大学入試において、総合型選抜と学校推薦型選抜の存在感が年々高まっている。進学者に占める割合は5割を超え、探究学習の必修化も追い風となって、今後はさらに増加が見込まれている。
こうした中、特に総合型選抜は多くの保護者には経験がないため、子供の進学準備をどうサポートすれば良いか悩ましいところだろう。そこで今回は、総合型選抜の最新情報および必勝法について、総合型選抜対策塾のフロントランナーである早稲田塾の執行役員 中川敏和氏に話を聞いた。

総合型・学校推薦型選抜…最新の動向は?
--総合型選抜および学校推薦型選抜の、いわゆる「年内入試」に力を入れる大学が増えています。昨年度の国公立大学、私立大学ではそれぞれどのような傾向が見られたのか、最新の動向からお聞かせください。
2025年度入試の最新データはまだ出ていませんが、2024年度入試では、国公立・私立すべての大学の入学者のうち、半数以上の51.8%が総合型・学校推薦型選抜受験者でした。私立大学に限って見れば、入学者全体に占める総合型・学校推薦型選抜の割合は59.3%と、約6割にものぼります。
2022年度からは新しい学習指導要領のもと、「総合的な探究の時間」が高校でも必修化されました。この探究学習で培われる思考力、リサーチ力や表現力、そして主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度などは、まさしく総合型・学校推薦型選抜に直結し、合格のための素地になります。
東北大学は「2050年までにすべての入試を総合型選抜に移行する」という方針を掲げていますが、こうした動きからは、総合型選抜によって入学した学生たちが、大学入学後に一層の研鑽を積み、卓越した成果をもたらしているからこその期待が読み取れます。
今後も国公立・私立を問わず、総合型選抜・学校推薦型選抜拡大の流れは続くでしょう。
--総合型・学校推薦型選抜の志願者が増えている背景には、どのような要因があるとお考えですか。
志願者が増えている背景としては、おもに2つの要因があると考えられます。
1つは、認知度が高まっていることです。メディアやSNSによる情報発信が活発になっていることに加え、これらの選抜方式で合格・進学した先輩が身近に増えてきたことで、高校生の関心が高まっています。さらに、こうした選抜方式で生徒が進学した経験のある先生も増え、高校での進路指導で選択肢として勧めるケースが一般的になりつつあります。
もう1つは、心理的ハードルが下がってきていることです。探究学習が必修化され、学校で自分の興味・関心を深める機会が増えています。その結果、志望理由書の作成や面接対策も以前より取り組みやすくなっていると感じます。また、一般選抜でも探究型の問題が増えてきており、総合型・学校推薦型選抜との親和性が高くなっています。
早稲田塾でも生徒の数は増加傾向にあり、多くの高校生や保護者が関心を高めていることを実感しています。一方で、志願者が増えている分、以前に比べて合格のハードルが高くなってきているのも実情です。
--総合型選抜は、顕著な実績がないと合格できないイメージがあるのですが、実態はどうなのでしょうか。
確かに、総合型選抜では高校時代での学業や活動の成果が問われることが多く、特に難関大学においては、いわゆる「トロフィー」を獲得した人が合格できるといったイメージをもたれがちです。ところが今は、大学側の姿勢が変わりつつあります。
注目すべき一例は、慶應義塾大学理工学部です。
2024年度のAO入試募集要項には、「入学の許可を得るためには、一定水準以上の学業成績をおさめていることに加えて、科学技術系のコンテストや課外活動などにおいて、世界的・全国的なレベルで高い評価を得ていることが重視されます」と明記されていました。ところが2025年度には、「高等学校在学時に勉学・課外活動などで研鑽を積みつつ、理工学部に入学後、他の学生の範となることが強く期待される者に入学を許可します」という表現に変わっています。出願資格も、2024年度には求められていた「勉学・課外活動などの優れた実績を有し、それを証明できる書類または資料の提出」は必須ではなくなっています。
一見、出願のハードルは下がったように見えるかもしれませんが、高校生にはこれまで以上に、学問分野への興味の強さや探究心などを問われることになります。大学入学後に目的意識をもって貪欲に学ぼうとしているか、その意欲と資質をより重要視するようになってきたのです。
総合型選抜の選考プロセスと評価ポイント
--総合型選抜は、多くの保護者にはなじみのない入試です。どのような選抜が行われているのか、具体的な事例を教えてください。
総合型選抜は、学力試験だけで合否を決めないという点では共通しているものの、選抜方法は大学によって千差万別です。現役生のみが対象と思われているかもしれませんが、既卒生が受験できるところもあります。国公立大学は、共通テストを課す場合と課さない場合の2パターンにわかれます。その他の詳細な出願条件については、大学、さらに学部ごとに毎年のように変わることも珍しくないので、最新の情報チェックは欠かせません。
