駿台予備学校はカルペ・ディエムと連携し、2024年2月から東大受験対策のコラボプロジェクト「東大特化学習支援」をスタートする。東大受験で「逆転合格」を狙いたい受験生をサポートしていく。
カルぺ・ディエムは、経済格差・情報格差・地域格差などを乗り越え、逆転合格を経験した東大生を駿台に派遣し、受験生の学習やメンタル面での支援を通じて、東大への逆転合格の実現を目指す。
企画の背景や概要について、駿台予備学校お茶の水校3号館(東大専門校舎)校舎責任者の小粥圭悟氏、カルペ・ディエム代表の現役東大生 西岡壱誠氏に話を聞いた。
【プロフィール:西岡壱誠】カルペ・ディエム代表取締役社長。東京大学経済学部4年生。偏差値35の学年ビリから、2浪で自分の勉強法を一から見直し、どうすれば成績が上がるのかを徹底的に考え抜いた結果、東大に合格。著書『東大読書』シリーズは累計40万部のベストセラーに。漫画『ドラゴン桜2』の編集やドラマ日曜劇場『ドラゴン桜』の脚本監修 を担当。MBS「100%!アピールちゃん」「月曜の蛙、大海を知る」にてタレントの小倉優子さんの受験をサポート。
どこからでも東大を目指せる「発射台」をつくる
--今回のコラボプロジェクト「東大特化学習支援」の概要を教えてください。
小粥氏:東大を目指す既卒生コースのオプションとして提供します。駿台のお茶の水校3号館といえば東大専門校舎として知られており、首都圏の進学校、地方のトップ校をはじめとした難関高校出身の優秀な高卒生が集まっています。
3号館に通い、3号館の教材を使って3号館の授業を受ければ東大に受かる。駿台のお茶の水校3号館というのは、今の保護者が大学受験生だった時代、またはそれ以前から、東大受験を象徴する校舎として存在してきたと言っても良いでしょう。
けれどもその一方で、高校時代、学校行事や部活動に熱中して学業をおろそかにして成績を落としてしまった学生をもっと手厚くサポートしたい、また東大を目指したいと思ったが目指せる環境におらずチャレンジを断念した学生に東大合格を諦めてほしくないという思いをずっともち続けていたのです。
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--東大を目指す上で、3号館の「東大コース」に入るだけでは十分ではない、ということでしょうか。
小粥氏:いいえ、一年間東大を目指して頑張ってきたが、残念ながら今年不合格という状況であれば、3号館の「志望別東大コース」で十分合格が狙えます。東大は一昨年まで合格発表の後すぐ、不合格者には合格まであとどれくらい足りなかったのか、どのような順位だったかについて、AからEまでの判定で評価をしていました(昨年からは4月上旬に変更)。そこであと数点という結果であれば演習を中心に行う「EX東大演習コース」、まだ少し合格までの距離があるということならば基礎からじっくり行う「志望別東大コース」と状況にあったカリキュラムを用意しています。
ただ、現役時代はあまり勉強をしていない、これから東大を目指したいという学生もいます。もちろんこうした状況でも、本人の努力で合格を勝ち取ってきた学生はいますが、「授業についていけない」「予習・復習が間に合わない」など学習の仕方やスケジュールの立て方があまく、離脱してしまう学生がいるのも事実です。
残念なことに、3号館はこれまでそのような基盤づくりに特化したサポートが十分ではありませんでした。そこで、実際に浪人し、逆転合格を果たした経験のある現役東大生に、こうした受験生へのサポートをしてもらい、東大合格へと伴走してもらえたら心強いと思い、カルペ・ディエムに協力を仰いだのです。
西岡氏:今、小粥さんがおっしゃったように、ひと口に「東大志望者」と言ってもさまざまな層があります。僕自身は高校時代に偏差値35からスタートし、現役の東大受験では不合格Eランクでしたが、2浪して合格できました。
『ドラゴン桜』という漫画がありますが、僕のように、偏差値がまったく足りなかったところから逆転して受かった東大生、東大を目指す人が全然いない・東大合格がまったく当たり前でなかった地域や学校から努力して受かった東大生など、漫画の中で描かれているストーリーは、決してフィクションではなく、毎年リアルに起きていることなのです。
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実際に僕らは、そうした「リアルドラゴン桜」な東大生たちを集めて、全国の中高生たちへ「学ぶことで選択肢を広げる楽しさ」や「失敗を恐れずに挑戦して、自分の世界を広げることの大切さ」といったメッセージを伝え続けています。
高校時代は、学校の進度が遅いなど自分ではコントロールできない状況もあり、理不尽な思いを抱いたまま、現役で合格した大学に進学する人も多いでしょう。しかし、浪人すれば、高校時代に比べて自由に使える時間がたっぷりあります。浪人時代の時間を有効活用することで、ジャンプアップして東大に合格できる可能性は十分あるのです。
