日本屈指のボーディングスクールとして名高い男子中等教育学校の海陽学園では、充実した学習カリキュラムと、寮生活での多様な経験を通して、生徒ひとりひとりの豊かな「人間力」と「学力」が育まれている。同校で得た学びは、卒業後にいかに生かされているのだろうか。
同校を2019年度に卒業し、就職を控えている大学4年生の古橋慧士さんと鈴木太喜さんに、海陽学園での生活や魅力、同校で学んだことが大学生活や就職活動でどのように役立ったかなどについて語っていただいた。
自分達で楽しみを作っていくハウス(寮)のイベント企画
--自己紹介と、海陽学園に入学したいと思ったきっかけを教えてください。
古橋さん:海陽学園9期生で東京大学文学部4年生の古橋です。海陽学園ではサッカー部でした。大学受験では文科三類を受けて首席入学しました。就職先はテレビ局です。
海陽学園に入学したきっかけは、小4くらいから中学受験をしようと考えていて、志望校を絞り込む6年生のころに、両親から海陽学園を強く勧められたことです。僕は名古屋出身なので海陽学園は知っていたのですが、学校見学に行って「綺麗な学校で楽しそうだな」と思いました。親元を離れることに不安もありましたが、受験、合格、入学とトントン拍子に進んで、いつの間にか入学していたという感じでした。
鈴木さん:同じく9期生で、慶應義塾大学法学部4年生の鈴木です。就職先はコンサルティング会社で、僕もサッカー部に所属していました。
僕は東京出身なので2月が中学受験本番だったのですが、本番前の12~1月に受けられる学校を探していたときに、海陽学園を知りました。小6の春でした。僕の両親はともに寮生活経験者で「寮生活も楽しいと思うよ」とアドバイスされて、「面白そうだな」と思ったのがきっかけです。学校見学にも行って、受けることを決めました。両親としては、寮生活をはじめとした学校生活を通じて、多くの人と関わり、勉強だけでなくいろいろなことを学んでほしいという期待があったと思います。
--6年間過ごした海陽学園のハウス(寮)生活で印象に残っていることを教えてください。
古橋さん:たくさんあります。大小さまざま、行事が非常に多いんです。ハウス内行事のほかに、ハウス対抗行事も2か月に1度はありました。当時はハウスが今のような学年ごとではなく(編集部注:現在のハウスは1年生、2~3年生、4~5年生、6年生と学年割)、中1~高2が同じ建物にいるハウスが複数ある形で、体育祭や文化祭もハウス対抗でした。たとえば文化祭の演劇では、どの演目をやるか、台本や小道具をどうするかなどもすべて生徒が決め、木材を買ってきて切るなどの制作も生徒だけでやっていたので、皆、真剣に取り組んでいました。
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鈴木さん:学校行事やハウス対抗行事はハウス生活の目玉ですね。ディベート大会などコミュニケーションや準備が必要な行事もしょっちゅうあって、部活が終わってからハウスで集まってよく練習をしていました。特に僕がいたハウスは行事熱が高く、「全行事でハウス1位をとろう!」というスタンスだったので、先輩からの指導も熱かったです。また先輩方は、小テストをわざわざ作ってくれてフィードバックしてくれたり、テストが終わったら鍋パーティーをしてくれたり、手厚く見てくれました。
古橋さん:寮にはスマホもないし、待っていても楽しいことが降ってくるわけでもない。「じゃあ自分たちで楽しい企画をしようよ」といった意識が自然と育まれます。とはいっても、何でも自由にできるわけではなく、ハウスごとに予算が決まっているので、基本的に皆が集まる企画はすべて企画書を作って、提出して、通していく必要がありました。中1のころからWordの企画書の書き方を先輩から教わって、作っていって。そうした取組みを全部生徒たちがやれるようにしてくれていたのが良かったです。
--生徒たちの自主性に任せられているのですね。ハウス生活で苦労したことはありますか。
鈴木さん:ハウス自治という制度があって、ハウス長を中心に、このイベントに向けて何をどのくらい練習しようとか、勉強を頑張っていこうといった方針を決めていくのですが、僕は高1のときにハウス長になったものの、高2の先輩も同じハウスにいたので、先輩方に注意しないといけない場面では、大変な立場でした。でも、年上の先輩と仲良くなり、学年を越えて友達になれたのはこうした環境ならではだと思います。
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あとは、苦手な人ともずっと一緒に生活しないといけないので、そういった意味での大変さはありますけれど、その経験は今に生きています。共通の話題をみつけて話すとか、周りの人に手伝ってもらうとか、対人的な対応力は相当培われました。
