来てからではもう遅い?今から備える、反抗期の子供との関係づくり

 子供の反抗期は、当たり前だと分かっていても、親はどう対応していいのか不安になるもの。反抗期を迎えるにあたっての心構えや、親の接し方のポイントについて、サイタコーチングスクールの江藤真規氏に話を聞いた。

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来てからではもう遅い?今から備える、反抗期の子供との関係づくり
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 子供の反抗期、訪れるのは当たり前だと分かっていても、いざその時になると親はどう対応して良いのか戸惑うもの。反抗期を迎えるにあたっての心構えや、子供への接し方のポイントについて、「子どもの主体性を育て可能性を広げる」を目指した子育てスクール「サイタコーチングスクール」を主宰する、サイタコーディネーション代表取締役の江藤真規氏に話を聞いた。

◇Contents
そもそもなぜある?反抗期
「反抗期=親を嫌いになる時期」ではない
反抗期のコミュニケーションNG例
子供の反抗期にとるべき3つのアクション
伝える前に「聞く」、話の聞き方のポイント
すれ違いや親子喧嘩の後のフォロー
親が思い切って視野を広げることのメリット


反抗期は「子育ての第2フェーズ」、新しい関係性に移行

--お子さまをおもちのご家庭にとって共通の悩み「反抗期」についてお伺いしたいと思います。そもそも「反抗期」はなぜあるんでしょうか。

 子供の反抗期は、いつの時代も変わらぬ親の悩みですよね。「いつ来るんだろう」と不安を抱えて、怯える保護者も多いです。

 幼児期から小学校低学年ごろまで、子供にとって親は絶対的な存在です。それが徐々に成長するにしたがって、小学校中学年くらいから自我が目覚め、新しい世界を発見することの面白さを知り、親以外の大人の意見に触れる機会も増えることで、親の意見に対してさまざまな疑問を抱くようになります。

 近年では子供のインターネット利用が浸透したことで、年々、子供が家庭以外の価値観に触れるタイミングが早まっています。また、小学校で1人1台端末を配布するGIGAスクール構想や、自分の意見を主張することを推奨する社会の流れも後押しして、子供が自らの力で情報を収集し、意見を述べるようになっています。これ自体は、とても良いことですよね。そんな時代でありながら親の意見に従わせ続けていくことは、そもそも無理があります。親自身が子供の変化に対応していかなければなりません

お話を伺ったサイタコーディネーションの江藤真規氏

--反抗期がスタートすると「子供に嫌われたのかな、子供に何か悪いことをしたのかな」と戸惑う保護者もいらっしゃるかと思いますが、そうではなく、新たな価値観に触れたゆえの自然な流れということですね。それまでに備えておくべきことはありますか。

 思春期に入って一番戸惑うのは、子供自身です。保護者の皆さん自身も思春期のとき、つい親にきつい言葉を放ったり、態度をとったりしてしまった経験はないでしょうか。だからといって親を嫌いになった訳ではなかったはずです。ただ新しい世界に触れ、自分なりの考えが芽生え始めているだけなんです。

 親は子供のことを「知ったつもり」になりがちで、自分が一番子供を理解していると思い込んでいる一方で、子供は「親は全然自分を理解してくれない」と思っているのは、反抗期ではよくある話です。

 反抗期に向けて備えるとしたら、1分1秒離れずに一緒にいるような幼少期の関係性ではなく、いざというときに話せるような適度な距離感を、親子ともにイメージしておくようにしたいですね。親はいったん、立ち止まって振り返り、これからの子育てについて考え直すタイミングだと考えてください。これまでの関係性から変化させていくことは、親子ともに多少の痛みは伴うかもしれませんが、反抗期というものがその先の持続可能な親子関係に繋がる貴重な時間になるはずです。

具体的な親子のコミュニケーション術

--反抗期の子供に対するコミュニケーションで、よくあるNG例を教えてください。

 反抗期はホルモンの影響によるものが大きいですし、要因やタイミングも子供それぞれで違います。自立に向けた成長の正しいステップではありますが、とはいえ渦中の親にとっては「なんとかなる」と言われても、それどころではないですよね。そこで、シンプルに親のNGとすべきことを知っておくと安心です。

 まず、絶対NGなこととして、反抗期を機に親が子供の支配下に入ってしまうのは論外です。子供に好かれようと思って媚を売る方がいらっしゃいますが、これは子供との関係構築において逆効果です。

