「今、日本の子供たちに授けるべき力」加藤紀子氏×末松弥奈子氏

 「国際教育フェスタ~幼稚園・保育園・小学校」で開催された、神石インターナショナルスクール理事長末松弥奈子氏と『子育てベスト100』の著書である加藤紀子氏によるスペシャル対談をレポートする。

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学校法人神石高原学園・理事長の末松弥奈子氏と教育ライター/ジャーナリストの加藤紀子氏
学校法人神石高原学園・理事長の末松弥奈子氏と教育ライター/ジャーナリストの加藤紀子氏 全 1 枚 拡大写真

 「国際教育フェスタ~幼稚園・保育園・小学校」が2023年2月18日にiTSCOM STUDIO & HALL 二子玉川ライズで開催された。本イベントはインターナショナルスクールやプリスクール、アフタースクール、国際教育に積極的に取り組んでいる小学校、英語教育・サービス等を提供する11の学校と企業が参加。子供の学び体験や情報、先生と保護者の対話の機会が提供された。

 最新の国際教育情報に触れられる本イベントのひとつの目玉として、教育スペシャリストたちの特別対談を開催。「今、日本の子供たちに授けるべき力」と題し、『子育てベスト100』の著書であり、自身もアメリカで子育てを経験している教育ライター/ジャーナリストの加藤紀子氏と、日本初の文科省認定の全寮制小学校、神石インターナショナルスクールを運営する学校法人神石高原学園・理事長の末松弥奈子氏による特別対談が実施された。

日本初の全寮制小学校「神石インターナショナルスクール」

 我が子にあった教育環境を用意したい、子供の可能性を大きく伸ばしたいと考える家庭が増え、インターナショナルスクールやボーディングスクールへの関心が高まっている。そんな家庭のニーズを満たす小学校がある、神石インターナショナルスクールだ。インターナショナルスクールという名前だが、文部科学省の学習指導要領をベースにした学習も実施する、学校教育法の一条校だ。この日本初の全寮制小学校が誕生したのは、2020年4月。

 「息子を育てるうちに、東京の教育環境のいびつさに気付きました。受験のために習い事をやめて、遊ぶ時間も削られるのが一般的だと知り、衝撃を受けたのです。私自身はその教育を息子に受けさせたいと思わなかったため、小3のときにスイスのボーディングスクールへの転校を決めました。そこでは、一流の教師が勉強を教えてくれるだけでなく、遊びの時間もたっぷりあるし、美術や音楽など文化を体験する時間もあり、すごく良い選択だったと思っています」と末松氏は話す。

 しかし、1つだけ心残りがあったと言う。日本の文化や歴史など、ひととおり勉強させてから海外に出したほうがよかったのではないかと末松氏は振り返る。「他の国から来ている子供たちの愛国心の強さを感じ、息子にも日本人としてのアイデンティティを育んでから海外で学ばせたほうがよかったのではないかと思いました」。この経験がもとになり、神石インターナショナルスクールを作ることになる。

 「我が子にグローバルに活躍してほしいと願うなら、自国のことを知っておく必要がある。英語だけ話せれば良いという話ではない。日本人としての基盤があるうえで英語を話さないと、見た目は日本人だけど、中身は海外の人を育てるようなもの」と末松氏はアイデンティティの重要性を説く。日本人としての教養を身に付けられ、さらに英語で話せる環境があり、一流の教員に学ぶことができる豊かな時間を提供する学校が必要であると考え、神石インターナショナルスクールは設立された。

日本にとって必要な真のグローバル教育とは

 「日本の未来に必要な、真のグローバル教育には、何が必要か」という加藤氏からの問いに、末松氏は「自分のバックグラウンドである母国のことをきちんと語ることができる教育が必要です」と答える。まずは、自分の生まれた国や、文化背景を語ることができることこそ、グローバル教育につながるという認識を、子供も大人も高めて行く必要がある。

 日本の教育もベースにしたい。その想いがあり、神石インターナショナルスクールでは、コミュニケーションの言語は日本語と英語が半々だ。日本語で国語の授業を受け、日本の社会システムについて学ぶ。「神石インターナショナルスクールは広島にある。海外では日本のヒロシマはよく知られている。だからこそ、広島のこと、平和教育も欠かせないのです」と末松氏は言う。

 神石インターナショナルスクールを卒業した子供たちの多くは、海外の学校に進学する。青春期の多くの時間を海外で過ごすからこそ、小学校時代には、日本の文化を経験する時間として茶道の授業もある。奈良や出雲などの歴史的建造物を見学に行ったり、瀬戸内国際芸術祭に行ったりして「日本をしっかり学び、体験してから海外に羽ばたいてほしい。それこそが真のグローバル教育だと考えているのです」と末松氏は語った。

