地球沸騰などと評されるような熱波が続く今日この頃、いよいよ夏本番でございます。この時期に多くの人々を悩ませるのが恒例の「自由研究」です。使いやすい市販のキットもありますが、テーマが見つけられなくて途方に暮れた人もいるでしょう。
巷に溢れる自由研究のネタを利用するのも一つの手ではあるものの、やはり自分で見つけたテーマでやるのが課題の目的には沿っているでしょう。アイデア出し、プレゼン手法など、いずれ仕事でやる作業の練習だと思えば、オリジナリティは出したいところです。
最近では『マインクラフト』を使って行うのも許容されていて、『桃鉄』や『アサクリ』などの教材として優秀なゲームも増えました。今回はゲームを題材にした自由研究を、流行の『マイクラ』などを使うものとは違う形で、『FINAL FANTASY XVI』を使って実践します。
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テーマ探しで重要なのは「観察」です。普段気にも留めないような身近にあるものでも、細かい部分に目を留めれば、必ず何かしらの「謎」が秘められています。そのごくごく小さな「謎」を「科学的な見方」によって膨らませるのが自由研究の本質だと言えるでしょう。つまり、目の前にある事象を可能な限り客観的に捉え、論理的にその理由や仕組みを考え、再現して確認する。これさえ押さえていれば、どんな小さな事でもしっかりした「研究」が成立します。
植物学をテーマにした朝ドラ「らんまん」に於いても、科学的な観察眼が一つの鍵になっています。植物の特徴を詳細に観て、他の植物と比較し、環境などからそうなった理由を推察する。ひたすらそれを繰り返した果てに歴史に残る大発見が生まれます。自由研究もやることは全く同じです。
「科学的な見方」を構成する要素は様々なパターンがありますが、本記事では「観察」「仮説」「実験」「考察」の4要素とします。
テーマ「『FINAL FANTASY XVI』に登場する剣の形」
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『FF16』にはファンタジー的なデザインから実用的なものまで様々なタイプの剣が登場します。変わった突起が付いているものなど、中には一見実用性が分からない特徴を持つ物があります。その形にどういう意味があるのか、「自由研究」のスタイルで考えていきましょう。
なお、以下の内容は自由研究の一例として示す筆者個人の仮説であり、学術的な正確性はないことをご留意ください。
観察
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まずはクライブの武器を見ていきます。初期装備であるザングレブ兵の剣は装飾の無い至ってシンプルな造りです。鍛冶屋で作るような魔力を秘めた武器は装飾的で、刃が波打つなど特殊な形状をしています。
違いが出やすいのは、日本刀の鍔に当たる「ガード」の部分です。シンプルに真っ直ぐなものもあれば、V字になっている、鍵状もあり、長さもまちまちです。
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武器屋に置いている剣の中には、途中の部分に大きな突起が付いている物があります。斬るには邪魔そうですが、どういう使い方があるのでしょうか。
仮説
ガードの形が影響するのはどんな場面でしょうか。振るときのバランスや斬突のやりやすさももちろんですが、刃を当てて攻撃を逸らしたり受け止めたりするときではないでしょうか。ガードの部分がしっかりしていれば、重量のある武器でも耐えられるでしょうし、カウンター技の起点にもなります。
実験
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ガードの機能を確かめるため、簡単な模型を作って検証してみます。使うのは新聞紙、広告と木刀で、紙で作った剣にパーツを付けて試してみます。
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小学生の時に多くの人がやった作業ですね。新聞紙を細く巻いていって棒を作ります。斜めに巻くとちょうど木刀と同じくらいの長さになります。
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これに、広告で作ったガード部分のパーツを付けて、基本の形ができました。
この状態で木刀を受け止めたとすると、ガードの部分で止まり柄の部分まで刃は入りません。逆に鍔がない木刀でこれをやった場合、そのまま手の方まで相手の刃が落ちて簡単に指を切り落とされます。中国やローマなど古代の剣では鍔がほとんどないものもあり、このような鍔迫り合いは難しいでしょう。刀身で相手の攻撃を受け止めて逸らす技は、このように安全なガードが無いと逆に危険なのです。
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これに、突起の代わりになる追加パーツを取り付け、刃を合わせてみます。
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すると木刀は途中で引っかかり、ガードの部分まで一気に滑らせるのが難しくなりました。こうして受け止めた相手の剣を弾き、より奥へ踏み込めるでしょう。
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ガードの部分を曲げる、足すなどして変化を加えると、受け流しにどのような影響を与えるのか?ヴァリエーションを付けて様々なガードの形を検証してみましょう。
考察
中世ヨーロッパの剣は他の地域に比べると、ガードの部分が比較的大きいですね。それだけ剣を合わせるのが重要な要素であったと考えられます。つまり間合いが近く密着して戦う時間が長い。これは防具の発展と関係があり、チェインメイルなどで全身を覆ってしまえば「斬り」でダメージを負うことは少なくなり、より重い武器で鎧ごと壊すか、覆われていない場所を突く技が求められます。
相手の攻撃を一旦受け止め、刃を密着させたまま顔や鎧の隙間の急所を突く。これがガードが大きいロングソードの主な戦術であると推測します。
実際に使われていた戦術を調べると、「バインド」という西洋剣術の主要技術が見つかりました。これは刃を強く噛み合わせ、鍔迫り合いのような形を作るものです。ここから刃を滑らせて一歩踏み込みます。このとき、ガードの部分に相手の刃を乗せることで、自分の首を狙われないよう剣先を制することができます。
結論
盾を使わず、剣一本で攻撃と防御を行う技術の発展により、「受け止め」の重要性が高まりました。より深い間合いに入るために相手の剣先を抑え、こちらの狙いを届かせることが、鎧を通らない「斬り」よりも大事になったと推察されます。ガードの発達はそういった剣術の考え方の変化が反映されたものでした。
「デザインに着目する」という方法で、ゲームを使った自由研究の一例をやってみました。スポーツチャンバラの武器を改造するのも良いですね。ロングソードの構えには刃の中程を握ったバントのような「ハーフソード」という構えもあります。なんと柄の部分で相手を殴ることも。打突のための剣に注目すると、さらに面白い研究テーマになりそうです。
手製の武器での検証は2人でやると楽しいので、お子さんの自由研究のネタに困っている方は是非お試しください。ただし、無闇に振り回すと怪我の危険もあるので、柔らかい素材でゆっくり行いましょう。
参照文献
中世ヨーロッパの武術/長田龍太(新紀元社)
続・中世ヨーロッパの武術/(同上)
主要な剣技や長物、ダガーの二刀流など、詳細な動きを解説した西洋武術の図鑑と言える本。パリィからのカウンター技も多数載っていて、創作で格好いい動きを探すにはもってこいです。
武器の歴史大図鑑/リチャード・ホームズ(創元社)
石器時代の棍棒からなものから現代銃のM16まで欧州を中心に網羅し、少々値は張りますが部品に関する情報量は圧倒的です。