【中学受験2025】少子化加速&AI台頭の時代に「あえて私学」を選ぶワケ…四谷大塚

 四谷大塚 情報本部本部長 岩崎隆義氏に、志望校選びのポイントについて、さらに「天王山」とも称される夏休みをどう過ごすか、子供たちをどのようにサポートするべきか、親の心構えを聞いた。

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四谷大塚 情報本部本部長 岩崎隆義氏
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 首都圏の中学受験率が過去最高となった2024年度の傾向を踏まえ、2025年度はどのような中学受験となるか。「世の中とともに、私学の教育も保護者の学校選びの視点も変化してかなければいけない」と四谷大塚 情報本部本部長 岩崎隆義氏は指摘する。

 志望校選びのポイントについてお聞かせいただくとともに、「天王山」とも称される夏の期間を受験生はどのように過ごすべきなのか、また、どのような視点で子供たちをサポートするべきなのか、親の心構えを聞いた。

2024年は過去最高の受験率を更新

--まず、昨年度(2024年度)の中学受験についての概況を教えてください。

 コロナ禍で私立と公立の対応格差が浮き彫りになったことで私学志向が高まり、2020年以降受験率は上昇しています。2024年度、現中1の小6時点の児童数は28万9,291人と前年度より5,300人ほど減少していましたが、受験者数は5万4,700人と横ばい。中学受験率は18.9%と過去最高を連続で更新しました。文京区や千代田区、港区といった50%を超えるエリアもあるなど、23区を中心に受験率を引き上げています。私の予想では、いずれ全体で20%まで到達するのではないかと思っています。

資料提供:四谷大塚

--少子化にも関わらず、都市部の中学受験が過熱化している背景についてどうお考えでしょうか。

 厚生労働省による「人口動態統計」では、2023年度の1~12月までの出生数は約75万8,000人。ただしこれは外国人を含む速報値です。2024年6月5日に出生数の確定値が出たのですが、その数が約72万7,000人。速報値と確定値で約3万人の差があります。

 この3万人は、日本で産まれた外国籍の子供の数です。アメリカやインド、中国といった海外からやってきたIT系の技術職の方々のお子さんが日本で、特に東京で生まれているのです。彼らは総じて高収入で、日本で生まれ育った彼らの子らは、日本語はもちろん両親の母国語や英語も話せる。バイリンガル、トリリンガルといったそうした子たちがどこに進学していくかというと、私学一択です。

 実際、私学の先生方にこの話をすると、みなさんが一様にうなずかれます。韓国や中国系は当然として、インドやアジア、アフリカをルーツに持つお子さんなど、外国籍の生徒がどの学年にも増えているとおっしゃいます。

四谷大塚 情報本部本部長 岩崎隆義氏

6年後の小1は現在よりも20%少ない

--中学受験率アップの背景には、都心部に外国籍の子供が増えているという指摘は納得です。一方で先日、最新の合計特殊出生率が発表になりましたが1.20と過去最少、東京は1を割り込み0.99となったことが話題になっています。

 文部科学省が2023年12月に発表した「学校基本調査報告書」によると、2023年の小学1年生の児童数は96万2,507人です。ですが、2023年に生まれた子たちが1年生になる6年後の2029年には、2023年と比較すると20%も減ってしまうことになります。

 これまでは毎年1~2%の減少で、6年間で10%の減少幅で推移していた少子化が、コロナ過を機に急激に加速した結果といえるでしょう。私は「人口動態統計」を見るとき、出生率と同時に婚姻数も気にかけているのですが、2024年はついに50万組を割り込んでしまいました。今後、数年のあいだに、劇的に子供が減っていくのは間違いないと考えています。

資料提供:四谷大塚

--そのような少子化が進む世の中で2024年の中学受験を振り返ったとき、どのようなことを感じましたか。

 社会では富裕層・貧困層の二極化が進み、世の中は親世代が子供だった頃とがらりと様相が変わっています。今や、いわゆる「良い大学」を出たからといって、順調にそれが収入に結びつくわけではありません。ChatGPTの性能が1年足らずで飛躍的に向上したことが好例で、AIによって世界の開発スピードは目まぐるしい勢いで加速しており、AIと共存できる企業が株価を動かし、世界を動かしているといっても過言ではありません。そうした世の中の変化のスピードに対して、感度良くキャッチし考えている学校とそうではない学校の、どちらでお子さんに6年間を過ごしてほしいかを問えば、自明ではないでしょうか。

