「親が知っておくべき、今後の世界の教育の潮流」加藤紀子氏×松田悠介氏

 「国際教育フェスタ~幼稚園・保育園・小学校」で開催された、Crimson Education / Crimson Global Academy 日本代表 松田 “Ed” 悠介氏と『子育てベスト100』の著書である加藤紀子氏によるスペシャル対談をレポートする。

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教育ライター/ジャーナリストの加藤紀子氏とCrimson Education / Crimson Global Academy 日本代表の松田“Ed”悠介氏
教育ライター/ジャーナリストの加藤紀子氏とCrimson Education / Crimson Global Academy 日本代表の松田“Ed”悠介氏 全 1 枚 拡大写真

 「国際教育フェスタ~幼稚園・保育園・小学校」が2023年2月18日にiTSCOM STUDIO & HALL 二子玉川ライズで開催された。本イベントはインターナショナルスクールやプリスクール、アフタースクール、国際教育に積極的に取り組んでいる小学校、英語教育・サービス等を提供する11の学校と企業が参加。子供の学び体験や情報、先生と保護者の対話の機会が提供された。

 最新の国際教育情報に触れられる本イベントのひとつの目玉として、教育スペシャリストたちの特別対談を開催。「親が知っておくべき、今後の世界の教育の潮流」と題し、『子育てベスト100』の著書であり、自身もアメリカで子育てを経験している教育ライター/ジャーナリストの加藤紀子氏と、海外進学(アメリカ・イギリス・カナダ・ニュージーランド・オーストラリア等)のサポートに特化した海外進学塾Crimson EducationとオンラインのインターナショナルスクールのCrimson Global Academyの日本代表であり、国際教育、海外進学支援のスペシャリストの松田 “Ed” 悠介氏による特別対談が実施された。

世界の教育の潮流と、日本の教育との乖離

 我が子に適切な教育とは何か。VUCAの時代と言われる現代において、必要となるスキルや経験は何か。答えのない保護者の悩みに対し、世界の教育の潮流を知ることは、我が子の教育を選択する際に指針となるのではないだろうか。

 Crimson Global Academy日本代表であり、教育のイノベーターとして知られる松田氏は「今後の世界の教育の潮流の基礎知識」として「これまでの工業化教育から脱し、個別最適化された教育に移行していく」と話す。チャイムを鳴らして子供たちを支配し、暗記中心の一斉教育。先生が言ったとおりにすると褒められるような「工業化教育」は産業化時代には機能していたが、情報化社会となり、AIの進歩も目覚ましい現代とこれからの社会には適応できない人材を育ててしまう。「日本国内でどう生き抜くかではなく、世界の市場の中において、貢献できる人材をどう育てるかということが重要。そのためには、個別最適化された教育でひとりひとりの個性を伸ばしていき、それを可能にするテクノロジーを駆使しない手はないのです」と松田氏は断言する。

 さらに松田氏は「工業化教育の課題はなんといっても自律性の欠如だ」と警鐘を鳴らす。「科目選択の余地がほとんどなく、選択や意思決定を行うタイミングがきわめて少ない学校生活において、子供たちは何のために今学んでいるかを理解できていない」と危機感を示す。

 それではどうすれば良いのか。松田氏は「これまでの人依存、箱依存の時代は終わる。テクノロジーをうまく活用し、日本だけでなく、世界どこにいても働ける、生きる力を培うことが肝要なのです」と説く。かつて、世界のTOP企業15の中に日本企業が11社もランクインしているような時代があった。今は残念ながら1社もない。さらに、日本の人口は減少の一途をたどっており、市場の縮小も避けられない。そのような中、日本以外で働くことができるという選択肢をもつことが、ますます重要となってくる。

 このような中で、人材育成の重要性を再認識するが、残念ながら海外に比べ、日本の大学の教育研究費や教授への報酬は格段に低い。「たとえば、東京大学とハーバード大学を比べたときに、教育研究費は2.6倍、研究費も3倍以上、学長の給与に至っては8倍ほど差があります。一概には言えませんが、一般的には研究費が潤沢な学校へ優秀な教授が集まり、生徒もそれに比例します。全員が海外の大学に行けとは思いませんが、目指すことができるのであれば、行く価値があると考えています」と松田氏は述べた。

不確実性の高い時代に必要なこととは何か

 「海外の教育と日本の教育の現在地に大きく隔たりがあることがわかった。もっとも違うと感じる部分はどこか」という加藤氏からの質問に対し松田氏は「スピード感だ」と答える。

 「海外では、学生が授業の後に先生を評価し、それが次の人事に直結しています。日本のように、一度教授に就いたら、授業の評判が良くなくてもそのまま居続ける、というようなことはないのです」と松田氏。「だから、先生に緊張感がなくなってしまい、黒板に向かって話し続けるというような授業でも良しとされるのだと思います」という見解を示した。

 不確実性が高い現代において、生き抜くためにはスピード感が必須だ。学校でいえば、学生のニーズにどれだけスピーディーに対応できるかということである。コロナ禍において、外出できない期間に素早く質の高いオンライン授業を提供し、そのあとは情勢とニーズを見極めて、最適な学習環境を提供するというような対応ができた学校は、日本では少ない。

 さらに、日本の学校の問題点として、子供の理解度に沿った進級ができないことをあげる。基本的に、飛び級も落第もない日本の学校では得意科目を伸ばす機会を奪い、苦手な科目を嫌いにするようなことになると松田氏は述べる。「一斉授業による弊害だと言えます。学びを進めたい子はどんどん進めて良いし、苦手なら何度もわかるまで取り組めば良いのです」。

