面接です。最近は学力試験を導入する学校も増えてきていますが、不登校経験のある子を受け入れている側面もあるので、あくまでもどの程度の学力なのかを把握する目的であることが多いです。したがって、人気校であっても、全日制ほど入学時のハードルは高くはありません。

 入学時期も4月だけでなく、10月など年度の途中から転入・編入できるというのも通信制高校の大きな特徴です。高校に1度入学したけれどやはり合わない、想像していたのと違うと感じたときに、全日制高校へ転校するのは、募集する人数・時期が限定されているためなかなか難しいのが現状です。その点、通信制高校は間口が広く、受け入れられやすい環境です。

各種学校の入学制度の比較(資料提供:通信制高校ナビ)

 また、通信制高校には「広域・狭域」という種類があります。狭域は高校が属する都道府県と、隣り合っている2つの都道府県からのみ生徒を受け入れます。一方、広域は3つ以上の都道府県から生徒を受け入れています。広域は私立、狭域は公立の学校と覚えておけば大丈夫。私立の通信制高校は全国にキャンパスを設置したり、地方にある他の学校と連携して通学サポートを行ったりと、より多くの地域に対応していることが多いのです。

--通信制高校とサポート校の違いについて教えてください。

 まず前提として、通信制高校で学ぶには、自分で単位を管理して、スクーリングをこなし、レポートを提出する必要がある場合がほとんどです。そういったすべてを中学卒業したての子供たちが自分1人で行うのは結構難しい。自由がある分、自主自立が求められるのです。こうした難点もある通信制高校で、スムーズに学びを進めるためにできたのが「サポート校」です。

 本来サポート校は通信制高校の学びを「サポート」するものなので、サポート校に入るなら、提携している通信制高校にも同時に入学する仕組みになっています(高校卒業資格を必要としない場合にはサポート校のみの入学・在籍も可)。通信制高校は単体で入学・在籍できます

 通信制高校の中にも、ワオ高等学校のように手厚く伴走してくれる学校も増えています。一方でサポート校も独自のプログラムで魅力を高めてきています。不登校や発達障害などの子供のメンタルサポートに強みをもっている学校や、エンターテインメントや芸能を学ぶような学校、従来の教科学習とは異なる先進的な学びをする学校などが増えているのです。ただし1点、サポート校は「学校」ではなく塾のような立ち位置なので、就学支援金が使えないことは進学する際に押さえておきたいポイントです。

--「従来の教科学習とは異なる先進的な学び」という点では、インフィニティ国際学院も1つの例ですね。先ほど自主自立のお話がありましたが、通信制高校およびサポート校では、どのように学ぶのでしょうか。

 原則、単位制で大学のような仕組みです。自分でどの授業を受講したいか、どの単位を取りたいか考えて申請して、自ら管理しつつ履修します。学習方法はオンラインで学んで、レポートでまとめる形が一般的ですが、必ずスクーリング(対面授業)も受講する必要があります。スクーリングの頻度や回数、内容は、学校によって大きく異なるので、よく確認しましょう。

各種学校の学習制度の比較(資料提供:通信制高校ナビ)

 各授業の内容は幅広く、大学さながらに選ぶコースやプログラムで何を学ぶのかが変わるというのが通信制高校の特徴です。とは言え、一度決めたコースやプログラムも変更することができる学校がほとんどです。大学は、一度入ってしまうと学部や学科を変えるのは難しいものですが、その前の高校生の段階で、さまざまな分野にチャレンジできたり、自分探しのように複数の学びを突き詰めたりできるのは、その後の進路選択にとっても非常に良い機会だと思います。

自主自立・自己管理し、自ら考える力を身に付ける



--2020年前後での教育業界の動きをどのように感じていますか。

 2020年は新型コロナの影響で、オンライン授業が非常に身近になりました。課題こそあれ、オンライン授業により無駄が削ぎ落とされ、学びの効率化を実感された方は少なくないのではないでしょうか。

 オンラインでの学びの浸透により、従来の教科学習が効率化されるようになったことで、他の学びや学力が注目されるようになってきたことも感じています。今までの学力だけでは計れない「非認知能力」への関心が、急激に高まっているのが良い例です。大学入試改革でも「考える力」のある生徒を選べるように見直していこうという動きもありますね。

 単に勉強だけを頑張っていれば良かった時代は、終わりに近づいているのかもしれません。アメリカの大学入試では筆記試験の結果よりも、エッセイによって自分が何を考えていて、こういうことを勉強したいからこの学校に入りたいという自らのストーリーを語る部分に重きが置かれているそうです。こうしたエッセイを書くことや、自分のストーリーを考えることは、今までの勉強ではなかなか身に付けられない力です。

--その中で通信制高校をはじめとするオルタナティブスクールは、まさに新しい学びを切り拓いている高校だと思います。通信制高校に対する社会のまなざしが変わってきているという感覚はありますか。

 はい、特に保護者側の視点が変わったと感じています。とりわけ通信制高校は、以前は「勉強が不得意な子が通うところ」「不登校の子が通う学校」など、保護者からはネガティブなイメージをもたれて敬遠されることが多かったのですが、最近は「通信制高校ナビ」にも保護者からの問い合わせが増えてきています。通信制高校への理解も進んでおり、単に通信制高校だからダメというわけではなく、どんな学校があるかしっかり知ろうという動きが見られるようになってきました。