参考までに、今回は3校の事例をご紹介します。

慶應義塾大学SFC(総合政策・環境情報学部)AO入試
日本における総合型選抜の先駆的存在です。さまざまな人が受験できるように出願条件が柔軟で、募集人員も多いのが特徴です。
1次選考は、2,000字の志望理由書と自由記述(A4サイズ2枚に入学後の学習計画および自己アピールをまとめる)、任意提出資料(選考にあたり有用と判断した資料を10点まで提出可)による書類審査です。
2次選考は、1人30分にわたる個別面接で、教授による丁寧な審査を通じて、入学後の学業に向けた熱意と本気度を測ります。
重視されるのは、自分自身の問題意識やテーマをもっているかどうかです。たとえ全国レベルの輝かしい実績があっても、「SFCでこんなことを学びたい」という思いがなければ合格はできません。言い換えれば、社会の問題や身の回りの事象でも本気で取組み、その問題意識やテーマがSFCで学べる研究領域とマッチしていれば門戸が開かれるということです。
中央大学法学部チャレンジ入試
募集が「リーガル部門」「パブリック部門」「グローバル部門」にわかれており、希望する部門を選んで出願する方式です。
1次選考は、自己アピール書、志望理由書を含む書類審査ですが、英語資格や評定平均は不要です。一方で、この書類を通じて、部門ごとに設定された人材像に当てはまることを示す必要があり、これまでのどんな活動を通じて何に関心をもち、大学で何を学びたいかをしっかりと表現する力が求められます。
2次選考は、個人面接(15分)と講義理解力試験です。講義理解力試験では、45分の講義を受けた後、75分間の論述形式の筆記試験で、内容理解と自身の意見が問われます。
早稲田塾の卒業生の中に、「裁判に興味があり、毎週傍聴している」という生徒がいましたが、「なぜ裁判に関心があるのか」「そこから何を学びたいのか」といったことを深掘りし、見事に合格をつかみました。
お茶の水女子大学新フンボルト入試
第1次選考は、志望理由書、活動報告書、外国語試験成績などの書類に加え、文系学科志願者は「プレゼミナール」で実際に大学の授業を受講し、そのレポートも選考の対象となります。(理系学科志願者は「プレゼミナール」へは任意参加で、出願書類のみで選考)
第2次選考は、文系学科では「図書館入試」、理系学科では「実験室入試」を実施します。「図書館入試」は、1日目に附属図書館の図書などを自由に参照しつつ、課題についてのレポートを作成します。2日目はグループ討論と面接が課されます。「実験室入試」は、それぞれの学科の特性を生かした丁寧な選考で、実験を考察する課題や小論文、口述試験が課されたり、面接が行われたりと、学科によって内容はさまざまです。
とてもユニークな入試ですが、文系・理系とも、普段から自身が関心のある分野で情報や意見をまとめる練習をしておかないと、付け焼き刃の対策では対応できない内容です。理系では、大学教授の前でも臆せず意見を述べる心意気も必要です。
ちなみに、合否は年内に決まるものの、合格者は指定された教科・科目の大学入学共通テストを必ず受験する必要があります。
--総合型選抜の方法は大学によって本当に千差万別で、まさに情報戦ですね。評定平均は不問とされる大学が多いですが、学校の成績は悪くても大丈夫なのでしょうか。
よく聞かれる質問です。大学側は、総合型選抜では成績が凸凹でも秀でた力のある人を求めています。ただし、基礎学力は学部での学びに直結しますし、「評定平均は不問」とされても出願時には高校の調査書を提出しますので、「評定は高いに越したことはない」とお答えしています。
総合型選抜への向き・不向き
--総合型選抜で合格するにはどのように準備を進めるのが理想でしょうか。
総合型選抜の場合、出願は早ければ8月上旬から始まるので、かなり計画的に準備を進めなければ間に合いません。
そこで大切なのは、常日頃から社会の課題や身の回りの事象に興味をもち、疑問に感じたら調べるという習慣を身に付けておくことです。志望理由書では、将来やりたいことと今の自分の興味・関心や活動をどう結びつけるかが問われるからです。
学校推薦型や総合型選抜をサポートする塾というと、出願書類の添削をメインとした指導を行っていると思われがちなのですが、早稲田塾の指導はそこが根幹ではありません。大人が手伝った借り物の言葉かどうかは、大学の担当者はすぐに判別できてしまう。だからこそ早稲田塾では、専門のスタッフによる※メンタリングを通して、「将来何を成し遂げたいのか」「大学で何を学ぶのか」「そのために今何をすべきか」とひとりひとりに問いかけ、大学での学びや将来の職業選択につなげていきます。そして、その自分にしかないストーリーを、第三者ではなく自分の言葉で語れるよう、ブラッシュアップしていくのです。※メンタリングとは、これまでの経験や行動、将来の目標などについて様々な角度から問いかけ、対話を重ねていくこと。