 松田氏が代表を務めるCrimson Global Academyには、一般的に「ギフテッド」と診断され、先取り学習を進めていく子供たちもいれば、「不登校」とよばれるような子供もいる。「学校に通わなかったために、2、3年分の学習の遅れがある子でも、個別に指導することで、先取り学習ができるようにまでなる。つまり個別最適化された学びが何よりも重要で、子供の得意・不得意や特性をしっかり理解をしたうえで、どれだけあった環境を提供できるのかにより、子供の可能性も伸びるということ。効率よく学ぶことができるため、時間に余裕ができ、その時間で好きなことを楽しむことができるのです」と子供ひとりひとりに合った学習環境の重要性を強調した。

自分の“好き”を徹底的に追及することが重要

 自分の好きなことを徹底的にやる時間をもち、のめりこむほど好きなことを見つけることこそ、グローバルで活躍できる人材のベースとなる。「国際教育とは、ただ単に英単語をたくさん覚えているとか、流暢に英語を話せるということではないのです。語れるものをもつことが重要。日本の今の教育は、就職までの外せないレールが敷かれている。これがクリエイティブな力がもっともある時期に、自分で考える主体的な力を奪っていってしまっていると考えている」と松田氏。

 「主体性を育み、クリエイティビティを磨いて行けるような先生は、日本には少ない。国をあげて推進しようとしているバカロレア認定校も、それを指導できるだけの教師が少なく、採用に苦戦していますね」という加藤氏からの話に、松田氏も同意する。「だからこそ、オンラインを活用することで、個別最適な学びを子供に提供したい。子供のニーズにあった専門のプロ講師の指導をオンラインなら受けることができる。さらに言えば、学校ですべてを最適にカバーすることは難しいのだと理解しておくことも重要なのです」と言う。

 たとえば、料理店でも、日本食がおいしい店と、イタリアンがおいしい店が別のように、先生もそれぞれに得意が異なる。「日本では1人の先生にすべてを任せすぎです。英語もプログラミングも、とすべてをパーフェクトにできる先生は少ない。テクノロジーの力を駆使することで、個々の子供に最適化された学びの環境をつくれるはずです。学校に行くことを前提として考えている家庭も多いと思いますが、我が子に合った学習環境とは何かと考え、ホームスクーリングを選択しても良いのではないでしょうか。子供の可能性を伸ばすことができる教育環境をゼロベースで考えてほしいです」と松田氏は伝える。

幼少期、保護者がやっておくべきこととは

 「幼少期にやっておいたほうが良いことは何か」という保護者からの悩みに対し「3つある。1つ目が子供の発達過程を理解し、それに合った教育の提供、2つ目が好きなことをさせる時間を確保すること、3つ目が主体性を育むこと」と答えた松田氏。脳科学的な側面や、身体的な成長をしっかり見極め、子供の段階にあった学びを過不足なく与えることの重要性を伝えた。これを見誤ると嫌いになったり苦手になったりするため、専門家に指示を仰ぐと良いと松田氏は言う。

 さらに「とにかく好きなことをさせてあげてほしい」と強調。親の考えだけで決めたことを子供に無理強いさせることを「無駄な時間」と言う松田氏は「とにかく子供たちの中にある主体性の芽を摘まないでほしい。子供が良い表情をするときはどんなときか、その時間をできるだけ多く作ることで、主体性だけでなく、自己効力感も育まれるのです」と語る。

 「親は“それって将来何の役に立つの”などと言って否定してしまいがちですが、一切否定せずに、子供の“好き”を親が拾えるかどうかがポイントですね」と加藤氏。これに補足して「思考力や考える力を育む幼少期の“好き”を大切にすることが主体性につながる。親子で一緒に“好き”を探してほしいですね」と松田氏は付け加えた。 

 世界で活躍できる人に我が子を育てたいと考えたとき、大人はあれもこれもと子供に重装備をさせようとしがちだ。しかし、子供の意思を無視したレールを引くことは、子供の主体性を奪い、自分で考えることができない子に育ててしまう可能性があり、本末転倒となりかねない。「子育てにおいてもっとも大切なことは主体性」と加藤氏と松田氏は口をそろえる。親世代のときにはなかった子育ての選択肢が存在する現代。我が子にあった最適な環境を提供するために、まずは子供の“好き”を親子で一緒に、とことん楽しんでみると良いのではないだろうか。

加藤紀子氏
教育ライター/ジャーナリスト
東京大学経済学部卒業。中学受験、子どものメンタル、英語教育等、教育分野を中心に「プレジデントFamily」「ReseMom」「NewsPicks」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)はAmazon総合1位、17万部のベストセラーに。近著は『ちょっと気になる子育ての困りごと解決ブック!』(大和書房)。
松田“Ed”悠介氏
Crimson Education / Crimson Global Academy 日本代表
国際教育、海外進学支援のスペシャリスト。中高体育教師、教育委員会勤務を経て、京都大学の特任准教授やスタンフォード大学の客員研究員を務める。ハーバード教育大学院、スタンフォード経営大学院を修了。現在もコロンビア大学で教育テクノロジーの研究に従事。著書に『グーグル、ディズニーよりも働きたい 「教室」』(ダイヤモンド社)。

《田中真穂》

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