 通信制高校としても、不登校児童増加の話はさておき、子供そのものの数が減少している中で、自らの学校を見つけてもらうための動きが重要になってきています。そのため特色を打ち出すために、カリキュラム開発や広報活動に力を入れるようになってきていますし、保護者・生徒の方もそうした学校側からの発信を積極的に求めているようにも思います。

個人の考えを深め、先進的な学びを提供する高校



--今後、通信制高校やオルタナティブスクール界隈では、どのような変化が予想されますか。

 先にもお伝えしたように、今までは通信制高校=不登校生徒の受け皿という側面が強く、それゆえ入学・進級・進学のハードルがさほど高くない傾向にありました。しかしそういった基準に関して、文部科学省主導で見直しが進んでおり、名ばかりの「高校卒業資格」から脱却を図る動きがあります。今後、子供たちには今までどのような学びをしてきたかを語るスキルが求められる一方で、通信制高校側にも、子供たちに学びの先のストーリーを語るための卒業後の進路や就職先までを描いてみせながら、提供する学びの内容を向上させることが期待されると思います。通信制高校そのもの、サポート校ともに、個人の考えや方向性を深める、探す支援をしてくれる学校が増えるのではないでしょうか。

--そういう学校がどんどん増えていくと良いですね。

 これまでご紹介した学校の他にも、特徴的な学校が次々と新設されています。2021年4月には、50年以上の歴史ある土浦日本大学高等学校が通信制課程を開校しました。地方の人口が減少する中で、より多くの子供たちに魅力的な学びを提供したいと考えた末、通信制課程開設に踏み切る学校も増えるのではないかと思います。

 他にも、沖縄にあるサポート校・島の高等学院は、高校進学のためにわざわざ島外に出ていかなくても、島に住みながら勉強できる点を売りにしています。その地域の中で、学業の一環として実際のビジネスを学び、実践して、卒業後もそのまま就職するといった地域連携を重視する学校もあります。

 またスクーリングの延長で、毎日通学するスタイルを選択できる通信制高校も増えてきました。通信制ではありながら、学ぶ内容や単位制といった違い以外はあまり全日制と変わらない学校もあり、徐々に全日制と通信制の境界が曖昧になってきているように感じます。

親子で学校訪問を、気付いた点を話し合う時間も必要



--これだけバリエーションがあると、志望校選びも難しそうです。自分に合う学校の探し方のポイントは?

 1番良いのは複数の学校に実際に足を運んで、話を聞くこと。なかには在校生と話したり、授業を体験したりできる学校もありますので、訪問を通して、校内の雰囲気や自分がやりたいことが実現できそうか、自分がなりたい姿に近い生徒(ロールモデル)がそこにいるかなど確かめてほしいと思います。

 全日制高校にもいろいろな選択肢があるとは思いますが、高校進学にあたって「全日制」の壁を取り払ってみることで、視野がぐっと広がるはずです。時間をうまく使って自分の好きなことをしたり、未来の自分を探しながら高校卒業資格も得られる場所があると知っておくだけでも、息苦しさが解消されると思います。

 自分が高校の3年間、どういう環境で過ごしたいのかをよく考えて、そこに合う学校を探すのが1番良いと思います。そのためにも複数の学校を実際に見に行くのが大事だと思います。

 高校入学の時点でやりたいことが分からなくても良くて、だからこそ高校3年間で興味があることに没頭したり、自分はこういうことが得意だ、こういう環境が好きだと感じられるものを探したり、そういうものを探す時間に使ってほしいと思うのです。私個人的に、高校生という多感な時期に勉強だけに心身を費やすのは勿体ないと思っています。その点、通信制高校は毎日の通学時間など拘束される時間が少ないので、何か新しくチャレンジしてみたいと思ったときに、すぐに行動に移しやすい環境だと思います。

--最後に、受験生、そして保護者の方や先生方など、受験生を応援する大人たちにメッセージをお願いします。

 保護者や先生方は、ご自身は通信制高校の出身ではない人が大半だと思うので、「通信制」と聞くとつい心配になってしまうと思います。でも時代とともに学校は大きく変わっています。まず一緒に学校に行って、どんな学校なのかしっかり知ったうえで子供と意見を交わしてみてください。その際に、大人の目線で気付いたことを教えてあげると良いと思います。「ここはデメリットかもしれないけどこうしたら挽回できるね」とか、「この点は自分で頑張らないといけないね」といったことを子供と一緒に気付いて、考えて、建設的に話し合っていけたら良いですね。

自分らしい学びを実践するために「教室」は必要か?



 コロナ禍以降、教育のオンライン化の加速により、通信制高校のイメージが変わってきている。通信制高校がかつて纏っていた「不登校生徒の受け皿」というネガティブな印象は薄れ、オンラインを用いて自分らしいスタイルでやりたいことを実現する、個別最適な学びが得られる学校として認知されつつあるのだ。

 「何を学び、どんな力をつけたのか」がますます重視され、自らの学びをデザインしていく力が必要とされるようになる、これからの社会。通信制高校、そしてオルタナティブスクールには、自主自立による学びと、学ぶことそのものへの問いを繰り返す時間、そしてが3年間の学びの先をデザインする時間がたっぷり用意されていることを、今一度ここに伝えたい。

《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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