日本の教育の良さ、そして課題

 国内外さまざまな教育現場を知っている末松氏に、日本の教育はどのように映っているのだろうか。日本の教育の良さについて末松氏は「理数系が強いこと」だと断言した。「神石インターナショナルスクールでは、設立当初、算数の授業を海外の先生に任せていた。しかし、日本のカリキュラムに沿った日本人の先生の教え方はとてもクオリティが高いことに気付き、途中から低学年の算数は日本人の先生が中心となって教えることに切り替えました」と言う。たしかにOECD(経済協力開発機構)の生徒の学習到達度調査(PISA)でも、日本は数学的リテラシーおよび科学的リテラシーの分野ではトップレベルだ。

 さらに、日本の道徳教育について、末松氏は高く評価する。「ゴミをゴミ箱に捨てる、使ったものは片づける、物を大切にする、そういった日本では当たり前と思われていることを、海外では教えられる機会があまりありません。このようなことを身に付ける教育には誇りをもって良いと思います」と語る。

 一方で日本の教育の課題として、自己主張や意見の交換が苦手だという、コミュニケーション能力についてあげた。「人と違う意見について、喧嘩や対立ではなく、ディベートするスキルが、日本人には不足している傾向があるのではないでしょうか」と指摘する。「人格を否定せず、相手を尊重したうえで聞きあいながら意見を交換していくスキルを身に付けてほしいですね」と末松氏は語る。

 「ディスカッションする機会が少なく、異なる意見を言われた際に、自分が否定されたと感じる子供もいますね」という加藤氏に対し、末松氏も同意し「自分の意見と相手の意見を切り離し、自分の意見への攻撃だととらえず、相手の意見をそのまま受け入れるということは、大事なコミュニケーションスキルだと思いますが、これは教わり、経験しないと身に付けるのは難しいと思います」と答えた。「だからこそ、スキルを身に付けるための環境が必要なのですね。そのためには子供たちが本音を押し殺し、周囲の空気を読んで同調するのではなく、誰に対しても自分の意見や気持ちを安心して伝えられる場所であることが大切ですね」と加藤氏はまとめた。

今、日本の子供たちに授けるべき力

 最後に加藤氏から「現代の日本の子供たちに授けたいと思う力は何か」と問われた末松氏は「自分を信じる力」だと答えた。「生まれる場所を選べないことを考えると、安全な日本に生まれている時点ですでに運をもっていると言えると思います。さらに、周りの大人たちが心を配り、愛されて育てられていることを自覚し、自信をつけてほしいですね」と言う。そのためにも、周りの大人は「あなたが生きている今日は素晴らしい、あなたが幸せになることが、世界の平和につながると伝えてほしいと思います」と保護者にメッセージを送った。

 会場の保護者からは「良い教育を受けさせたいと思う一方で、子供が小さいうちから親元を離れ寮生活をさせることに淋しさを覚える」と言う声が聞かれた。末松氏はその意見に共感したうえで「普段会えないからこそ、長期休暇時の家族時間が濃密になるのです」と話した。

 また、神石インターナショナルスクールでは保護者とオンラインで話す時間を週に1回30分、設けていると言う。「子供と30分も正面に座ってゆっくり会話することは、一緒に暮らしていても少ないのではないでしょうか。この時間しか話せないと思うと、子供の話もしっかり聞くことができるのです」と話し、保護者からは納得の声が上がった。

 さらに、末松氏本人の経験から女性の社会進出の話にも触れた。「日本ではまだ子育ての中心が母親に寄りがちで、子育てとキャリアの両立に悩む母親も少なくない。ボーディングスクールに子供が行くことは、母親が社会で活躍する機会にもなるのです」と、ボーディングスクールの、子供の教育とは別の側面の価値についても説明された。

 学校設立以前はビジネスパーソンとしてグローバルに活躍していた末松氏。我が子をスイスのボーディングスクールに預けた経験も含め、日本人として海外で活躍することに関して、身をもって知っている。そんな末松氏が理想とする教育を実現させた神石インターナショナルスクールでは、子供ひとりひとりの個性や特性を尊重し、世界標準の一流の教育を日本で受けることができる。海外のボーディングスクールに預けることを考えると、国内にある分、物理的にも心理的に近く、魅力的な選択肢だろう。

 オンラインの発達により、国内だけを見て仕事をすることはもはや不可能な時代だ。我が子の未来のためにと、とにかく英語を…と考えている保護者にとって、「海外を目指すなら、まずは自国のことを知ってから」という末松氏の言葉は大きな気付きとなったのではないだろうか。

加藤紀子氏
教育ライター/ジャーナリスト
東京大学経済学部卒業。中学受験、子どものメンタル、英語教育等、教育分野を中心に「プレジデントFamily」「ReseMom」「NewsPicks」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)はAmazon総合1位、17万部のベストセラーに。近著は『ちょっと気になる子育ての困りごと解決ブック!』(大和書房)。
末松弥奈子氏
学校法人神石高原学園・理事長
1993年学習院大学大学院修士課程修了後、インターネット関連ビジネスで起業。2001年ニューズ・ツー・ユー(現ニューズ・ツー・ユーホールディングス)を設立。2017年ジャパンタイムズの代表取締役会長・発行人に就任。2020年4月、日本初の文科省認定の全寮制小学校、神石インターナショナルスクール(JINIS)を開校、運営母体である学校法人神石高原学園・理事長に就任。

《田中真穂》

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