【中学受験2024】人気は分散傾向、新規開校・日程変更等の影響に注視…SAPIX

 2024年度の中学入試はどうなるか。最新の首都圏中学受験の動向から受験直前期のアドバイスまで、SAPIX(サピックス)小学部 教育情報センター本部長の広野雅明氏に聞いた。

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 中学入試本番までいよいよ最終コーナーが見えてきた。毎月行われる模擬試験や取り組み始めた過去問の結果を前に、併願校の組み方に頭を悩ませているご家庭も多いのではないだろうか。

 最新の首都圏中学受験の動向から受験直前期のアドバイスまで、SAPIX(サピックス)小学部 教育情報センター本部長の広野雅明氏に聞いた。

伝統校、付属校、新興校と人気は分散傾向

--2024年度入試の概要について、特に難関校について現況をどのように見ているか教えてください。

 人気校の動向に関しては、どこか1校に人気が集中しているというより、程よく分散しているというのが率直な印象です。御三家などのいわゆる伝統校、早慶をはじめとする付属校、また近年、グローバル教育を掲げて海外進学を目指すような共学校に勢いがありますが、そこに倍率が集中しているかというそういうわけでもありません。また、ここ数年続いていた大学付属校人気は落ち着き、開成や桜蔭といった最難関については引き続き安定した人気となっています。

 開成、早稲田では新校舎がお披露目になりましたが、新校舎の建設はやはり生徒や保護者にとって魅力的に映ると思われます。理系教育を全面的に打ち出しサイエンスセンターを新築した海城も、2023年度は人気・倍率ともに上がりました。桜蔭でも新しく高校棟ができ、理科棟が復活するなど伝統校の校舎リニューアルが進んでいます。

SAPIX(サピックス)小学部 教育情報センター本部長の広野雅明氏

--新校舎などハード面の充実ぶりもさることながら、やはりその教育内容が評価されているということですね。

 一例ではありますが、昨今の開成は英語教育に力を入れています。ネイティブスピーカーなみに英語力の高い若手の先生が赴任するなど、リーディング、リスニング、ライティング、スピーキングとそれぞれレベルの高い授業が展開され、非常に英語力が付くと評判です。前校長の柳沢先生と現校長の野水先生、どちらも校長自らが留学や海外大進学を視野に入れて発信し続けているのは、生徒たちにとって大きな影響があると感じています。

 このように、あえてグローバル教育を掲げていない伝統校でも、今は英語4技能にしっかり力を入れているところが増えています。オンライン英会話の導入やTOKYO GLOBAL GATEWAYでの研修、英語外部試験の活用など、世界で活躍する土台となる英語力を伸ばすカリキュラムが整い、高いレベルの英語が身に付く学校は、これからもいっそう支持を得ると思われます。

埼玉では開智所沢学園が新規開校

--新たに設定された試験回や試験科目の変更など、今年度注目のトピックスについて教えて下さい。

 2024年度の新たなトピックとしては、埼玉に開智所沢が開校することです。1学年240人と規模も大きく、岩槻にある開智学園と併願することもできるので、志望者は集まるでしょう。

 同じく埼玉の話題として大きいのは、淑徳与野の午後入試の導入です。女子では珍しく算数理科の2教科入試となる、医進コースが新設されます。淑徳与野はもともと学習面でも面倒見がよく、グローバル教育にもかなり力を入れている学校です。新コースでしかも午後入試とあって受験しやすく、女子の医学部志向や理系志向の機運も相まって、人気を集めるとみています。

 埼玉の学校全体にいえるのは、学校の敷地も広く、学習面のフォローも手厚い、塾いらずで現役合格させると打ち出した学校が多いこと。そのなかでも大宮開成や埼玉栄、浦和実業や浦和明の星などは安定した人気を維持しています。県内在住者に限らず東京・神奈川からの受験者の多くがここから入試をスタートさせる栄東についても、進学実績や卒業生の活躍も多分野にわたるなど安定した力をもっています。

千葉では個性ある学校群の人気が上昇

--同じく1月受験校として、千葉県の注目校について教えてください。

 千葉の注目株が芝浦工大柏です。新しい校長先生を迎え、GS(グローバル・サイエンス)クラスを廃止し、一般クラスのみに統合します。地域と連携した探究プログラムを設けたり、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の経験を生かしたりと、探究学習に力を入れています。大学進学についても、中高での探究活動の延長線上でいろいろな賞を取ったり応募したりして、総合型選抜で全国各地の名門大学に進学をする子が育っています。芝浦工業大学との高大連携にも力を入れていくということで非常に注目しています。

 同じく2021年に共学化した光英VERITAS。適性検査型入試をやめたことで受験者が減ったものの、4科の学力を備えた生徒が増え、男子が入部する新しい部活動もできて学校全体が活性化しています。共学化してまだ歴史が浅いぶん、活躍するチャンスがたくさんあるのも魅力です。また、昨年開校した流通経済大柏は、大学やNX社(旧日本通運)との連携を生かした探究活動などを展開しています。