 その他のNGな行動例を3つ挙げると(1)子供の心を見失ってしまうこと(2)いつまでも親の支配下に置くこと(3)子供との関係性が至近距離のままでいることです。前者2つは一見、矛盾しているようですが、見失わないように心を見つめ続けることと、絶対的な親の支配下に置くこととはまったく違います。最後の3は一番やりがちですが、近ければ近いほど、子供の些細な言動が気になってしまいます。反抗期を機に、親は子供との距離を以前より意識的に少し離して、でも心は離さない。そのバランスが大事です。

--では逆に、親が子供の反抗期にとるべきアクションを教えてください。

 こちらもシンプルに、3つのポイントで考えてみましょう。

1、親は子供の味方だと伝える
2、子供に「自分なりの考えをもって良い」ことを示し、子供の意見を尊重すること
3、親に必要とされていることを感じてもらう

 「自分なりの考えをもって良い」ことを伝えるには、まず親自身が自分を主語にした意見を述べることです。漠然と「こうしたほうが良い」と伝えるのではなく「私は、こうしたほうが良いと思うよ(あなたはどう思う?)」と伝えるイメージです。それによって、親子であっても考えが違うことは当たり前だという多様性を示すことができます。

 また、親に世話してもらわなければ日常が成り立たない、幼少期の一方向の関係性から、「相互支援」「相互補完」という双方向のステージに移行していくことを子供にも気づいてもらう必要があります。親が子供に頼っていくこともポイントですね。

--とはいえ、反抗期に入って、これまでのコミュニケーション手法からいきなり変えるのは難しそうです。

 私は長年、「関係構築」について研究しているのですが、新たな関係性を構築するには一定程度の時間がかかるものです。つまり反抗期になったからといって、ある日突然、新しい関係性を構築することはできません。まずは、子供の話に興味関心をもって「聞く」ことから始めましょう。そうすると、子供が見ている世界、考えていることが「幼少期とはこんなに変わってきていたんだ」ということに気づき、子供に対する見方が変わっていきます。

 そうして親の見方が次第に置き換わっていくと、表面的なテクニックではなく、真に子供のことを受け入れ信じることができるようになります。少し時間はかかるかもしれませんが、このプロセスを一定期間経ることで、結果的にスムーズに親子の関係性の第2ステージに移行していくことができます。

--「相手の話を聞く」ことは、簡単なようで難しいですね。反抗期間近の子供に対して、どのような聞き方、伝え方が望ましいでしょうか。

 伝える前に、まず聞くことが大切です。聞く際には「あなたの考えは?」という問いを入れ、子供が心の中に溜めている感情を吐き出せるような雰囲気をつくることが大事です。雰囲気づくりには、場所を変えたり、会話する時間を変えたりするのも1つの手です。子供は、自分の中に溜まっていた感情や思いを吐き出してガス抜きをすることで、心の中にスペースが空き、新しい考え方を取り入れる余裕ができます

 子供の感情や意見を聞き、尊重したうえで、親としての意見を伝え続けることも大事です。会話の途中で親の意見を言う場合は、一方的に考えを言うのではなく、「お母さんの意見を言っても良い?」「ちょっと今話して良いかな?」と前置きするだけで子供に届きやすくなりますし、子供を1人の人間として尊重する姿勢にも繋がります。また意見を言うときは、シンプルに、話を短くまとめることも大切です。二言目以降、子供は「親の話は長い」と感じてしまいがちですから。

まず感情や思いを吐き出させてガス抜きさせてあげることが大切

正しさという親の「着ぐるみ」を脱ぎ捨てて

--親も人間なので、つい口論になってしまったり、喧嘩してしまうこともあります。親子のコミュニケーションが上手く取れなかったとき、どのようにフォローすれば良いでしょうか。

 感情をむき出しにできるのも親子だからこそ。喧嘩になるのも仕方のないことですが、後からのフォローはもちろん必要です。話すと感情的になり過ぎてしまう人は、文字で気持ちを伝えることが効果的です。手紙はもちろん、LINEやメールも良いですね。少し時間を空けてお互い冷静になったころが良いでしょう。

 私自身、子育て中は「正しい親であり続けて、全力で子供に尽くさなければ」という「親としての着ぐるみ」をかぶっていました。でもあるとき、それを意図的に脱いでみたんです。親が上に立つばかりではなく、親子が横並びの関係になるよう、格好つけるのを辞めました。「さっきは言いすぎた、ごめんね」「不本意なことを言ってしまった」「あんなことを言ったけど、本当に伝えたいのはこう言うことだった」と、自分の心の中心にあるメッセージを、わかりやすく伝えることで、それ以降のコミュニケーションが格段に楽になります。