ご想像のとおり、このプロセスには時間がかかります。ですから準備としては、部活や趣味、課外活動などを通じて、なるべく早くから自分と向き合うことが非常に重要だといえます。

--総合型選抜と一般選抜の準備は両立して進めたほうが良いのですか。
できる限り両立させて進めるのが理想です。「一般選抜対策に絞った方が効率的では?」と思われるかもしれませんが、一般選抜に向けた勉強は、どの選抜方式であっても決して無駄になることはありません。
そもそも、総合型選抜につながる探究学習は、基礎学力がなければ深く掘り下げることはできません。また、幅広く複数の教科を基礎から学ぶことは、志望理由書や小論文などで必要となる知識・教養にもつながるうえ、異なるモノの見方や価値観を受け入れ、柔軟な思考力やクリエイティブな発想力の土台にもなります。さらに、両立によって一般選抜という受験の機会を増やすことができるので、第一志望現役合格の可能性が広がります。
--両立によって負担が倍増するのではなく、相乗効果があると捉えるのですね。ところで、総合型選抜入試に向き不向きはあるのでしょうか。
総合型選抜に向き不向きはありません。保護者の中には、「うちの子は何の取り柄もないし、スマホばかり見ている…」と心配されている方もいらっしゃると思いますが、日常の中には必ず、その子にしかない輝きの原石が存在するのです。
早稲田塾では、総合型・学校推薦型選抜対策の一環として、「自分史」を書くことからスタートします。幼少期から現在に至るまでの出来事や経験を、その時の気持ちや考えを交えながら具体的に書き出すのです。早稲田塾では生徒同士や専門スタッフと、ご家庭では保護者の方との対話を通じて、自分でも気づかなかった興味・関心や自身の強みを見つけ出していきます。
あるK-POP好きの生徒は、自分史を書くうえで、情報収集のために使っていたSNSで頻繁に目にする若者特有の言葉遣いに興味があると気づきました。保護者によると、それまでは勉強へのモチベーションがなく、学校の成績も低迷していたそうですが、「若者が好んで使っている言葉を研究してみたい」という夢が芽生え、総合型選抜で筑波大学に合格。現在は言語学を専攻し、日本語学を学んでいます。
このように、総合型選抜では、うわべだけの言葉や見掛け倒しの実績ではなく、自分で見つけ出した答えだからこそ、目的意識や情熱が大学側に伝わり、合格につながるのです。
総合型選抜で親ができる2つのサポートとは
--大学側から「総合型選抜で入学した学生は入学後のパフォーマンスが高い」と評価する声が多く聞かれます。これはなぜだと思われますか。
志望理由書の作成や面接の準備といった総合型選抜の準備を通して、次の3つの要素が備わるからだと思います。
まず、入学後のビジョンが明確であること。「大学で何を学びたいか」「将来どうなりたいか」をじっくりと考えるため、入学後も目的意識をもって主体的に学べます。
次に、学びを深めるうえで必要な実践力が備わっていること。文章を書く力、資料を調べる力、プレゼンする力といった実践的なスキルが磨かれます。
そして、コミュニケーション力が高いこと。探究や部活動、課外活動の経験からは、自分の考えをわかりやすく伝える力、相手の意見を聞く姿勢も育まれます。こうしたコミュニケーション力は、入学後の学生同士や教員との関わりを円滑にし、大学生活をより充実したものにしてくれます。
総合型選抜に向き合うプロセスは、大学受験に向かうためだけの勉強ではなく、社会に出てからも通用する「人間力」をきたえます。これは間違いなく生涯の財産になるのではないでしょうか。
--最後に、子供が総合型選抜に臨む際、保護者ができることがあれば教えてください。
1つは、お子さまの対話の相手になっていただくことです。「小さいころ、こんなことが好きだったよ」といった親ならではの視点が、お子さまが自分の夢や興味、関心に気付く大きなヒントになることも少なくありません。思春期は難しい時期ですが、早稲田塾では先ほどお話しした「自分史」作成をきっかけに、多くの家庭で親子の対話が生まれているようです。
そして、もう1つは情報収集です。年々複雑化する入試制度に加えて、最近では高校生が参加できる探究プログラムも増えています。こうした情報を集めることは、進路選択の貴重なヒントになります。
早稲田塾では、最新の入試情報をお届けするオンライン説明会や、探究プログラムに関する情報発信も行っていますので、ぜひ活用してみてください。
--ありがとうございました。
「総合型選抜は、特別な子のものではない」。今回の取材で何度も聞いたこの言葉を、ぜひ保護者の皆さんに届けたい。そして、どんな子でも自分と向き合うことで、自分だけの「学びたい」という気持ちに出会える。受験生ひとりひとりが、「学びたい」という思いを満たせる進路を歩んでいけるよう、心から願っている。
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