 お子さんが親の思い通りに育つかどうかわからないとはいえ、私立に入れることで少なくとも6年間の教育環境を担保できるという安心感はあるのではないでしょうか。不透明な未来を前に、教育はどうしなければならないのかという課題感をもって頑張っているところは私学が多い。そう考えたときに、相対的に私学の中高一貫教育にアドバンテージがあると思います。

--先の見えない時代において、子供が「自ら考え、学ぶ力」を育むことが必要だとも指摘されています。

 先のわからないこれからの世の中は、自分で問題意識を持ち、調べて考えることのできる子が強い。私学に子供を預けるということは、そうした世の中で生き抜いていくための力、すなわち「主体的に学ぶ姿勢」を育成してくれることを求めているからではないでしょうか。生徒自身が自ら求めて学びに向かえるような仕掛けができる学校と、そうではない学校とでは、今後ますます人気がわかれてくると考えています。

 また、私学には「こういう生徒を育てたい」という、建学の精神や教育理念が明確にあります。ただ、それを今の時代に捉え直したうえで、創設者たちが目指した人物像を目の前にいる生徒たちにどう還元しようか教職員が一丸となって考えている学校と、そうではない学校にわかれていると思います。人間としての成長を標榜する前者のような学校にこそ、後から大学進学実績がついてくるのではないかと感じています。

学校選びの価値観も多様化

--これだけのスピードで世界が変わり続けている中、保護者が学校を見る観点も変化してきているのではないでしょうか。2025年度受験生の志望動向について、現段階で志望校として人気の高い学校について教えてください。

 4月に行われた第1回合不合判定模試における、第一志望校の順位をみてみましょう。

 男子は1位から、開成、早稲田、早稲田実業、慶應普通部、早大学院、海城、本郷、浅野、桐朋と並びました。昨年の同時期の志望者数と比較すると、麻布が外れ、昨年同時期の模試では17位だった桐朋が10位にランクインしています。桐朋は、今年3月の卒業式での答辞が素晴らしいと話題になったことが記憶に新しく、これが志望校選びにも影響したのかもしれません。

資料提供:四谷大塚

 女子の人気順位では1位から女子学院、吉祥女子、青山学院、豊島岡、鴎友、香蘭、早稲田実業、雙葉、中央大付属、桜蔭となっています。目立った変動としては、立教大学への推薦枠を増やした香蘭の人気が高くなっていることですね。トップ10外ですが、今年初めて東大合格者数が30名を越えた市川も女子では20位から15位にアップしているほか、芝浦工大、共立女子、山脇や富士見といった、偏差値50前後の学校も25位以内にランクインしています。

資料提供:四谷大塚

 ここで注目すべきは、必ずしも偏差値の高い順になっていないことです。一昔前だったら、偏差値45も50の子も、より高い偏差値の学校を目指すのが中学受験という世界でしたが、今の時代はそうではありません。偏差値や難関大合格実績という数値で測れない「6年一貫教育の優位性」に価値を見出し、学校を選ぶ保護者が多くなってきたことがわかります。

--「偏差値40には40の、50には50の志望校選びがある」とおっしゃいます。その子の偏差値帯の中で学校選びをしようと思ったときに、どういう観点で学校を見ると良いでしょうか。

 先ほどの、なぜ私学を目指すのかという答えにも繋がるのですが、「人生100年時代、中高の6年間で身に付けた原体験がこれからの人生で生きてくる」というのが私の持論です。

 たとえば、富士見では、生徒たちは裸足で田んぼに入って米作を学びます。鴎友では園芸という授業のなかで、生徒ひとりひとりが土にまみれて畑で野菜を育てます。コロナ禍以後、海外研修を再開している学校は多いですが、アメリカやオーストラリアなどの英語圏だけでなく、アジアや中東諸国に生徒を連れて行く学校、あえてマイノリティとしての日本人を体感させに行く学校もあります。さまざまな取組みのなかから、どんな生徒に育ってほしいかという学校のメッセージが読み取れるはずです。

 実際にその場に身を置いて、体験してこそ得られる「原体験」をすることこそに価値があるのではないかと思うのです。実際に入学してみないとわからない部分もあるのですが、その学校にはどんな体験プログラムや行事があるのか、説明会などでぜひ気に留めてほしいと思っています。