--小学校中学年ともなると子供自身が他人と自分を比較してしまい、その焦りや困惑が、親への反抗につながることもあるのではと思っています。どうしても気になるとは思いますが、親がこの「周囲との比較」に便乗してしまわないためにはどうすれば良いでしょうか。

 周囲との比較というのは、案外「子供を取り巻く登場人物」が少ないときにしてしまうものです。同じ学校やご近所など、ごく狭い世界の中で苦しんでいる保護者がとても多いのです。いっそ比較対象をもっと広げてみましょう

 山登りをすると、山頂からの景色を見たときに、下の世界は広がっていることが視覚的に感じられ、自分の悩みがちっぽけに思えることがあります。定期テストの学年順位や、偏差値の上がり下がりに一喜一憂するよりも「隣の県にはどんな学校があるんだろう」「海外ではどうなっているんだろう」と調べると、さまざまな教育法や学校があり、いろんな個性で輝いている子供たちがたくさんいることが分かります。見る世界を広げてみると、近くだけで比較しているときは見えていなかった、子供のキラリと光る才能も見えてきます

反抗期を機に「相互補完」の横並びの親子関係に

 また、反抗期を機に、子供にばかり向けていたエネルギーの矢印を親自身に戻していくことも大事です。誕生から今まで、無我夢中で前だけを見て子育てされてきたと思います。ここでいったん、自分が人生100年時代をどう生きていくか考えてみてください。自分のことを大切に見つめ直すと、必然的に子供にかけるエネルギーがほど良く減り、些細な子供の言動は気にならなくなります。

 私自身、子供が反抗期で大変な時期に仕事を始めましたが、それが功を奏して新しい親子の関係性を構築できましたし、子供たちも母親に対して「お母さん、自分の好きなことをやっていて楽しそう」と新しいとらえ方をしてくれたと感じます。子供のこどだけを見ている「ママ」から脱皮をして、自分らしい生き方を見せてあげてほしいですね。

--今まで子供に100%注いでいたエネルギーを、反抗期を機に少しずつ自分に引き戻していくイメージですね。

 子供の思春期は親の更年期と重なる方も多く、ホルモンバランスが崩れてイライラしやすい時期です。保護者の皆さんは自分自身のケアも充分してあげてくださいね。親が自分の未来を考えて幸せに生きている方が、きっと子供も幸せです。我が子の反抗期や思春期に悩む期間は人生を棒に振るような時間では決してなく、その経験は無駄にはなりません。中断していたキャリアを再開するも良し、今から始めるも良し、子育て経験は保護者の皆さん自身のキャリア構築につながっていくと思います。

--反抗期は子供の世界が広がってきた証だと、前向きに捉え、新たな親子関係を築くきっかけにできるといいなと感じました。お話ありがとうございました。

 「反抗期からは、親が手綱を引っ張るのではなく、親子でともに未来に向かう同志になる」と話してくれた江藤氏。反抗期はそうしたタイミングを知らせる、わかりやすい合図なのかもしれない。すでに反抗期に突入しているご家庭も、いつ来るかとソワソワしているご家庭も、目の前のことで手一杯になりがちな子育ての日常から、少し先まで目を向けて、変わりゆく親子の関係性を眺めてみる時間をとってみてはいかがだろうか。

子どもを育てる 魔法の言い換え辞典

発行:扶桑社

<江藤真規氏 プロフィール>
 東京都生まれ。お茶の水女子大学家政学部卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。2人の娘の子育て経験を通して、親子間のコミュニケーションの重要性を実感、コーチングの認定資格を取得。現在、株式会社サイタコーディネーション代表として、保護者、教職員・保育者を対象とした講演・セミナー活動、子育て支援活動、執筆活動などを行う。子育ての孤立化を防ぎ、よりよい子育てに向かうための「保護者同士のつながりの場」として、子育てコーチングスクール「マザーカレッジ(現サイタコーチングスクール)」を設立。2019年度文部科学省「男女共同参画推進のための学び・キャリア形成支援事業」委員。2019年文部科学省社会教育主事講習にて「社会教育と家庭教育」を担当。

《土取真以子》

土取真以子

関西在住の編集・ライター。教育、子育て、ライフスタイル、お出かけのジャンルを中心に、インタビュー記事やイベントレポートなどの執筆を手がける。教育への関心が強く、自身の出産後に保育士資格を取得。趣味が旅行とハイキングで、目標は親子で四国お遍路&スペイン巡礼。

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