古橋さん:僕もたくさん話をしましたね。苦労したこともありますけれど、その分深い話をする機会がたくさんありました。夜更かしして友達と語り合うのもとても楽しくて、自分の本心を伝えたり、いろいろな人が本当に思っていることを聞くことができたりして非常に良かったですね。
多様な価値観をもつ社会人との触れあいが学びに
--海陽学園のハウスでは、さまざまな経歴をもった寮長であるハウスマスターや、フロアマスターとよばれる、大手企業から派遣された若手社員の人たちと一緒に生活しますよね。どのような存在でしたか。
鈴木さん:ハウスマスターはお父さん的な存在ですね。僕の場合は、ハウスマスターは6年間で通算3人、フロアマスターは毎年変わるので、多くの大人と接することができます。中1のときのハウスマスターは「勝負ごとにはこだわっていくべきだ」と熱く語ってくれました。僕はそれまで物事に全力で向き合ったことがなく、「ダメなものはダメ」くらいに思っていたのですが、「全力で取り組むとこんなに楽しい、悔しい、嬉しい」といったいろいろな感情を知ることができたのは、その人のおかげだと思います。
古橋さん:ハウスマスターは幅広い世界を経験している方なので、いろいろなお話を聞けました。高2のときのハウスマスターはアメリカの金融業界にいた方で、「アメリカで働いているときに取り組んでいた課題が、学生時代に解いた数学の問題と同じだと思うことがあった」という話が印象的でした。大人になって社会で働くことと、今やっている勉強のつながりを感じられて、普段知ることのできない社会の話を聞けたのが良かったと思っています。
鈴木さん:一方のフロアマスターは、年齢も近く相談がしやすかったですね。ハウス自治で行き詰まったときや、大学受験の相談をしたり、卒業後もプライベートで会ったりしています。高1のときのフロアマスターはサッカー好きで趣味が合い、一緒にサッカーをやったり、慶應出身の方だったので、受験勉強の話を聞いたりと楽しかったです。
古橋さん:フロアマスターとは学期ごとに面談があり、「今度文化祭があってこういった悩みがある」といった時期ごとの相談をしたり、将来のことを話したりしました。フロアマスターからも、大学生活や就活でどんなことをしてきたかなど、先の話を聞くことができました。中高生は目先のことに捉われがちですが、それだけではない、長期的な視点を教えてくれてありがたかったです。
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--フロアマスターが開催する課外授業もありますね。
鈴木さん:土日の朝などに、ハウス内で「ソサイエティ」という社会教養講座を開催してくれます。企画書のデザインや作り方といった実社会で役立つ講座もあれば、サッカーに関するソサイエティや、私服ファッションの選び方など、幅広い話を聞けたのは、すごくためになりました。
古橋さん:会社で働いている人も、話してみたら楽しくて、僕たちと同じ人間なんだなと親しみを感じました。リアルな生活を教えてくれるのがとても良かったです。
課外授業では企業訪問も印象に残っています。何十社もある中から好きな企業を選んで、場所によっては泊まりがけで行き研修に参加するのですが、大勢の方が丁寧に僕らに向き合ってくれて、大学生のインターンのようにプレゼンを聞いてくれたり、グループワークをしてくれたり、真剣にフィードバックもしてくれたので、社会を肌で感じて、高校生なりに将来のことを考えるきっかけになりました。
塾ナシで高い学力が付く学習カリキュラム
--大学受験対策など、勉強面はいかがでしたか。
古橋さん:僕は特別給費生でしたが、成績順では下の方だったので、成績を上げようと中1のときから学校の勉強をしっかりやっていました。そうしたら成績が非常に良くなり、先生が東大受験を勧めてくれました。特別なことはせずに、授業をしっかり受けて、ハウスで毎日2時間の夜間学習の時間に勉強をしただけでした。きちんと取り組めば東大にも合格できるという学習カリキュラムになっていると思います。受験勉強では予備校の衛星授業をとっている人もいますが、ごく少数で、皆ほぼ学校の勉強で対応できています。
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鈴木さん:僕は中2まで成績が悪く、担任の先生に相談したところ「授業を真面目に聞いたら成績が上がる」と言われたので、しっかり授業を聞いて、夜間学習の時間にしっかり取り組むようにしたら成績が大きく上がりました。そこからずっと学習習慣を崩さず、やり続けたところ、良い成績をキープできたので、先生から「指定校推薦入試を使うのはどうか」と勧められ、指定校推薦入試で慶應義塾に合格することができました。日々の授業と夜間学習の2時間をしっかり取り組めば評定も取りやすいと思います。