「東大を目指すなら今がチャンス」の理由
--来年度からは、大学入学共通テストに情報科目が加わるなど、入試が新課程に変わることもあり、浪人を避けようとする動きもあるようです。それでも東大にチャレンジしてみるべき、ということですね。
西岡氏:そのとおりです。新課程に変わるといっても現役生と同じスタートラインですし、深刻に捉える必要はありません。それよりも、東大の定員は親世代が受験生だった30年前とさほど変わっていないのに、少子化で受験人口は減っていることをチャンスだと捉えてほしい。東大の門戸はかつてないほどに広く、入りやすくなっているのです。だからこそ僕は、浪人して夢を掴む人がもっと出てきても良いと思っています。
東大を目指すために最適な勉強法やスケジュールの立て方、メンタルの保ち方といった部分は、浪人経験のある現役東大生が全面的にサポートするので、「逆転合格を目指し、一緒に夢を見ませんか」というのが、本プロジェクトのコンセプトです。
小粥氏:駿台でも、多くの学生を東大に送り出してきた講師やクラス担任が受験指導を行っていますが、学生自身が我々のアドバイスに納得感をもてない限り、夢物語で終わってしまいます。その点、西岡さんたちのように、実際に浪人を経験している現役の東大生は、学生のロールモデルになりうるので、アドバイスには説得力がありますし、私たちとしても、学生をサポートする立場が多様になるのはすごくありがたいことです。
東大合格への最大の武器は「メンタル」
--駿台のような東大合格者を数多く輩出してきた大手予備校がこのようなプロジェクトをすると聞いた時、西岡さんは率直にどう思いましたか。
西岡氏:正直、驚きました。というのも、大手の予備校といえば、「いかに優秀な学生を集めて、上位層を合格させるか」に注力しているイメージがあったからです。そのような中で、東大に行きたいと思えば誰でも目指せる道をつくろうとされていること。スタート時点はどうであれ、正しく努力すれば東大レベルまでジャンプアップできるはずだという信念をおもちであることが、素直に嬉しかったですね。
--カルペ・ディエムは具体的にどのようなサポートを行うのでしょうか。
西岡氏:浪人経験のある僕ら東大生がメンターとして、さまざまなテーマで自らの体験を学生さんたちに共有しながら、人生の糧となるような充実した浪人生活をサポートしたいと考えています。
具体的には、一緒に東大の入試問題を解いたり、ゲーム、探究型の学び、グループワークなどを通じて浪人生同士も交流できる場を提供したりしながら、学ぶことの楽しさややりがい、高い目標に向かって挑戦する高揚感などを感じてもらえたらと思っています。
--浪人生というと、あえて友達をつくらず、孤高を貫くようなイメージを抱くのですが、浪人生同士も交流するのですね。
西岡氏:「浪人生は毎日ひたすら勉強だけするべきだ」と思われがちですが、浪人生には浪人生なりの最適な勉強リズムがあります。「浪人中は友達を作らない」というのもひとつの選択だと思いますが、1日中誰とも話さずに勉強だけするのは辛いものです。それに、友達がいないと、授業を欠席しても気にかけてくれる人がいないので、「別に行かなくてもいいや」となってしまう傾向も見受けられます。ですから、同じ目標をもつ仲間と一緒にリフレッシュする時間も大切だと思うのです。
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--東大受験で逆転合格を狙うのは、それだけハードルが高いということ。だからこそ、そのハードルを超えた経験のあるメンターや同じ目標をもつ仲間の存在が、挫けず挑戦を続けさせてくれるということですね。
西岡氏:おっしゃるとおりです。東大は、大学入学共通テストでもある程度高得点が取れなくてはいけない上に、2次試験も総合力が勝負だとか、苦手科目をつくってはいけないなどと言われ、どうしても高いハードルに見えてしまうのです。だから、ちょっとでもついていけないなと感じると、「とても自分には東大なんて無理だ」という気持ちになって挫折してしまう人が少なくないのですが、それは本当にもったいないな、と。ちゃんと説明を受けて演習を積めば、ぐっと伸びることもあるのに、その前に落ちこぼれてしまうのは、メンタルの問題が大きいと感じます。
「自分にできるはずがない」という思いに支配されたり、なぜか勉強が手につかなかったりするのは、心の問題だと伝えてあげたいですね。気分が落ち込んでいくと、それが点数に反映されることもあるほど、受験で必要な思考力や発想力を発揮するには心の余裕が大事ですから。
誰にだって心が折れる時があること。そして、心が折れた時はどうしたら良いかということも、もっと伝えていきたいです。
東大合格者に共通する「学習への向き合い方」
--正しくしっかり対策をすれば、誰にだって東大合格のチャンスはあるということですが、東大合格者に共通する「学習への向き合い方」はありますか?