 一方で東海大附属浦安のように、幅広い学部学科を備えた併設大学への進学がメインの学校もあります。国府台女子学院、和洋国府台女子といった非常に面倒見がいい女子校など、個性的な学校が多いのが千葉の魅力なのかなと思います。不動の地位である渋幕、東邦、市川に続くようなさまざまな取組みを他の私学も実践していて、近年、千葉だけで入試を終える方が増えているというのがよくわかります。

筑駒・開成が受験チャンスを拡大

--都内難関校のトピックについてはいかがでしょうか。まず男子校について教えてください。

 男子においては、筑駒の通学区域が拡大になりました。これまで筑駒の通学区域から外れていた浦和や大宮、松戸、船橋といったエリアは、開成の受験者が多いエリアとかぶります。今のところまだ模試の動向には表れていませんが(取材日は9月20日)、やはり筑駒は日本で一番優秀な子が集まる学校というイメージがありますから、開成を狙うトップ層が筑駒を併願するケースも増えてくると思います。

 ただ、拡大になったエリアから筑駒に通学するとなると、開成への通学時間プラス40分、50分かかるという距離的なネックもあります。また、国立は経済的な負担は少ないですが、一方で開成のように新しい取組みをしたり特別な授業を増やしたりといったことができるわけではありません。その優先順位をどうするのか、悩まれる方は少なくないのではないでしょうか。

 また開成は、2024年度から募集要項を変え、インターナショナルスクールなどに通う子の受験が可能になりました。筑駒も開成も、違う形ではあれ受験のチャンスを広げているといえます。

--昨年度受験者を増やした学校の人気校の動向について教えてください。

 上位男子校の中で一番人気は駒場東邦です。保護者はやはり東大をはじめとする難関大学への出口を一番気にしますので、昨年理IIIに5名の合格者を出した駒東が人気になるのは確実でしょう。東京都市大付属の午後入試、明治大学の系属校になる日本学園なども引き続き高倍率が見込まれます。

 また、今年は男子校フェスタというイベントが足立学園で行われ、実際に学校を見て気に入る子も多くいると思います。北千住は千葉埼玉エリアからも通いやすく学校も駅近、塾いらずで勉強を見てもらえる、さらに午後入試と受験回数も多く、人気は止まらないでしょう。
 
--神奈川の人気校についてはいかがでしょうか

 神奈川で志望者を伸ばしているのは逗子開成です。最近になり逗子開成のアクティブラーニング、21世紀型教育に話題が集まっていますが、同校は1970年代からヨットや海洋教育をはじめとする探究教育を行っていましたし、世間がワープロを使っている時代からコンピュータ教育を始めてるなど、時代が逗子開成の教育に追いついてきた感じです。

 神奈川に関しては、昨年に引き続き、神奈川県私学協会が共通追試を実施することを発表しています。コロナだけではなく、インフルエンザその他の理由でも追試の受験が可能ということで、万が一のときでも最後のチャレンジをすることができるという安心感は大きいと思います。

香蘭の立教大推薦枠拡大、横浜雙葉の2日午前入試

--東京、神奈川の女子校に関する動きはどのようなものがありますか。

 女子校の大きなニュースとしては、香蘭が2025年度大学入学生から立教大学への推薦枠を160名に増やしたという発表です。香蘭はもともと、キャンパスの充実や面倒見の良さから高い人気でしたが、推薦枠が増えたということでかなり注目を集めると思います。

 近年伸びてきた豊島岡は引き続き高い人気で横ばい、法政大学との連携が注目される三輪田学園は2023年度もっとも女子の受験者を集め、こちらも引き続き注目度は高いでしょう。自由な校風で都心にある山脇学園はいつ説明会に行っても行列ですし、2025年から入試問題の一部変更を発表している吉祥女子も、独自のポジションを築いています。また、渋谷にキャンパスを構え茶道や華道といった伝統文化を学ぶ機会がユニークな実践女子など、大学への推薦枠をもっていたり併設大学があったりと、女子校にはいろいろな選択肢があるのが魅力といえます。

 神奈川の女子の動きとしては、横浜雙葉が従来の入試日に加えて2日午前に2回目入試を導入します。そのことで、1日にフェリス、午後に横浜女学院、2日に横浜雙葉、3日は横浜共立を受けるという、山手にある4つの女子校を受験することが可能になりました。4校ともそれぞれに個性ある女子校ですので、併願パターンへの影響には注目が集まります。