--多感な時期にこそ、子供が体験から何かを学び取れる土壌がその学校にあるかどうかということですね。では、注目している学校を教えてください。

 私が注目しているのは、先ほども触れた、山種グループをバックボーンにもつ富士見です。創業者の理念を継ぐべく、第一産業である米作りを盛り込んだ探究的な学び、時代を見据えた金融教育、山種美術館に所蔵する400点もの美術作品を活用した芸術教育を取り入れていくと、先日お会いした新校長の善本先生がおっしゃっていました。これからに期待をしています。

 武蔵野市にある聖徳学園は、2024年から高校課程においてデータサイエンスコースを新設し、注目を集めています。また、東京成徳大学付属では、教職員全員がAppleティーチャーの資格を有し、iPadやMacなどのテクノロジーを活用した効果の高い教育を行う学校として、日本国内に10校しかない「Apple Distinguished School」に認定されています。こうしたIT技術やデータサイエンスの素養を身に付けた人材育成の目標を提示している私学の取組みに、大いに期待しています。

 また、2025年4月より千代田国際中学・武蔵野大学附属千代田高等学院が、学校名を千代田中学校・高等学校に変更することが発表されました。広尾学園で医進・サイエンスコースを立ち上げた木村健太氏が新校長として就任したことも相まって、どういう教育を展開していくのか今後に注目しています。

「行きたい」気持ちが子供を勉強に向かわせる

--小学6年生は「天王山」の夏を迎えます。受験生を支える保護者はこの時期、どのようなところに気を付けて我が子をサポートするのが良いでしょうか。

 志望校の偏差値までの乖離がどれくらいであろうが、「やらされている」勉強のままではいけません。この夏休みを有意義に過ごすためには、「なぜこの学校を目指したいのか」という、気持ちの部分を親子で再確認してください。肝心なのは親が描いた第一志望ではなく、当事者である子供が行きたい学校です。この学校のユニフォームを着て野球がしたい、セーラー服が着たい、なんでも良いんです。小学6年生が頑張るためには、その内発的動機が絶対に必要なのです。

 親御さんは「夏に頑張って成績が上がったら通える学校の選択肢も増えるよ」と考えがちですが、行きたい学校があるから大変な勉強も頑張れるのです。なかなかそういう学校が見つからないとしても、「御三家に行きたい」といった方向性や、「お医者さんになりたいから理系のある学校に行きたい」といった淡い夢でも良いんです。親御さんは決してお子さんのことを否定せず、気持ち良く勉強に向かわせてください。

--やる気満々で夏期講習に通う子、やっとの思いで塾に足を運ぶ子。いろいろなタイプがいると思います。どのような声がけが有効でしょうか。

 これは保護者会でも繰り返しお伝えしているのですが、家庭のなかで否定語を使わないことです。否定語というのは、「できない」「疲れた」「無理」「もうやめる」といったネガティブな言葉。お子さんはもちろん、お父さんお母さんも禁止です。

 考えてみてください。社会に置き換えたときに、どういうリーダーの周りに人が集まるかというと、やはり明るく前向きで元気な人のところではないでしょうか。そういう人のいるチームは、自ずと雰囲気もパフォーマンスも良くなりますよね。家庭内も同じだと思ってください。

--受験生と保護者に、この夏を乗り切るためのメッセージをお願いいたします。

 我が子がどうしたら自走するかを考えてみてください。良い学校に行っておいた方があなたの人生が豊かになるとか生涯賃金が高いのよ、なんて言っても子供には響きません。「あの学校に入りたい」という、我が子のハートにどうやったら火をつけられるか、です。

 結局のところ、中学受験の勉強は自分との闘いです。周りの誰かと比べるのではなく、昨日の自分と勝負して勝つか勝たないかなのです。自分で自分が誇れるか、格好良いと思えるかどうかだということを、頑張る小6に伝えたいと思います。

--ありがとうございました。


 「中高一貫校の優位性というのは難関大への合格実績や目先の6年間だけではありません。卒業して社会に出て、大人になったときに、自分の人生における要所要所で中高での“原体験”がきっと生きてくる。そんな6年間を過ごせる学校に出会えたら良いですね」と岩崎先生。憧れの学校に通う自分の姿を心に描いて、小6生はどうかこの夏を乗り切ってほしい。

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《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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