小粥氏:学校の先生や予備校の講師に言われたことを素直に、そして着実に実行すること。それに尽きるのではないでしょうか。授業で先生が、「今はこれが必要」と教えてくれているのに、内職して聞かないのはもったいないですよね。大学合格に必要な情報を提供してもらっているのに、自分勝手に何が重要で何が不要かと判断するのではなく、受験のプロフェッショナルや経験者の助言を素直に聞く方が、要領が良いのは明らかです。
最近では、予備校で講師や担任から受けるアドバイスよりも、インターネット上の情報の方が正しいのではないかと思っている人もいるようです。批判的な思考力は大事ですが、もし講師や担任の言葉に納得できないなら、納得するまで「なぜですか」と問いかけてほしい。納得するまでしっかりと聞き、腹落ちできるかどうか。これは勉強と同様です。
西岡氏:僕は主体性だと思います。主体性とは、責任を伴う自主性。つまり、「相手が言うことを信じて自分は従う。結果はどうであれ、信じた自分の責任だ」という意識をもってプロの助言を受け入れ、実行すること。この姿勢が東大合格者に共通するものであり、学びに向かう原動力になっていくのです。
小粥氏:ですから、このプロジェクトにも主体性をもって参加して欲しいですね。あくまでもオプションなので、付けるか付けないかは自分の選択です。自分で「参加する」と決めて、種を蒔くのが主体性。それを太い幹にしていくのが、私たち予備校の役目です。そこに西岡さんたち現役東大生の力を借りて、より太い幹をつくっていく。その太い幹から、さまざまな学びを通じて枝葉が力強く広がり、春には満開の桜を咲かせる…このプロジェクトにはそんな期待をもっています。
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東大を目指す価値とは
--なぜ、そこまでして東大を目指す価値があるのか。東大だからこその魅力とは何でしょうか。
西岡氏:「現役東大生」という肩書きがあると、ゼミやサークル活動などを通じて、社会で活躍している経営者、オリンピック選手、政治家など、さまざまな人に出会えるチャンスがとても多いと感じます。さらに、「東大に行くメリットは卒業したらわかる」ともよく言われるのは、社会から信用されたり、東大ならではの人脈を生かしたりできる場がたくさんあるからでしょう。東大に行っておいてまったく損はないし、むしろ、どうして東大を目指さないのか不思議です。
小粥氏:志望校が定まらないなら、まずは東大を目指しておけば、その後どの大学でも狙えますからね。結果的に東大に行かなくても、「東大を目指しておいてよかった」と思ってもらえるはずです。
最近は、調べればすぐに情報が得られる時代の弊害もあるなと感じることがあります。ほんの少し調べただけでわかった気になり、「東大行ったってたいしたことはない」「無理しなくてもいいや」と最初から選択肢を狭めてしまう人も多くいます。東大に限らず、「無理しなくても、今のままでいいや」で終わらず、納得して「ここに行きたい」「これをやり遂げたい」と思える若者が増えれば、社会ももっと良くなるのではないでしょうか。
高い目標を掲げ、そこに向かって努力する過程で得られるのは、学力だけではありません。感情のコントロールを含めた自己管理能力や、やり抜く力、逆境や困難を乗り越えるレジリエンスのような力は、将来どんな道に進んでも生かせる武器になるはずです。
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西岡氏:シンプルに憧れだけでも良いと思うのです。僕自身は、自分の人生に誇りが欲しかった。東大に行けば日本のトップだと認めてもらえるだろうと思い、2浪をしてでも東大にこだわりました。国際競争力が落ちたといった批判もありますが、2024年の世界大学ランキングでは29位。まだまだ世界トップレベルです。
東大入試というと、難問・奇問が出題されるイメージをもたれがちですが、東大の入試ほど、全国どこで学んでも解けるように、検定教科書の内容を踏まえて忠実につくられている問題はありません。世界トップレベルの大学に、しかも学費の安い国立大学に、努力すれば手が届く可能性があるのです。
--東大そのものの価値をあらためて見直すと同時に、東大という高みを目指すプロセスも人間としての大きな成長につながりますね。
小粥氏:受験生だけではなく、保護者の方にもそこに価値を見出していただきたいですね。昔は大学受験ともなれば、どんな予備校に通い、どの大学を受けてどこに進学するかといったことはすべて受験生本人が決めていたものです。しかし今は、保護者が決定権をもっているようなケースが増えているように感じます。仮に本人が「浪人して東大を目指したい」という気持ちがあっても、保護者から合格した大学への進学を勧められたら、素直にそれに従ってしまうのは、もったいないな、と。
西岡氏:もう1年がんばって東大を目指せば合格できるのに、なぜセカンド・チャンスを狙わないのでしょうか。もちろん経済的な問題を含めた事情はあると思いますが、お子さんが再チャレンジを望んでいるのなら、保護者の方にはぜひその思いを汲み取ってあげていただきたいと思います。
東大のような一般入試は、数字で結果が出るフェアな世界です。居住地が地方でも首都圏でも、偏差値が高くても低くても、たとえ高校時代は不登校でも関係ない。ぜひ、駿台とのタッグで、「逆転合格」が当たり前だと思う世界をつくっていきたいです。
小粥氏:本プロジェクトを通じて、主体的に大学を選ぶ学生が増えると嬉しいですね。学生さんたちの未来の可能性を広げていきましょう。
予備校が外部機関と連携して学生をサポートする取り組みは珍しいのではないか。お二人の対話からは、チャレンジする前に諦める受験生が多いことへの歯痒さ、この現状を打破したいという熱い思い、そして、これから出会う受験生の可能性が花開くことへの期待感が伝わってきた。プロジェクトの成果が楽しみだ。
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