 昨今人気を集めているのが湘南白百合です。1日の午後入試では、国語算数どちらか1科または2科での受験を選べるなど間口を広げています。男子校とコラボしたりSNSでさまざまな発信をしたり、保護者参加型の行事を増やしたりといった取組みも功を奏しており、多くの受験生を集めています。このほか、鎌倉女学院が合格発表日を当日に変更、横浜雙葉のように面接を廃止して筆記試験だけにする学校も増えています。

現4、5年生も今後の動きに注目を

--再来年以降の受験にも注目のニュースが控えていると聞いています。

 東京農大一高が、初等部の子が中学に上がる2025年度に合わせて完全中高一貫化し、2月1日の午前入試日を設けるという動きがあります。高校募集を停止するということは、東京農大の付属でありながら事実上進学校にシフトするということを意味します。また各分野で東京農大のバックアップアップを受けられるという利点は大きいですね。

 2025年は蒲田女子高校が羽田国際として共学化し中学募集を開始、翌2026年には日本学園が明治大学付属世田谷になります。現4年生が受験する2026年は、2月1日が日曜日という通称「サンデーショック*」にあたる年でもあるので、いろいろな動きがあるかと思いますので、気にかけておくと良いでしょう。 *東京都や神奈川県における私立中学校一般入試の開始日である2月1日が日曜日に重なった年に限り、一部のキリスト教系私立中学校が例年2月1日に実施する入学試験を別日に変更する。これに伴い、例年と併願受験のスケジュール等が変わり一部の受験生に影響が出る

思考力の根幹となるのは4科の基礎学力

--出題傾向についてお聞きします。教育指導要領が新しくなり、思考力を問われる問題と知識を問われる問題とのバランスに変化はあるのでしょうか。

 入試問題というのは、受験生の実力や資質を見たいという意図で作られているもの。学校側は、対策を完璧にやっている子ではなく、柔軟な発想で自分の力で問題を解けるような子を望んでいるのです。徹底的に復習する勉強も大事ですが、難しい問題を自分で考え最後まで諦めずに粘って答えを出していく力は、どの学校でも要求されます。

 傾向があるとするなら、中学入学後にその学校が求める学力観が非常に反映されている点です。レポートが多い、文字を書かせる課題が多い学校は入試においても記述問題が中心になりますし、逆にコツコツ努力できる生徒を求める学校であれば、短い試験時間でたくさんの問題数をこなすような出題が多くなります。

 毎年メディアなどでは時事的な問題や変わった問題が話題に挙がりますが、各学校の入試問題を見てそれだけが並んでいる学校というのはありません。机上の勉強だけではなく、ニュースで見たことや身の回りのことについて興味関心を持っているかという「受験生の幅広さ」を見るために、時事問題や地域性のある問題を出すこともありますが、やはり基本は算国理社4教科の勉強。基本的なことがきちんと身に付いているかどうかが重要なのです。

手続きなどの事務的なミスに注意

--受験直前期、親に必要な心構えについてアドバイスをお願いします。

 親御さんにとってこの時期一番大事なことは、とにかく親のミスで子供が受験できない・入学できないという事態をなくすことに尽きます。志望校に合格しながらも手続きを漏れてしまうケースが、毎年多くはないものの必ず耳にします。

 おすすめは、メモ帳でもスケジュール表でもいいのでやはり紙に書くこと。学校ごとに試験日や発表時間、手続き期限などを全部紙に書き出し、親子が目にする場所で共有しておくことが有効だと思います。

 近年はミライコンパスを使ったインターネット出願がほとんどですが、細かい部分は学校によってまちまちです。紙で学校に郵送をしなければならない学校、通知表のコピーや小学校の先生に調査書を書いてもらわなければならない学校など、Webで完結しない学校もたくさんあります。志願理由を書かせる学校もありますので、ネット出願だからどこも同じと考えずに、どんなことを入力する必要があるのか、事前に確認しておきましょう。

--直前期の過ごし方ついてアドバイスをお願いいたします。

 インフルエンザやコロナの流行期に差し掛かると思いますが、最後まで学校に行くのか休むのか、これはそれぞれのご家庭の判断です。学級閉鎖に近いくらい大流行しているなら無理して行かない方がいいともいえますし、学校に行って気分転換することでストレスを解消する子も少なくありません。学校の状況やお子さんの希望を聞きながら、負荷がないような形で過ごしていただければと思います。

 また、最後の最後は、あまり新しいものに手を出さないこと。一度やったことの復習を中心に、お子様の気持ちを盛り上げつつ、気持ちよく入試当日を迎えられるようにすることが、親にできる最大の支援だと思います。

--ありがとうございました。


 首都圏の受験生が過去最多となる中、必ずしも偏差値一辺倒ではなく、さまざまな私学の選択肢の中から我が子に合った学校を選びたいという保護者の意識の変化が人気校の傾向にも反映されていることが伺えた。日々の努力を重ねてきた子供たちが安心して受験本番を迎えられるように、サポートする親は最善を尽くしてほしい。

《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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