過不足なく伝える力や段取り力が大学でも生きる
--では、大学に入ってからは海陽学園で学んだことがどう役に立ちましたか。
古橋さん:大学でお笑いサークルに入っているのですが、これは海陽学園での経験がもとになっています。海陽学園で毎年3月にフロアマスターのお別れ会をするのですが、漫才など自分が作った企画をみんなが喜んでくれるのが楽しくて、もっとやりたいと思ったんですね。それが今のテレビ局への就職にもつながっています。
ただ、そのときに「独りよがりではみんな楽しんでくれない」「相手に過不足なく伝えることが重要」ということを学びました。海陽学園でも皆で活動しようとしたときに、誰が悪いわけでもなく、ディスコミュニケーションで嫌な雰囲気になってしまうことがあり、それを解消するために意思疎通をはかるようにしていました。就職面接のときに伝えたいことを伝えることができたのは、ハウス生活でコミュニケーション力が鍛えられていたおかげです。大学に入学したときも、高校よりもさらに幅広い多様な人がいましたが、中高で鍛えた力ですぐに対応できたと思います。
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鈴木さん:対人関係では「いろいろな人がいる」という前提が叩きこまれたと思います。大学のサークルでは「なんでそう考えるのか」「もっとこう動いてよ」と文句の言い合いになることが結構あるものの、僕は海陽学園での経験から、いろいろな人がいてさまざまな意見があるのは当たり前だと知っている。そのおかげで、「ではどうするかを話し合おう」と、自然にリーダーシップをとることがよくありました。
また、そういうときに海陽学園でたくさんのイベントを運営してきたことも役に立っています。企画書を作成して、準備をして、運営して、という経験を何度も繰り返しているので、段取りがわかる。サークルのイベント企画や飲み会、旅行などみんなで何かしようというときに、頼られることがよくあります。さらに、ゼミでの発表のときも、フロアマスターに教わった資料の作り方が本当に役立ちました。
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--社会で実践できるさまざまな力を身に付けられたのですね。最後に、海陽学園に興味がある小学生や保護者にメッセージをお願いします。
古橋さん:親元を離れるのが不安だったり、寮でひとりでやっていけるのかと不安に思ったりすることもあると思いますが、心配いりません。学校側のサポートもありますし、同級生や先輩の協力もありますので、恐れずに入ってほしいと思います。「特殊な環境だから世間ずれしてしまうのでは」という心配もあるかもしれませんが、まったくそんなことはなく、むしろそのような環境だからこそ、しっかりとした大人になれるのではないかと思います。
鈴木さん:小学生には、なかなか経験できない環境なので、そこに少しでもワクワクを感じたら、入学をお勧めしたいです。そのワクワクは多分正しいと思います。
保護者の方は、お子さんと離れるのは寂しいし心配だと思うのですが、本当にいろいろな経験ができて、6年経った後には立派な大人になるので、そこは安心していただいて良いと思います。実際に自分たちは入学してみて、本当に海陽学園で良かったと思っているんです。
古橋さん:僕も心から海陽学園に入って良かったと思っています。
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--ありがとうございました。
学校の勉強にしっかり取り組むことで大学受験までカバーできるが学習カリキュラム。ハウス生活の中で自然と身に付く段取り力と実行力、対人対応力。楽しいことは自ら作っていこうとする主体性、多様な人がいることを前提として意見をまとめあげるリーダーシップ。海陽学園では、学校と寮生活の両輪で、そうした高い学力と総合的な人間力が育まれるということが浮かび上がったインタビューだった。何より、2人が、中学高校生活を非常に楽しかったと振り返ったことが印象的だった。「可愛い子には旅をさせよ」のことわざどおり、6年間の寮生活で子供の豊かな成長を見込める海陽学園を、進学先として検討してみてはいかがだろうか。
全寮制のもとで、人格、教養、学力を育成する海陽学園 海陽中等教育学校2024年度入試出願受付
2023年11月27日開始